上 下
110 / 134

110 26位

しおりを挟む
 返されたテストの点数と順位表を見て、

「まあ良し」

 そう呟いて、ざわざわしている教室内の時計で時間を確認してから、涼の席へ向かう。
 自分のテスト結果は自己採点通りだし、総合2位なので、範囲内だし。
 それより今は、涼が気になる。

「涼、どうでした?」

 順位の紙をまじまじと見ていた涼が、ハッとしたように私へ顔を向ける。

「……俺、寝てる?」
「起きてますよ?」
「なら、これ、現実……?」

 順位の紙を渡されて、それを見て。

「……すごいじゃないですか」

 私もちょっと、驚いてしまった。
 平均点を超えてるのは予想通りだけど、総合で、26位。個別の順位だと、10位以内のものもある。
 100人近くいる2年全体の、上位に入る位置だ。

「ちゃんと、現実ですよ。涼の努力の結果です。お疲れ様です」

 労いを込めて、笑顔を向ける。

「……夢だな、うん」

 目を見開いたあと、しっかり頷きながらそう言うから。

「夢じゃないですってば」
「分かってる。現実だよな。現実だけど、夢だ、これ」

 ……どういうことだ?

「涼、大丈夫ですか?」
「大丈夫。ほら、来てくれて有り難いけど、そろそろ時間になるぞ。席、戻れ」

 ◇

「ワオ。橋本ちゃんに負けた」

 お昼になって、食堂で。
 また、5人みんなで順位を確かめて。

「いや、百合根お前、一つ下なだけだろ」
「私も追いつかれそうだな。もう少し気合い入れるか」
「橋本、調子取り戻してきた感じだね」

 みんなが涼の頑張りを認めてくれてるので、満足です。

「そしての、1位、2位の揃い踏みというね」

 桜ちゃんが言う。
 2位は私で、1位は高峰さんだ。

「壮観だねぇ」

 しみじみ言うね、桜ちゃん。

「橋本も本調子になれば、このくらいいけると思うよ?」
「マジかい」「高峰さん詳細を」「これ以上か」

 高峰さんの言葉と、私たち三人の反応に、

「高峰……中学の話だろ……」

 涼が呆れたように言う。それに、高峰さんは苦笑しながら、

「それはそうだけどさ。橋本、学年1位になったことだってあるでしょ。3回? くらい」
「2年で一回と3年で2回な。それだけだろ。あとは大体高峰が独占してたろ」

 涼は、なんでもないように言う。むう。

「胸張って下さいよ。なんですか。やっぱり頭良いんじゃないですか。もっと自信持って下さいよ」

 言いながら袖をくいくい引っ張る。

「胸張れって言われてもな……ここまで上がれたの、光海のおかげだしな……あとちょっと食いにくいし可愛いから、一旦やめてもらっていいか?」

 う、むぅ……。
 手は離したけど、不満は残ったままだったので、スマホで涼の素晴らしいところを長文で送ってやった。
 私の素晴らしいところと可愛いところというものが、長文で送られてきた。
 く、くそぅ……!

 ◇

 家に帰り、改めて仏壇を綺麗にして、

「コンビニのですみません。コンビニが悪い訳じゃないけど」

 と言いながら、仏花も追加する。
 そして、返されたテスト全てと順位表を置き、蝋燭に火を点け、線香をあげ、おりんを鳴らし、手を合わせ、テスト結果や周りの反応や、──光海に対しての感謝と想いを、報告する。

「……」

 終えて、蝋燭の火を消し、涼は立ち上がる。
 頭では、分かっている。留年なんかしないと。去年と同じ自分なら、とっくに、それを言い渡されていると。けれど、通知表を貰い、3年のクラスが決まるまで、この不安は消えないんだろう。

「……3年」

 最終学年だ。進学先に向けての準備、受験対策が本格的に始まり、推薦などで内定を貰う生徒も出てくるだろう。

「光海……」

 光海の進学先を考えて、今はそっちじゃないと、頭を振る。
 今は、自分だ。
 自分は、どうしたいのか。
 中学の時から調べていた、製菓の専門学校や大学を思い出す。
 格式高い伝統校、最新設備があり教師が全員現役プロだという学校、世界に名を馳せるプロを輩出した学校。
 あの頃は、どれもこれも、とても魅力的に思えた。──そして、この店も。
 カメリアが好きだ。その気持ちに嘘はない。ただ、自分が継ぐならば。
 継ぐことが出来るならば。
 その先の未来を、カメリアの未来を、真剣に考えなければならない。

「……」

 涼は、学校の課題を終わらせるため、そして、頭の中にあるそれをきちんとした形にするため、自室へ向かった。

 ◇

「んむう……」

 バイト先で貰った卵の殻を眺め、何を描こうかと考える。

『(二人も描いてみないかい? ちゃんとバイト代に入れるよ)』

 と、ラファエルさんから貰ったイースターエッグ用のそれの数は、3つ。
 割ってしまっても気にしないでと言われたけど、割りたくないし、描くなら本格的に描きたい。ソレ用の画材も分けてもらったし。

「まあ、まずは、ラフだよね」

 イースターエッグについては、改めて調べた。使えそうな画像も保存した。それをもとに、ラフ画や模様や絵柄を、予備のノートに描いていく。
 一つ、入れたいモチーフは、決まってるんだけど。

「──あ」

 アラームが鳴って、熱中してしまっていたことに気付く。
 アラームを止めて、大体決まりかけていたそれを、今日はここまで、と、ノートを閉じて、寝る支度だ。まあ、もうほぼ全部終わらせてあるから、明日のチェックくらいだけど。
 みんなに、気に入ってもらえるものにしたい。──涼にも、気に入ってもらいたい。
 そう思いながら支度をして、布団に入った。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...