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不穏
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※※※
ギルド長ラルは、珍しく昼間なのにギルドにいたブロンズランクの3人を連れ、馬を使って迷いの森の中を駆けていた。因みに彼ら3人は今日はたまたま装備の修理や備品の購入の日に当てていて依頼を受けていなかったので、明日以降の依頼を確認する為に、昼にギルドに来ていたのである。
そこでギルドから正式な依頼として、彼ら3人に同行して貰う事にした。彼らもただの調査だし夕方には戻って来れるだろう、と気軽な気持ちで引き受けた。ラル1人で行っても良かったのだが、もし本当に盗賊達が居た場合、現場の検分と盗賊達の運搬等、やるべき事が色々あるので、人手が必要と判断したのである。
ラルは馬上で手綱を持ちながら3人に話しかけた。
「あいつらの話によると、中々とっ捕まらなかったボングとその仲間達を縄で縛って、しかもゴルガも一緒だって言ってたな」
「本当なんですかね? ボングはああ見えてかなり慎重で討伐依頼ももう数年前から出てるけど、一向に誰も捕まえる事さえ出来なかったんですけどね」
「そもそも迷いの森の地理はギルドでもかなり把握されてるのに、何処に隠れていたか分からなかったんですよね? それが今になって見つかるって」
「しかもフォレストウルフ10匹とやりあって気絶してたって言うんだよなあ。信じられねぇ」
「でもウッドランクのあいつら、フォレストウルフの素材10匹分、確かに持って帰って来てましたよね」
「……」
馬上は揺れる。普通会話しながら馬に乗っていると舌を噛むのだが、流石に彼らは慣れている様で、そんなドジはしない様だ。流暢にそれぞれ話しながら言われた場所へ急ぐ。
そして目的の場所に到着すると、4人は近くの木に馬を繋げ降りた。それから万が一に備え各々何時でも攻撃出来る様、武器も忘れず装備した。
「そういやおかしな事言ってましたね」
1人がそう言うと「ああ。俺も聞いた」ともう1人が同意する。ラルが疑問に思い「何の話だ?」と質問する。
「実はフォレストウルフと盗賊達を倒したのは、たった1本の腕だった、とか」
「しかも3人揃って同じ事言うんですよ。でも夢かも知れない、とか言ってて。なら3人共同じ夢っておかしいとは思うんですけど」
「何だそりゃ?」
意味の分からない話にラルは怪訝な顔をする。3人も同じ表情。とにかく現場が近づいてきたので、ラルは人差し指を口に当て静かにする様指示し、それからゆっくり歩みを進めた。
そしてその現場に来てみると、
「血溜まりがあるな。これがフォレストウルフか。そして縄しかない。って事は……」
「どうやら盗賊は逃げてしまった様ですね」
1人の言葉にラルが「クソッ!」と地面を蹴る。
「また逃したのかよ! ったく、あいつらが居なきゃもっと町は平和になるのに」
苦虫を噛み潰した様な顔で悔しがるラル。それを横目に他の2人が辺りを見回しているが、何やら気になっている様子。
「なあ。確かウッドランクの連中が言うには素材だけ持って帰ってきたって言ってたよな? なら死骸が残ってる筈だが、見当たらないな」
「それとこれ、見てみろ」
1人が拾った物、それは人の靴だった。良く見ると、点々と沢山の血の跡が同じ方向に付いているのが見て取れる。ラル達4人は顔を見合わせ、武器を構えながら慎重にその跡を辿る。
するとその先には、元人だった肉の塊が散乱していた。
「これは……。魔物に襲われた後っぽいな」
