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79 それぞれのクリスマス

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 さて、今日は、クリスマス前の最後の土曜。時間は午前10時過ぎ。場所はバイト先。

「えー、では、自己紹介も終わりましたところで」

 立ち上がり、飲み物を持った桜ちゃんが言う。

「クリスマスパーティー、開始! アンド乾杯!」

 桜ちゃんの音頭に合わせて、乾杯、と、飲み物を掲げる。
 アデルさんたちに再度相談し、大丈夫だと言って貰えたので、クリスマスパーティーは、こうして無事に開催された。開店から午後2時までの、時間制限付き貸し切りという形を、取らせてもらっている。
 合計10名のまま、テーブルをくっつけて、先日オーダーしておいた料理が運ばれ、みんなでそれを食べていく。
 貸し切り、かつ、先にオーダーしていたとはいえ、接客スタッフはエイプリルさん一人だ。
 私は今日、お客であるけれど、何かあったらエイプリルさんの補助をすると断りを入れている。

「うまぁ……」

 牡蠣のグラタンを食べていた桜ちゃんが言う。

「良かったです」

 エイプリルさんが答え、まだみんな食べ始めたばかりだということで、桜ちゃんはエイプリルさんと、ガシャクロについての話に花を咲かせる。
 二人はもう、何度か、プライベートで会っているらしい。ガシャクロについての語り合いだそうだ。

「高峰、普通に食え。宴会みたいなもんだ」
「それなりに普通だよ? 宴会の雰囲気はあんまり知らないけど」

 涼は、高峰さんのサポートに回っている。私は周りの様子を見つつ、クリスマス仕様のお料理に、舌鼓を打っている。

「ジョン・ドゥさん、この前自分も観たし、推したっすよ。マリアの友達、良い人見つけたんすね」

 ユキさんが言って、

「それは良かった。というかそれ、この前の配信のヤツか?」
「そうそう」
「なら、見たな。気に入ってくれたようで何よりだ」

 マリアちゃんが答える。
 みんなそれぞれ、好きに食べ、飲み、喋り、分からないモノを私やエイプリルさんに聞いたり、私も配膳を手伝ったり。
 アイリスさんは、食べきれるのかどうかって量の料理を、するすると口に運び、弓崎さんもスイーツを全種類頼んでいて、ユキさんたちの話に混ざりながら、どんどんお皿を空にしていく。
 アズサさんとマキさんは、アイリスさんに話を振られながら、ゆっくり食べている。
 何も、問題なし。席を回してくれる人が複数居ると、とても滑らかに、クリスマスパーティーという名の食事会が進む。ある意味感激。
 そして、解散の時間になり。

「皆さん、良ければこれを。サービスです」

 ラファエルさんはそう言い、可愛くラッピングされた、赤白緑、クリスマスカラーのマカロンを、全員分くれた。
 あ、ありがたぁ……!

  ◇

「…………」

 マリアはそれを眺め、どう捉えればいいか、と思案する。
 眺めているものは、小さめのスノードームと『Merry Christmas マリア』という、メッセージカード。
 ウェルナーから、クリスマスプレゼントを贈っても良いかという、メッセージを貰い、

『友人からっていう、プレゼントだから。本当に、ちょっとしたやつ。大仰なものじゃないし、嫌だったら捨ててくれて構わないし。そもそも、この話だって蹴ってくれて良いし』

 ウェルナーはどんな思いで、その文章を打ったのか。
 マリアは考え、承諾し、貰うだけでは悪いから、と、自分も贈る、と、答えてしまった。
 そして、光海のバイト先で。緊張しているのが分かるウェルナーとプレゼントを交換し、中身は家で、と、早々に帰宅した。
 マリアがウェルナーに贈ったのは、ドイツへのお土産で人気だという、あるメーカーのボールペンだ。文房具は無難だというし、ウェルナーが大学院生なのも知っていたから、これならまあ、と、選んだ。

『ありがとう、マリア。使わせてもらうよ』

 メッセージを受け取り、それがここ最近の常となった、淡白な文であることを認識し、マリアは妙な気分になった。
 その妙な気分を仕舞い込み、マリアもお礼のメッセージを送った。『こちらこそありがとうございます。素敵なスノードームですね』と。
 そう言ってくれて嬉しい。ウェルナーからの返事はそこで終わり、マリアも、もう伝えることもないしな、と、スマホを閉じた。

