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13 いつも通りのこと、いつも通りじゃないこと②
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で、昼。
「このメンバーに不満はないけどさぁ」
「逆にいいの? 俺たち邪魔じゃねえ?」
昨日と同じように、男子四人女子三人、屋上で昼を食べている。
「居てくれて大いに助かってる。女子三人と俺だけはキツい」
言ったら、「まあ、それは」「気持ちは分からないでもない」「うん」と友人たちは同意を示してくれた。
「……」
晶はなにか言いたげで、チラチラと、俺と俺の弁当へ視線を向ける。
「……晶」
「はっはい!」
晶が背筋を伸ばす。
なんでそんなに緊張してんだ。
「……何が気になってる?」
「はぇ?」
はぇ? じゃねえ。可愛く反応すんな。
「俺の弁当、気にしてんだろ。なんか食いたいやつあんのか」
「あっ……とぉ……」
晶の視線が彷徨う。これは何を示してる?
「……かぼちゃ餅か?」
「えっ?」
「何? かぼちゃ餅って」
友人の一人が聞いてくる。
「これ」
俺は五百円玉くらいの大きさの、黄色くて丸い、平たい団子のようなおかずを箸で摘んだ。その黄色の中には、緑色のかけらが入っている。
「かぼちゃと片栗粉と水と砂糖で作る。もちもちしてるから『かぼちゃ餅』と呼んでる。この緑はかぼちゃの皮な」
「へー」
「で、晶は昔からこれが好きなんだよ」
「へ」
「み、稔……!」
晶が顔を赤くして、俺の袖をくいくい引いてきた。
なんだ可愛いなチクショウ。
「なに」
「っ……こ、個人情報漏洩……!」
そこまで?
「はあ、悪かった」
言って、摘んだままのかぼちゃ餅を食べたら、「あ……」と言われた。食べたいのか違うのかどっちなんだ。
「幼馴染の特権……」
「小さい頃から知ってますアピール……」
「いや、アピールではねぇよ?」
そんなこんなで昼も終え、午後の授業も滞りなく進み、ホームルームになり、放課後になる。
今日は部活に来んのかな、晶たちは。そんなことを考えながら教室を出ようとして、
「?」
スマホが震えていることに気づく。……晶?
「もしもし?」
教室を出て、廊下の端に寄り、通話を開始させる。
『……稔』
「ん、どうした?」
『稔、今日、部活あるよね……?』
「ある。あと、今日は自主練もするつもりだけど」
話しながら、晶の教室へ目を向ける。
『自主練?』
「そ。居残って練習するんだよ。朝に申請書出しといたから、今日は八時まで居るつもり」
『八時……』
「ああ。お前はどうするんだ? また見学来るのか? それとも帰る?」
『……うぅ……』
なんなんだ。なぜ呻く。
「……今、教室に居るか?」
『へ、あ、うん、居るけど……』
「ちょっとそのまま待ってろ」
『へ?』
俺は通話を切り、隣の教室へ向かう。教室の後ろから中を覗いたら、
「あ」「へぁ?!」
その窓側の角で通話していたらしく、すぐに見つけられた。飯田と根本も居る。
「えー、お邪魔します」
一言言って、教室に入り、晶たちへ足を向ける。
「で、何がどうした?」
三人の顔を見ながら聞けば。
「……いや、晶がね……」
飯田は困った顔になり、
「一人は心細いって。今日、朱音ちゃんは塾だし、私も用事あるしって話してたんだけど」
根本が淡々と言う。
「……。晶」
「は、はい……」
「無理しなくて良いんだぞ?」
「──え」
目を丸くした晶の頭を、髪型を崩さないように軽く撫でて、
「そりゃ、来てくれたら嬉しい。けど、無理させてまでそうして欲しくはない。晶は晶のしたいようにして良いんだ」
「……! ……うぅぅ……!」
「……は」
抱きつかれた。……え? なんで?
「どうした?」
頭を撫でれば、締めつけ具合が強くなる。
「……よし、本田、任せた」
「あとをお願い」
「え? ちょ、」
飯田と根本は、風の如く行ってしまった。
「……」
このままでいる訳にもいかない。部活に遅れるし。
「……なら、今日は図書室とかで待ってるか?」
「……」
また、ぎゅう、と締められる。……たぶん、嫌だってことだよな。
「……なら、行くぞ。そろそろ部活始まるし」
「……」
「……晶」
その頭に、手を乗せる。
「定期的に声かける。帰りたくなったら言え。俺も一緒に帰るから」
そしたら、晶はゆるゆると体を離し、けれど俺の手を握って、
「……そこまで迷惑かけられない。今日は居る。……明日からは、分かんないけど……」
「……大丈夫か?」
「うん……」
「無理そうだったらちゃんと言えよ?」
「うん」
「……じゃあ、行くぞ。いいか?」
「うん」
「このメンバーに不満はないけどさぁ」
「逆にいいの? 俺たち邪魔じゃねえ?」
昨日と同じように、男子四人女子三人、屋上で昼を食べている。
「居てくれて大いに助かってる。女子三人と俺だけはキツい」
言ったら、「まあ、それは」「気持ちは分からないでもない」「うん」と友人たちは同意を示してくれた。
「……」
晶はなにか言いたげで、チラチラと、俺と俺の弁当へ視線を向ける。
「……晶」
「はっはい!」
晶が背筋を伸ばす。
なんでそんなに緊張してんだ。
「……何が気になってる?」
「はぇ?」
はぇ? じゃねえ。可愛く反応すんな。
「俺の弁当、気にしてんだろ。なんか食いたいやつあんのか」
「あっ……とぉ……」
晶の視線が彷徨う。これは何を示してる?
