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110 26位
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返されたテストの点数と順位表を見て、
「まあ良し」
そう呟いて、ざわざわしている教室内の時計で時間を確認してから、涼の席へ向かう。
自分のテスト結果は自己採点通りだし、総合2位なので、範囲内だし。
それより今は、涼が気になる。
「涼、どうでした?」
順位の紙をまじまじと見ていた涼が、ハッとしたように私へ顔を向ける。
「……俺、寝てる?」
「起きてますよ?」
「なら、これ、現実……?」
順位の紙を渡されて、それを見て。
「……すごいじゃないですか」
私もちょっと、驚いてしまった。
平均点を超えてるのは予想通りだけど、総合で、26位。個別の順位だと、10位以内のものもある。
100人近くいる2年全体の、上位に入る位置だ。
「ちゃんと、現実ですよ。涼の努力の結果です。お疲れ様です」
労いを込めて、笑顔を向ける。
「……夢だな、うん」
目を見開いたあと、しっかり頷きながらそう言うから。
「夢じゃないですってば」
「分かってる。現実だよな。現実だけど、夢だ、これ」
……どういうことだ?
「涼、大丈夫ですか?」
「大丈夫。ほら、来てくれて有り難いけど、そろそろ時間になるぞ。席、戻れ」
◇
「ワオ。橋本ちゃんに負けた」
お昼になって、食堂で。
また、5人みんなで順位を確かめて。
「いや、百合根お前、一つ下なだけだろ」
「私も追いつかれそうだな。もう少し気合い入れるか」
「橋本、調子取り戻してきた感じだね」
みんなが涼の頑張りを認めてくれてるので、満足です。
「そしての、1位、2位の揃い踏みというね」
桜ちゃんが言う。
2位は私で、1位は高峰さんだ。
「壮観だねぇ」
しみじみ言うね、桜ちゃん。
「橋本も本調子になれば、このくらいいけると思うよ?」
「マジかい」「高峰さん詳細を」「これ以上か」
高峰さんの言葉と、私たち三人の反応に、
「高峰……中学の話だろ……」
涼が呆れたように言う。それに、高峰さんは苦笑しながら、
「それはそうだけどさ。橋本、学年1位になったことだってあるでしょ。3回? くらい」
「2年で一回と3年で2回な。それだけだろ。あとは大体高峰が独占してたろ」
涼は、なんでもないように言う。むう。
「胸張って下さいよ。なんですか。やっぱり頭良いんじゃないですか。もっと自信持って下さいよ」
言いながら袖をくいくい引っ張る。
「胸張れって言われてもな……ここまで上がれたの、光海のおかげだしな……あとちょっと食いにくいし可愛いから、一旦やめてもらっていいか?」
う、むぅ……。
手は離したけど、不満は残ったままだったので、スマホで涼の素晴らしいところを長文で送ってやった。
私の素晴らしいところと可愛いところというものが、長文で送られてきた。
く、くそぅ……!
◇
家に帰り、改めて仏壇を綺麗にして、
「コンビニのですみません。コンビニが悪い訳じゃないけど」
と言いながら、仏花も追加する。
そして、返されたテスト全てと順位表を置き、蝋燭に火を点け、線香をあげ、おりんを鳴らし、手を合わせ、テスト結果や周りの反応や、──光海に対しての感謝と想いを、報告する。
「……」
終えて、蝋燭の火を消し、涼は立ち上がる。
頭では、分かっている。留年なんかしないと。去年と同じ自分なら、とっくに、それを言い渡されていると。けれど、通知表を貰い、3年のクラスが決まるまで、この不安は消えないんだろう。
「……3年」
最終学年だ。進学先に向けての準備、受験対策が本格的に始まり、推薦などで内定を貰う生徒も出てくるだろう。
「光海……」
光海の進学先を考えて、今はそっちじゃないと、頭を振る。
今は、自分だ。
自分は、どうしたいのか。
中学の時から調べていた、製菓の専門学校や大学を思い出す。
格式高い伝統校、最新設備があり教師が全員現役プロだという学校、世界に名を馳せるプロを輩出した学校。
あの頃は、どれもこれも、とても魅力的に思えた。──そして、この店も。
カメリアが好きだ。その気持ちに嘘はない。ただ、自分が継ぐならば。
継ぐことが出来るならば。
その先の未来を、カメリアの未来を、真剣に考えなければならない。
「……」
涼は、学校の課題を終わらせるため、そして、頭の中にあるそれをきちんとした形にするため、自室へ向かった。
◇
「んむう……」
バイト先で貰った卵の殻を眺め、何を描こうかと考える。
『(二人も描いてみないかい? ちゃんとバイト代に入れるよ)』
と、ラファエルさんから貰ったイースターエッグ用のそれの数は、3つ。
割ってしまっても気にしないでと言われたけど、割りたくないし、描くなら本格的に描きたい。ソレ用の画材も分けてもらったし。
「まあ、まずは、ラフだよね」
イースターエッグについては、改めて調べた。使えそうな画像も保存した。それをもとに、ラフ画や模様や絵柄を、予備のノートに描いていく。
一つ、入れたいモチーフは、決まってるんだけど。
「──あ」
アラームが鳴って、熱中してしまっていたことに気付く。
アラームを止めて、大体決まりかけていたそれを、今日はここまで、と、ノートを閉じて、寝る支度だ。まあ、もうほぼ全部終わらせてあるから、明日のチェックくらいだけど。
みんなに、気に入ってもらえるものにしたい。──涼にも、気に入ってもらいたい。
そう思いながら支度をして、布団に入った。
「まあ良し」
そう呟いて、ざわざわしている教室内の時計で時間を確認してから、涼の席へ向かう。
自分のテスト結果は自己採点通りだし、総合2位なので、範囲内だし。
それより今は、涼が気になる。
「涼、どうでした?」
順位の紙をまじまじと見ていた涼が、ハッとしたように私へ顔を向ける。
「……俺、寝てる?」
「起きてますよ?」
「なら、これ、現実……?」
順位の紙を渡されて、それを見て。
「……すごいじゃないですか」
私もちょっと、驚いてしまった。
平均点を超えてるのは予想通りだけど、総合で、26位。個別の順位だと、10位以内のものもある。
100人近くいる2年全体の、上位に入る位置だ。
「ちゃんと、現実ですよ。涼の努力の結果です。お疲れ様です」
労いを込めて、笑顔を向ける。
「……夢だな、うん」
目を見開いたあと、しっかり頷きながらそう言うから。
「夢じゃないですってば」
「分かってる。現実だよな。現実だけど、夢だ、これ」
……どういうことだ?
「涼、大丈夫ですか?」
「大丈夫。ほら、来てくれて有り難いけど、そろそろ時間になるぞ。席、戻れ」
◇
「ワオ。橋本ちゃんに負けた」
お昼になって、食堂で。
また、5人みんなで順位を確かめて。
「いや、百合根お前、一つ下なだけだろ」
「私も追いつかれそうだな。もう少し気合い入れるか」
「橋本、調子取り戻してきた感じだね」
みんなが涼の頑張りを認めてくれてるので、満足です。
「そしての、1位、2位の揃い踏みというね」
桜ちゃんが言う。
2位は私で、1位は高峰さんだ。
「壮観だねぇ」
しみじみ言うね、桜ちゃん。
「橋本も本調子になれば、このくらいいけると思うよ?」
「マジかい」「高峰さん詳細を」「これ以上か」
高峰さんの言葉と、私たち三人の反応に、
「高峰……中学の話だろ……」
涼が呆れたように言う。それに、高峰さんは苦笑しながら、
「それはそうだけどさ。橋本、学年1位になったことだってあるでしょ。3回? くらい」
「2年で一回と3年で2回な。それだけだろ。あとは大体高峰が独占してたろ」
涼は、なんでもないように言う。むう。
「胸張って下さいよ。なんですか。やっぱり頭良いんじゃないですか。もっと自信持って下さいよ」
言いながら袖をくいくい引っ張る。
「胸張れって言われてもな……ここまで上がれたの、光海のおかげだしな……あとちょっと食いにくいし可愛いから、一旦やめてもらっていいか?」
う、むぅ……。
手は離したけど、不満は残ったままだったので、スマホで涼の素晴らしいところを長文で送ってやった。
私の素晴らしいところと可愛いところというものが、長文で送られてきた。
く、くそぅ……!
◇
家に帰り、改めて仏壇を綺麗にして、
「コンビニのですみません。コンビニが悪い訳じゃないけど」
と言いながら、仏花も追加する。
そして、返されたテスト全てと順位表を置き、蝋燭に火を点け、線香をあげ、おりんを鳴らし、手を合わせ、テスト結果や周りの反応や、──光海に対しての感謝と想いを、報告する。
「……」
終えて、蝋燭の火を消し、涼は立ち上がる。
頭では、分かっている。留年なんかしないと。去年と同じ自分なら、とっくに、それを言い渡されていると。けれど、通知表を貰い、3年のクラスが決まるまで、この不安は消えないんだろう。
「……3年」
最終学年だ。進学先に向けての準備、受験対策が本格的に始まり、推薦などで内定を貰う生徒も出てくるだろう。
「光海……」
光海の進学先を考えて、今はそっちじゃないと、頭を振る。
今は、自分だ。
自分は、どうしたいのか。
中学の時から調べていた、製菓の専門学校や大学を思い出す。
格式高い伝統校、最新設備があり教師が全員現役プロだという学校、世界に名を馳せるプロを輩出した学校。
あの頃は、どれもこれも、とても魅力的に思えた。──そして、この店も。
カメリアが好きだ。その気持ちに嘘はない。ただ、自分が継ぐならば。
継ぐことが出来るならば。
その先の未来を、カメリアの未来を、真剣に考えなければならない。
「……」
涼は、学校の課題を終わらせるため、そして、頭の中にあるそれをきちんとした形にするため、自室へ向かった。
◇
「んむう……」
バイト先で貰った卵の殻を眺め、何を描こうかと考える。
『(二人も描いてみないかい? ちゃんとバイト代に入れるよ)』
と、ラファエルさんから貰ったイースターエッグ用のそれの数は、3つ。
割ってしまっても気にしないでと言われたけど、割りたくないし、描くなら本格的に描きたい。ソレ用の画材も分けてもらったし。
「まあ、まずは、ラフだよね」
イースターエッグについては、改めて調べた。使えそうな画像も保存した。それをもとに、ラフ画や模様や絵柄を、予備のノートに描いていく。
一つ、入れたいモチーフは、決まってるんだけど。
「──あ」
アラームが鳴って、熱中してしまっていたことに気付く。
アラームを止めて、大体決まりかけていたそれを、今日はここまで、と、ノートを閉じて、寝る支度だ。まあ、もうほぼ全部終わらせてあるから、明日のチェックくらいだけど。
みんなに、気に入ってもらえるものにしたい。──涼にも、気に入ってもらいたい。
そう思いながら支度をして、布団に入った。
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