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今日は、8月25日。涼の誕生日の8月25日である。
場所は、涼の家の、涼の部屋。時刻は午後の2時。
誕生日を祝いたいと言ったら、
『なら、ケーキ作るから、俺の家で』
と、言われ、こうなったのだった。自分の誕生日ケーキを自分で作る。涼らしいなと、思う。
そんな私は、メイクをして、涼から貰ったネックレスをして、──もちろん、ピアスもして。
「お誕生日おめでとうございます、涼」
と、サッと手早く出来て、見た目が華やかな料理を並べたローテーブルを挟み、拍手をしていた。
「おう。……その、ありがとう、光海」
涼は照れているのか、少し顔を赤らめて、でもはっきり言ってくれた。
「料理も、ありがとう」
「いえいえ。では、食べましょうか」
涼の家のキッチンを借りて作ったのは、軽食だ。カプレーゼとカルパッチョ、それとちょっとしたカラフルなサラダ。バゲットは流石に買いましたけども。
「「いただきます」」
我が成川家の味だけど、涼は気に入ってくれるのか。そんなことを思いつつ、食べる。
「美味いな」
涼が、少し微笑んで言ってくれたから。
「良かったです。お口に合って」
嬉しくて、笑顔で言ってしまった。
あとからケーキもあるし、このあと夕食もあるし、と、本当に軽く作ったそれらは、すぐに無くなる。
「じゃあ、片付けてくるわ」
「えっ、今日の主役は涼ですよ? 私が片付けます」
「……なら、一緒にやるか?」
そして、一緒に食器類を片付けて。
「ケーキ、これから最終段階に入るから。ちょっと戻って待っててくれ」
最終段階って飾り付けかな。そう思いながら、「はい。待ってます」と部屋に戻った。
カバンを開け、プレゼントを持っていることを、再度確認して。リップを直して、スマホでみんなのアカウントを眺めていたら、
『開けていいか』
涼の声。
「あ、はい」
スマホを仕舞い、姿勢を正す。ドアを開けて、涼が入ってくる。
「……」
そのケーキを見て、少し驚いてしまった。
「どうだかな。見た目も中身も、頑張ってみたんだが」
大きさは、改めて祝ってくれた時のものと同じくらい。の、チョコケーキ。チョコの飾りやクリームや、……よく分からないけど、細かくて立体的で綺麗な、そんな装飾が、されている。
「……すごいですね。綺麗です」
「なら、良かった。パリに行った甲斐があった」
涼は、ケーキと紅茶をローテーブルに置きながら言う。
「パリの……あ」
似たような装飾のスイーツが、色々あったことを思い出す。それに中身も、と言っていた。同じ意味だろう。
「すごいですね……モノにしてますね……」
「(光海と食べるから、頑張った)」
フランス語で言われた。
「(……有り難いてますけど、今日は涼の誕生日ですよ?)」
少し不満気に言うと、
「(だからだよ。俺がお前と食べたいから、気合い入れた。……来年の光海のケーキも、もっと気合い入れる)」
来年も。
「(なら、楽しみにしています)」
その言葉が嬉しくて、笑顔になってしまったら、
「(おう。楽しみにしてろ)」
涼は胸を張って言ってくれた。
そして記念撮影をして、ケーキを一緒に食べて──すごい美味しかった──さあ、プレゼントだ。
「涼、改めて、おめでとうございます」
プレゼントの箱を差し出しながら言う。
「ああ、ありがとう。……開けて良いか?」
受け取った涼が、期待の眼差しを向けてくるから。
「はい、どうぞ」
また、笑顔になってしまった。
涼は包装を丁寧に外し、箱を開ける。
「……」
それを見て、少し目を見開いた涼の反応に、ちょびっと不安がよぎる。
涼がドッグタグを手に取った拍子に、細い鎖がシャラ、と鳴った。
「……光海、これ、俺の名前、か?」
ドッグタグを見つめる涼に、「そうです」と高まる緊張を抑えながら、答える。
「ありがとう。めちゃくちゃ嬉しい。マジで嬉しい。ありがとう、光海」
こっちを向いた涼は、本当に嬉しそうで。
「……良かったです……気に入ってくれたみたいで……」
ふぅ、と安堵の息を吐いてしまった。
「俺、これ、付けまくるわ。ずっと付けてる」
ドッグタグを首にかけた涼は、とてもニコニコしていて。
喜んで貰えて良かったと、また、思った。
◇
光海が帰り、一人の部屋で。
「……、……」
橋本涼は、ドッグタグを首から外し、見つめていた。カッティングされた小さな青い石が嵌まっていて、ローマ字で自分の名前が刻印された鈍色のそれを、角度を変えて眺める。
服の上にしようか。何かあると怖いから、中にしようか。けど、周りに見せたい気持ちは、大いにある。
「……」
学校にいる時は中に仕舞って、それ以外は外に出そう。
そう結論付け、ドッグタグをかけ直し、時間を確認すれば、一時間近く経っていた。
