98 / 105
後日譚
20 ベクトルが違う
しおりを挟む
「顔比べ?」
「その通りです、杏さん」
華珠貴さんは、てつを挟んでこっちに体を傾ける。てつのスーツの袖を掴んで、自分の尻尾も使って、バランスを取りながら。
「あたし、結構美猫、美人さんだと思うんですよ。母様は美猫ですし、父様も精悍なお顔立ちだと聞きました。そして」
華珠貴さんは、てつを見上げ、
「人の姿のてつさんも格好良いと、ここのみんなが噂しているのを聞いたんです。だから、あたしとてつさん、どっちの顔が良いか、顔比べなのです」
それはまた、なんとも贅沢な比べっこだな。
「ってか、この姿のてつ、格好良いんですか?」
言いながら、この姿のてつに絡んできていたおねえさん方を思い出す。
あれは、酔った勢いだけではなく、本当にてつの顔が引き寄せてたのか?
「うーん……格好良いんじゃ、ないんですかね? いわゆるイケメンってやつだと思います」
「イケメン……」
「ワイルドイケメンって、言われてました」
「ワイルドイケメン……」
言いながら、てつを見上げる。
「なんだ」
てつは呆れ顔で、華珠貴さんの気が済むまでどうにもならないと、動くのを止めている。
てつ、イケメンだったのか。
……あ、じゃあ、そういう価値観を持つ華珠貴さんになら、あれを聞いてみてもいいかもしれない。
んー、と言いながら、てつの顔を見上げる華珠貴さんに、「華珠貴さんすみません、ちょっと聞いてもいいですか?」と声をかけると。
「んにゃあ? なんですか?」
「話はちょっとずれるんですけど、天遠乃さんって、美人ですよね」
「神和さんの事です? はい、美人さんだと思います。可愛らしい系の」
「ですよね。で、天遠乃さんと遠野さん、ご姉弟だから似てますよね。結構、そっくりだと、私なんかは思うんですが」
「にゅあ~……そうですねぇ、そうだと思います。似てますし、そういう事でいうと、遠野さんもお顔が整ってると思います」
「ですよね」
やっぱり。
私の中で、急に立った仮説。遠野さんは天遠乃さんと似てるんだから、美人の弟は美形説、証明完了。
ま、だからなんだという話ではあるんだけど。
「イケメンっていうより、可愛い系ですけど」
「……」
華珠貴さんのその言葉に、なんと返せばいいか少し迷った。
「さっきから、何の話をしてやがる。華珠貴、その顔比べとやらは終わったのか」
「んー……それが、難しくてですね……。てつさん、ワイルドイケメンってヤツらしいじゃないですか。あたし、可愛い系のお顔だと思うんですね。……どう比べればいいか……杏さん」
「はい」
「どっちの顔がいいと思います?」
「……えーっと」
なんという質問だ。
「……どっちもどっち、というか、二人の顔のベクトルが違いすぎて、比べようがないですね」
「ベクトル?」
首を傾げる華珠貴さんと、鬱陶しがりながらも、私の話を聞いているらしいてつ。
「方向性、ですかね。どう例えればいいか……。えっと、華珠貴さんは洋菓子と和菓子、どっちの方が美味しいかって聞かれたら、どう答えます?」
「ん~??」
さらに首を傾げる華珠貴さん。
「……難しいです。洋菓子も和菓子も、どっちも美味しいのばっかりですし、好みもありますし、ものによるところも大きいと思います」
「ですよね。てつと華珠貴さんも、そういう比べ方をしていると、私は思うんです。だから、どっちの方が、と聞かれても、答えようがありません」
「……なるほど……分かりました。でも、杏さん」
華珠貴さんは、真っ直ぐに立って、てつから手を離し、
「あたしが可愛い系なのは、確定ですよね?」
と聞いてきた。
「はい。可愛いお顔だと思いますよ。猫の時の姿も、可愛らしいです」
「にゃあ! ですよね! ありがとうございます! お二人とも、お邪魔しました!」
そう言うと、また一瞬で黒猫になり、華珠貴さんは通路を走っていってしまった。
「……なんだったんだ」
「人の姿のてつに興味があったんだよ」
「ハァ……」
頭をガシガシと掻いた後、てつは狼の姿に戻る。
「行くぞ」
「うん」
てつの居住地となっている部屋へと続く通路を歩いていて、暫くして。
