落書き置き場

山法師

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ある民話

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 ある洞窟の奥深く。何層も何層も地層を穿ったその奥底に、それはある。
 太陽の光など届かない。真の暗闇の中にそれはある。
 古くからその地に住まう民達に伝わる、鈍く、しかし美しく輝く鉱石についての話。



 その鉱石は山の命の結晶と言われた。
 それを使えばたちどころに病は治り、欠けた四肢さえ生え戻り、死者復活さえ夢ではないと。
 皆がそれを欲した。それをもとに諍いが起こり、諍いは大きくなり、大陸全土に広がる戦争になったという。
 戦争は長く続いた。その鉱石のために、それを欲するために起こった戦争は、その石を使う者達が次々に戦死していく事で自然と収まっていった。
 誰一人として、その鉱石を手に出来ず、それ以前に死んでしまった。
 結局、その戦争は昔々の話となり、現在は戒めとして伝わるだけ。

『愚かにも生きる以上を求め、それ故に死に急いだ』

 今では鉱石も夢物語の中の一つ。
 誰にも見つからず、その存在だけが語られる──。


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