一所に固められた肉塊。夥しい血の跡もそこに固まっている。鋭い何かで食われた跡があちこちに付いている。顔が半分位無くなっている者、体が真っ二つに裂かれた者、両手足引き千切られた者等、凄惨な状態で放置されている。
ヒュウゥと風が吹き、血の生々しい臭いが一気に4人を襲う。その臭いにしかめっ面で吐き気を催しながら腕で顔を覆いそれを防ぐと、1人が「あっ」と声を上げ、
「ギルド長。多分これボングだ」
と、とある死体を指差した。ラルは「そうか」と、顔を覆いながら確認し、そして肉塊の数を数える。
「8人分ある。報告に上がってた盗賊の数と同じだ。しかしこいつら、元々迷いの森にアジトを構えていた事もあって、魔物の動きには敏感で、強い魔物には絶対手を出さないし散々逃げてきた筈。それが今こうやって全員やられてるってのは、ちと腑に落ちないな」
「噂じゃ、あいつらの塒って元々ゴブリンが住んでた洞穴だって聞いた事あります。ついでに行ってみます?」
1人がそう言うと、ラルは少し考えてから「馬もあるし、行ってみるか」と答えた。
※※※
「はあ……、はあ……、はあ……」
息を切らせ迷いの森の中をひた走る、髭面禿頭の大男。その背中には、ボングが愛用していた大剣を背負っている。防具も他の盗賊達が使っていたのを拝借し身に付けている。
防具も大剣も結構な重量だが、それでもそれを捨てる事をせず、ただ只管逃げているゴルガ。
「はあ……。はあ……。も、もうそろそろ大丈夫、か?」
大きな木の影で一旦休憩し、ふうー、と大きく息を吐く。そしてこれも盗賊達から盗んだ水の魔石を取り出し、口を開けて水を出しガブガブ飲む。
「や、ヤバかった。連中より俺が先に目が覚めて助かったぜ。何で括られてたか分かんねぇけど。……そうだ。きっとあの女だ。あの野郎、俺をこんな危険な目にあわせやがってぇ~~~~!!」
ガン、と大きな木を殴るゴルガ。だが直ぐハッとして大木の傍で縮こまる。
「大きな音出しちゃ不味いだろ俺。しかし何であいつが……。何でダンジョンに居たあいつがここにいやがるんだ? そもそもダンジョンの魔物は外に出てこねぇんじゃねぇのか?」
そーっと大木の影から様子を伺う。遠くに「グルルル……」と呻き声が聞こえる。
「ク、クソ! まだそんな近くにいやがるのかよ! 畜生何処に逃げれば……。ボング達の洞穴か? だが方角が魔物のいる方だし……。そうだ!」
ゴルガがニヤリとしながら、とある事を閃いた。
※※※
「あんたまだやってたのかい?」
「あ、はい。すみません。もう終わります」
「熱心なのは良い事だけどね。てかこんだけサービスしてやったんだ。魔石の1つ位は買っていきなさいよ?」
「はい。そのつもりです。ありがとうございます」
ミークは恐縮しながらお礼を言う。結局魔石屋には約200冊もの魔法に関する本、他にもこの世界の歴史や地理に関する書物まであったので、この世界に無知なミークは折角なのでそれらも全て読破した。いや、正確には全てをトレースしデータベースに保存したのである。
そしてAIにはその情報の中から、今後自分が冒険者として活動する際役に立つであろう魔法知識を自身の身体に適用する様指示した。
それからミークは、水、炎、風の魔石を、今日稼いだばかりのお金で購入した。
「長居してすみませんでした」
「別に何の迷惑にもなってないから良いわよ。てかあんた、ポーションは要らないのかい? 冒険者なんだろ?」
「ポーションもここで買えるんですか?」
「ほら。そこにあるだろ」
ジャミーが顎をしゃくった先に、確かに試験管の様なガラス容器に入った液体が陳列されていた。どうやら出入り口の直ぐ横だったので気付けなかった様である。
ミークはポーションも興味あったので、「じゃあこれも買わせて頂きます」と3本程購入した。
