上 下
3 / 100

神様との会話

しおりを挟む
 ピュロロロー、と高い空から鳥の鳴き声が聞こえてくる。

「ん、……うう、ん」

 所々雲が流れる、澄んだ綺麗な青い空。そして眩しい日差しが全身を照りつける。

「……眩しっ!」

 目が眩む程の日の光に戸惑いながら、上半身だけをむくりと起き上がらせる。

「……ん?」

 辺りはどうやら草原。そして自分は仰向けに寝ていたらしい。

「……え? え? どういう事? え?」

 辺りの平穏な風景に混乱が収まらない。延々と続いている青々とした草の群れ。再びピョロロー、と高い空から鳥のかん高い鳴き声が耳に入る。鼻孔をくすぐる若草の香りからして、

「これ、現実だ」

 ミークは古代から伝わる夢か現実かを知る方法、頬をつねってみる。やはり痛みを感じたので、これは夢ではないと確信する。

 したのだが、そこでハッと、とある人影を探す為あちこちを見回す。

「望仁? 望仁は何処?」

 漸く脳内のAIが、左目に埋め込まれたスコープが起動する。キュィィン、と頭の奥で小さく音を立て、体調不良が無い事、自身のコンピュータが正常に作動出来ている事、左腕の機能にも問題がない事が確認される。

「……よく分からないけど望仁を探さないと」

 スックとミークは立ち上がり、親友であり生涯護ると決めた望仁の影を探ろうとするが、その時、

「ほほぅ。面白い。君は純粋だと魂を貰ってきたが、まさかそんな身体だったとはな」

 突然後ろから聞こえた声に、ミークは驚いて全身をビクっと反応させた後、咄嗟に振り返り身構え警戒する。

 (気配を察知出来なかった?)

 これまで幾つもの戦闘を経験してきたミークだが、一度として敵の気配に気づけない事は無かった。脳内に組み込まれたAIのおかげで。それなのに今、背後に居たこの男には気づかなかった。

 (私のスコープにも異常は無い。という事はこの男、相当な手練?)

 警戒心を最大にしてミークはファイティングポーズを取り対峙するが、そんなミークを前に相手の男はのほほんとした雰囲気で、ミークの警戒を気にした様子もなく、ただ物珍しそうに観察しながらもずっと微笑みを絶やさない。

「まあまあ。我は君と喧嘩したい訳じゃない。我はこの今の状況を一番詳しく知る者だ。そんなに警戒しなくて良い」

「この今の状況をよく知る者? どういう事?」

「我は所謂、神様と呼ばれる者だからね」

 男の言葉にミークは一瞬ポカンとした顔をする。が直ぐ様大声で笑い出した。

「……アハハハハ! 神様! 神様だって? アハハハハ!」

 突如笑い出すミークに、神を名乗った男は不思議そうな顔をする。

「そんなに我の言葉が可笑しかったのかい?」

「アハハハ! そりゃそうでしょ。神様なんている訳ない。もしいたのなら……」

「……あんな悲惨な状況になっていなかった。または、救いがあってもおかしくなかった、という事かい?」

「!」

 地球の悲惨な状況を知っている? その事にミークは驚いた。そしてそのまま、神を名乗る男はミークをしげしげと眺めながら話を続ける。

「……成る程成る程? 君はとある大事なお友達を身を挺して護っていたのだな。だが、どうしようもできない程の、大きな力で命を失った、と」

「そんな事まで分かるの? 本当に神様なの? なら、望仁はどうなったか知ってる?」

 努めて冷静でいようとするミークを見て感心する神様は、守っていた少年、望仁の行方を聞かれ一時困った顔をするも、努めて冷静に事実を伝える事にする。

「残念ながら亡くなったよ。というか、地球で生き残った人間はいない」

「そっか……」

 ある程度覚悟していた答えだが、改めて第三者、神と自称する、自身の様子を知っている者から言われ、それがきっと事実であろう事を理解するのは容易かった。

「そっか。そりゃそうだよな。だって、だってあんな……、あんな絶望的な状況じゃ……、うぅ、グス……」

 小さな嗚咽は徐々に号泣となり、そのま膝を落とし、暫く恥ずかしげもなく泣いた。

「うわあああーーん! 望仁、守れなくてごめん、ごめんなさいーー!! うわああああーーーー!!」

 恥ずかしげもなく号泣し続けるミークの様子を、神様は興味深げに観察し続ける。

 ……脳内と左目、それに左腕だけが機械? になっている様だ。何とも不思議な生命体だな。でも完全な機械という訳でもなく、きちんと感情もあり消化機能も生殖機能もある。この世界のゴーレムと呼ばれる無機質な魔物とも違う。……ふむ。確か地球での言い方だと、

