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21 デート④

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「あっクソ、また負けた」

 序盤のバトルで、俺は今、五連敗を食らった。

「レベル上げはしたのにねぇ? ものも揃ってるはずだし……攻略見る?」
「いや、もうちょいこのまま探ってみる」
「そう? あ、飲み物もう無いか。どうする? またコーヒー飲む?」
「飲む」
「おっけ。待っててね」
「いや、自分でやるよ。晶は何飲む?」

 コントローラーを、テレビとソファの間に設置してあるローテーブルに置いて、立ち上がる。

「え? うーん……なんかジュース飲もうかな」
「ジュースな。適当に選んで良い?」
「んーん、私も行く」

 晶もそう言って立ち上がり、ローテーブルの上のコップを持ち、二人でキッチンに。

「つーか気合凄いな、今回の。毎回凄いとは思うけど」

 粉コーヒーの瓶の蓋を開け、空になったコップへ粉コーヒーを入れつつ言う。

「でしょ? バトルもストーリーも作り込みすごいでしょ。……えーと……何飲もう……」

 晶は冷蔵庫を覗いたり、常温保存が利く飲み物類を眺め、

「ミルクティーにしよっかな」

 と、紅茶缶などが入ってる棚からティーバッグの箱を取り出し、そこからティーバッグを一つ取り出した。
 俺は電気ポットからコップへお湯を三分の二ほど注ぎ、水を足す。

「……」

 先にコーヒーを完成させてしまった俺は、その場でちびちび飲みながら、晶のほうが終わるのを待つ。

「あ、行ってていいよ」
「や、待つ」
「そう? じゃ、もうちょい待ってて」

 コップにお湯を注いだ晶は、時計へ目を向けて時間を測る。

「……」

 なんだろう。なんだろうな。なんか今すごく、晶を赤面させたい。エロいことをしたいんじゃなくて、赤面させたい。

「……晶」
「んぅ?」
「好きだ」
「へ」

 晶が勢いよく俺へ顔を向けた。

「……な、なに……?」
「いや、言いたかった。好きだって」

 そして赤面させたかった。

「そ、そう……」

 俺から目を逸らした晶の頬が、赤くなっていく。
 成功した。なんか、優越感があるな。あとやっぱり、

「可愛いな、晶は」
「へい?!」

 牛乳を取り出そうと冷蔵庫を開けた晶の肩が、思いっきり跳ねた。

「だ、からなに……? さっきから……」

 眉をひそめた顔を俺に向けてくるが、その顔が真っ赤なので、可愛いとしか感想が出てこない。

「いや、事実を言っただけだけど?」
「じじつ……」

 晶は、ティーバッグを抜いたコップに牛乳を注ぐ。

「……稔だって、格好良いじゃん……」
「え、そう?」

 俺、格好良いの?

「そう! ……告白されたこととか、無いの?」
「……ある、けど」
「やっぱりあるんだ……」

 おい、なんで声を沈ませる。

「昔の話だぞ。お前だって告られてんじゃねぇか。しかも何回も」
「そうだけど……稔が格好良いのを知ってもらうのは良いけど、良いっていうか嬉しいけど、告白、は、複雑……」

 牛乳を仕舞った晶は、顔を俯かせて、俺に抱きついてきた。

「……どうした」

 俺はコーヒーを調理台に置いて、晶の頭をぽんぽんと叩く。

「……何回告白された……?」

 なんだその質問。

「……えー……」

 中三の時と、高一の春と秋だから──

「三回、だな」
「……」

 締めつける力が強くなったんだけど?

「私は稔が好き」

 はい?

「私は稔が好き。私は稔が好き!」
「どうも……?」
「稔、かがんで」

 腕を解いたと思ったら、そんなことを言われた。

「かがむ?」
「……届かない、から」

 赤い顔を背け、言われる。

「……」

 期待していいかな。このあとの展開に。
 少しかがんだら、首に腕を回され、より引き寄せられて、

「ん」

 キスをされた。

「……」

 可愛いな。可愛いとしか言いようがない。
 要するにだ。俺が告られたことにヤキモチ焼いて、自分が彼女なんだからって、伝えたかったってことだよな? このくらいはうぬぼれていいよな?
 俺は、晶の腰に片腕を回し、もう片方でその頭を固定し、一瞬口を離して、もう一度キスをする。

「ん……」

 ヤバい。駄目だ。その声は駄目だろ。反則だ。エロい。

「んぅ……」

 あー駄目。はい駄目。そんなうるうるさせた目で見てくんな。
 抑えきれなくなる前に、なんとか気力で口を離したら、

「……。もう、おわり……?」

 そういうことを言わない。やめなさい。

「終わり。駄目。これ以上は無し」

 そう言って手を離す。
 が、晶のほうは離してくれない。

「私、あんまり魅力ない……?」

 ありまくりだよ。
 困るんだよそういうこと言われるの。

「そういうことじゃないの。俺はお前を大事にしたいの」
「大事に……?」
「そう。だから、こういうのは、……その、段階を踏んでいきたいの。こう、ゆっくり? 育む? みたいな……だから、終わり」
「むぅ……」

 晶はまた、俺の胸に顔を押し付け、ぎゅう、と抱きしめにかかってきた。

「もうしないぞ」
「……ハグしてるだけだもん……」

 もんってなんだ可愛いな。

「……稔」
「なに」
「好き……」
「……俺も好きだよ」

 あーあー心頭滅却心頭滅却。
 結局、晶に抱きしめられたまま結構な時間が過ぎ、コーヒーは冷めてしまった。


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