「あんた昨日冒険者になったばかりなんだろ? じゃあウッドランクよね? 結構金持ってんじゃない……。ああ。その美貌だし身体でも売ったのかい?」
ジャミーの言葉にミークはびっくりして「そんな事してないです!」と全力で否定する。それを見てジャミーはハハハとしわがれた声で笑う。
「冗談だよ。まあまた入り用があったら来な。私はこれから用事があるから」
「あ、はい。ありがとうございました」
そう言ってミークは頭を下げ出ていった。その後ろ姿を見ながら、ジャミーは「変わった子が来たわね」と真面目な顔で呟いた。
そんなジャミーの呟きも知らず、ミークは外に出てん~、と伸びをする。そろそろ夕方になろうと言う時間だろうか。まだ空は青いが日が地平線近くまで降りてきている。
そして魔石屋を出て古びた木製の店舗を振り返り、「ネミルは良い人だって言ってたけど、かなり失礼でもあるよね」と呟いた。
空を見上げると、薄っすらとこの星を取り囲んでいるであろう隕石群、この星を一周して囲んでいるであろう環が見えた。それを見て書物の一部を読み上げるミーク。
「『31年前、魔族がこの世界を侵攻してきた。魔族はそれ一体がとても強大な力を持ち、1人でゴールドランクと対等に戦える程の戦力である。当時侵攻してきた魔族の数は約1000とも2000とも言われている』……、だって。魔族ってのは獣人とかエルフ? とかと違う種族っぽい。で、どうやってそんな強い奴らを倒したのかって気になったけど、アレが落ちてきたんだってね」
ミークはその中の1つを適当に指差す。
「偶然、攻めてきた魔族の頭の上にあの1つが落ちてきて、それで大半の魔族は死滅。その機を逃さず人族と亜人は一斉に攻撃を仕掛け、見事勝利を収めた、と。で、その時の現象を星落としって言うんだって。ロマンチックな命名だよね」
ミークが感心しながら未だ空を眺めているが、一方で疑問も浮かぶ。
ミークもラルがギルド室で読んでいた魔族についての本を、あのジャミーの店で見つけトレースしていた。そこには、当時当然ながら、どうして星落としがあったのか相当議論が及んだらしいが、結局偶然だった、という結論に至った、と記載されてあった。
「本当に偶然魔族の上に落ちたのかな? そういう魔法が使える人がいたとか? もしくは神様? ……ま、分からない事は考えても仕方ないよね」
そろそろ夕方になるし、一旦ギルドに行こうかと思ったところでふと思い出す。
「てか、衛星までも復活してたんだね。地球では殆ど使えなかったけど」
サテライトとは、大気圏より上、宇宙空間を飛行しているミーク専用の衛星の事である。そこには膨大なデータが蓄積されているだけでなく、AIでは処理不可能な演算や、大量のデータを保存しておく事が可能。勿論衛星なのでGPSの使用やマップ作成も出来る優れもの。
ただ地球に居た当時、割りと早い段階で他国の攻撃衛星によって破壊されてしまい、ミークはその機能を殆ど使う事が出来なかったのである。
「サテライトの現在の状況は?」
ーーアクセス……。エネルギー残量0・5%。現在使用出来る機能はデータベースへのアクセスとデータ保存のみ。他の殆どの機能は使用出来ません。エネルギーは太陽光から補充。この惑星内の太陽光は太陽系とほぼ同質ですが、若干エネルギー変換に時間がかかる模様。魔素が含まれている為かと推測ーー
「サテライトはこの腕みたいに魔素をエネルギーにしてないんだ。まあでも太陽光エネルギー使えるなら問題ないか。大気圏の外だし」
ーー因みに100%充填には1ヶ月程度かかる予定ですーー
「そんなにかかるんだ。でもそっか……アレもアレも使えるし、何ならアレも使える。それは楽しみ」
地球にいた頃は使えなかった最先端テクノロジーを使用出来るかも知れない。ミークはワクワクしながらギルドに向かっていった。
