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64 文化祭が始まった

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 文化祭初日の朝7時過ぎ。場所は更衣室。ただいま私、着替えています。

「成川さん、その髪可愛い。メイクも」

 着付けしてくれているクラスメイトに言われる。

「ありがと。なんとか頑張りました」

 今の私はハーフツインに、服の布で作ったリボンを留めて、少し濃い目の、青紫系メイクをしている。イメージは、アイリスさんと弓崎さんだ。あそこまでバッチリではないけども。
 涼は最終的に、使えるメイク用品を全て買ってくれて。そのおかげで、メイド服に合うだろう、このメイクを施せた。化粧ポーチにもきちんと、それらは入れてある。

「はい。おしまいです」
「了解です。ありがとう」

 私は、荷物を入れた和柄のバッグを持ち、教室へ。
 接客スタッフの中で、私は5番目の到着だった。
 時間を確認すれば、現在7時半過ぎ。私はバッグをパーテーションの荷物置き場に置き、トレーを持ち、昨日も確かめたその重さや硬さ、どれだけ並べられるかなどを考えながら、動線を確認していく。
 そのうちに、メンバーが集まり、家庭科室で支度をしているスイーツ担当たち以外も集まり、8時近くなり。
 クラスラインの通話をタップした実行委員が、スイーツ担当の一人と繋がったことを確認して、スピーカーにし、先生に受け渡す。

「では、そろそろ8時です」

 そして、先生が話し始める。

「正門が開くのは9時から。それまでは自由時間です。何か問題が起きたら、即、人を呼ぶこと。大人を呼ぶこと。文化祭、楽しんでいきましょう」

 はい、とみんなで答えて。スピーカーからもはい、と、数人の──涼の声が、聞こえた。
 9時近くになり、マリアちゃんや桜ちゃん、他数名の生徒たちが、教室の外に集まってきたのを確認。並んでもらうよう誘導する。
 そして、カフェ用に作られたプレイリストのBGMが流れる中、教室内のスピーカーから文化祭開始のアナウンス。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 接客メンバーと話をしていて、まず、チーフである私が最初を担当することになった。
 そして、最初のお客さんは、マリアちゃんたちだ。

「今は二人、あとからユキが来る」

 マリアちゃんが言う。ユキさん、初日の朝から来てくれるのか。

「かしこまりました。お席はどうしますか? ご案内しましょうか」
「案内で」
「かしこまりました」

 そんな感じで、マリアちゃんと桜ちゃんを、窓側のテーブルに案内。ちらっと確認すれば、他のスタッフも動き始めてる。うん、大丈夫そう。

「メニュー表はそちらです。説明も出来ますが、どうしますか?」
「みつみんのオススメは?」
「どれも、と言いたいですけど。抹茶プリンと小豆のケーキなど、如何でしょう?」

 メモの準備をしつつ聞く。

「じゃ、私、抹茶プリンで」

 桜ちゃんが言う。

「私は小豆のケーキ」

 続けて、マリアちゃん。

「お飲み物はどうしますか?」
「んーと、紅茶で」

 と、桜ちゃん。

「私はコーヒーで」

 とマリアちゃん。

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 メモを確認しながらパーテーションに入り、待機担当に報告してから、紅茶とコーヒー、抹茶プリンと小豆のケーキをトレーに乗せて。

「おまたせしました」

 と、それぞれの前に置いていく。

「ありがとー。で、みつみん、ずっとその喋り方?」
「最初はこうで、周りを見ながら徐々にすり合わせていこうかと」
「じゃ、今は普通に喋ろ」
「分かった」
「あと、写真撮ろ?」
「良いよ。今撮る? 後で撮る?」
「なら今は、みつみん単体を」

 ポーズ指定で、何枚かパシャパシャ。

「ありがと。ユキさんが来たら、また一緒に撮ろ?」
「うん」

 テーブルを離れて、周りを確認しながら教室の外へ。
 今は、お客さんは居なさそうだ。で、教室へ戻る。

「光海、ユキが来たみたいなんだか……」
「どしたの?」

 テーブルへ寄れば。

「いとこもついて来たって。良いか?」
「もちろん」
「じゃ、案内してくる」

 マリアちゃんは席を立ち、教室を出ていった。

「ユキさんのいとこって、誰だろね?」
「さあ?」

 弓崎さんか、別の人か。
 一組案内を終えたら、マリアちゃんが戻ってきた。その後ろには、ユキさんと弓崎さん。

「ども、来ました。いとこも連れてきちゃいました」

 マリアちゃんに案内され、ユキさんたちはテーブルに座る。

「どうもです、お二方。メニュー表、ありますけど、説明しますか? ゆっくりご覧になりますか?」
「んっと、マリアたちはもう、これ、頼んだんすよね?」
「そーだよー」
「なら、別のやつで、オススメあります?」

 私はいちごのケーキと抹茶のケーキをオススメした。飲み物は、どちらもカフェオレと確認して。
 用意して、おまたせしました、と、置く。
 用意している間に、桜ちゃんと弓崎さんの自己紹介は終わったらしい。

「ね、5人で写真撮ろ」
「オッケー」

 と、数枚。

「では、ごゆっくり」

 下がり、ぽつぽつ来てくれるお客さんの対応をしたり、会計をしたり、パーテーションの中で待機してるクラスメイトたちと在庫確認をしたり。
 そうしていたら、桜ちゃんがそろそろ行かなきゃ、と言い、お土産にクッキーを一人1つずつ買ってくれて、4人のお会計。そのまま4人で連れ立っていったから、三人で白雪姫、見るのかな。
 私がチーフの接客スタッフグループは、9時から午後1時までの接客。第2陣は12時半から4時まで。第3陣は、3時半から最後まで。

 で、昼に近づくにつれて、人が増えてきた。少し前に頼んだお持ち帰りクッキーと抹茶プリンといちご大福の追加が届く。この感じだと、抹茶と小豆のケーキも追加かな。確認して、それを伝える。
 12時半に近くなり、第二弾スタッフが到着してくる。少し余裕が戻って来たところで、午後の1時だ。

「休憩でーす」

 と、先に決めていた文言で、午前組が続々と捌けていく。
 私もカバンを持って、教室の外へ。

「光海」

 その声のほうへ向けば、廊下の壁に、涼が背中を預けていた。

「涼。もう、来てたんですね」
「ああ。一応、初日分は終わらせたから。……それ、着替えるか?」

 この服?

「そうしようかと思ってましたけど……そのままのほうが良いですか?」
「だと良いなと思う」
「なら、そうします。食べる時だけ気を付けます」

 汚したら大変だ。

「お昼、どこで食べます?」
「なんか、運動場に屋台がえっらいあったろ。そこは?」
「じゃあ、そこで」
「……ん」

 躊躇いがちに手を出され、その感じが久しぶりで。

「はい。どうもです」

 くすぐったく思いながら、その手を握った。


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