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3 晶の作戦と稔の困惑①
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『──じゃ、おやすみ』
「おやすみ……」
通話が終了してからも、頭の中のごちゃつきが収まらない俺は、しばらく動けなかった。
……意味が分からない。誰か状況を説明してくれ。
断ったことは無しにして、返事を保留にさせて欲しい? 俺が誰かと一緒になるのがなんかヤダ? ……俺は何かを試されているのか?
俺はその夜、脳内のこんがらがりようが極まって一睡もできなかった。
そして、次の日の朝。
「おはよう稔。わあ、ジャージだ」
インターホンが鳴り、親に言われて玄関を出たら、笑顔の晶が立っていた。
「……おはよう……?」
なぜ、いる?
「そのジャージ、バレー部のだよね?」
「え、あ、ああ……そうだが……?」
「朝に着てるの見たの、初めてかも」
「はあ、そう……じゃなくて。何しに来たんだ?」
「一緒に学校行こ? って誘いに来た。行こ?」
いや、行こ? て。
晶の家は、俺の家の近所だ。だから昔はよく、晶や、晶の姉の日向と一緒に登園、登校していた。けど、それだってもう、何年も前のこと。
「稔?」
……俺はまだ、夢の中にいるんだろうか。
「稔? 聞いてる?」
「……え、あ、いや、なんでもない。……どうしたんだ? 急に、一緒になんて」
「……一緒に行きたくない……?」
「ち、違うそうじゃない!」
悲しそうな顔をするな! やめろ!
「じゃあ行こ?」
満面の笑みに戻るな! 俺の情緒をどうしたいんだ?!
「……わ、かった……カバン取ってくるから……待っててくれ……」
「ん、分かった」
俺は晶を玄関に入れ、部屋からカバンを取ってきて親に声をかけ、玄関へ向かい、
「あ、来た」
玄関に座っている晶を見て、
「……なにしてんの?」
「いや、ちょっと確認をだな」
これが夢でないことを確かめるために頬をつねって、その痛みからこれは現実なのだと再認識した。
「あ、ねえ、稔」
玄関を出て、歩き出そうとすれば、
「手、繋いでも良い?」
……なんだって?
「稔、手もおっきくなったよねぇ」
俺がなにか言う前に、するり、きゅ、と手を握られた。晶の手の感触と温もりが、俺の脳を支配しようとする。
「……晶」
「なに?」
「お前は何がしたいんだ……?」
努めて冷静に顔を向ければ、晶は目をぱちくりとさせて、
「学校に行きたいんだよ?」
「……」
「ほら、行こ」
俺は半ば放心状態で、晶に引っ張られるように歩き出す。
なんなんだろう。この、夢のような状況は。
そもそも、俺、フラレたよな? ……けど、夜にかかってきた電話で、答えを保留にさせてほしいとも言われた。本当に、なんなんだ。
あとでなにか、反動のようなものでも来るのだろうか。
「ねえ、稔」
「……はっ、え、は……、なに……?」
ぐるぐるし始めていた意識を、左隣を歩く晶へ向け直せば、晶は俺を見上げながら、
「稔、今日は部活の放課後練ある日だよね?」
「あ、ああ」
「見に行っても良い?」
「えっ?」
「ダメ?」
「い、いや、良い、けど……今日は他校との練習試合とかないぞ? 普通の部活だぞ?」
俺が着ているジャージには、『天ヶ崎高校男子バレーボール部』とプリントされている。そして俺は、そのジャージの文字通りに、男子バレー部に所属している。うちのバレー部はきっちり朝練もある部なので、今日も、いつものようにそれに間に合う──引いては数十分前に着く──時間に家を出た。
……待てよ? そうなると、晶はわざわざ、俺が早く出る時間に家に来たってことだよな。
……なんで? 今気づいたけど、なんで? というか、どうしてほぼ時間ぴったりに家に来れた? 晶は朝練の時間なんて、知らないはずなのに。
「うん、いいよ? それにしても、朝練の時間って早いんだねぇ。いつもより二時間くらい早く起きたから、まだ眠いよ」
ふわぁ、と晶があくびをしながら言う。
「……朝練の時間、どうやって知ったんだ?」
「んあ? ああ、うん。昨日の夜にね、祐希ちゃんにラインで聞いたの」
「祐希……て、峰山か?」
「そうそう」
峰山祐希。同級生で、かつ、バレー部の先輩の彼女だ。
……その、峰山に、わざわざ、聞いた? この時間に来るために? 俺と登校するために?
「んー……眠い……電車で寝ちゃったら起こして……」
「は、あ、分かっ、た……」
そして、駅に着いて、電車に乗り、座席に並んで座って。
「マジで寝た……」
しかも、俺の肩に頭を預けて。
なんの試練だろうこれ。学校に到着する前に、気力を使い果たしそうなんだが?
学校の最寄り駅までは約二十分。その間、ずっとこのままってことか?
「ん……」
「っ?!」
晶がもぞりと動いて、俺の腕に抱きつく形を取った。
……やはりこれは試練か? 腕に柔らかいものが当たってる感触がするんだが、俺は、どうすればいい?
「……」
晶をちらりと見れば、あどけない顔をしてすうすう寝息を立てている。俺に対しての警戒心なんて、微塵も見受けられない。
なんだろう。安心感と敗北感を覚える。
「……」
結局、俺は自分の欲に負け、腕を外そうとしたら晶が起きてしまうかもしれないという免罪符を作り、最寄り駅に近くなるまで、そのままの体勢でいることにした。……天罰が下らないことを祈る。
そして、やっと着いたという気分になりながら一つ前の駅で晶を起こし、最寄りで降りる。改札を出たらまた、今度は何も言われずに、手を握られた。
まるでそれが、当たり前のことのように。
なあ、マジ、ホント、なに?