身体能力3倍を解除して。
ギルド長ラルは、珍しく昼間なのにギルドにいたブロンズランクの3人を連れ、馬を使って迷いの森の中を駆けていた。因みに彼ら3人は今日はたまたま装備の修理や備品の購入の日に当てていて依頼を受けていなかったので、明日以降の依頼を確認する為に、昼にギルドに来ていたのである。
そこでギルドから正式な依頼として、彼ら3人に同行して貰う事にした。彼らもただの調査だし夕方には戻って来れるだろう、と気軽な気持ちで引き受けた。ラル1人で行っても良かったのだが、もし本当に盗賊達が居た場合、現場の検分と盗賊達の運搬等、やるべき事が色々あるので、人手が必要と判断したのである。
ラルは馬上で手綱を持ちながら3人に話しかけた。
「あいつらの話によると、中々とっ捕まらなかったボングとその仲間達を縄で縛って、しかもゴルガも一緒だって言ってたな」
「本当なんですかね? ボングはああ見えてかなり慎重で討伐依頼ももう数年前から出てるけど、一向に誰も捕まえる事さえ出来なかったんですけどね」
「そもそも迷いの森の地理はギルドでもかなり把握されてるのに、何処に隠れていたか分からなかったんですよね? それが今になって見つかるって」
「しかもフォレストウルフ10匹とやりあって気絶してたって言うんだよなあ。信じられねぇ」
「でもウッドランクのあいつら、フォレストウルフの素材10匹分、確かに持って帰って来てましたよね」
「……」
馬上は揺れる。普通会話しながら馬に乗っていると舌を噛むのだが、流石に彼らは慣れている様で、そんなドジはしない様だ。流暢にそれぞれ話しながら言われた場所へ急ぐ。
そして目的の場所に到着すると、4人は近くの木に馬を繋げ降りた。それから万が一に備え各々何時でも攻撃出来る様、武器も忘れず装備した。
「そういやおかしな事言ってましたね」
1人がそう言うと「ああ。俺も聞いた」ともう1人が同意する。ラルが疑問に思い「何の話だ?」と質問する。
「実はフォレストウルフと盗賊達を倒したのは、たった1本の腕だった、とか」
「しかも3人揃って同じ事言うんですよ。でも夢かも知れない、とか言ってて。なら3人共同じ夢っておかしいとは思うんですけど」
「何だそりゃ?」
意味の分からない話にラルは怪訝な顔をする。3人も同じ表情。とにかく現場が近づいてきたので、ラルは人差し指を口に当て静かにする様指示し、それからゆっくり歩みを進めた。
そしてその現場に来てみると、
「血溜まりがあるな。これがフォレストウルフか。そして縄しかない。って事は……」
「どうやら盗賊は逃げてしまった様ですね」
1人の言葉にラルが「クソッ!」と地面を蹴る。
「また逃したのかよ! ったく、あいつらが居なきゃもっと町は平和になるのに」
苦虫を噛み潰した様な顔で悔しがるラル。それを横目に他の2人が辺りを見回しているが、何やら気になっている様子。
「なあ。確かウッドランクの連中が言うには素材だけ持って帰ってきたって言ってたよな? なら死骸が残ってる筈だが、見当たらないな」
「それとこれ、見てみろ」
1人が拾った物、それは人の靴だった。良く見ると、点々と沢山の血の跡が同じ方向に付いているのが見て取れる。ラル達4人は顔を見合わせ、武器を構えながら慎重にその跡を辿る。
するとその先には、元人だった肉の塊が散乱していた。
「これは……。魔物に襲われた後っぽいな」
一所に固められた肉塊。夥しい血の跡もそこに固まっている。鋭い何かで食われた跡があちこちに付いている。顔が半分位無くなっている者、体が真っ二つに裂かれた者、両手足引き千切られた者等、凄惨な状態で放置されている。
