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114 過去について、未来について
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父は乗り気では無くて。母は開き直っていて。
居心地が悪そうに隅に居た父に、
『暗い顔してんねキミ。来ちゃったんだから楽しもうよ』
母がそう、声をかけて。それでも座りが悪そうな父を見て、母は父を連れ出した。そして連れて行ったのだ、カメリアへ。
『ここね、私の家。奢ったげるからなんか買ってって。損はさせないよ』
母の勢いに押される形で、父はパウンドケーキを手に取った。そのまま流れるように会計を済まされてしまって、
『いや、やっぱり払うよ……』
『気にしないでよ。気にすんなら、また、買いに来て。てか、パウンドケーキ、好きなの?』
『好きっていうか……合うかなって……紅茶に……』
『紅茶?』
父の祖母が紅茶が好きで、幼少期を祖母のもとで過ごした父は、その影響を受けたのだと、質問攻めに遭いながら説明して。
『だから、その、家に紅茶が、沢山あるから……』
『キミ、紅茶淹れるの上手い?』
『……まあまあ……本格的なの、教わったし……』
『家どこ?』
『え?』
『その本格的な紅茶、飲みたい。連れてってよ』
連れて行く、というより、引っ張られながら家に案内することになり、そのまま紅茶を淹れる羽目になり。
『へー。ポットとか温めたお湯、捨てるんだ?』
『そうだけど……君、ケーキ屋の人間なのに、なんで紅茶に疎いの』
『いつもお姉ちゃんに淹れてもらってるから』
『お姉さん居るんだ……?』
『居るよ?』
『当たり前みたいに言わないでよ……お互いに名前も知らないんだからね?』
『自己紹介タイム聞いてなかった?』
『……聞いてなかった』
母はそこで改めて名乗って、父も、名乗らざるをえなくて。
『は? 美味い』
父の淹れた紅茶を気に入った母は、また飲みたいからと連絡先を交換して。
そして、突撃するように、カメリアのスイーツを持って訪問してくる母を、父は呆れながら家に上げて。
そんな関係が半年続いた頃、母は、ダージリンのパウンドケーキを持って父の家にやって来た。
『隆さ、ダージリン好きでしょ? だから作った。来月の新商品。味は保証する』
『……嬉しいけど……なんで、そんな……』
『え? 好きだから』
『……日向子が好きなの、オレンジペコじゃなかった?』
『紅茶の話じゃなくて。好きなのは隆』
『え?』
『だから、好きなのは紅茶じゃなくて、隆。キミ。分かった?』
『……友達として?』
『怒るよ?』
『ごめん』
結局、半年の間に父も絆されていて、付き合うことになって。
気持ちを自覚した父は、自由に動き回り、交友関係も広い母の、その、人を惹き付ける魅力に、不安を覚え始めた。
恋人になって初めて気付く、母へ向けられている好意の多さ。自分もその中の一人だったと痛感しながら、それでも今は自分が恋人なのだからと、不安を押し殺していたけれど。
押し殺しきれなくなった。
『日向子。ちょっと』
『どした?』
『そのさ。……こう、女子はまあ、良いとして、男子にさ、俺にするみたいに接するの、なんで?』
『? 隆に? するみたいに? してる?』
『してる、ように見える。……しないで欲しい』
嫉妬だと分かっていても、言わないと気が済まなかった。
『んー? 分かんないけど分かった』
『いや、分かって。俺に取って代わろうとする奴、沢山いるんだよ?』
『ほほう? そんな輩が?』
『全く分かってないよね。日向子は俺じゃなくても良いの?』
『嫌だけど?』
『本音に聞こえないな……』
いつもの調子で言われるそれに、父は疲れたように肩を落とす。それを見て、母は。
『うん、じゃあもう、結婚でもするか』
『……は?』
『お互いさ、結婚出来る年だし。既婚者なら、手は出されにくいでしょ?』
『……日向子、俺たちまだ、高校生なんだけど……?』
