上 下
9 / 23

9 自覚、再びの返答①

しおりを挟む
「ねえ、ほんとに最後まで居る気?」

 バレーの練習風景を見ながら、朱音は左隣に座る晶に問いかける。

「うん。二人は帰っても全然いいよ?」
「……本田が悪い奴じゃないのは知ってるけど、どこが良いと思ってんの?」
「うーん……だからさ、良いっていうか、そもそもこの気持ちがそういう気持ちなのか確かめたくて、ここに居るんだよ」

 実を言うと、今朝からの晶の行動は、日向から命じられていたものだ。
 それを実践しなさいと、そうすれば自ずと分かってくるからと言われ、晶は素直にそれを実行した──今も、している。

「なら、じゃあ、今はどう思ってんの?」
「んー、いつの間にこんなに成長したのかなぁって」
「……どういう意味?」
「いやさ、私と稔、中学の後半くらいからだっけかな? なんか距離空き始めてさ、ここ最近なんて、教科書の貸し借りくらいしか交流なかったし。なんか遠く感じてたんだよね。幼馴染って言っても、その言葉だけの繋がり、みたいな」

 晶は練習している部員たちを──その中の稔を見ながら、

「だからさ、私の中での稔の印象って、中学辺りで止まってたところが大きくて。背、こんなに高かったっけとか、手、大きくなったんだなぁとか、なんか、再認識してる、みたいな」
「論点がズレてる気がするんだけど」

 朱音が溜め息混じりに言い、

「うん。それは、本田くんへの『気持ち』じゃなくて『印象』だよ、晶ちゃん」

 晶の左隣に居る美来も、同意を示すように言う。

「今、晶ちゃんが自覚しなきゃいけないのは、その印象から来る本田くんへの気持ち。好きなの? 違うの? ただの幼馴染?」

 言われた晶はまた、「うーん……」と唸り、首をひねり、スパイクを打つ稔を見て、

「ただの、幼馴染、は、やっぱ違う、なぁ……」

 と、呟いた。

「なんか、『ただの』って付くと、そこで終わり! みたいな感じがする。それはヤダ。……稔に好きな人ができるのも、なんかヤダ。……私、ワガママだね?」
「……もうそれは、好きってことで良いんじゃないの?」

 朱音の言葉に、晶は目をぱちくりさせる。

「……そうなの?」
「聞くな」
「美来ちゃんは?」
「……じゃあ、一回口に出してみたら? 『私は稔が好き』。て」
「口に……」

 晶は、一年に何かアドバイスでもしているらしい稔へ目を向け、

「……私は、稔が──」

 好き、と言おうとした瞬間に、稔と目が合った。

「……。……」

 稔は晶を見て、少しばかり怪訝な顔をしたあと、また一年に向き合う。

「……ちょい、晶」
「──え、あ、へっ? あ、な、えっと、なに?」

 ハッとして、慌てて朱音へ顔を向けた晶に、

「顔真っ赤だよ? 晶ちゃん」

 美来が言う。

「へっ?」
「自覚したか」
「みたいだね」
「え、え、え? ちょ、ちょっと待って。じ、自覚ってなに、待って、置いてかないで」

 朱音と美来へ交互に顔を向けながら、晶はあわあわと、二人の袖を掴んで振る。

「落ち着け落ち着け。まず手を離しなさい。そして深呼吸しなさい」
「し、深呼吸……」
「そうそう。はい、息を吸って」

 美来に言われるがまま、晶は息を吸う。

「はい、吐いて」

 そして、ふぅー、と吐く。それを何度か繰り返し、

「もういいかな。晶ちゃん、落ち着いた?」
「た、ぶん……」

 二人の袖から手を離した晶は、

「じゃ、このあと、どうすればいいか分かる?」
「え、ど、どうすればいいか……?」

 朱音に問われ、考え込み、

「……保留にしてた返事を、して、この気持ちを、伝える……?」
「はい。その通り。部活終わりにでも言いな」
「えっ! きょ、今日中に言うの……?」
「こういうのはだらだら伸ばしたら駄目だよ、晶ちゃん」

 美来にも言われ、「えぇぇ……」と晶の顔がまた赤くなる。

「部活終わるまでは一緒に居たげるから」
「へ、返事は一人でやれと……?」
「直前までは一緒にいるよ。ね、朱音ちゃん」
「……まあ、しょうがない」
「ホントに居てね? 先帰ったりしないでね? 一人でそんな、その、……無理無理無理……! 絶対無理!」

 その場面を想像したのか、晶は両手で顔を覆った。

「……晶、アンタ……恋愛が絡むとそんなんなるんだ……?」
「そんなんって何ぃ……!」
「晶ちゃん、声のトーン落としてね」
「ご、ごめん……」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

彼女に思いを伝えるまで

猫茶漬け
青春
主人公の登藤 清(とうどう きよし)が阿部 直人(あべ なおと)に振り回されながら、一目惚れした山城 清美(やましろ きよみ)に告白するまでの高校青春恋愛ストーリー 人物紹介 イラスト/三つ木雛 様 内容更新 2024.11.14

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。 しかし、父である浩平にその夢を反対される。 夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。 「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」 一人のお嬢様の挑戦が始まる。

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

処理中です...