「……杏、お前、人間の俺の顔が好いと、思ってんのか?」
「え? あ、さっきの話?」
てつの顔、ねえ……。
「イケメンって言われてるんだから、イケメンなんだろうなって思うよ」
「なんだ、その返しは」
「いや、私さ、男の人の顔、イケメンかどうかで見た事が、あんまりなくて」
特に、身近なヒトになると、それはより顕著になるらしい。ようするに、顔を気にした事がほとんどない。
「あ、でも」
「あ?」
「今の、あ、その狼姿のてつね。そっちは、格好良いと思ってるよ。結構好き」
隣を見上げながら、そう言うと。
「……」
「? てつ?」
てつの気が、妙な揺らめきをして、首を傾げる。
「……なんでもない」
てつ自身は前を向き、ただ歩いているだけ。
「そう?」
「ああ」
そこから、てつは何も言わなくなったので、その気の揺らめきが気になりながらも、私も特に追求はせず。
そのまま洞窟まで歩いていった。
「……これを、着ていくんですか?」
私は、着物のような、それでいて洋物の要素が入っているような、ある意味コスプレ衣装にも見えるその服を、持ち上げてしげしげと眺めつつ、率直に聞いた。
それは、ついさっき受け取った、異界調査の備品の一つ。ダンボールに入っていた備品の、中身の確認のためにテーブルに広げていたそれらから、この服が目についた。
「そうだよー」
私の問いに、籠町さんが答えてくれる。
遠野さんの家に行ってから、数日経ち、今は十月中旬。今回の異界調査への準備として、またこの前と同じ七人が、あの時の会議室へと集められ、
「それでは今から、調査に必要な備品などを渡していきます。衣類もありますので、一度それに着替えてください。ここの左右の部屋は、それぞれ更衣室として使っていいことになっていますので、よろしくお願いします」
と、遠野さんに言われた。
私は既に会議室に持ち込まれていたダンボールと長い袋を渡され、籠町さんと一緒に、女子の更衣室と言われた、会議室から出て左の部屋に入り、今に至る。
「でも、あの人達──異界の人達って、純和風なものを着ていたような……?」
私が持っているのは、鮮やかな水色の服だ。その形は独特で、ウエストから上は、一見すると普通の着物の形に見えるんだけど、白に近い薄いグレーの半衿は最初からくっついて、その端には、白いレースがひらひらと付いていた。そしてウエストから下は足首までの丈だけど、プリーツスカートのように、細かくひだがつけられている。しかも中に、同じくダンボールの中にあった濃い青のパニエを着るらしく、これを身に着けたら、それなりにボリュームが出るだろうと思われる。
そして付属の帯は艶のある濃いグレーで、帯というよりなんだかベルトのようにも見え、その後ろ側は蝶結びのリボンの形をしていた。しかも大きい。中に着るんだろうボタンダウンシャツは、パニエと同じ濃い青色で、そのボタンは鈍い銀色だ。そして、それら全てに、様々な色柄のプリントや刺繍がされている。
他には、濃いグレーの厚手のタイツに、つやつやした濃い茶色の短めのブーツ。白い手袋。螺鈿細工みたいに見える加工をされた楕円のパーツの周りを、銀細工みたいなものがぐるりと囲み、さらに青のサテンリボンがフリル状になって付いているバレッタ。ブーツと同じ色の、革製で少し大きめなショルダーバッグ。そして、深い青の、トンビコートとポンチョコートの間を取ったみたいなコート。
それと、長い袋に入っていたのは、布が巻き付けられた棒のようなもの。なんだこれはと布を取ってみれば、そこにあったのは、一振りの刀。
白銀の鞘、銀の鍔。柄の紐と腰に巻く紐は灰色をした、刃渡り六十センチほどの、刀だ。鞘に収まっているその刃の部分は、本物だと、肌で感じた。
……これ、どういう意図で、必要なんだろうか。
「そうそう。あっちの人達は大体、いわゆる和服を着てる。けど、私達はね」
籠町さんは、自分のダンボールから、これまたコスプレ衣装のような服を取り出しながら言う。
「あえてこういう服を着ていくの。あっち──異界の者じゃなくて、こっちの世界の者である事を示すために、ね」
