落書き置き場

山法師

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アップルパイ

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 毎週日曜日の午後はアップルパイを食べる。手作りでも、買ったものでも良い。丸くても、そのひとピースでも、四角くても良い。食べれば良い。
 それが決まり。
 私が産まれる前からその家ではこの決まりがあり、私が十五になる今でも続いている。

『なんでこんなことするの?』

 小学校低学年の頃だか、聞いてみたことがある。父と母は、『決まりだからだよ』と、優しく笑ってそう言った。



 そこから数年経った。私は成人し、一人暮らしを始めた。そこでもアップルパイを食べることはやめなかった。続けろと家族が言ったから。
 ある日曜、私は体調を崩し、全くものを食べなかった。食欲がなかったから、仕方なかった。
 日曜にアップルパイを食べなかった。初めてのことだった。
 食べなかったからといって何があるわけでもなく、また同じように毎日を──毎日を、続け、

 アップルパイが。
 食べられなくなった。

 一口齧ると、吐き気がする。口の中の異物を、吐き出す。胃液が喉からせり上がってきて、それも外に吐き出した。
 なんでこんなことになったのかすぐ分かった。日曜にアップルパイを食べなかったからだ。
 すぐ家族に連絡した。この対処法を、解決するすべを求めた。あらましを聞いた母は電話越しに、『……そう。成ってしまったのね』と静かに応えた。

『そうなってしまったら、もうどうしようもないわ』
「どうしようもないって…! アップルパイが食べたいの。でも食べられないの…! ねぇ、私の体どうにかなっちゃったの?!」

 母は一つ、ため息を吐き、『ダメになっちゃったのよ』と。

『ダメに。この家の決まり事、それを破ったらダメになっていくの。アップルパイを、それを破るとダメになるの。どんどん他の食べ物もダメになっていくわ。受け入れるしかないの』

 待つのは死だと、母は淡々と言った。


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