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第一章 そこは竜の都

四十六話

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「?」

 その言葉にアイリスは首を傾げ、

「今己が持つその知識と、それらを組み合わせ引き出される発想と」

 そのままの体勢で徐々に目が大きく開き、

「そして、魔力と魔法に対する順応性」

 口もぱかりと開いて──

「全くと言っていいほど触れた事のないと言った魔力あれを、いとも簡単に操作しただろう」

 思考が停止したような、呆けた顔が出来上がった。

「今の読解力も合わせ──この幾日か、その一端しか目に出来ていないが……それでも〈才能〉と言えるほどのものを持っていると、そう、俺は考えている」
「…………は、ぁ……」

 アイリスはなんとか、それだけ声を出す。けれどその顔は呆けたまま。

「これまでの環境のためか、自身を過小評価する嫌いきらいがあるように思えるな。そのせいで──」
「……ヘイル。急に何?」

 訝しみ、口を挟んだブランゼンに、ヘイルは若干渋い顔になる。

「……いや、シャオンの言葉を簡単に肯定するのは危ういんだが……前から少し、考えていた」
「何を」

 ヘイルは腕を組み直し、少し躊躇うように口を開く。

「……この都の発展に繋がる何かが、アイリスと共に出来るのではないか、と。それでなくとも何かしら……」
「また……あなたは……」

 ブランゼンは額に手をやり、天を仰いだ。アイリスは未だ呆けた顔で、そんなヘイルとブランゼンを見やる。

「…………あ!」

 そして思いついたように声を上げた。アイリスは即座に姿勢を正し、ヘイルへ向けて頭を下げる。

「ありがとうございます、ヘイルさん。私を励まして下さったんですね」

 今度はヘイルが目を見開いた。

「まだ全然ここに馴染めない私を気遣って、そこまで言って頂けるなんて」
「や、いや、アイリス」

 顔を上げたアイリスへ、ヘイルは戸惑いの声を出す。

「これは結構真剣な──」
「はーいお待ちー」

 そこへ、またちょうどと言うべきか、テイヒがトレイを持ってやって来た。

「いつもの持って来た……お? まだ食べてなかったんかい」
「すみません、私が話を長引かせてしまって」

 そう言って申し訳なさそうに微笑むアイリスと、複雑な表情のヘイルと、呆れ顔のブランゼン。その三人を見て、

「そうか。ま、三人一緒に食べ始められるってんで良いんじゃないか?」

 深くは聞かずに料理を並べ始めた。毎度の事だ、というような表情かおをしながら。

「そんでいつもの感じで、今日のオススメとその他諸々なー」
「もろも、ろ……? ……?!」

 アイリスはどんなものかとそれを眺め、色々な意味で息を呑んだ。
 テイヒはそのトレイから、先ほどの丸鳥、別の鶏料理、魚料理、肉料理、何かのフライにシチューにサラダにパスタにスープに──

(なんでこんなに……?! どうやって、これも……魔法……?)

 どう見ても、そこに載り切らない量の料理がどんどんトレイから下ろされていく。

(どうなって……?)

 ほんの少し伸び上がり、アイリスはトレイを確かめる。そこから見る限り、ただ普通に皿達が載っているだけ。

(遠近感が……訳が分からない……)

 けれど全てを移し終えたテーブルの上は、その沢山の料理で盤面が見えないほどだった。

「あ、私も追加を頼むわ」

 ブランゼンが軽く手を挙げ、テイヒはそれに頷く。

「はいよ。アイリスは?」
「え? ……いえ、いえ全然! 大丈夫です!」

 ここへ更に追加する、それらはどこに置くのだろうか。頭の隅にそんな考えを浮かばせながら、アイリスは手と頭を素早く横に振った。

(また朝みたいに食べたら、お腹が破裂する……!)
「そうか? ま、それじゃゆっくり食べてな」
「おーい! テイヒ!」
「はーいよ! じゃ」

 別の客に呼ばれたテイヒは軽く言って、そちらへ向かった。
 沢山の料理達が所狭しと並べられたテーブルには。

「……」

 腕を組み、不満そうな顔をするヘイルと、

「はぁぁ……」

 テイヒが持つトレイにまだ視線をやるアイリスと、

「……ねえ」

 別の意味で不満げな表情をしたブランゼンが残された。

「そろそろ本当に食べましょう?」
「え、あっはい!」
「しかしな」

 ブランゼンはヘイルの声を手で制し、真面目な顔をしてから微笑んだ。

「食べて、頭に血を回してからよ。帰ってから詳しい話もするんだし」
「……分かった」

 溜め息を零し、ヘイルはそれに頷く。
 そしてまた、二竜ふたりと一人で少し違う祈りを捧げ。やっと目の前にある料理へ、それぞれ手を伸ばした。


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