籠町さんの服は、私よりもう少し落ち着いていた。
色は薄い紫の、こちらもウエストの上下で着物、スカートと別れている服だったが、レースはついてないし、パニエもない。プリントや刺繍も、そこまで派手じゃない。中に着る服は、薄い赤の立ち襟のシャツだった。髪留めはピンクパールと赤のビロードのリボンが付いたバレッタ。ブーツとショルダーバッグは同じ型のように見える。手袋も、同じ白。コートも同じ形だけど、色は深い臙脂色。
籠町さんの刀は、服の色に合わせてか、鞘は薄い赤紫、鍔は金、柄と腰の紐は、半衿と同じ紫だった。
「なるほど……?」
ちょっと前に、異界調査のためと言われて服のサイズなんかをスマホで提出したけど、これを用意するためだったのか。
そしてこれ、どうやって着るのかと思ったら。
そこかしこにマジックテープやスナップボタンやホックが付いていて、たぶん、一人でも着られるようになっている。すごいな。
そして、ダンボールに入っていたその他のものは。
まず、何が入っているかの一覧表。そして服の着方が書かれた紙。ノート、万年筆、鉛筆、筆ペン、革製のペンケースなど、筆記具一式。シンプルな革の作りの、腕時計。調査や実働のひと達が使う札やら呪具やらの、いつもの仕事道具類。それと、身分証代わりになるという、金属に似せて作られたプラスチック製の、手のひらサイズの長方形の板。これ、何やら紋様のようなものが浮き出ている。そして、小型のトランシーバーだ。
「あ、そのトランシーバーね、あっちだとスマホ、繋がらないでしょ? その代わりなんだよ」
トランシーバーを持って眺めていたら、籠町さんが説明をくれた。
「はー……そういう事ですか」
で、これらに着替える、んだけど。
「その通りです、杏さん」
華珠貴さんは、てつを挟んでこっちに体を傾ける。てつのスーツの袖を掴んで、自分の尻尾も使って、バランスを取りながら。
「あたし、結構美猫、美人さんだと思うんですよ。母様は美猫ですし、父様も精悍なお顔立ちだと聞きました。そして」
華珠貴さんは、てつを見上げ、
「人の姿のてつさんも格好良いと、ここのみんなが噂しているのを聞いたんです。だから、あたしとてつさん、どっちの顔が良いか、顔比べなのです」
それはまた、なんとも贅沢な比べっこだな。
「ってか、この姿のてつ、格好良いんですか?」
言いながら、この姿のてつに絡んできていたおねえさん方を思い出す。
あれは、酔った勢いだけではなく、本当にてつの顔が引き寄せてたのか?
「うーん……格好良いんじゃ、ないんですかね? いわゆるイケメンってやつだと思います」
「イケメン……」
「ワイルドイケメンって、言われてました」
「ワイルドイケメン……」
言いながら、てつを見上げる。
「なんだ」
てつは呆れ顔で、華珠貴さんの気が済むまでどうにもならないと、動くのを止めている。
てつ、イケメンだったのか。
……あ、じゃあ、そういう価値観を持つ華珠貴さんになら、あれを聞いてみてもいいかもしれない。
んー、と言いながら、てつの顔を見上げる華珠貴さんに、「華珠貴さんすみません、ちょっと聞いてもいいですか?」と声をかけると。
「んにゃあ? なんですか?」
「話はちょっとずれるんですけど、天遠乃さんって、美人ですよね」
「神和さんの事です? はい、美人さんだと思います。可愛らしい系の」
「ですよね。で、天遠乃さんと遠野さん、ご姉弟だから似てますよね。結構、そっくりだと、私なんかは思うんですが」
「にゅあ~……そうですねぇ、そうだと思います。似てますし、そういう事でいうと、遠野さんもお顔が整ってると思います」
「ですよね」
やっぱり。
私の中で、急に立った仮説。遠野さんは天遠乃さんと似てるんだから、美人の弟は美形説、証明完了。
ま、だからなんだという話ではあるんだけど。
「イケメンっていうより、可愛い系ですけど」
「……」
華珠貴さんのその言葉に、なんと返せばいいか少し迷った。
「さっきから、何の話をしてやがる。華珠貴、その顔比べとやらは終わったのか」