場所は、涼の家の、涼の部屋。時刻は午後の2時。
誕生日を祝いたいと言ったら、
『なら、ケーキ作るから、俺の家で』
と、言われ、こうなったのだった。自分の誕生日ケーキを自分で作る。涼らしいなと、思う。
そんな私は、メイクをして、涼から貰ったネックレスをして、──もちろん、ピアスもして。
「お誕生日おめでとうございます、涼」
と、サッと手早く出来て、見た目が華やかな料理を並べたローテーブルを挟み、拍手をしていた。
「おう。……その、ありがとう、光海」
涼は照れているのか、少し顔を赤らめて、でもはっきり言ってくれた。
「料理も、ありがとう」
「いえいえ。では、食べましょうか」
涼の家のキッチンを借りて作ったのは、軽食だ。カプレーゼとカルパッチョ、それとちょっとしたカラフルなサラダ。バゲットは流石に買いましたけども。
「「いただきます」」
我が成川家の味だけど、涼は気に入ってくれるのか。そんなことを思いつつ、食べる。
「美味いな」
涼が、少し微笑んで言ってくれたから。
「良かったです。お口に合って」
嬉しくて、笑顔で言ってしまった。
あとからケーキもあるし、このあと夕食もあるし、と、本当に軽く作ったそれらは、すぐに無くなる。
「じゃあ、片付けてくるわ」
「えっ、今日の主役は涼ですよ? 私が片付けます」
「……なら、一緒にやるか?」
そして、一緒に食器類を片付けて。
「ケーキ、これから最終段階に入るから。ちょっと戻って待っててくれ」
最終段階って飾り付けかな。そう思いながら、「はい。待ってます」と部屋に戻った。
カバンを開け、プレゼントを持っていることを、再度確認して。リップを直して、スマホでみんなのアカウントを眺めていたら、
『開けていいか』
涼の声。
「あ、はい」
スマホを仕舞い、姿勢を正す。ドアを開けて、涼が入ってくる。
「……」
そのケーキを見て、少し驚いてしまった。
「どうだかな。見た目も中身も、頑張ってみたんだが」
大きさは、改めて祝ってくれた時のものと同じくらい。の、チョコケーキ。チョコの飾りやクリームや、……よく分からないけど、細かくて立体的で綺麗な、そんな装飾が、されている。
「……すごいですね。綺麗です」
「なら、良かった。パリに行った甲斐があった」
涼は、ケーキと紅茶をローテーブルに置きながら言う。
「パリの……あ」
似たような装飾のスイーツが、色々あったことを思い出す。それに中身も、と言っていた。同じ意味だろう。
「すごいですね……モノにしてますね……」
「(光海と食べるから、頑張った)」
フランス語で言われた。
「(……有り難いてますけど、今日は涼の誕生日ですよ?)」
少し不満気に言うと、
「(だからだよ。俺がお前と食べたいから、気合い入れた。……来年の光海のケーキも、もっと気合い入れる)」
来年も。
「(なら、楽しみにしています)」
その言葉が嬉しくて、笑顔になってしまったら、
「(おう。楽しみにしてろ)」
涼は胸を張って言ってくれた。
そして記念撮影をして、ケーキを一緒に食べて──すごい美味しかった──さあ、プレゼントだ。
「涼、改めて、おめでとうございます」
プレゼントの箱を差し出しながら言う。
「ああ、ありがとう。……開けて良いか?」
受け取った涼が、期待の眼差しを向けてくるから。
「はい、どうぞ」
また、笑顔になってしまった。
涼は包装を丁寧に外し、箱を開ける。
「……」
それを見て、少し目を見開いた涼の反応に、ちょびっと不安がよぎる。
涼がドッグタグを手に取った拍子に、細い鎖がシャラ、と鳴った。
「……光海、これ、俺の名前、か?」
ドッグタグを見つめる涼に、「そうです」と高まる緊張を抑えながら、答える。
「ありがとう。めちゃくちゃ嬉しい。マジで嬉しい。ありがとう、光海」
こっちを向いた涼は、本当に嬉しそうで。
「……良かったです……気に入ってくれたみたいで……」
ふぅ、と安堵の息を吐いてしまった。
「俺、これ、付けまくるわ。ずっと付けてる」
ドッグタグを首にかけた涼は、とてもニコニコしていて。
喜んで貰えて良かったと、また、思った。
◇
光海が帰り、一人の部屋で。
「……、……」
橋本涼は、ドッグタグを首から外し、見つめていた。カッティングされた小さな青い石が嵌まっていて、ローマ字で自分の名前が刻印された鈍色のそれを、角度を変えて眺める。
服の上にしようか。何かあると怖いから、中にしようか。けど、周りに見せたい気持ちは、大いにある。
「……」
学校にいる時は中に仕舞って、それ以外は外に出そう。
そう結論付け、ドッグタグをかけ直し、時間を確認すれば、一時間近く経っていた。
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