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「っ、ご、めん。聞きます、続き。お願いします」
「あ、は、はい。うん、はい」
彼女はこくこく頷いて、その仕草が可愛くて堪らなくて、でも、
「えっ……と、で、ですね」
笹原さんが話し始めたから、なんとか気を引き締めた。
「こう、いわゆる、多数? の、こい、……こ、恋人がどう過ごすのかとかを、調べて。友達が言ってた恋愛話とか、思い出して。木崎くんの言ってた、出来ないってことも、きちんと思い出して。私はそれをしたいのかなって、頭の中でシュミレーションしてみた、んだけど」
そこで、笹原さんは少し困ったような顔になって、それを見た僕は、決めたはずの覚悟がぐらついて。
「けど、しっくりこないっていうか。違和感みたいな、なんかズレてる感じがして。その、一回始めに立ち返って? 思い返してみてね。気付いたんだ」
何に、と、聞こうとして、舌が動かなくなる。喉が詰まる。
覚悟を、決めたのに。
「そもそもね、木崎くんを好きになったのは、最初に言った、良い人だな、居心地いいなって気持ちからで。もっと一緒に居たいなとか、知りたいなとか、仲良くなりたいなって気持ちで。木崎くんの特別になって、ずっとこうしてたいなって、えと、こうしてっていうのは、こういう関係でいたいなって気持ちってことで。そこに手を繋ぐとか、ハグとか、そういう触れ合いは、別に求めてないなって、思ったんだ」
まっすぐ、目を見て言ってくれる。
嬉しい。嬉しいよ。──嬉しいはずなのに。
本当に? 今だけの気持ちじゃなく? 誰かと『普通』に恋愛してみたくならない?
そんな言葉が、脳内で渦巻く。……僕は、こんなに最低なやつだったっけ。
こんな僕は、君に相応しくないんじゃないか。思考がマイナスに傾きかけて。
「それとね、木崎くんみたいな人、他にも居るのかなって、調べてみたんだ」
──え?
「そしたら、ブログとか、体験談とか、本とか。いっぱい出てきて。その人たち、みんな、すっごい苦しんでて。こんなに沢山悩んで苦しんでる人たちのこと、なんで今まで知らなかったんだろって。木崎くんも、そんな思い、してきたのかなって……なんで、ずっと、気付かなかったのかな……て……」
声がすぼまって、顔がくしゃりと歪む。
何か声をかけなければと、思った瞬間に、その顔が、声が、さっきとは違う種類の、真剣さを帯びた。
「でね、だからね。木崎くんの特別になりたいけど、それだけじゃなくて、力にもなりたい。助けになりたい。頼ってもらえる存在になりたい。昨日の、あんなに辛そうだったのを、そうなっちゃうのを、ただ慌てて見てるだけでいたくない。木崎くんが、好きな人が、苦しんで、辛い思いしてる時、何も出来ない自分でいたくない。……けど、これは私の思いだから」
俯いて、不安な声で。
「木崎くんがダメって思うなら、無理だって思うなら、……やっぱり付き合えないってことなら」
こっちに向けられたのは、諦めの、笑顔で。
「ちゃんと、諦める」
駄目、嫌だよ、待って。待って欲しい。そんなこと言わないで。
君のこと、好きなんだ。本当に好きなんだ。
「けど、いっこだけ、ワガママ、言わせて」
そんな、悲しそうに微笑まないで。
「なんとか迷惑かけないようにするから、負担にならないようにするから、何か、あった時とか、ありそうな時とか、こう、盾になるっていうか、えっと、手助け、って言い方はおこがましいよね。えっと、なんて言えばいいかな……」
