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第一章 そこは竜の都
二十一話
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「?! ……っ?!」
こんな体勢の時は、どうすればいいんだっけ。頭を下げればぶつかるし、顔を背けるのも失礼になるし。
「なあ、アイリス。〈領主〉にはそれだけ敬意を払わなければいけない、という事は分かる」
相対するその表情は、不機嫌そうにも見え、哀しそうにも見え。
「実際、俺以外の長も大体そんな振る舞いを求める。けれどな、それは俺の性に合わん」
金と銀と、様々な煌めきを湛える瞳に映る自分は、口を引き結んでいる。
「都の者達とは皆、友のように接している。実際友であるとも思っている」
(……友。領主様が、民と?)
アイリスはふと、タウネを思い出した。見かけたからと声をかけ、親しげに話し、軽い挨拶をして別れたあの竜を。
「アイリスとも、同じ様になれないか」
「……ぅ……」
友のように。そんな振る舞いをして良いんだろうか。上手く考えられないアイリスは、呻くように息を吐く。
「…………まぁ、今までと違う事をするのは気合いがいるしな」
(あ……)
ヘイルの顔が離れる。思わずそれを追いそうになって、アイリスは姿勢を正した。
「そのうち……追い追いで良いから、俺には気安く接して欲しい」
(ええ?!)
「なんにせよ、今はアイリスの魔力の問題だ」
「……そうね」
ヘイルとブランゼンは元の位置に座り直し、アイリスを見る。
「で、玻璃の都の長である俺がアイリスに魔力を渡すと、どう問題になるかだが」
軽く言って、ヘイルは話を戻す。
「この都だけなら、基本問題無い。皆、俺の気質も俺のする事も大体了解してくれている」
「何かあるとすると他の都の竜が、特に長がどう思うか、ね」
未だに身を硬くしながらも、アイリスは顔を上げて話を聞く。
「伝統を重んじる奴とかな。だがアイリスの問題は生活に関わる。そのままには出来ない、だから──」
一拍置いて、ヘイルは口を開いた。
「……誤魔化す」
「ええ?!」
アイリスは思いっきり叫んだ後、慌てて手で口を塞ぐ。
「そんな感じだと思った……どう説明する気?」
呆れたように言うブランゼンに、アイリスは再度驚く。
「俺が補助している、ぐらいで良いだろう。細かく決めると何かの際に面倒になる」
「そうね……」
ヘイルとブランゼンは、どこかげんなりとした表情になった。
「アイリス、直接は何もないと思うが、そこだけ気をつけてくれ」
「へっ……」
「外の竜には、魔力の話はなるべく伏せて欲しいの。悪い事をしてる訳ではないんだけど……具体的な話は、後でちゃんとしましょう。この都でなら気にしなくて大丈夫だから」
ブランゼンの言葉に頷きかけ、ふと過ぎった考えがアイリスの口から零れる。
「……そもそも、人が住む事は問題には……」
言ってから、しまったと思った。しかし、ヘイルは一つ頷き、ブランゼンは苦笑するだけ。
「以前にも、人が迷い込んだりした事はあったからな。前例があれば否定は出来ない」
「それにヘイルは、そうと決めたらそのまま進めちゃうのよ。問題になっても通す気でしょう?」
「ああ」
事も無げに言うヘイルを見て、アイリスは何度か瞬きをした。
「じゃ、やるか」
こんな体勢の時は、どうすればいいんだっけ。頭を下げればぶつかるし、顔を背けるのも失礼になるし。
「なあ、アイリス。〈領主〉にはそれだけ敬意を払わなければいけない、という事は分かる」
相対するその表情は、不機嫌そうにも見え、哀しそうにも見え。
「実際、俺以外の長も大体そんな振る舞いを求める。けれどな、それは俺の性に合わん」
金と銀と、様々な煌めきを湛える瞳に映る自分は、口を引き結んでいる。
「都の者達とは皆、友のように接している。実際友であるとも思っている」
(……友。領主様が、民と?)
アイリスはふと、タウネを思い出した。見かけたからと声をかけ、親しげに話し、軽い挨拶をして別れたあの竜を。
「アイリスとも、同じ様になれないか」
「……ぅ……」
友のように。そんな振る舞いをして良いんだろうか。上手く考えられないアイリスは、呻くように息を吐く。
「…………まぁ、今までと違う事をするのは気合いがいるしな」
(あ……)
ヘイルの顔が離れる。思わずそれを追いそうになって、アイリスは姿勢を正した。
「そのうち……追い追いで良いから、俺には気安く接して欲しい」
(ええ?!)
「なんにせよ、今はアイリスの魔力の問題だ」
「……そうね」
ヘイルとブランゼンは元の位置に座り直し、アイリスを見る。
「で、玻璃の都の長である俺がアイリスに魔力を渡すと、どう問題になるかだが」
軽く言って、ヘイルは話を戻す。
「この都だけなら、基本問題無い。皆、俺の気質も俺のする事も大体了解してくれている」
「何かあるとすると他の都の竜が、特に長がどう思うか、ね」
未だに身を硬くしながらも、アイリスは顔を上げて話を聞く。
「伝統を重んじる奴とかな。だがアイリスの問題は生活に関わる。そのままには出来ない、だから──」
一拍置いて、ヘイルは口を開いた。
「……誤魔化す」
「ええ?!」
アイリスは思いっきり叫んだ後、慌てて手で口を塞ぐ。
「そんな感じだと思った……どう説明する気?」
呆れたように言うブランゼンに、アイリスは再度驚く。
「俺が補助している、ぐらいで良いだろう。細かく決めると何かの際に面倒になる」
「そうね……」
ヘイルとブランゼンは、どこかげんなりとした表情になった。
「アイリス、直接は何もないと思うが、そこだけ気をつけてくれ」
「へっ……」
「外の竜には、魔力の話はなるべく伏せて欲しいの。悪い事をしてる訳ではないんだけど……具体的な話は、後でちゃんとしましょう。この都でなら気にしなくて大丈夫だから」
ブランゼンの言葉に頷きかけ、ふと過ぎった考えがアイリスの口から零れる。
「……そもそも、人が住む事は問題には……」
言ってから、しまったと思った。しかし、ヘイルは一つ頷き、ブランゼンは苦笑するだけ。
「以前にも、人が迷い込んだりした事はあったからな。前例があれば否定は出来ない」
「それにヘイルは、そうと決めたらそのまま進めちゃうのよ。問題になっても通す気でしょう?」
「ああ」
事も無げに言うヘイルを見て、アイリスは何度か瞬きをした。
「じゃ、やるか」
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