ヒュウゥと風が吹き、血の生々しい臭いが一気に4人を襲う。その臭いにしかめっ面で吐き気を催しながら腕で顔を覆いそれを防ぐと、1人が「あっ」と声を上げ、
「ギルド長。多分これボングだ」
と、とある死体を指差した。ラルは「そうか」と、顔を覆いながら確認し、そして肉塊の数を数える。
「8人分ある。報告に上がってた盗賊の数と同じだ。しかしこいつら、元々迷いの森にアジトを構えていた事もあって、魔物の動きには敏感で、強い魔物には絶対手を出さないし散々逃げてきた筈。それが今こうやって全員やられてるってのは、ちと腑に落ちないな」
「噂じゃ、あいつらの塒って元々ゴブリンが住んでた洞穴だって聞いた事あります。ついでに行ってみます?」
1人がそう言うと、ラルは少し考えてから「馬もあるし、行ってみるか」と答えた。
※※※
「はあ……、はあ……、はあ……」
息を切らせ迷いの森の中をひた走る、髭面禿頭の大男。その背中には、ボングが愛用していた大剣を背負っている。防具も他の盗賊達が使っていたのを拝借し身に付けている。
防具も大剣も結構な重量だが、それでもそれを捨てる事をせず、ただ只管逃げているゴルガ。
「はあ……。はあ……。も、もうそろそろ大丈夫、か?」
大きな木の影で一旦休憩し、ふうー、と大きく息を吐く。そしてこれも盗賊達から盗んだ水の魔石を取り出し、口を開けて水を出しガブガブ飲む。
「や、ヤバかった。連中より俺が先に目が覚めて助かったぜ。何で括られてたか分かんねぇけど。……そうだ。きっとあの女だ。あの野郎、俺をこんな危険な目にあわせやがってぇ~~~~!!」
ガン、と大きな木を殴るゴルガ。だが直ぐハッとして大木の傍で縮こまる。
「大きな音出しちゃ不味いだろ俺。しかし何であいつが……。何でダンジョンに居たあいつがここにいやがるんだ? そもそもダンジョンの魔物は外に出てこねぇんじゃねぇのか?」
そーっと大木の影から様子を伺う。遠くに「グルルル……」と呻き声が聞こえる。
「ク、クソ! まだそんな近くにいやがるのかよ! 畜生何処に逃げれば……。ボング達の洞穴か? だが方角が魔物のいる方だし……。そうだ!」
ゴルガがニヤリとしながら、とある事を閃いた。
※※※
「あんたまだやってたのかい?」
「あ、はい。すみません。もう終わります」
「熱心なのは良い事だけどね。てかこんだけサービスしてやったんだ。魔石の1つ位は買っていきなさいよ?」
「はい。そのつもりです。ありがとうございます」
ミークは恐縮しながらお礼を言う。結局魔石屋には約200冊もの魔法に関する本、他にもこの世界の歴史や地理に関する書物まであったので、この世界に無知なミークは折角なのでそれらも全て読破した。いや、正確には全てをトレースしデータベースに保存したのである。
そしてAIにはその情報の中から、今後自分が冒険者として活動する際役に立つであろう魔法知識を自身の身体に適用する様指示した。
それからミークは、水、炎、風の魔石を、今日稼いだばかりのお金で購入した。
「長居してすみませんでした」
「別に何の迷惑にもなってないから良いわよ。てかあんた、ポーションは要らないのかい? 冒険者なんだろ?」
「ポーションもここで買えるんですか?」
「ほら。そこにあるだろ」
ジャミーが顎をしゃくった先に、確かに試験管の様なガラス容器に入った液体が陳列されていた。どうやら出入り口の直ぐ横だったので気付けなかった様である。
ミークはポーションも興味あったので、「じゃあこれも買わせて頂きます」と3本程購入した。
「あんた昨日冒険者になったばかりなんだろ? じゃあウッドランクよね? 結構金持ってんじゃない……。ああ。その美貌だし身体でも売ったのかい?」