「おやすみ……」
通話が終了してからも、頭の中のごちゃつきが収まらない俺は、しばらく動けなかった。
……意味が分からない。誰か状況を説明してくれ。
断ったことは無しにして、返事を保留にさせて欲しい? 俺が誰かと一緒になるのがなんかヤダ? ……俺は何かを試されているのか?
俺はその夜、脳内のこんがらがりようが極まって一睡もできなかった。
そして、次の日の朝。
「おはよう稔。わあ、ジャージだ」
インターホンが鳴り、親に言われて玄関を出たら、笑顔の晶が立っていた。
「……おはよう……?」
なぜ、いる?
「そのジャージ、バレー部のだよね?」
「え、あ、ああ……そうだが……?」
「朝に着てるの見たの、初めてかも」
「はあ、そう……じゃなくて。何しに来たんだ?」
「一緒に学校行こ? って誘いに来た。行こ?」
いや、行こ? て。
晶の家は、俺の家の近所だ。だから昔はよく、晶や、晶の姉の日向と一緒に登園、登校していた。けど、それだってもう、何年も前のこと。
「稔?」
……俺はまだ、夢の中にいるんだろうか。
「稔? 聞いてる?」
「……え、あ、いや、なんでもない。……どうしたんだ? 急に、一緒になんて」
「……一緒に行きたくない……?」
「ち、違うそうじゃない!」
悲しそうな顔をするな! やめろ!
「じゃあ行こ?」
満面の笑みに戻るな! 俺の情緒をどうしたいんだ?!
「……わ、かった……カバン取ってくるから……待っててくれ……」
「ん、分かった」
俺は晶を玄関に入れ、部屋からカバンを取ってきて親に声をかけ、玄関へ向かい、
「あ、来た」
玄関に座っている晶を見て、
「……なにしてんの?」
「いや、ちょっと確認をだな」
これが夢でないことを確かめるために頬をつねって、その痛みからこれは現実なのだと再認識した。
「あ、ねえ、稔」
玄関を出て、歩き出そうとすれば、
「手、繋いでも良い?」
……なんだって?
「稔、手もおっきくなったよねぇ」
俺がなにか言う前に、するり、きゅ、と手を握られた。晶の手の感触と温もりが、俺の脳を支配しようとする。
「……晶」
「なに?」
「お前は何がしたいんだ……?」
努めて冷静に顔を向ければ、晶は目をぱちくりとさせて、
「学校に行きたいんだよ?」
「……」
「ほら、行こ」
俺は半ば放心状態で、晶に引っ張られるように歩き出す。
なんなんだろう。この、夢のような状況は。
そもそも、俺、フラレたよな? ……けど、夜にかかってきた電話で、答えを保留にさせてほしいとも言われた。本当に、なんなんだ。
あとでなにか、反動のようなものでも来るのだろうか。
「ねえ、稔」
「……はっ、え、は……、なに……?」
ぐるぐるし始めていた意識を、左隣を歩く晶へ向け直せば、晶は俺を見上げながら、
「稔、今日は部活の放課後練ある日だよね?」
「あ、ああ」
「見に行っても良い?」
「えっ?」
「ダメ?」
「い、いや、良い、けど……今日は他校との練習試合とかないぞ? 普通の部活だぞ?」
俺が着ているジャージには、『天ヶ崎高校男子バレーボール部』とプリントされている。そして俺は、そのジャージの文字通りに、男子バレー部に所属している。うちのバレー部はきっちり朝練もある部なので、今日も、いつものようにそれに間に合う──引いては数十分前に着く──時間に家を出た。
……待てよ? そうなると、晶はわざわざ、俺が早く出る時間に家に来たってことだよな。
……なんで? 今気づいたけど、なんで? というか、どうしてほぼ時間ぴったりに家に来れた? 晶は朝練の時間なんて、知らないはずなのに。
「うん、いいよ? それにしても、朝練の時間って早いんだねぇ。いつもより二時間くらい早く起きたから、まだ眠いよ」
ふわぁ、と晶があくびをしながら言う。
「……朝練の時間、どうやって知ったんだ?」
「んあ? ああ、うん。昨日の夜にね、祐希ちゃんにラインで聞いたの」
「祐希……て、峰山か?」
「そうそう」
峰山祐希。同級生で、かつ、バレー部の先輩の彼女だ。
……その、峰山に、わざわざ、聞いた? この時間に来るために? 俺と登校するために?
「んー……眠い……電車で寝ちゃったら起こして……」
「は、あ、分かっ、た……」
そして、駅に着いて、電車に乗り、座席に並んで座って。
「マジで寝た……」
しかも、俺の肩に頭を預けて。
なんの試練だろうこれ。学校に到着する前に、気力を使い果たしそうなんだが?
学校の最寄り駅までは約二十分。その間、ずっとこのままってことか?
「ん……」
「っ?!」
晶がもぞりと動いて、俺の腕に抱きつく形を取った。
……やはりこれは試練か? 腕に柔らかいものが当たってる感触がするんだが、俺は、どうすればいい?
「……」
晶をちらりと見れば、あどけない顔をしてすうすう寝息を立てている。俺に対しての警戒心なんて、微塵も見受けられない。
なんだろう。安心感と敗北感を覚える。
「……」
結局、俺は自分の欲に負け、腕を外そうとしたら晶が起きてしまうかもしれないという免罪符を作り、最寄り駅に近くなるまで、そのままの体勢でいることにした。……天罰が下らないことを祈る。
そして、やっと着いたという気分になりながら一つ前の駅で晶を起こし、最寄りで降りる。改札を出たらまた、今度は何も言われずに、手を握られた。
まるでそれが、当たり前のことのように。
なあ、マジ、ホント、なに?
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