「……」

 スノードームを振り、落ちきった雪を降らせる。
 中のオーナメントは、キラキラと煌めくクリスマスツリーだ。
 ウェルナーは、友人だ。自分からそう、宣言した。ウェルナーは最大限の努力をして、それを守ろうとしている。
 深く考えたら終わる。マリアの直感が、それを伝えてくる。
 伝えてくる時点で、終わりかも知れないが、マリアはそれも、深く考えない。
 面倒くさい。その一言で片付け、マリアは、正式に貰った映画の企画書と台本を、手に取った。

  ◇

「当日ではねぇけども」

 涼は言いながら、自分の部屋のローテーブルに、涼が作ったクリスマスケーキを置いた。

「嬉しいです。涼と一緒なので、それだけで嬉しいです。涼が作ってくれたケーキなので、更に嬉しさ倍増です」

 言ったら、「……かっわいいお前この、光海、この、……このヤロ……」と、赤くなった顔をしかめた。

 涼が作ってくれたのは、ブッシュ・ド・ノエルだ。カメリアのクリスマスケーキにもブッシュ・ド・ノエルはあるけど、これは見た目が全然違うので、本当に、私と涼のためだけのケーキなのだ。嬉しくない訳がなかろう。

「写真、撮っても良いですか?」
「ああ」

 了承を貰えたので、ケーキの写真、涼とケーキの写真、ケーキも入れたツーショット、を、撮らせて貰う。涼にも、私とケーキの写真を撮って貰った。

「あとでくれ。俺も送るから」
「もちろんです」

 ブッシュ・ド・ノエルはとっても美味しくて、ビターで濃厚なチョコクリームの味と、しっとりしたスポンジと、甘酸っぱいクランベリーソースと微かなリキュールの風味が、最高で。
 ゆっくり味わって、紅茶を飲んで、──プレゼント交換です。

「……どうぞ」

 いつも通りにしようとして、でもやっぱり、それなりに緊張しながら渡してしまう。

「なんだ急に。可愛いから良いけども」

 涼は、受け取ってくれて、

「俺からは、これ」

 差し出された可愛いラッピングのプレゼントを、受け取る。

「開けていいか?」
「どうぞ。私も、良いですか?」
「ああ」

 プレゼントを開ける涼の様子を見ながら、私も開けていく。中にあったのは、

「マフラー……?」

 白を基調にして、ペールピンクの千鳥格子が散っている。けど、マフラーにしては、少し大判のような。

「ショールにもなるって。中に説明書あるから」

 その声にハッとして、そっちを見れば。
 涼は、私からのプレゼントである、青いパスケースを眺めていた。

「……ど、どうでしょうか」
「有り難いし嬉しいけど、なんでさっきからそんな、緊張したふうなん?」

 涼に顔を向けられ、

「うぇ、と、ですね……」

 覚悟を決め、カバンの中から、それを取り出す。

「その、同じのを、買ったので……断りもなく……」

 私は、涼に贈ったのと全く同じ青いパスケースを、涼に見せる。

「まだ、1年以上先ですけど。進路、離れても、同じパスケース、持ってたら、少しは、安心して、貰えるかなって……私も、安心、出来るかなって……」

 か、顔が、見れない。涼の反応が、怖い。

「──光海」
「はい……」
「抱きしめて良いか。つーか抱きしめさせろ」
「え、むぅっ!」

 抱きしめるというより抱き込まれて、ぎゅう、と力を込められて。

「嬉しい。めっちゃ嬉しい。……ペアな訳だ? これ」
「そ、そうです……」
「俺もな、同じ。同じっつーか、似たようなこと、考えてた」
「へ?」
「ちょっと待ってろ」

 涼が離れていって、タンスの引き出しを引いて、そこから、ブルーグレーを基調に、黒の千鳥格子の──私にくれたマフラーと色違いのそれを、出してきた。

「ペアで買った。光海の好きな色、分からんかったから、白と、ハウンドトゥースチェックで、マシュマロとの関わりを持たせた」

 ハウンドトゥースチェック。犬の牙だ。千鳥格子の別名の。

「俺ら、似たようなこと、考えてた訳だ?」

 マフラーを首にかけ、目の前で胡座になった涼は、嬉しそうな、得意げな顔を私に向ける。
 向けてくれる、けど。

「……涼……」
「ん?」
「わ、私のほうがぁ、重いじゃないですかぁ!」

 抱きつかれたから抱きついてやる!