ジャミーの言葉にミークはびっくりして「そんな事してないです!」と全力で否定する。それを見てジャミーはハハハとしわがれた声で笑う。
「冗談だよ。まあまた入り用があったら来な。私はこれから用事があるから」
「あ、はい。ありがとうございました」
そう言ってミークは頭を下げ出ていった。その後ろ姿を見ながら、ジャミーは「変わった子が来たわね」と真面目な顔で呟いた。
そんなジャミーの呟きも知らず、ミークは外に出てん~、と伸びをする。そろそろ夕方になろうと言う時間だろうか。まだ空は青いが日が地平線近くまで降りてきている。
そして魔石屋を出て古びた木製の店舗を振り返り、「ネミルは良い人だって言ってたけど、かなり失礼でもあるよね」と呟いた。
空を見上げると、薄っすらとこの星を取り囲んでいるであろう隕石群、この星を一周して囲んでいるであろう環が見えた。それを見て書物の一部を読み上げるミーク。
「『31年前、魔族がこの世界を侵攻してきた。魔族はそれ一体がとても強大な力を持ち、1人でゴールドランクと対等に戦える程の戦力である。当時侵攻してきた魔族の数は約1000とも2000とも言われている』……、だって。魔族ってのは獣人とかエルフ? とかと違う種族っぽい。で、どうやってそんな強い奴らを倒したのかって気になったけど、アレが落ちてきたんだってね」
ミークはその中の1つを適当に指差す。
「偶然、攻めてきた魔族の頭の上にあの1つが落ちてきて、それで大半の魔族は死滅。その機を逃さず人族と亜人は一斉に攻撃を仕掛け、見事勝利を収めた、と。で、その時の現象を星落としって言うんだって。ロマンチックな命名だよね」
ミークが感心しながら未だ空を眺めているが、一方で疑問も浮かぶ。
ミークもラルがギルド室で読んでいた魔族についての本を、あのジャミーの店で見つけトレースしていた。そこには、当時当然ながら、どうして星落としがあったのか相当議論が及んだらしいが、結局偶然だった、という結論に至った、と記載されてあった。
「本当に偶然魔族の上に落ちたのかな? そういう魔法が使える人がいたとか? もしくは神様? ……ま、分からない事は考えても仕方ないよね」
そろそろ夕方になるし、一旦ギルドに行こうかと思ったところでふと思い出す。
「てか、衛星までも復活してたんだね。地球では殆ど使えなかったけど」
サテライトとは、大気圏より上、宇宙空間を飛行しているミーク専用の衛星の事である。そこには膨大なデータが蓄積されているだけでなく、AIでは処理不可能な演算や、大量のデータを保存しておく事が可能。勿論衛星なのでGPSの使用やマップ作成も出来る優れもの。
ただ地球に居た当時、割りと早い段階で他国の攻撃衛星によって破壊されてしまい、ミークはその機能を殆ど使う事が出来なかったのである。
「サテライトの現在の状況は?」
ーーアクセス……。エネルギー残量0・5%。現在使用出来る機能はデータベースへのアクセスとデータ保存のみ。他の殆どの機能は使用出来ません。エネルギーは太陽光から補充。この惑星内の太陽光は太陽系とほぼ同質ですが、若干エネルギー変換に時間がかかる模様。魔素が含まれている為かと推測ーー
「サテライトはこの腕みたいに魔素をエネルギーにしてないんだ。まあでも太陽光エネルギー使えるなら問題ないか。大気圏の外だし」
ーー因みに100%充填には1ヶ月程度かかる予定ですーー
「そんなにかかるんだ。でもそっか……アレもアレも使えるし、何ならアレも使える。それは楽しみ」
地球にいた頃は使えなかった最先端テクノロジーを使用出来るかも知れない。ミークはワクワクしながらギルドに向かっていった。
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