悩み始めたのか、笹原さんは、うつむき加減にうんうん唸る。
こんなに。こんなに真剣に考えてくれて、親身になってくれて、そもそも、好きになってくれて。
もう、無理だ。無理だよ。君が好きなんだ。
「……僕も、我が儘、言わせて」
声が、震える。俯きそうになる。
けど、ちゃんと顔を見て、言わないと。
「好きだよ。笹原さん。君が好き。大好きだよ。昨日までだって当たり前に好きだったけど、今、もうね、その何百倍も好きだよ。……こんな、僕だけど。どこまで出来るか分からないけど、それでも良ければ、付き合ってくれませんか」
笹原さんは、顔を上げて。
「……いいの?」
目をぱちくりさせた。
「いいっていうか、……そうして欲しいっていうか……。そもそも笹原さんのこと、好きだったし。けど、付き合うなんて出来ないと思ってたから、諦めてた。君に振られるのが怖くて、あんなこと言った。理由を教えてとか、最低だよね」
不安そうな顔へ、精一杯の笑顔で。
「ごめんね、昨日、あんなこと言って。好きって言ってくれて、すごい嬉しかったし、奇跡が起きたと思った。でも、僕は、こんなんで。臆病風に吹かれて、あんなこと言った。なのに、君は怒ったり呆れたりもしないでくれて。こんなに真剣に考えてくれて……僕、頑張るよ。君に応えられるように」
そう言ったら、
「が、頑張んないで! 無理しないで! わ、私が頑張る! 頑張るっていうか、えと、その、力になるから! ならせて! それはお願いします!」
慌てて言われて、慌てる様子が愛おしくて、君はどれだけ真剣に考えてくれたんだろうって、思って。
「……うん。力、貸して。笹原さんの気持ち、とっても嬉しいよ。けど、だからさ、僕も君に、何か出来るようになりたい。……どうすれば良いかな。して欲しいこと、ある?」
手を繋ぐ。ハグをする。……想像すると、やっぱり、怖い。
けど、君のために──君を想う僕のために、勇気を持てば。きっと。
「して、欲しい……こと……?」
彼女が首を傾げる。赤い顔のまま、真剣な表情で。
「うん。僕、何すればいい?」
「え、えと……付き合って、欲しい、です……」
その答えが出るところ、とっても可愛いよ。
「うん。お願いします。それでね、付き合って、何したい?」
「な、何……えと……また、もう一回、展示会……一緒に行って欲しい、です……内容が、変わるので……」
左右の指を合わせる、仕草。不安な時の癖だと、言っていた。
「……それでいいの? 今までと、変わらないよ?」
展示会って、この前行った展示会だよね? 君と出会ったキッカケの、あの本の。
発売から五周年記念と銘を打たれて、二人で一緒に観に行った、あれだよね?
付き合うって、そういうので良いの?
「……それでっていうか、それがいいの。そういうのをずっと、木崎くんとしてたいんです。……そういうお付き合いですぅ!」
ぷく、と頬を膨らませて、顔を背けられた。
「可愛い」
思ったことが口から出て、背けられた顔が驚いたのを見て、
「あ、や、ごめん。あの、可愛くて、思ったら、声に出てたっていうか、その」
弁明しようとしたんだけど、なんか、弁明になってない気がする。
「……ズルいぃぃ……」
彼女は顔を覆って、ぺしゃりと座り込んでしまった。
「ご、ごめん……なんか、その、ごめん……」
しゃがみ込んで、謝るしか出来ない僕は、謝ったんだけど。
「謝ることと違う……謝るのもズルい……」
「えっと、その、どうすればいい……?」
「……展示会……一緒……行く……」
「本当に、それでいいの?」
付き合うって、本当に、そういうので、良いの?
