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115 幸せが飽和しているイースター前

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 バイト先で、お店をイースター仕様に模様替えした日の、翌朝。
 5人グループのラインに、アズサさんからSOSが来ていた。

「アズサさんのあれ、どういうことか分かる? マリアちゃん」

 学校帰り。いつものコーヒーチェーンで、一口飲んだキャラメルラテを手に、マリアちゃんに聞いてみる。

「そのままだろうな。アイリスが遂に、明確に動き出したな、とは、思ったが」

 マリアちゃんは言って、コーヒーを飲む。

「ほおん。マリアちゃんはあれ、予想の範囲内だったってワケかいな」

 桜ちゃんの言葉に、

「アイリスのは、な。省吾まで行動に移す……というか、自覚するとは思ってなかったが」
「マリアちゃん、すっげぇ淡々としてる」

 桜ちゃんの感想みたいなそれに、強く同意した。
 アズサさんからのSOSは、こうだ。

『なんか、すみません。自分の頭の中で処理できなくて。相談? させて下さい』

『あの、アイリスがですね、自分はボクと省吾、両方好きで大切にしたいから、早くくっついてくれないか、みたいなことを、ボクと省吾に言ってきてですね。ボク、もう、それだけで訳分かんないんですけど、省吾もその場で、そういやそうか、とか、言って、ボクに告ってきたんです』

『それで、二人に迫られてるんです。早くくっつけって。気持ちが知りたいって。どういうことでしょうかコレ。二人とも、そういう冗談を言う人じゃないのに。そもそも、そういう、好きだとか、その、それ系の話とか、三人でしたこと、ないんですよ。パニックなんです。だれか助けて』

 最後の、だれか助けて、は、本当に困ってる印象を受けた。
 私は、そのSOSを受け止めるのに精いっぱいで、『お疲れ様です。まずは落ち着いて、状況を紙に書き出してみたらどうでしょうか』とか、送ってしまった。

「なら、アズサさんは、パニックをどうにか収めて、自分の気持ちを整理して、マキさん、二人? に、それを伝えれば、解決?」

 私がマリアちゃんに聞くと、

「解決、するかは、……分からないが。まず一歩から、と言うし、アイリスも省吾も、諦めが悪いからな。自覚した省吾からどういうアプローチを受けてるか分からないが、アズサ個人宛てに、私が受けていた今までの印象は送ったよ」
「それ、アズサさん、余計パニックになったりしない?」

 カフェオレを飲んだ桜ちゃんが言う。

「まあ、少し、そうなってたな。どういうことかと返信されたし」
「大丈夫なのそれ」
「ほんに、そう思う」
「時間が解決してくれる、とも思うが……話し合ってもらう場でも設けるか?」
「なら、みつみんのお店にしよ」
「えっ?」

 ◇

「いらっしゃいませ」

 あのあと、本当にバイト先で話し合ってもらうことになって。

「……4名様ですか?」

 マリアちゃんが、アズサさんとアイリスさんとマキさんを連れてきた。
 アズサさん、顔が赤くなったり青くなったりしてるけど、大丈夫ですか? アイリスさんはいつも通りにニコニコしてるけど。マキさんは……なんか、アズサさんを横目に、不満そうな顔してるな。

「光海。三人とも、光海が把握してることを把握してる。三人と一人で。席もこっちで決めるから」

 マリアちゃんの言葉に、かしこまりました、とルーティン。んで、戻ってきたら。

「(……悪い、光海。ウェルナーが隣がいいって言うから……)」

 マリアちゃんは、カウンター席の、ヴァルターさんと来店していたウェルナーさんの隣に、若干顔を赤くして座っていた。
 ヴァルターさんは苦笑していて、ウェルナーさんは嬉しそうにニコニコしている。

「(了解。なんの問題もないよ)」

 言いながら、水を置く。

「(悪い。ありがとう、光海)」
「(光海のおかげで、今日もマリアと会えて最高の日になったよ)」

 ウェルナーさん、マリアちゃんが顔を真っ赤にしちゃってるから、その辺でストップで。
 マリアちゃんに一言断ってアズサさんたちのテーブルにお水を持っていってる間に、エイプリルさんがマリアちゃんの注文を取ってくれていた。
 ので、私はそのまま、三人の注文を確認。
 アイリスさんは、ピッカータとカスレとブランダードとホットチョコレート。マキさんはコーヒー。アズサさんは一旦考える、で、厨房へ。
 大丈夫かな、アズサさん。既にいっぱいいっぱいに見えたけど。気絶とか、しないといいけど。
 そう思いながら用意した飲み物を持っていったら、カラン。