「君はどうやらサイボーグ? とかいうやつなのかな?」

「ヒック、……え?」

 泣きはらしクシャクシャの顔のミークが、その神様の言葉を聞いて顔を上げる。

「その確認する様な言い方……、サイボーグをよく知らない? 神様なんでしょ?」

「そりゃあ我は地球ではなく、この星の神様だからな」

「この星? ここはやっぱり地球じゃないの?」

「そう。ここは地球とは遠く離れたとある星。名前はまだ無い。何故ならここに棲む者達は、星という概念すら知らない。だからまだ名前すら付けられないからね」

「一体どういう事?」

「要するに、君も等しく地球にて死んだのだが、その後この星に転生してきたのだよ。ここは地球とは違う、魔法が使える人がいて、亜人や獣人がいて魔物がいる星なのだよ」

「……」

 俄には信じがたい非常識な話。だがその話を聞いて、ミークは改めて辺りを見渡す。

 前面には青々とした草が生い茂り広がる草原。神様がいる方の後ろ側には、根を張り力強く生い茂る沢山の木々達。そして先程から、聞いた事のない鳴き声で囀る鳥が、澄みきった青空の中を飛び交っている。

 自分の知る地球は、あちこちで噴火が起こり空はずっと赤黒く、太陽を感じる事は無かった。だから地球とは違う星、というのがとてもしっくりくる。

 そして、

「私も死んだのか。というか、全て死んだのか」

 悟った様な、でも納得しなければいけないという様な、切なそうな表情でそう呟いた。そんな呟きに神様は無機質に答える。

「そういう事だ。で、我が君に興味が湧いたので、魂を拾ってこっちに連れて来たのだよ」

 神の言葉にミークは怪訝な顔で質問する。

「私に興味? どうして私をここへ?」

「君を選んだのは多くの地球人の魂の中でも綺麗だったから。そして君をここへ連れてきたのは、地球の惨状を知ったからだね。地球の神は運命に干渉するのは矜持が許さないと一切何もせず、折角誕生した人類に好きな様にさせていた。結果、あの星の人類は自身の手で自らを滅ぼすという結果に陥った。だから、我は君という一雫を落としてみて、この星の運命がどう変わるか、知りたくなったのだよ」

「……」

 分かったような分からないような理屈。でも言いたい事は何となく理解はできる。それでも中々頭の中が纏まらないミーク。

 そこで思い出したように、神様が「あ、そうそう」と言葉を続ける。

「勝手ながらさっき君の身体を分析させて貰ったんだが、君の機械の部分のエネルギー、地球では電気の力を何かしらの方法で確保し、電力で動いていたよね? でもこの世界には電気を作る構造を知る人がいないから、電気をエネルギーにする事はとても困難だろう。だからその代わり、この星の空気中に沢山漂ってる魔素を、エネルギーに変換できるようにしておいたよ。特に何もしなくてもエネルギーは自動的に補充される」

 乙女である私の身体を勝手に分析してたんだ、とその事に若干腹が立ちつつも、神様のとある言葉が気になって質問するミーク。

「マソ? って?」

「魔法を使う為に必要なエネルギー、とでも言えば分かるかな?」

 魔法、ね。ミークはそういうファンタジーなものが実際に存在するんだ、と何とも言えない顔をする。

 そこでいきなり神様が「あ、しまった」と声を上げる。

「すまないすまない。君今素っ裸だったね」

 え? ミークはそう言われて改めて自分の姿を確認。……流石のプロポーションで、確かに一糸まとわぬ美しい裸体を曝け出している。

「~~~~!」

 一気に顔面真っ赤になって、慌てて大事なところを手で咄嗟に隠すミーク。

「ちょ、ちょっと! 何で私、服着てないの?」

「……今の今まで気づかなかった君にもびっくりだけど」

「だ、だって事態が事態だからしょーがないでしょ!」

 そう言いながら今度は全身を隠そうとしゃがむミークを見ながら、神様は申し訳無さそうに提案する。

「なので、この世界で一般的な、冒険者の服装を用意するよ」

 そう言うと、瞬時にミークの身体が仄かに光り、途端白い半袖シャツに黒いスパッツの様な膝丈のパンツ、両胸を覆う形の革製の胸当て、そして膝当てと同じ材質の靴に、腰にはポシェットが現れ身に付いた。

 当に魔法の如く服が現れ、驚いて立ち上がり、自分の服装をあれこれ見ているミークを見てホッとしながら神様は微笑む。

 そして手をひらひらさせ、

「じゃ、そういう事で」

 と、そのまま消えていこうとする。ミークはハッと慌てて神様に問いかける。

「いやちょっと! 私はここで何をすれば良いの?」

 ミークの問いに神様はニコ、と、素敵なスマイルをお見舞いしながら、

「お好きに」

 と答え、「じゃあ頑張ってね」と、霧散する様に消えていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...