「嫌ですか……そうですか……」
「え、あ、や、ち、違うよ?! 嫌じゃない、行きたいよ?! 展示会、一緒に! そもそも、誘おうと思ってたし?!」
「……そなの……?」
顔から手が離れて、その顔を、上げられて。
赤い顔で、上目遣いで、潤んだ瞳で、切なそうな顔で。
……その、顔は、そっちこそ、ずるい。
「そ、そう、だよ。前にも行きたいって、言ってたでしょ? だから、誘おうと思ってた」
「そうだったの……そうだったんだ……え、じゃあ、一緒に行ってもいい? また、一緒に見て回って、感想語りしてもいい?!」
喜色満面なその顔は、いつも焦がれた、あの顔で。
「いいよ、うん。……あとさ、やっぱり笹原さん、可愛いよ。可愛いって、言っても良い?」
「うぇ、え、と……嬉しいので、よいです……」
斜め下を向きながら、でも、そう言ってくれたから。
「ありがとう。そういうのもね、とっても可愛い」
「うぐぉう……」
呻かれたけど。
「もうね、その反応も可愛い」
「タラシだ……満はタラシだった……」
「え」
「え、じゃない。自分がタラシなのを自覚して」
怒ったような顔を向けられたけど、そうじゃなくて。
「いや、今、みつる、て」
僕の、名前を。
「……呼んでいいって、言ってくれた。から、言った、です」
……本当に、呼んでくれるんだ……。
「……嫌だった?」
「ううん。違うよ、逆だよ。嬉しい。ありがとう」
ヤバい、また、泣きそう。
「……あのさ、僕も、……笹原さんのこと、名前で呼んで良い?」
呼ばせて。お願い。君の名前を。
祈る気持ちで、言った。
「なぁ、まえ……」
目の前の顔は驚いて、また、赤くなっていく。
その反応は、良いってことかな。それとも、
「駄目、かな」
「ぅあ、だ、ダメではないです! 呼んで欲しいです!」
「そう? 良い?」
「うん。はい。いい」
また、コクコク頷かれて。それがもう、可愛くて、嬉しくて。
「……ありがとう、花音」
「こ、こぉ、ちら、こそ……」
「照れるの、可愛い」
「また言う……」
「花音が可愛いから、しょうがない」
「ズルい……」
ねえ、花音。
これから、どうなるか。僕、まだ、不安だけど。
「展示会、行こうね、花音」
「……行くもん。満と一緒に、行くんだもん」
「うん。一緒に。……これ、デートかな」
「で、デート……」
「うん」
目を丸くして、顔を赤くする、どこまでも可愛い君が、好きなんだ。真剣に考えてくれた君が、好きなんだ。
だから今は、それだけを。
考えてても、良いかな、花音。
「あ、は、はい。うん、はい」
彼女はこくこく頷いて、その仕草が可愛くて堪らなくて、でも、
「えっ……と、で、ですね」
笹原さんが話し始めたから、なんとか気を引き締めた。
「こう、いわゆる、多数? の、こい、……こ、恋人がどう過ごすのかとかを、調べて。友達が言ってた恋愛話とか、思い出して。木崎くんの言ってた、出来ないってことも、きちんと思い出して。私はそれをしたいのかなって、頭の中でシュミレーションしてみた、んだけど」
そこで、笹原さんは少し困ったような顔になって、それを見た僕は、決めたはずの覚悟がぐらついて。
「けど、しっくりこないっていうか。違和感みたいな、なんかズレてる感じがして。その、一回始めに立ち返って? 思い返してみてね。気付いたんだ」
何に、と、聞こうとして、舌が動かなくなる。喉が詰まる。
覚悟を、決めたのに。
「そもそもね、木崎くんを好きになったのは、最初に言った、良い人だな、居心地いいなって気持ちからで。もっと一緒に居たいなとか、知りたいなとか、仲良くなりたいなって気持ちで。木崎くんの特別になって、ずっとこうしてたいなって、えと、こうしてっていうのは、こういう関係でいたいなって気持ちってことで。そこに手を繋ぐとか、ハグとか、そういう触れ合いは、別に求めてないなって、思ったんだ」
まっすぐ、目を見て言ってくれる。
嬉しい。嬉しいよ。──嬉しいはずなのに。
本当に? 今だけの気持ちじゃなく? 誰かと『普通』に恋愛してみたくならない?
そんな言葉が、脳内で渦巻く。……僕は、こんなに最低なやつだったっけ。
こんな僕は、君に相応しくないんじゃないか。思考がマイナスに傾きかけて。
「それとね、木崎くんみたいな人、他にも居るのかなって、調べてみたんだ」
──え?