「イエイ! みつみん、来たぜ!」
「いらっしゃい。桜ちゃん、涼、高峰さん」

 なぜ今、という疑問は置いといて、エイプリルさんに対応を頼み、私は飲み物をテーブルへ。

「成川さん、この前ホームページを見たのだけれど、イースターのお祝いだから、お店の飾り付けが変わってるんですか?」

 アイリスさんに聞かれて、

「そうですね。フランスではイースターを盛大にお祝いするので。その、テーブルの上のイースターエッグは、エイプリルさんが描いたんですよ」

 エイプリルさんは、もらった卵を3つとも、ガシャクロをモチーフに、でもイースターらしい絵柄や模様を描いた。その一つが、それだ。

「そうなんですね。ねえアズサ、どう思う?」

 アイリスさんは、対面のアズサさんを見ながら、にっこりと。

「え、うん、綺麗だなって思う、よ?」

 アズサさんがたじたじだ。

「……アズサも綺麗。可愛い」

 アズサさんの隣に座ってるマキさんがぼそっと言ったそれに、アズサさんは固まった。
 そこに、「光海さん、今、大丈夫ですか?」と、エイプリルさんが声をかけてきた。
 私は三人に確認してから、エイプリルさんに向き直って、

「どうしました?」
「いえ、光海さんが描いたイースターエッグの場所を桜さんに聞かれたんですが、全てを覚えていなくて」
「ああ、分かりました。では、私が代わりますね」

 そう言って、桜ちゃんたちのテーブルへ。

「私が描いたイースターエッグの場所を教えればいいの?」

 聞けば、桜ちゃんはニコニコしながら、

「半分はそれ。もう半分は、出歯亀かな。色んな意味で」

 色んな意味で? アズサさんのだけじゃなく?

「ともかくまあ、教えておくれ」
「うん。一つはね、入口のカゴの中の一個。二個目は会計のカゴの中の一個。三個目はあのテーブルにあるよ」

 あのテーブル、を指差しながら言って。

「これで良い?」
「入口と会計のカゴのって、詳しく言うとどれ?」

 えーと。

「入口のはね、イースターバニーが赤い椿を持ってるよ。会計のは白と赤とピンクの椿をモチーフにした絵柄で、テーブルのも言っちゃうと、あっちは赤い椿と菫の花と鐘だね」

 ……涼が呻いて、片手で顔を押さえて俯いた。

「えーと……?」
「重症だぁ。それ、橋本ちゃんに言ってなかったの?」
「ううん。言ったよ。こういうの描いたよって画像も送ったんだけど……?」

 私がモチーフとして入れたかったのは、カメリアの元になった、椿姫。だから、その大元の白い椿と、みんなが思い描くだろう椿と、主人公の名前の菫の花を描いたんだけど。
 それも、伝えたんだけど?

「涼?」
「今話しかけるな……」

 はい?

「ほら、前に言ったけどさ。成川さんの一挙手一投足が橋本に絶大な影響を及ぼしてるんだよ。今、クリーンヒットしてる」

 苦笑しながらの高峰さんの言葉に、まじかよ、と思った。

「高峰テメェ……」
「実物を見たいって言ったの、橋本でしょ」
「それを今言うな……」
「その話を私が高峰っちから聞いて、こうしている訳さ」
「なんだ? 味方が居ねぇな?」
「みんな涼の味方だよ?」
「(今敬語を抜くんじゃねぇ)」

 そこでラファエルさんに呼ばれたので、一言断って、料理を運ぶ。
 アズサさんたちのテーブルでは、マキさんがアズサさんを真面目な顔で口説いてて、アイリスさんは楽しそうにそれに追い討ちをかけていて、アズサさんは目を白黒させている。
 桜ちゃんたちのテーブルでは、涼が仏頂面でスマホを二人に見せてて、「これかぁ」「成川さん、絵、上手いね」などと聞こえるので、涼に送ったイースターエッグの画像でも見てるのかなと思う。
 マリアちゃんたちのほうも、ある意味通常運転だな。
 そんなことを思いながら待機してると、カラン。
 ……ユキさんと弓崎さんですね。また、あの雰囲気ですね。
 一緒に待機していたエイプリルさんが、二人の対応をすることに。
 そこで、エマさんとレイさんに会計を頼まれて、対応してる時に、

「(今日はなんだか、幸せが飽和しているね)」

 と、エマさんに言われて、

「(みたいですね)」

 と答えた。

 ◇

 結果として、来たのに何も頼まないのは悪いって、アズサさんは飲み物を注文して、マキさんへの返答は保留にさせてほしいと言って、

「その気になるまで諦めない」
「その意気です。省吾」

 とか、言われてたけど。
 涼も桜ちゃんと高峰さんに促されて、三人で私のイースターエッグを見たりしたけど。
 弓崎さんがユキさんに、

ユキのおかげで今の僕があるんだけど? いつになったら本気にしてくれるワケ?」

 なんて言って、ユキさんはそれに苦笑しながら、

「本気っていうか、智は智だって思ってたからなぁ」

 って言葉に、逆に弓崎さんが黙っちゃったりしてたけど。
 あと、マリアちゃんとウェルナーさんに気を遣ってか、ヴァルターさんだけ先に会計して帰っていったりしたけど。
 まあ、概ね、平和にバイトを終えられたので、良かった。
 

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