「……かぼちゃ餅か?」
「えっ?」
「何? かぼちゃ餅って」
友人の一人が聞いてくる。
「これ」
俺は五百円玉くらいの大きさの、黄色くて丸い、平たい団子のようなおかずを箸で摘んだ。その黄色の中には、緑色のかけらが入っている。
「かぼちゃと片栗粉と水と砂糖で作る。もちもちしてるから『かぼちゃ餅』と呼んでる。この緑はかぼちゃの皮な」
「へー」
「で、晶は昔からこれが好きなんだよ」
「へ」
「み、稔……!」
晶が顔を赤くして、俺の袖をくいくい引いてきた。
なんだ可愛いなチクショウ。
「なに」
「っ……こ、個人情報漏洩……!」
そこまで?
「はあ、悪かった」
言って、摘んだままのかぼちゃ餅を食べたら、「あ……」と言われた。食べたいのか違うのかどっちなんだ。
「幼馴染の特権……」
「小さい頃から知ってますアピール……」
「いや、アピールではねぇよ?」
そんなこんなで昼も終え、午後の授業も滞りなく進み、ホームルームになり、放課後になる。
今日は部活に来んのかな、晶たちは。そんなことを考えながら教室を出ようとして、
「?」
スマホが震えていることに気づく。……晶?
「もしもし?」
教室を出て、廊下の端に寄り、通話を開始させる。
『……稔』
「ん、どうした?」
『稔、今日、部活あるよね……?』
「ある。あと、今日は自主練もするつもりだけど」
話しながら、晶の教室へ目を向ける。
『自主練?』
「そ。居残って練習するんだよ。朝に申請書出しといたから、今日は八時まで居るつもり」
『八時……』
「ああ。お前はどうするんだ? また見学来るのか? それとも帰る?」
『……うぅ……』
なんなんだ。なぜ呻く。
「……今、教室に居るか?」
『へ、あ、うん、居るけど……』
「ちょっとそのまま待ってろ」
『へ?』
俺は通話を切り、隣の教室へ向かう。教室の後ろから中を覗いたら、
「あ」「へぁ?!」
その窓側の角で通話していたらしく、すぐに見つけられた。飯田と根本も居る。
「えー、お邪魔します」
一言言って、教室に入り、晶たちへ足を向ける。
「で、何がどうした?」
三人の顔を見ながら聞けば。
「……いや、晶がね……」
飯田は困った顔になり、
「一人は心細いって。今日、朱音ちゃんは塾だし、私も用事あるしって話してたんだけど」
根本が淡々と言う。
「……。晶」
「は、はい……」
「無理しなくて良いんだぞ?」
「──え」
目を丸くした晶の頭を、髪型を崩さないように軽く撫でて、
「そりゃ、来てくれたら嬉しい。けど、無理させてまでそうして欲しくはない。晶は晶のしたいようにして良いんだ」
「……! ……うぅぅ……!」
「……は」
抱きつかれた。……え? なんで?
「どうした?」
頭を撫でれば、締めつけ具合が強くなる。
「……よし、本田、任せた」
「あとをお願い」
「え? ちょ、」
飯田と根本は、風の如く行ってしまった。
「……」
このままでいる訳にもいかない。部活に遅れるし。
「……なら、今日は図書室とかで待ってるか?」
「……」
また、ぎゅう、と締められる。……たぶん、嫌だってことだよな。
「……なら、行くぞ。そろそろ部活始まるし」
「……」
「……晶」
その頭に、手を乗せる。
「定期的に声かける。帰りたくなったら言え。俺も一緒に帰るから」
そしたら、晶はゆるゆると体を離し、けれど俺の手を握って、
「……そこまで迷惑かけられない。今日は居る。……明日からは、分かんないけど……」
「……大丈夫か?」
「うん……」
「無理そうだったらちゃんと言えよ?」
「うん」
「……じゃあ、行くぞ。いいか?」
「うん」
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