「そしたら、ブログとか、体験談とか、本とか。いっぱい出てきて。その人たち、みんな、すっごい苦しんでて。こんなに沢山悩んで苦しんでる人たちのこと、なんで今まで知らなかったんだろって。木崎くんも、そんな思い、してきたのかなって……なんで、ずっと、気付かなかったのかな……て……」
声がすぼまって、顔がくしゃりと歪む。
何か声をかけなければと、思った瞬間に、その顔が、声が、さっきとは違う種類の、真剣さを帯びた。
「でね、だからね。木崎くんの特別になりたいけど、それだけじゃなくて、力にもなりたい。助けになりたい。頼ってもらえる存在になりたい。昨日の、あんなに辛そうだったのを、そうなっちゃうのを、ただ慌てて見てるだけでいたくない。木崎くんが、好きな人が、苦しんで、辛い思いしてる時、何も出来ない自分でいたくない。……けど、これは私の思いだから」
俯いて、不安な声で。
「木崎くんがダメって思うなら、無理だって思うなら、……やっぱり付き合えないってことなら」
こっちに向けられたのは、諦めの、笑顔で。
「ちゃんと、諦める」
駄目、嫌だよ、待って。待って欲しい。そんなこと言わないで。
君のこと、好きなんだ。本当に好きなんだ。
「けど、いっこだけ、ワガママ、言わせて」
そんな、悲しそうに微笑まないで。
「なんとか迷惑かけないようにするから、負担にならないようにするから、何か、あった時とか、ありそうな時とか、こう、盾になるっていうか、えっと、手助け、って言い方はおこがましいよね。えっと、なんて言えばいいかな……」
悩み始めたのか、笹原さんは、うつむき加減にうんうん唸る。
こんなに。こんなに真剣に考えてくれて、親身になってくれて、そもそも、好きになってくれて。
もう、無理だ。無理だよ。君が好きなんだ。
「……僕も、我が儘、言わせて」
声が、震える。俯きそうになる。
けど、ちゃんと顔を見て、言わないと。
「好きだよ。笹原さん。君が好き。大好きだよ。昨日までだって当たり前に好きだったけど、今、もうね、その何百倍も好きだよ。……こんな、僕だけど。どこまで出来るか分からないけど、それでも良ければ、付き合ってくれませんか」
笹原さんは、顔を上げて。
「……いいの?」
目をぱちくりさせた。
「いいっていうか、……そうして欲しいっていうか……。そもそも笹原さんのこと、好きだったし。けど、付き合うなんて出来ないと思ってたから、諦めてた。君に振られるのが怖くて、あんなこと言った。理由を教えてとか、最低だよね」
不安そうな顔へ、精一杯の笑顔で。
「ごめんね、昨日、あんなこと言って。好きって言ってくれて、すごい嬉しかったし、奇跡が起きたと思った。でも、僕は、こんなんで。臆病風に吹かれて、あんなこと言った。なのに、君は怒ったり呆れたりもしないでくれて。こんなに真剣に考えてくれて……僕、頑張るよ。君に応えられるように」
そう言ったら、
「が、頑張んないで! 無理しないで! わ、私が頑張る! 頑張るっていうか、えと、その、力になるから! ならせて! それはお願いします!」
慌てて言われて、慌てる様子が愛おしくて、君はどれだけ真剣に考えてくれたんだろうって、思って。
「……うん。力、貸して。笹原さんの気持ち、とっても嬉しいよ。けど、だからさ、僕も君に、何か出来るようになりたい。……どうすれば良いかな。して欲しいこと、ある?」
手を繋ぐ。ハグをする。……想像すると、やっぱり、怖い。
けど、君のために──君を想う僕のために、勇気を持てば。きっと。
「して、欲しい……こと……?」
彼女が首を傾げる。赤い顔のまま、真剣な表情で。
「うん。僕、何すればいい?」
「え、えと……付き合って、欲しい、です……」
その答えが出るところ、とっても可愛いよ。
「うん。お願いします。それでね、付き合って、何したい?」
「な、何……えと……また、もう一回、展示会……一緒に行って欲しい、です……内容が、変わるので……」
左右の指を合わせる、仕草。不安な時の癖だと、言っていた。
「……それでいいの? 今までと、変わらないよ?」
展示会って、この前行った展示会だよね? 君と出会ったキッカケの、あの本の。
発売から五周年記念と銘を打たれて、二人で一緒に観に行った、あれだよね?