「んー……それが、難しくてですね……。てつさん、ワイルドイケメンってヤツらしいじゃないですか。あたし、可愛い系のお顔だと思うんですね。……どう比べればいいか……杏さん」
「はい」
「どっちの顔がいいと思います?」
「……えーっと」
なんという質問だ。
「……どっちもどっち、というか、二人の顔のベクトルが違いすぎて、比べようがないですね」
「ベクトル?」
首を傾げる華珠貴さんと、鬱陶しがりながらも、私の話を聞いているらしいてつ。
「方向性、ですかね。どう例えればいいか……。えっと、華珠貴さんは洋菓子と和菓子、どっちの方が美味しいかって聞かれたら、どう答えます?」
「ん~??」
さらに首を傾げる華珠貴さん。
「……難しいです。洋菓子も和菓子も、どっちも美味しいのばっかりですし、好みもありますし、ものによるところも大きいと思います」
「ですよね。てつと華珠貴さんも、そういう比べ方をしていると、私は思うんです。だから、どっちの方が、と聞かれても、答えようがありません」
「……なるほど……分かりました。でも、杏さん」
華珠貴さんは、真っ直ぐに立って、てつから手を離し、
「あたしが可愛い系なのは、確定ですよね?」
と聞いてきた。
「はい。可愛いお顔だと思いますよ。猫の時の姿も、可愛らしいです」
「にゃあ! ですよね! ありがとうございます! お二人とも、お邪魔しました!」
そう言うと、また一瞬で黒猫になり、華珠貴さんは通路を走っていってしまった。
「……なんだったんだ」
「人の姿のてつに興味があったんだよ」
「ハァ……」
頭をガシガシと掻いた後、てつは狼の姿に戻る。
「行くぞ」
「うん」
てつの居住地となっている部屋へと続く通路を歩いていて、暫くして。
「……杏、お前、人間の俺の顔が好いと、思ってんのか?」
「え? あ、さっきの話?」
てつの顔、ねえ……。
「イケメンって言われてるんだから、イケメンなんだろうなって思うよ」
「なんだ、その返しは」
「いや、私さ、男の人の顔、イケメンかどうかで見た事が、あんまりなくて」
特に、身近なヒトになると、それはより顕著になるらしい。ようするに、顔を気にした事がほとんどない。
「あ、でも」
「あ?」
「今の、あ、その狼姿のてつね。そっちは、格好良いと思ってるよ。結構好き」
隣を見上げながら、そう言うと。
「……」
「? てつ?」
てつの気が、妙な揺らめきをして、首を傾げる。
「……なんでもない」
てつ自身は前を向き、ただ歩いているだけ。
「そう?」
「ああ」
そこから、てつは何も言わなくなったので、その気の揺らめきが気になりながらも、私も特に追求はせず。
そのまま洞窟まで歩いていった。
「……これを、着ていくんですか?」
私は、着物のような、それでいて洋物の要素が入っているような、ある意味コスプレ衣装にも見えるその服を、持ち上げてしげしげと眺めつつ、率直に聞いた。
それは、ついさっき受け取った、異界調査の備品の一つ。ダンボールに入っていた備品の、中身の確認のためにテーブルに広げていたそれらから、この服が目についた。
「そうだよー」
私の問いに、籠町さんが答えてくれる。
遠野さんの家に行ってから、数日経ち、今は十月中旬。今回の異界調査への準備として、またこの前と同じ七人が、あの時の会議室へと集められ、
「それでは今から、調査に必要な備品などを渡していきます。衣類もありますので、一度それに着替えてください。ここの左右の部屋は、それぞれ更衣室として使っていいことになっていますので、よろしくお願いします」
と、遠野さんに言われた。
私は既に会議室に持ち込まれていたダンボールと長い袋を渡され、籠町さんと一緒に、女子の更衣室と言われた、会議室から出て左の部屋に入り、今に至る。
「でも、あの人達──異界の人達って、純和風なものを着ていたような……?」
私が持っているのは、鮮やかな水色の服だ。その形は独特で、ウエストから上は、一見すると普通の着物の形に見えるんだけど、白に近い薄いグレーの半衿は最初からくっついて、その端には、白いレースがひらひらと付いていた。そしてウエストから下は足首までの丈だけど、プリーツスカートのように、細かくひだがつけられている。しかも中に、同じくダンボールの中にあった濃い青のパニエを着るらしく、これを身に着けたら、それなりにボリュームが出るだろうと思われる。