「お、おお……なんでお前のが重いんだよ」

 抱きしめて、出来るだけ締め付けて。

「私、全く同じの、買ったんですよ? 涼は、色、違うじゃないですか……! 私のがぁ重いぃぃ!」
「……お前な……」

 頭撫でないでぇ……顔見れないぃ……締め付け全く効いてないしぃ……!

「俺のが重いぞ? なんにも言わないで、これ、使おうと思ってたんだから」
「言ってよぉ!」
「そういう反応されると、また、同じことしそうだな」
「ズルいぃぃ……!」
「あー可愛い。めっちゃ可愛い。俺今絶対、世界一の幸せ者」
「私だって幸せですぅ! 世界一幸せですぅ!」
「マジか。最高だな」

 ブーブー言って、涼に何も効果が無い──というより、なんか喜ばせるだけだと分かり始めた私は、なんとか落ち着きを取り戻した。

「……失礼、しました」
「もっと抱きしめてくれて良いのに」
「いえ、離れます」

 正直言うと、腕が疲れました。
 けど、離れても、涼は、私の頭から手を外さなくて。

「なあ、光海」

 髪の毛に指を通しながら、涼は、微笑んで。

「来年に向けてのカメリアの話、聞くか?」

 え、今?

「き、聞きたい、ですけど……なんで、今」
「今なら、ちゃんと話せそうだから。だから、聞いて欲しい」

 どういうこと……?

「……分かんないけど、分かりました。聞きます」
「ありがとう、光海」

 髪に梳かれ、指に絡められながら、言われる。

「でだな、カメリア、バレンタインに向けて、新作を出すことになった」

 ほう。

「その菓子のレシピをな、任してもらった」

 ほう……ほう?

「えぇえ?!」

 思わず叫んでしまって、涼の目が丸くなった。
 いや、驚きたいのはこっちですが?

「お、おめでとうございます……?! え? ど、どんな、どんな新作です?」

 顔を近づけて聞いてしまう。

「食いつき、良いな」
「そりゃあそうですよ? 当たり前じゃないですか。カメリアの? 新作を? それも涼の考案した新作を? 食べれる? 夢? 夢ですか?」
「……お前ホントさあ……」

 ……抱きしめられた。

「試作も重ねてさ、レシピはもう、ほぼ、出来上がってんだ。あとは完成度を上げて、じいちゃんの判断待ちになる。期限は今年いっぱい。……ここまで来れたの、全部、光海のおかげなんだよ。分かってんのか」

 へぇい?

「お前のおかげで人生立て直せて、色んな経験が出来たんだ。改良したバナナカップケーキも、パリでの本場の味も、文化祭のカフェのスイーツも。……お前がいなきゃ、ここまで来れなかったし、しなかったんだよ」
「……そう言ってくれるのは嬉しいですけど、決めて、動いたのは、涼ですよ。涼の実力です」

 言って、背中をぽんぽんする。ぽんぽんしてたら、涼がため息を吐いた。

「お前のさぁ、そういうとこ、大好きだけどさ。……ちょっとはお前の彼氏の言葉を、真正面から受け止めてくんねぇかな」

 な、なんか、マシュマロになってる気がする。顔見えないけど。

「え、えと……嬉しい。ありがとう。私が涼の力になれたなら、とっても嬉しい」
「……うん」
「新作、楽しみにしてるね。十九川さんは絶対、涼のレシピを採用してくれる。信じてる、頑張って」
「頑張る。……頑張るために、もう少し、このままでいさせろ」
「うん、分かった」

 抱きしめあったまま、涼の背中をぽんぽんして。
 ……また、時間になるまでそうすることになって、「なんだもう終わりかこのヤロウ」って言ってくる涼をなんとか宥めて、続きは今度、と、前にしたようなやり取りをした。


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