付き合うって、そういうので良いの?
「……それでっていうか、それがいいの。そういうのをずっと、木崎くんとしてたいんです。……そういうお付き合いですぅ!」
ぷく、と頬を膨らませて、顔を背けられた。
「可愛い」
思ったことが口から出て、背けられた顔が驚いたのを見て、
「あ、や、ごめん。あの、可愛くて、思ったら、声に出てたっていうか、その」
弁明しようとしたんだけど、なんか、弁明になってない気がする。
「……ズルいぃぃ……」
彼女は顔を覆って、ぺしゃりと座り込んでしまった。
「ご、ごめん……なんか、その、ごめん……」
しゃがみ込んで、謝るしか出来ない僕は、謝ったんだけど。
「謝ることと違う……謝るのもズルい……」
「えっと、その、どうすればいい……?」
「……展示会……一緒……行く……」
「本当に、それでいいの?」
付き合うって、本当に、そういうので、良いの?
「嫌ですか……そうですか……」
「え、あ、や、ち、違うよ?! 嫌じゃない、行きたいよ?! 展示会、一緒に! そもそも、誘おうと思ってたし?!」
「……そなの……?」
顔から手が離れて、その顔を、上げられて。
赤い顔で、上目遣いで、潤んだ瞳で、切なそうな顔で。
……その、顔は、そっちこそ、ずるい。
「そ、そう、だよ。前にも行きたいって、言ってたでしょ? だから、誘おうと思ってた」
「そうだったの……そうだったんだ……え、じゃあ、一緒に行ってもいい? また、一緒に見て回って、感想語りしてもいい?!」
喜色満面なその顔は、いつも焦がれた、あの顔で。
「いいよ、うん。……あとさ、やっぱり笹原さん、可愛いよ。可愛いって、言っても良い?」
「うぇ、え、と……嬉しいので、よいです……」
斜め下を向きながら、でも、そう言ってくれたから。
「ありがとう。そういうのもね、とっても可愛い」
「うぐぉう……」
呻かれたけど。
「もうね、その反応も可愛い」
「タラシだ……満はタラシだった……」
「え」
「え、じゃない。自分がタラシなのを自覚して」
怒ったような顔を向けられたけど、そうじゃなくて。
「いや、今、みつる、て」
僕の、名前を。
「……呼んでいいって、言ってくれた。から、言った、です」
……本当に、呼んでくれるんだ……。
「……嫌だった?」
「ううん。違うよ、逆だよ。嬉しい。ありがとう」
ヤバい、また、泣きそう。
「……あのさ、僕も、……笹原さんのこと、名前で呼んで良い?」
呼ばせて。お願い。君の名前を。
祈る気持ちで、言った。
「なぁ、まえ……」
目の前の顔は驚いて、また、赤くなっていく。
その反応は、良いってことかな。それとも、
「駄目、かな」
「ぅあ、だ、ダメではないです! 呼んで欲しいです!」
「そう? 良い?」
「うん。はい。いい」
また、コクコク頷かれて。それがもう、可愛くて、嬉しくて。
「……ありがとう、花音」
「こ、こぉ、ちら、こそ……」
「照れるの、可愛い」
「また言う……」
「花音が可愛いから、しょうがない」
「ズルい……」
ねえ、花音。
これから、どうなるか。僕、まだ、不安だけど。
「展示会、行こうね、花音」
「……行くもん。満と一緒に、行くんだもん」
「うん。一緒に。……これ、デートかな」
「で、デート……」
「うん」
目を丸くして、顔を赤くする、どこまでも可愛い君が、好きなんだ。真剣に考えてくれた君が、好きなんだ。
だから今は、それだけを。
考えてても、良いかな、花音。
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