そして付属の帯は艶のある濃いグレーで、帯というよりなんだかベルトのようにも見え、その後ろ側は蝶結びのリボンの形をしていた。しかも大きい。中に着るんだろうボタンダウンシャツは、パニエと同じ濃い青色で、そのボタンは鈍い銀色だ。そして、それら全てに、様々な色柄のプリントや刺繍がされている。
他には、濃いグレーの厚手のタイツに、つやつやした濃い茶色の短めのブーツ。白い手袋。螺鈿細工みたいに見える加工をされた楕円のパーツの周りを、銀細工みたいなものがぐるりと囲み、さらに青のサテンリボンがフリル状になって付いているバレッタ。ブーツと同じ色の、革製で少し大きめなショルダーバッグ。そして、深い青の、トンビコートとポンチョコートの間を取ったみたいなコート。
それと、長い袋に入っていたのは、布が巻き付けられた棒のようなもの。なんだこれはと布を取ってみれば、そこにあったのは、一振りの刀。
白銀の鞘、銀の鍔。柄の紐と腰に巻く紐は灰色をした、刃渡り六十センチほどの、刀だ。鞘に収まっているその刃の部分は、本物だと、肌で感じた。
……これ、どういう意図で、必要なんだろうか。
「そうそう。あっちの人達は大体、いわゆる和服を着てる。けど、私達はね」
籠町さんは、自分のダンボールから、これまたコスプレ衣装のような服を取り出しながら言う。
「あえてこういう服を着ていくの。あっち──異界の者じゃなくて、こっちの世界の者である事を示すために、ね」
籠町さんの服は、私よりもう少し落ち着いていた。
色は薄い紫の、こちらもウエストの上下で着物、スカートと別れている服だったが、レースはついてないし、パニエもない。プリントや刺繍も、そこまで派手じゃない。中に着る服は、薄い赤の立ち襟のシャツだった。髪留めはピンクパールと赤のビロードのリボンが付いたバレッタ。ブーツとショルダーバッグは同じ型のように見える。手袋も、同じ白。コートも同じ形だけど、色は深い臙脂色。
籠町さんの刀は、服の色に合わせてか、鞘は薄い赤紫、鍔は金、柄と腰の紐は、半衿と同じ紫だった。
「なるほど……?」
ちょっと前に、異界調査のためと言われて服のサイズなんかをスマホで提出したけど、これを用意するためだったのか。
そしてこれ、どうやって着るのかと思ったら。
そこかしこにマジックテープやスナップボタンやホックが付いていて、たぶん、一人でも着られるようになっている。すごいな。
そして、ダンボールに入っていたその他のものは。
まず、何が入っているかの一覧表。そして服の着方が書かれた紙。ノート、万年筆、鉛筆、筆ペン、革製のペンケースなど、筆記具一式。シンプルな革の作りの、腕時計。調査や実働のひと達が使う札やら呪具やらの、いつもの仕事道具類。それと、身分証代わりになるという、金属に似せて作られたプラスチック製の、手のひらサイズの長方形の板。これ、何やら紋様のようなものが浮き出ている。そして、小型のトランシーバーだ。
「あ、そのトランシーバーね、あっちだとスマホ、繋がらないでしょ? その代わりなんだよ」
トランシーバーを持って眺めていたら、籠町さんが説明をくれた。
「はー……そういう事ですか」
で、これらに着替える、んだけど。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
あやかし姫を娶った中尉殿は、西洋料理でおもてなし
枝豆ずんだ
キャラ文芸
旧題:あやかし姫を娶った中尉殿は、西洋料理を食べ歩く
さて文明開化の音がする昔、西洋文化が一斉に流れ込んだ影響か我が国のあやかしやら八百万の神々がびっくりして姿を表しました。
猫がしゃべって、傘が歩くような、この世とかくりよが合わさって、霧に覆われた「帝都」のとあるお家に嫁いで来たのは金の尾にピンと張った耳の幼いあやかし狐。帝国軍とあやかしが「仲良くしましょう」ということで嫁いで来た姫さまは油揚げよりオムライスがお好き!