『なんだい? したくないの?』
『いや、……したい、けど……こういうの、勢いで決めることじゃないし……お互いの両親とかさ』
『したいの? したくないの? はっきりしなさい』
『……したいです……』
いつも母に負ける父は、その時も結局、母に負けた。
そして母は勢いのままに、互いの家族に話を通して。けれども互いの両親に宥められ、父も、肩身の狭い思いをしながら、今すぐは流石にと言うから。
『なら、卒業したら。それならいいでしょ?』
母はそれ以上譲る気がなく、母の姉である歩もそれに味方をして。互いの両親は、折れるような形で、それを承諾した。
『よし、今から私たちは婚約者だよ』
『……そうだね……』
『なんだその反応』
『いや、嬉しいよ? 嬉しいけど、気持ちが追いつかない……』
『走れ、隆』
『物理的な問題じゃない……』
『んでさ、式、どうする?』
『だから、気が早い……』
『でも決めとかなきゃでしょ』
そのまま母は、式の準備を進めようとして。互いの両親にまた止められて、不満そうにする母を見て、父は、覚悟を決めた。
互いの両親に──特に、母の両親と姉に頭を下げ、父は、全面的に母のことを考えて動いた。
そして、お互いの高校を卒業して。そのすぐあとの大安吉日に入籍して式を挙げて。
『へいダーリン』
『名前で呼んでって……』
母は製菓の専門学校へ進み、父は大学へ進み。
◇
「そんで2年して生まれたのが俺だよ分かったか」
待って? 待って? 日向子さんの行動力が凄すぎる。
てか、2年って。まさか。
「その、お二人が在学中に、涼は生まれたり……?」
「そーだよ。母さんは3年制のとこ通ってたし。父さんも4年制の大学だったし」
わぁ……。
「あの、そうなると、お二人の年齢って……?」
「父さん今37。今年で38。母さんは父さんと同い年」
「わっか……」
うちの両親、40代なんですけど……。
「で、どうだ。具体例出したんだけど」
「こんな身近な具体例だとは思ってませんでした……」
「そうじゃねぇ。俺との未来を想像できたかって聞いてんの」
「み、未来……」
えーとえーと。
本気で考えて、正直に言わないと。
「えーと、その、涼はカメリアは継ぐから、えーと、私は、その、パートナー……奥さん……? えーと……私もカメリアに関わる……て、こと……? なら、その、えーと……カメリアを世界に広めたい……?」
今まで考えてた将来のことと混ぜて言ってみたんだけど。
「あの……涼……?」
涼が呻いて、私の肩に頭を乗せた。
「だ、駄目でした……?」
「ちげぇわ……なんでマジでちゃんと考えてくれんだよ……」
「えぇ……?」
「引くだろ……普通……急に結婚とか……なんで受け入れてくれんだよ……」
……。
「なんです、それ。パニックになりかけてはいましたけど、一生懸命考えたんですけど? 涼は結局、嫌なんですか?」
ちょっと、ムッとした声になってしまった。
そしたら、涼はその姿勢のまま、私を緩く抱きしめてきて。
「嫌な訳ねぇだろ……めちゃくちゃ嬉しいわこのヤロウ……なに? 本気にしていいの?」
「本気で考えろって言ったの、涼なんですけど」
「……なぁんだよもうお前可愛すぎんだよ光海ぃ……」
◇
「おはようございます、涼。……どうかしましたか?」
なんかムスッとしてるし、顔が赤い。
「……おはようって言いたいけど。なんでお前はいつも通りな感じなん?」
いつも通り。
「昨日のこと、言ってます? あれなら一回、決着? がついたじゃないですか」
「決着……」
涼が、ムスッとした顔のまま、小さい声で言う。
プロポーズみたいな話をされて、自分なりに答えて。涼がまた少し泣き始めちゃったのを宥めようとしたら、涼のお父さんの隆さんが顔を出して。
『涼、悪いけど、途中から聞いてたよ。止めるかどうするか迷ってしまってね。俺の話も引き合いに出されたし。まずは二人とも、落ち着こうか』
隆さんはそう言って、涼を宥めて私から離して。
