83 / 117
第二章 竜の文化、人の文化
三十二話
しおりを挟む
「戻ったな」
上からの声に、はっと顔を上げる。見れば、ヘイルの顔が心なしか笑んでいる様に見えた。
(笑っ……?!)
「良かった! 戻ったわねアイリス!」
「むぎゅっ!」
驚くのもつかの間、ブランゼンに抱き締められ、潰れた様な声が出た。
「良かった……あ、でも、アイリス。体に不調は? 変に感じる所はない? 魔力は?」
ブランゼンの腕の中に収まったまま、矢継ぎ早にされる質問に、アイリスは目を白黒させる。
「えっと、その、えーっと……変な、感じはしません。痛みとか、違和感とかも、ないです。魔力も、多分正常だと思います」
もぞもぞと動きながら聞かれた事を確認し、答えるアイリスに、ブランゼンは長く息を吐きながら腕を解いた。
「はーーーーー…………なら、一旦は大丈夫かしらね……でも後でちゃんとした検査をしたいわ」
「そうだな。侍医にでも話を通すか」
上からかかる声に、アイリスはハッと思い出す。
(私、まだヘイルさんの膝の上だった!)
「す、すみませんヘイルさん! 今降りますので!」
わたわたと体を離すアイリスを、何故かヘイルは引き戻した。
「?!」
「いや、後から何かあるとまずい。このまま一の客間へ運ぶ」
「え?! いや、だ、大丈夫です! そこまでお手を煩わせる訳には……!」
「気にするな。俺がしたいからしているだけだ」
(気にしますぅ!)
心の中で絶叫したアイリスだが、当然ヘイルには届かない。はくはくと口を動かすばかりのアイリスを、ヘイルはしっかりと横抱きに抱え直した。
「あなたねぇ……」
ブランゼンは呆れ顔になり、ファスティは微笑ましげに眺めるばかり。
誰もこの状況を変える気がないと、それだけはなんとか理解したアイリスだった。
◆
本当にそのまま一の客間と呼ばれた部屋まで運ばれ、道中(私は荷物、私は荷物……)と念じていたアイリスは、ソファに降ろされてやっと、肩の力を抜いた。
ちなみにファスティは侍医を呼びに行くと途中で別れ、今この場にはアイリスとヘイルとブランゼンの一人と二竜だけだ。
「ヘイル、あなたそれ、着替えてきたら?」
ブランゼンの指摘で、アイリスはヘイルの格好がいつもと違う事に気付く。
いつも下ろしている長い髪は結ってあり、服も装飾が施され、体の形に沿うものを身に着けていた。
「会議用の服のままなんでしょう? 診察にあなたは同席しないんだから、ちょうど良いじゃない」
「……ああ、まあ、そうだが……」
それに対し、歯切れ悪く応じるヘイル。アイリスは首を傾げたが、ブランゼンは何か察したらしく、ヘイルの側に寄り小声で何事か呟いた。
するとヘイルの顔が一気に顰められた。
(何を言ったんだろう……)
気になるが、おいそれと聞くのも憚られる。どうしようかと逡巡した丁度その時、扉がノックされた。
「ファスティでございます。ウェイレさんをお連れしました」
それにヘイルが返事をすると、ゆっくりと扉が開かれ、ゆったりと入ってくるファスティと共に、
「やあやあやあ! 君が噂のアイリスちゃんかい?!」
とても溌剌とした声でそう言いながら、元気いっぱいといった笑顔をした女性が入ってきた。
上からの声に、はっと顔を上げる。見れば、ヘイルの顔が心なしか笑んでいる様に見えた。
(笑っ……?!)
「良かった! 戻ったわねアイリス!」
「むぎゅっ!」
驚くのもつかの間、ブランゼンに抱き締められ、潰れた様な声が出た。
「良かった……あ、でも、アイリス。体に不調は? 変に感じる所はない? 魔力は?」
ブランゼンの腕の中に収まったまま、矢継ぎ早にされる質問に、アイリスは目を白黒させる。
「えっと、その、えーっと……変な、感じはしません。痛みとか、違和感とかも、ないです。魔力も、多分正常だと思います」
もぞもぞと動きながら聞かれた事を確認し、答えるアイリスに、ブランゼンは長く息を吐きながら腕を解いた。
「はーーーーー…………なら、一旦は大丈夫かしらね……でも後でちゃんとした検査をしたいわ」
「そうだな。侍医にでも話を通すか」
上からかかる声に、アイリスはハッと思い出す。
(私、まだヘイルさんの膝の上だった!)
「す、すみませんヘイルさん! 今降りますので!」
わたわたと体を離すアイリスを、何故かヘイルは引き戻した。
「?!」
「いや、後から何かあるとまずい。このまま一の客間へ運ぶ」
「え?! いや、だ、大丈夫です! そこまでお手を煩わせる訳には……!」
「気にするな。俺がしたいからしているだけだ」
(気にしますぅ!)
心の中で絶叫したアイリスだが、当然ヘイルには届かない。はくはくと口を動かすばかりのアイリスを、ヘイルはしっかりと横抱きに抱え直した。
「あなたねぇ……」
ブランゼンは呆れ顔になり、ファスティは微笑ましげに眺めるばかり。
誰もこの状況を変える気がないと、それだけはなんとか理解したアイリスだった。
◆
本当にそのまま一の客間と呼ばれた部屋まで運ばれ、道中(私は荷物、私は荷物……)と念じていたアイリスは、ソファに降ろされてやっと、肩の力を抜いた。
ちなみにファスティは侍医を呼びに行くと途中で別れ、今この場にはアイリスとヘイルとブランゼンの一人と二竜だけだ。
「ヘイル、あなたそれ、着替えてきたら?」
ブランゼンの指摘で、アイリスはヘイルの格好がいつもと違う事に気付く。
いつも下ろしている長い髪は結ってあり、服も装飾が施され、体の形に沿うものを身に着けていた。
「会議用の服のままなんでしょう? 診察にあなたは同席しないんだから、ちょうど良いじゃない」
「……ああ、まあ、そうだが……」
それに対し、歯切れ悪く応じるヘイル。アイリスは首を傾げたが、ブランゼンは何か察したらしく、ヘイルの側に寄り小声で何事か呟いた。
するとヘイルの顔が一気に顰められた。
(何を言ったんだろう……)
気になるが、おいそれと聞くのも憚られる。どうしようかと逡巡した丁度その時、扉がノックされた。
「ファスティでございます。ウェイレさんをお連れしました」
それにヘイルが返事をすると、ゆっくりと扉が開かれ、ゆったりと入ってくるファスティと共に、
「やあやあやあ! 君が噂のアイリスちゃんかい?!」
とても溌剌とした声でそう言いながら、元気いっぱいといった笑顔をした女性が入ってきた。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる