121 / 134
121 ガシャクロ効果
しおりを挟む
4月も半ば。ここまで、色々とあった。
私の身長は、やっぱりというかそのままだったけど、涼は185cmになってて、ちょっとズルいなと思ったりとか。
愛流が出版社から声をかけられて、描き下ろしイラストを雑誌に掲載するという、イラストのお仕事を初めて貰ったりとか。
大学進学のための準備を、本格的に始めたりだとか。
アズサさんがマキさんに押されて、仮のお付き合いをすることになったとか。
伊緒奈が3-Bに、頻繁に顔を出して私に話しかけてきて、涼と高峰さんと桜ちゃんと、顔を出してくれるマリアちゃんが防波堤みたいになってくれたりとか。
その関係なのかなんなのか、涼のロシア語の上達スピードがもの凄く速いとか。
まあ、なんだかんだあったけど、今、私の頭を悩ませているのは、バイト先がめっちゃ繁盛しているということだ。
「ありがとうございました」
ご馳走様でした、と笑顔で言ってくれた女性4人組の会計を終え、エイプリルさんがテーブルを素早く片付けてくれていたのを確認して、外に出る。
「おまたせしました。お席、空きましたので、ご案内します」
長蛇、に、なりそうな列──並んでいるのはほぼ女性に見える──の先頭の方々に声をかける。
学校帰りらしい、制服姿の女子3人組は、ありがとうございます、とこっちも満面の笑みで答えてくれて、ほぼ満席のホールの中の、空いたばかりのテーブルへご案内、からのルーティン。
「あの、フランス語でもう一回言ってもらうの、大丈夫ですか?」
お決まりになったリクエストにお答えして、フランス語で繰り返す。
「すごい……ありがとうございました……」
「いえ、では、お水をお持ちしますね」
お店、原作とおんなじだ。とか。
当たり前じゃん、こっちがモデルだよ? とか。
あの席に座りたかったなぁ。とか。
そんな言葉を聞きながら、動いていく。
なんでこんなに繁盛しているか、といえば。
今週のガシャクロに、この店が出てきたからだ。出てきたというか、主人公たちはお店をがっつり利用しました。今後のキーポイントになりそうなお話でもあったし。
その前から、送ってもらった見本誌をラファエルさんに見せてもらったから、内容は知っていたけど。
内心、ガシャクロ効果すごい、と思っている。
取材協力先として、店の名前が載るのは、分かっていたけど。発売日からガシャクロファンの皆様が続々とご来店して、店は満員御礼、かつ、外に行列、という光景が出来上がった。
「おまたせしました」
お水を持っていって、メニューの説明を頼まれて、そのままご注文。
はい、またラタトゥイユとキッシュ、ピッカータとじゃがいもガレットのご注文です。作中で主人公たちが食べていたものですね。はい。
今は改善されてるけど、初日は閉店前に在庫が切れました。ガシャクロ、すごい。
それに、行列が出来てしまうほどの混み方なので、いつものゆったりした雰囲気は吹っ飛んで、常連さんも入りにくくなっている、という状況。
通常の5倍くらいのスピードでホールを回しながら、良い面もアレな面もあるなぁ、と思う。
幸いなのは、ガシャクロファンの方々は、皆さん大体、丁寧に接してくれること。ファン魂が荒ぶってトラブル、とかは、今のところ起きていない。
桜ちゃん曰く、
『めっちゃ忙しいのも一ヶ月しないで落ち着くと思うよ』
とのことだったので、それを目安に動いている。
しかしまあ、めっちゃ忙しいのはその通りなので、お店が繁盛するのは良いけど、一ヶ月これかぁ、とも、思ってしまっている、そんな今日この頃な感じだ。
◇
「まだ波、引いてないのか」
「そうなんです……流石ガシャクロ……」
涼の部屋で、涼に抱きついて、涼に抱きしめてもらいながら、呟く。
今日は土曜日。午後の途中までバイトをして、今は、勉強会が終わって、ちょっと甘えているところだ。
「涼も大変なのにすみません……」
「気にすんな。嬉しいから。バイト、大変だったろうけど、俺を頼ってくれて嬉しいよ、光海」
涼が、頭を撫でながら言ってくれる。
ガシャクロ効果の波が引かない状態で、リクエストに答えながらずっと接客していて、少し、疲れてしまった。
「涼は、カメリアのお手伝い、どうですか……?」
「勉強になってるよ。菓子作りはともかく、経営や接客は、そんな関わってなかったからな」
「お疲れ様です……」
涼を、ぎゅっと抱きしめる。
「……俺のほうが癒されてるな」
ぽそっと言われて、ぎゅう、と抱きしめられる。
「それはそれで良かったです……」
「伊緒奈に見せたくねぇな。こういう光海」
「見せる予定はないです……」
