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23 これが日常になっていく

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「なあ稔くんよ。お前最近気合入ってるよな」

 今日は南野みなみの学園との練習試合の日。場所はウチ。
 その練習試合前、アップをしていたら吉野がそんなことを言ってきた。

「気合? そうか?」

 自分ではいつも通りのつもりなんだが。

「ああ、分かる」
「こう、向き合い方がより真剣になった気がする」
「彼女効果?」

 周りにも言われる。彼女効果ってなんだ。

「今日だって見に来てくれてんじゃん」

 吉野が指差した方を見れば、そこには晶と飯田と根本。
 と、晶と目が合い、満面の笑みで手を振ってくれた。俺も軽く手を振る。

「ほーらイチャコラしやがってよぉ」
「いや、練習試合とかはいつも見に来てくれてたぞ? これはいつも通りだ」

 そう言ったら、「いいな幼馴染」「恨めしいな幼馴染」「幼馴染彼女欲しい」主に二年がグチグチ言い出す。

「……お前ら、そんな姿勢でどうすんだよ」
「は?」
「幼馴染が居ようが居まいが、彼女が居ようが居まいが、試合で手を抜いたりするか?」
「正論を言ってやるな稔」

 ……まあ、正直、実生活との向き合い方が変わった気はしてる。

 強くなりたい、全国に行きたい。その気持ちは変わってない。大会の予選まで一ヶ月もないし、そういう意味では気合が入ってるのかもしれない。
 けど、それと同時に、晶とのこともよく考えるようになった。昼はいつも一緒に食べるようになったし、この前もデートしてきた。
 晶はいつも、俺が何かする度、素直に喜んでくれる。彼氏として何が出来るか、勉強と部活の合間を縫って考えて行動した結果がそれに繋がってるのかと思うと、喜びが胸の内に湧く。
 ちょっと懸念していたのは、晶に夢中になってバレー部を疎かにしてしまうんじゃないかってことだった。
 けど、今のところ、逆に身が入ってる。晶を失望させたくないと、自分のせいでバレーが疎かになってると思われたくないと、……そうだな、吉野の言う通り、晶のおかげもあって、努力出来てるのかもしれない。

 ベンチ含む全員がコーチに呼ばれ、南野の対策の復習をする。
 俺は今日、練習といえども、初めて試合に最初から加わる。そして吉野も。他は全員三年。
 練習試合だからこそ出来ることだ。いつもとは違うメンバーで、試合に臨む。挑戦をして、痛みを伴いながら成長していく。
 今日、どれだけボールに触れられるか。メンバーに貢献できるか。結果を出せるか。──全力で挑む他に、証明する手段はない。

「──じゃ、頭に叩き込んだな?」

 コーチの言葉に、全員でデカく返事をする。
 そして時間が来て、コートに立った。
 ──勝つ。その思いを胸に、笛の音を聴く。
 試合が、始まった。


 END
 

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