『お前の気持ちは分かる。……て言いたいけど、大切な人の気持ちも、その人の考えも尊重しなさい。俺と日向子だって、お前が言った通りに、周りに、冷静になれって、何回か止められたんだから』
隆さんは、涼にそう言ったあと、私へ困ったような苦笑を向けて、
『すみません、成川さん。息子は僕にも、日向子にもよく似てるみたいです。二人の想いは応援してるけど、最低もう二、三回は、じっくり考えてみて下さい。あなたのためにも、涼のためにも』
それで、解散、となったのだ。
「あのあと何か言われたんですか? 涼のお父さん、隆さんに」
「……少し」
差し出された手に、自分のを重ねる。
指を絡められて、いつもより、少し強く、握られる。
「その気持ちは大事にしていいけど、……だから、余計、お前のことをちゃんと考えろって、言われた。……進路も、違うし」
涼がちょっと、俯いた。
「それなら私も、昨日のことを折り込んで考えてみましたよ」
「……どんなん」
更に、俯いた。
「あのですね」
その顔を覗き込めば、逸らされる。
「……涼。仮にですけど、組み立て直してみたんですよ? そもそもですね、どう、異文化交流をするか、将来の道には迷ってたんです」
そういう活動をしている法人に入るか、外交のような仕事をするか、他の仕事をしながら一人で始めていくか、とか。
「それで、私は涼もカメリアも大好きですし、自分であの時言った、カメリアを世界の人に知ってもらうって、結構良いんじゃないかって、思ったんですよ。ラファエルさんとアデルさんだって、似たような思いであのお店を始めた訳ですし。それで、んむ!」
……顔を胸に押し付けられた……。
「分かったよもう朝っぱらからやめてくれまた冷静さを欠くから」
涼は一息で言って、私の頭から手を離す。
「……続き、あるんですけど」
少し睨むように言えば。
「今はやめてくれって。マジで。泣くぞ。爆発させるぞ」
涼は赤い、真剣な顔を私に近づけてきて、そう言って、
「これ以上は今は無し。お前には俺を殺す威力があんだよ。今ここで死にたくねぇわ」
そう言って顔を引っ込めて、「行くぞ」って、歩き出した。
……あのですね、涼にも、結構な威力、あるんですよ?
居心地が悪そうに隅に居た父に、
『暗い顔してんねキミ。来ちゃったんだから楽しもうよ』
母がそう、声をかけて。それでも座りが悪そうな父を見て、母は父を連れ出した。そして連れて行ったのだ、カメリアへ。
『ここね、私の家。奢ったげるからなんか買ってって。損はさせないよ』
母の勢いに押される形で、父はパウンドケーキを手に取った。そのまま流れるように会計を済まされてしまって、
『いや、やっぱり払うよ……』
『気にしないでよ。気にすんなら、また、買いに来て。てか、パウンドケーキ、好きなの?』
『好きっていうか……合うかなって……紅茶に……』
『紅茶?』
父の祖母が紅茶が好きで、幼少期を祖母のもとで過ごした父は、その影響を受けたのだと、質問攻めに遭いながら説明して。
『だから、その、家に紅茶が、沢山あるから……』
『キミ、紅茶淹れるの上手い?』
『……まあまあ……本格的なの、教わったし……』
『家どこ?』
『え?』
『その本格的な紅茶、飲みたい。連れてってよ』
連れて行く、というより、引っ張られながら家に案内することになり、そのまま紅茶を淹れる羽目になり。
『へー。ポットとか温めたお湯、捨てるんだ?』
『そうだけど……君、ケーキ屋の人間なのに、なんで紅茶に疎いの』
『いつもお姉ちゃんに淹れてもらってるから』
『お姉さん居るんだ……?』
『居るよ?』
『当たり前みたいに言わないでよ……お互いに名前も知らないんだからね?』
『自己紹介タイム聞いてなかった?』
『……聞いてなかった』
母はそこで改めて名乗って、父も、名乗らざるをえなくて。
『は? 美味い』
父の淹れた紅茶を気に入った母は、また飲みたいからと連絡先を交換して。
そして、突撃するように、カメリアのスイーツを持って訪問してくる母を、父は呆れながら家に上げて。
そんな関係が半年続いた頃、母は、ダージリンのパウンドケーキを持って父の家にやって来た。
『隆さ、ダージリン好きでしょ? だから作った。来月の新商品。味は保証する』
『……嬉しいけど……なんで、そんな……』
『え? 好きだから』
『……日向子が好きなの、オレンジペコじゃなかった?』
『紅茶の話じゃなくて。好きなのは隆』
『え?』
『だから、好きなのは紅茶じゃなくて、隆。キミ。分かった?』
『……友達として?』
『怒るよ?』
『ごめん』
結局、半年の間に父も絆されていて、付き合うことになって。
気持ちを自覚した父は、自由に動き回り、交友関係も広い母の、その、人を惹き付ける魅力に、不安を覚え始めた。
恋人になって初めて気付く、母へ向けられている好意の多さ。自分もその中の一人だったと痛感しながら、それでも今は自分が恋人なのだからと、不安を押し殺していたけれど。
押し殺しきれなくなった。
『日向子。ちょっと』
『どした?』
『そのさ。……こう、女子はまあ、良いとして、男子にさ、俺にするみたいに接するの、なんで?』
『? 隆に? するみたいに? してる?』
『してる、ように見える。……しないで欲しい』
嫉妬だと分かっていても、言わないと気が済まなかった。
『んー? 分かんないけど分かった』
『いや、分かって。俺に取って代わろうとする奴、沢山いるんだよ?』
『ほほう? そんな輩が?』
『全く分かってないよね。日向子は俺じゃなくても良いの?』
『嫌だけど?』
『本音に聞こえないな……』
いつもの調子で言われるそれに、父は疲れたように肩を落とす。それを見て、母は。
『うん、じゃあもう、結婚でもするか』
『……は?』
『お互いさ、結婚出来る年だし。既婚者なら、手は出されにくいでしょ?』
『……日向子、俺たちまだ、高校生なんだけど……?』
『なんだい? したくないの?』
『いや、……したい、けど……こういうの、勢いで決めることじゃないし……お互いの両親とかさ』
『したいの? したくないの? はっきりしなさい』
『……したいです……』
いつも母に負ける父は、その時も結局、母に負けた。
そして母は勢いのままに、互いの家族に話を通して。けれども互いの両親に宥められ、父も、肩身の狭い思いをしながら、今すぐは流石にと言うから。
『なら、卒業したら。それならいいでしょ?』
母はそれ以上譲る気がなく、母の姉である歩もそれに味方をして。互いの両親は、折れるような形で、それを承諾した。
『よし、今から私たちは婚約者だよ』
『……そうだね……』
『なんだその反応』
『いや、嬉しいよ? 嬉しいけど、気持ちが追いつかない……』
『走れ、隆』
『物理的な問題じゃない……』
『んでさ、式、どうする?』
『だから、気が早い……』
『でも決めとかなきゃでしょ』
そのまま母は、式の準備を進めようとして。互いの両親にまた止められて、不満そうにする母を見て、父は、覚悟を決めた。
互いの両親に──特に、母の両親と姉に頭を下げ、父は、全面的に母のことを考えて動いた。
そして、お互いの高校を卒業して。そのすぐあとの大安吉日に入籍して式を挙げて。
『へいダーリン』
『名前で呼んでって……』
母は製菓の専門学校へ進み、父は大学へ進み。
◇
「そんで2年して生まれたのが俺だよ分かったか」
待って? 待って? 日向子さんの行動力が凄すぎる。
てか、2年って。まさか。
「その、お二人が在学中に、涼は生まれたり……?」
「そーだよ。母さんは3年制のとこ通ってたし。父さんも4年制の大学だったし」
わぁ……。
「あの、そうなると、お二人の年齢って……?」
「父さん今37。今年で38。母さんは父さんと同い年」
「わっか……」
うちの両親、40代なんですけど……。
「で、どうだ。具体例出したんだけど」
「こんな身近な具体例だとは思ってませんでした……」
「そうじゃねぇ。俺との未来を想像できたかって聞いてんの」
「み、未来……」
えーとえーと。
本気で考えて、正直に言わないと。
「えーと、その、涼はカメリアは継ぐから、えーと、私は、その、パートナー……奥さん……? えーと……私もカメリアに関わる……て、こと……? なら、その、えーと……カメリアを世界に広めたい……?」
今まで考えてた将来のことと混ぜて言ってみたんだけど。
「あの……涼……?」
涼が呻いて、私の肩に頭を乗せた。
「だ、駄目でした……?」
「ちげぇわ……なんでマジでちゃんと考えてくれんだよ……」
「えぇ……?」
「引くだろ……普通……急に結婚とか……なんで受け入れてくれんだよ……」
……。
「なんです、それ。パニックになりかけてはいましたけど、一生懸命考えたんですけど? 涼は結局、嫌なんですか?」
ちょっと、ムッとした声になってしまった。
そしたら、涼はその姿勢のまま、私を緩く抱きしめてきて。
「嫌な訳ねぇだろ……めちゃくちゃ嬉しいわこのヤロウ……なに? 本気にしていいの?」
「本気で考えろって言ったの、涼なんですけど」
「……なぁんだよもうお前可愛すぎんだよ光海ぃ……」
◇
「おはようございます、涼。……どうかしましたか?」
なんかムスッとしてるし、顔が赤い。
「……おはようって言いたいけど。なんでお前はいつも通りな感じなん?」
いつも通り。
「昨日のこと、言ってます? あれなら一回、決着? がついたじゃないですか」
「決着……」
涼が、ムスッとした顔のまま、小さい声で言う。
プロポーズみたいな話をされて、自分なりに答えて。涼がまた少し泣き始めちゃったのを宥めようとしたら、涼のお父さんの隆さんが顔を出して。
『涼、悪いけど、途中から聞いてたよ。止めるかどうするか迷ってしまってね。俺の話も引き合いに出されたし。まずは二人とも、落ち着こうか』
隆さんはそう言って、涼を宥めて私から離して。
『お前の気持ちは分かる。……て言いたいけど、大切な人の気持ちも、その人の考えも尊重しなさい。俺と日向子だって、お前が言った通りに、周りに、冷静になれって、何回か止められたんだから』
隆さんは、涼にそう言ったあと、私へ困ったような苦笑を向けて、
『すみません、成川さん。息子は僕にも、日向子にもよく似てるみたいです。二人の想いは応援してるけど、最低もう二、三回は、じっくり考えてみて下さい。あなたのためにも、涼のためにも』
それで、解散、となったのだ。
「あのあと何か言われたんですか? 涼のお父さん、隆さんに」
「……少し」
差し出された手に、自分のを重ねる。
指を絡められて、いつもより、少し強く、握られる。
「その気持ちは大事にしていいけど、……だから、余計、お前のことをちゃんと考えろって、言われた。……進路も、違うし」
涼がちょっと、俯いた。
「それなら私も、昨日のことを折り込んで考えてみましたよ」
「……どんなん」
更に、俯いた。
「あのですね」
その顔を覗き込めば、逸らされる。
「……涼。仮にですけど、組み立て直してみたんですよ? そもそもですね、どう、異文化交流をするか、将来の道には迷ってたんです」
そういう活動をしている法人に入るか、外交のような仕事をするか、他の仕事をしながら一人で始めていくか、とか。
「それで、私は涼もカメリアも大好きですし、自分であの時言った、カメリアを世界の人に知ってもらうって、結構良いんじゃないかって、思ったんですよ。ラファエルさんとアデルさんだって、似たような思いであのお店を始めた訳ですし。それで、んむ!」
……顔を胸に押し付けられた……。
「分かったよもう朝っぱらからやめてくれまた冷静さを欠くから」
涼は一息で言って、私の頭から手を離す。
「……続き、あるんですけど」
少し睨むように言えば。
「今はやめてくれって。マジで。泣くぞ。爆発させるぞ」
涼は赤い、真剣な顔を私に近づけてきて、そう言って、
「これ以上は今は無し。お前には俺を殺す威力があんだよ。今ここで死にたくねぇわ」
そう言って顔を引っ込めて、「行くぞ」って、歩き出した。
……あのですね、涼にも、結構な威力、あるんですよ?
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