伊緒奈は、この前学校で、
『(俺も涼先輩って呼ぶからさ、名前で呼んでくれていいよ? 光海先輩みたいに)』
挑発するみたいな笑顔を涼に向けて、ロシア語でそう言って、
『(じゃあ呼ぶわ、名前で)』
涼も、だいぶ滑らかになってきたロシア語で、伊緒奈を軽く睨みながら、それに応じた。
「そういえば涼、体育祭の種目、どうしますか?」
「去年と同じのと、ハードル走に出ようかなって。……あー、なんで伊緒奈もBなんだろな……」
声を低くした涼に、「それは学校側の都合ですし……」と言ってみる。
「アイツ、当日、絶対光海に絡んでくるぞ。防ぐけど」
「ありがとうございます。私も躱しますよ、なんとか」
ていうか、最近の伊緒奈、涼との絡みも楽しんでる気がする。おちょくる要素もあるんだろうけど。
涼がロシア語を話せるようになってきたからか、色々な言語で私と会話をしたりして、
『今の、分かります?』
とか言ってきたりするし。
そして涼はどんどん、他の言語を習得しようと頑張るのだ。
こっちも、良いやらなんやら。
「光海は体育祭、なんの種目に出る?」
「あんまり動かない系を考えてます。去年みたいに玉入れか、借り物競争か、障害物競走か、とか」
「……借り物競争で、なんか理由つけて、俺を借りて欲しい」
「じゃあ、借り物競争にします、するね」
「(あー……可愛い可愛い可愛い。光海がどこまでも可愛い)」
突如のフランス語。
「(俺だけの光海って言いてぇ。俺の未来の奥さんって言いてぇ)」
うぇあ……。
「(その、私は涼の彼女なので、涼だけの彼女ですし、その、えと、奥さんのことも、ちゃんと考えてますよ?)」
「(ありがとうどこまでも大好きだよ愛してるもう今すぐ結婚したいお前と。無理なのは分かってるけど)」
「(そ、その日までに頑張ります……)」
か、顔が熱い気がする……。
「俺も頑張る。……なぁ、光海」
「は、はい」
「キスして、いいか?」
「だ、大丈夫、です」
答えて、顔を見るために、少し体を離せば、涼も腕の力を緩めてくれる。
「もうお前、マジ可愛い。光海」
涼がなんか、得意げに微笑みながら、私の頬に手を当てる。
そのまま、顔が近づいてきて。
「お前にこうして良いのも、俺だけだからな」
そう言って、私がそれに答える前に、唇を塞いだ。
私の身長は、やっぱりというかそのままだったけど、涼は185cmになってて、ちょっとズルいなと思ったりとか。
愛流が出版社から声をかけられて、描き下ろしイラストを雑誌に掲載するという、イラストのお仕事を初めて貰ったりとか。
大学進学のための準備を、本格的に始めたりだとか。
アズサさんがマキさんに押されて、仮のお付き合いをすることになったとか。
伊緒奈が3-Bに、頻繁に顔を出して私に話しかけてきて、涼と高峰さんと桜ちゃんと、顔を出してくれるマリアちゃんが防波堤みたいになってくれたりとか。
その関係なのかなんなのか、涼のロシア語の上達スピードがもの凄く速いとか。
まあ、なんだかんだあったけど、今、私の頭を悩ませているのは、バイト先がめっちゃ繁盛しているということだ。
「ありがとうございました」
ご馳走様でした、と笑顔で言ってくれた女性4人組の会計を終え、エイプリルさんがテーブルを素早く片付けてくれていたのを確認して、外に出る。
「おまたせしました。お席、空きましたので、ご案内します」
長蛇、に、なりそうな列──並んでいるのはほぼ女性に見える──の先頭の方々に声をかける。
学校帰りらしい、制服姿の女子3人組は、ありがとうございます、とこっちも満面の笑みで答えてくれて、ほぼ満席のホールの中の、空いたばかりのテーブルへご案内、からのルーティン。
「あの、フランス語でもう一回言ってもらうの、大丈夫ですか?」
お決まりになったリクエストにお答えして、フランス語で繰り返す。
「すごい……ありがとうございました……」
「いえ、では、お水をお持ちしますね」
お店、原作とおんなじだ。とか。
当たり前じゃん、こっちがモデルだよ? とか。
あの席に座りたかったなぁ。とか。
そんな言葉を聞きながら、動いていく。
なんでこんなに繁盛しているか、といえば。
今週のガシャクロに、この店が出てきたからだ。出てきたというか、主人公たちはお店をがっつり利用しました。今後のキーポイントになりそうなお話でもあったし。
その前から、送ってもらった見本誌をラファエルさんに見せてもらったから、内容は知っていたけど。
内心、ガシャクロ効果すごい、と思っている。
取材協力先として、店の名前が載るのは、分かっていたけど。発売日からガシャクロファンの皆様が続々とご来店して、店は満員御礼、かつ、外に行列、という光景が出来上がった。
