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112 サインと取材

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 ド緊張してるエイプリルさんのその言葉で、三人でホールへ向かうことに。
 ……あの方々、見覚えあるな。前に来てくれた女性三人組のお客様だ。その中の一人がかけてるファッショングラスも、同じだし。
 休業日だけど明るい店内の、テーブルを2つくっつけて、その三人の方々とラファエルさんが、対面で座ってる。
 そして皆さんが、こっちへ顔を向ける。

「光海も来てたから、二人ともに来てもらっちゃった」

 アデルさんの言葉に、

「ああ、そうだったのか。光海、すまないね。確認出来てなかったよ」

 ラファエルさんが、席を立ちながら言う。

「いえ、何も問題ないです。それで、どうすれば良いでしょう?」

 エイプリルさん、一言も話せてないけど、大丈夫かな。見た目、ガチガチだし。
 ラファエルさんが三人の方々に、どういう形にしましょう? と、聞いて。

「なら、最初はお二人共に軽くお話を聞いて、それから個別、という形で大丈夫ですか?」

 向かって右側に居た人がそう言ったので、私とエイプリルさんは、二人並んで、そのテーブルへ。ラファエルさんも座り直す。
 その女性方は、立ち上がってくれて、それぞれ自己紹介して、名刺をくれた。
 左側の人が担当の一人、小芝和葉さん。真ん中のファッショングラスの人が袋小路先生。右側の人が、補助担当の中野夕さん、だという。

「はじめまして。成川光海と言います。今日はよろしくお願いします」

 私が言って、軽くお辞儀をすると、

「……エイプリル・オールドリッチ、です。今日は、よろしくお願いします……」

 エイプリルさんも、ぎこちないけど、なんとか言葉を話せた。良かった。
 そこから軽く、普段どういうふうに接客してるか、店の印象などを主に先生に聞かれて、答えて。

「あと、サイン、ですよね。今、出来ますけど、どうしますか?」
「お願いしたいです」
「私も、お願いします……」

 分かりましたと言ってくれて、私から、ということになって。

「すみません、こういうの、初めてで。一応の用意はしてきたんですが……」

 と、前置いてから、色紙諸々を出していく。

「この、三人に、サインをお願いしたいんです」

 先生に、3枚のメモを見せる。
 1枚は、桜ちゃん。もう1枚は涼、もう1枚は──日向子さん。
 桜ちゃんと涼に、それぞれ、自分の──涼にはは日向子さんのも──好きなキャラを聞いて、それもメモしてある。

「はい。大丈夫です。ここにあるキャラも描く感じですか?」
「出来れば……差し出がましくてすみません」
「いえ、大丈夫です。それでは、失礼しますね」

 先生は、サラサラと色紙にサインを書いてくれて、ペンも3本ともを使って、ほぼ、漫画そのものの形でキャラを描いてくれた。……3本持ってきて良かった。こんな形で役立つとは。
 出来上がった3枚の色紙を受け取って、

「ありがとうございます」

 と、頭を下げる。と、横から。

「(あの、光海さん。ペン、貸してくれませんか。1本しか持ってなくて……)」

 エイプリルさんに小声で言われたので、軽く頷いて、ペンを残して他のを仕舞う。
 そしてエイプリルさんの番だ。エイプリルさんは、自分のだ。

「名前、どう書きますか? スペルを教えてもらえば、それで書きますよ」

 先生の言葉に、エイプリルさんは「是非! それでお願いします!」と頷いて。

「エイプリルさん、紙、要ります?」

 私がカバンから出したメモ用紙に、「(ありがとうございます)」と細いペンで『April Aldrich』と書いた。
 先生はまた、サラサラとサインを書いてくれて、エイプリルさんの好きなキャラも、またペン3本で丁寧に描いてくれた。
 袋小路先生、めっちゃ良い人。漫画家さんって、みんな、こんななの? 花梨さんも良い人だし。

「あと、何か、ありますか?」

 先生に聞かれて、私もエイプリルさんも、大丈夫です、ありがとうございました。と、頭を下げた。なので、こっちへの取材再開。

「成川さんからで良いですか?」

 先生に聞かれて、「はい、大丈夫です」と頷く。
 そこから、どうしてここで働いているか、いつから働いているか、などを聞かれて、それに答えていって。

「あのですね、実は……ラファエルさんにもお話したんですが、漫画のシーンに合うお店を探していて、久留美くるみさん……百合根花梨さんから、このお店を教えてもらったんです。その時に、成川さんのことも、少し、聞いたんです。さっきのサインの時も少し思ったんですが、百合根さんとは、お知り合いですか?」
「はい。花梨さんにはお世話になってます」

 久留美さん、とは、花梨さんの漫画家としての名前だ。久留美鏡花きょうか、が、漫画家としての、フルネーム。

「さっきの百合根桜さんは、花梨さんの親戚で。私の友人なんです」
「そうなんですね……あの、成川さんはマルチリンガル、何ヵ国語も話せると聞いたんですけど、どのくらい話せるんでしょう?」
「そうですね……主にはフランス語ですが──」

 あと、アメリカ英語、イギリス英語、ドイツ語、イタリア語、オーストラリア英語、中国語、広東語、上海語、韓国語、台湾語、朝鮮語、モンゴル語、スペイン語、ポルトガル語、スウェーデン語、フィンランド語、ロシア語、ウクライナ語、チェコ語、オランダ語、ノルウェー語、ベトナム語、タイ語、タガログ語、インドネシア語、アラビア語、ペルシャ語、ギリシャ語、トルコ語、ヒンディー語、スワヒリ語、

「それとあと、それほどではないですが、ロマ語、サーミ語、エストニア語、カレリア語、チベット語、ラオス語、ミャンマー語、グルジア語、も、軽くなら話せます」
「……凄いですね……まだ、17歳なんですよね……」

 先生方が目を丸くしてらっしゃる。

「ありがとうございます。仕事のためというのもありますけど、やっていて楽しいので、苦ではないですね」

 そしてまた、詳しい仕事内容についてや、苦労話などを話して。

「成川さん、ありがとうございました。とても勉強になりました。──では、オールドリッチさん、エイプリルさん? ですかね。お話、良いですか?」
「は、はい……」

 エイプリルさんも私と同じようなことを聞かれて、エイプリルさんは、緊張しながらも、なんとか答えていって。

「──ありがとうございました。とても勉強になりました」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました……貴重な体験でした……お仕事、応援してます……」

 先生は、それを聞いて、

「ありがとうございます」

 と、笑顔を返して下さった。……エイプリルさんが、昇天しそう。
 そんなこんなで、事前承諾していた資料用の写真をパシャパシャ撮ったりして、取材終了。先生方は改めてお礼を言って下さって、お店をあとにした。

「(……夢みたいです……)」

 帰りの支度を終えたエイプリルさんが、色紙を見ながら言う。

「(そうですよね。それと、ガシャクロにこの店が出てきたら、私たちも店員として載るんですかね?)」
「(現実味が湧かないです……ですけど、仕事、頑張ります)」

 あ、エイプリルさんがシャキッとした。

「(私も頑張ります。一緒に頑張りましょう、エイプリルさん)」
「(はい。お願いします、光海さん)」

 心新たに、みたいな感じで、帰宅。
 完成したイースターエッグも渡せたし。ラファエルさんと、シャルルくんを抱いて見送りに下りてきてくれたアデルさんは3つのそれを、素敵だって言ってくれたし。
 さてあとは、色紙を二人に──三人に、渡すだけだ。


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