けれど困ったことに、夫である中尉殿はこれまで西洋料理なんて食べたことがありません!
さて、眉間にしわを寄せながらも、お国のためにあやかし姫の良き夫を務めねばならない中尉殿は遊び人の友人に連れられて、今日も西洋料理店の扉を開きます。
彩鬼万華鏡奇譚 天の足夜のきせきがたり
響 蒼華
キャラ文芸
元は令嬢だったあやめは、現在、女中としてある作家の家で働いていた。
紡ぐ文章は美しく、されど生活能力皆無な締め切り破りの問題児である玄鳥。
手のかかる雇い主の元の面倒見ながら忙しく過ごす日々、ある時あやめは一つの万華鏡を見つける。
持ち主を失ってから色を無くした、何も映さない万華鏡。
その日から、月の美しい夜に玄鳥は物語をあやめに聞かせるようになる。
彩の名を持つ鬼と人との不思議な恋物語、それが語られる度に万華鏡は色を取り戻していき……。
過去と現在とが触れあい絡めとりながら、全ては一つへと収束していく――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
イラスト:Suico 様
お江戸あやかしグチ処~うちは甘味処です!~
かりえばし
キャラ文芸
物語の舞台は江戸時代っぽい甘味処。
時期は享保~天明っぽい頃。
街には多くの甘味処があり、人々はそこで休息を取りながら美味しい甘味を楽しんでいた。
主人公の凛は、甘味処を切り盛りする行き遅れ女性(20歳)
凛の甘味の腕前には定評があり、様々な客から愛されている。
しかし凛は人間不信で人間嫌い。
普段は自分の世界に閉じこもり、人々との交流も避けている。
甘味処に来る客とは必要最低限の会話しかせず、愛想笑いの一つも浮かべない。
それでもなお、凛の甘味処がつぶれないのは奇妙な押しかけ店員・三之助と愚痴をこぼしに来る人間臭いあやかしたちのおかげだった。
【表紙イラスト 文之助様】
白鬼
藤田 秋
キャラ文芸
ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。
普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?
田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!
草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。
少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。
二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。
コメディとシリアスの温度差にご注意を。
他サイト様でも掲載中です。
四葩の華獄 形代の蝶はあいに惑う
響 蒼華
キャラ文芸
――そのシアワセの刻限、一年也。
由緒正しき名家・紫園家。
紫園家は、栄えると同時に、呪われた血筋だと囁かれていた。
そんな紫園家に、ある日、かさねという名の少女が足を踏み入れる。
『蝶憑き』と不気味がる村人からは忌み嫌われ、父親は酒代と引き換えにかさねを当主の妾として売った。
覚悟を決めたかさねを待っていたのは、夢のような幸せな暮らし。
妾でありながら、屋敷の中で何よりも大事にされ優先される『胡蝶様』と呼ばれ暮らす事になるかさね。
溺れる程の幸せ。
しかし、かさねはそれが与えられた一年間の「猶予」であることを知っていた。
かさねにだけは不思議な慈しみを見せる冷徹な当主・鷹臣と、かさねを『形代』と呼び愛しむ正妻・燁子。
そして、『花嫁』を待っているという不思議な人ならざる青年・斎。
愛し愛され、望み望まれ。四葩に囲まれた屋敷にて、繰り広げられる或る愛憎劇――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
幽閉された花嫁は地下ノ國の用心棒に食されたい
森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
【完結・2万8000字前後の物語です】
──どうせ食べられるなら、美しく凜々しい殿方がよかった──
養父母により望まぬ結婚を強いられた朱莉は、挙式直前に命からがら逃走する。追い詰められた先で身を投げた湖の底には、懐かしくも美しい街並みが広がるあやかしたちの世界があった。
龍海という男に救われた朱莉は、その凛とした美しさに人生初の恋をする。
あやかしの世界唯一の人間らしい龍海は、真っ直ぐな好意を向ける朱莉にも素っ気ない。それでも、あやかしの世界に巻き起こる事件が徐々に彼らの距離を縮めていき──。
世間知らずのお転婆お嬢様と堅物な用心棒の、ノスタルジックな恋の物語。
※小説家になろう、ノベマ!に同作掲載しております。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる