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12 いつも通りのこと、いつも通りじゃないこと①

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 朝起きて、当たり前だけどそれはいつも通りの朝で、俺は昨日のアレは夢だったんじゃないかと思いながら家を出た。
 そして、学校に着いて、通常通りに朝練が始まり、いや、本当に、あれは俺の夢、というか妄想だったんじゃないかってくらいに思い始めていたところに、

「……なあ、昨日のアレ、結局なんだったん?」

 吉野が声をかけてきた。

「え?」
「え? じゃねぇよ。昨日の帰りのアレ。お前だけ中野さんたちと残ったあのあと。なんかあったんだろ? あの雰囲気で何もなかったとは言わせねぇよ?」
「……。……ありがとう吉野」
「は?」
「あれは夢じゃなかったのか……」

 しみじみ呟いたら、

「なに? もしかして、昨日のアレは夢だったんじゃ……? とか思ってた?」
「思ってた」
「お前……」
「なんで哀れんだ目で見てくる」
「いや、真面目さって、時に人を狂わせるんだなと」
「狂ってねぇよ」
「んで? じゃあ何があったん?」
「……それは……」

 どう言おうか、と思ってたら、「本田! 香川! ボーッと突っ立ってんじゃねえぞ! ちゃんと朝練しろ朝練!」とコーチにどやされてしまい、俺たちは慌てて動き出した。
 そして、朝練を終え、教室に着き、席に座り、なんとなくスマホを見たら、

「っ?!」

 晶からラインが来ていた。しかも、『お昼、一緒に食べない?』と。
 俺は速攻で返事を返そうとし、

「……」

 どういう言葉が最適解か悩み始めてしまい、ホームルームが始まりかけ、慌てて『食べる』と、あまりにも素っ気ない返信をしてしまった。
 ……どう思われるだろう。気分を害してしまっただろうか。
 一限目が終わり、二限目の数Ⅱの準備をしていると、

「本田ー。お呼び出しだぞー」
「お呼び出し?」

 声のほうへ向けば、晶と飯田と根本が、教室の入口から俺を見ていた。正確に言うと、顔を赤くした晶はチラチラと俺を窺い、飯田と根本は、そんな状態の晶と俺を見比べている。
 ……なんだろう。

「……呼び出しって、なに?」

 晶たちの所まで行けば、

「ほら、晶」
「う、うぅ……」

 飯田に促された晶は、俺へと顔を向けると、

「その、古文の教科書を……貸して欲しい……です……」

 ……。なんだろう、抱きしめたい。
 あとなんで、珍しくバッチリメイクして、髪も編み込んでんだろう。こいつ、いつもほぼ何もしないのに。

「忘れもんか。古文な、ちょっと待ってろ」
「あ、ありがと……」

 俺は席に戻り、古文の教科書を取り出し、また晶たちのもとへ向かう。

「はい」
「恩に着ます……」

 俺から教科書を受け取った晶は、ぎゅっ、と教科書を抱きしめた。
 ……可愛い。んだが、どうしたんだ晶。

「晶」
「ふぇっ?」

 なぜ跳ねる。

「……大丈夫か? 晶。なんか挙動不審に思えるんだが」
「きょ、挙動不審……」
「それは置いといて本田、なんか言うことない? 晶に」

 飯田が言ってくる。

「言いたいこと……? 聞きたいこともあるけど……」
「で?」

 でってなんだ、でって。

「……あー……」

 なんか試されてんのかな。
 俺は思うままにしか言えないんだが。

「なんでそんな可愛くメイクして髪型も変えてんのかな、て。それに晶が忘れもんするなんて珍しいな、と」

 晶の顔が、真っ赤になっていく。

「……まあ一応及第点」

 俺はなぜか、飯田から及第点を貰った。
 満点ではないらしい。

「じゃ、行こ、晶」

 晶は、飯田に促され、

「か、借りるね……ありがと……」

 顔を赤くしたまま、飯田、根本と一緒に教室へ戻っていった。
 何がしたかったのか、分かるような分からないような。
 ただ、昨日のことが夢ではないと、それだけは確信できた。


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