「おまたせしました」
お水を持っていって、メニューの説明を頼まれて、そのままご注文。
はい、またラタトゥイユとキッシュ、ピッカータとじゃがいもガレットのご注文です。作中で主人公たちが食べていたものですね。はい。
今は改善されてるけど、初日は閉店前に在庫が切れました。ガシャクロ、すごい。
それに、行列が出来てしまうほどの混み方なので、いつものゆったりした雰囲気は吹っ飛んで、常連さんも入りにくくなっている、という状況。
通常の5倍くらいのスピードでホールを回しながら、良い面もアレな面もあるなぁ、と思う。
幸いなのは、ガシャクロファンの方々は、皆さん大体、丁寧に接してくれること。ファン魂が荒ぶってトラブル、とかは、今のところ起きていない。
桜ちゃん曰く、
『めっちゃ忙しいのも一ヶ月しないで落ち着くと思うよ』
とのことだったので、それを目安に動いている。
しかしまあ、めっちゃ忙しいのはその通りなので、お店が繁盛するのは良いけど、一ヶ月これかぁ、とも、思ってしまっている、そんな今日この頃な感じだ。
◇
「まだ波、引いてないのか」
「そうなんです……流石ガシャクロ……」
涼の部屋で、涼に抱きついて、涼に抱きしめてもらいながら、呟く。
今日は土曜日。午後の途中までバイトをして、今は、勉強会が終わって、ちょっと甘えているところだ。
「涼も大変なのにすみません……」
「気にすんな。嬉しいから。バイト、大変だったろうけど、俺を頼ってくれて嬉しいよ、光海」
涼が、頭を撫でながら言ってくれる。
ガシャクロ効果の波が引かない状態で、リクエストに答えながらずっと接客していて、少し、疲れてしまった。
「涼は、カメリアのお手伝い、どうですか……?」
「勉強になってるよ。菓子作りはともかく、経営や接客は、そんな関わってなかったからな」
「お疲れ様です……」
涼を、ぎゅっと抱きしめる。
「……俺のほうが癒されてるな」
ぽそっと言われて、ぎゅう、と抱きしめられる。
「それはそれで良かったです……」
「伊緒奈に見せたくねぇな。こういう光海」
「見せる予定はないです……」
伊緒奈は、この前学校で、
『(俺も涼先輩って呼ぶからさ、名前で呼んでくれていいよ? 光海先輩みたいに)』
挑発するみたいな笑顔を涼に向けて、ロシア語でそう言って、
『(じゃあ呼ぶわ、名前で)』
涼も、だいぶ滑らかになってきたロシア語で、伊緒奈を軽く睨みながら、それに応じた。
「そういえば涼、体育祭の種目、どうしますか?」
「去年と同じのと、ハードル走に出ようかなって。……あー、なんで伊緒奈もBなんだろな……」
声を低くした涼に、「それは学校側の都合ですし……」と言ってみる。
「アイツ、当日、絶対光海に絡んでくるぞ。防ぐけど」
「ありがとうございます。私も躱しますよ、なんとか」
ていうか、最近の伊緒奈、涼との絡みも楽しんでる気がする。おちょくる要素もあるんだろうけど。
涼がロシア語を話せるようになってきたからか、色々な言語で私と会話をしたりして、
『今の、分かります?』
とか言ってきたりするし。
そして涼はどんどん、他の言語を習得しようと頑張るのだ。
こっちも、良いやらなんやら。
「光海は体育祭、なんの種目に出る?」
「あんまり動かない系を考えてます。去年みたいに玉入れか、借り物競争か、障害物競走か、とか」
「……借り物競争で、なんか理由つけて、俺を借りて欲しい」
「じゃあ、借り物競争にします、するね」
「(あー……可愛い可愛い可愛い。光海がどこまでも可愛い)」
突如のフランス語。
「(俺だけの光海って言いてぇ。俺の未来の奥さんって言いてぇ)」
うぇあ……。
「(その、私は涼の彼女なので、涼だけの彼女ですし、その、えと、奥さんのことも、ちゃんと考えてますよ?)」
「(ありがとうどこまでも大好きだよ愛してるもう今すぐ結婚したいお前と。無理なのは分かってるけど)」
「(そ、その日までに頑張ります……)」
か、顔が熱い気がする……。
「俺も頑張る。……なぁ、光海」
「は、はい」
「キスして、いいか?」
「だ、大丈夫、です」
答えて、顔を見るために、少し体を離せば、涼も腕の力を緩めてくれる。
「もうお前、マジ可愛い。光海」
涼がなんか、得意げに微笑みながら、私の頬に手を当てる。
そのまま、顔が近づいてきて。
「お前にこうして良いのも、俺だけだからな」
そう言って、私がそれに答える前に、唇を塞いだ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる