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57 プレゼント相談と後夜祭について

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「はー。みつみんが遂にピアスを」
「どうも。気に入ってます」
「似合ってるよ。良いと思う」

 とある相談事を、三人のグループラインに送ったら、

『じゃ、顔合わせて話そ!』

 と、桜ちゃんに言われ、マリアちゃんもそれに同意。その心強いお言葉に、私は『ありがとう』と送った。
 そして、夏休みだけど、定期券内だしと、コーヒーチェーンに集まり、桜ちゃんが気付いたピアスの話から始まった。

「てかさ、ちゃんとプレゼントの相談には乗るけどさ。橋本ちゃんからしたら、もうプレゼント貰った気分じゃない?」
「そうなのかな? 喜んではくれてたけど」
「まあ、それで。候補は絞ってあるんだよな?」
「うん」

 と、私はスマホを見せた。それは、涼への誕生日プレゼントの候補たち。
 涼の誕生日は25日だけど、もう8月の半ばに差し掛かる。悩んでいた私は、マリアちゃんと桜ちゃんにSOSを出した次第。

「こうね、専門書とかはさ、あっちのほうが詳しいだろうし、持ってるかもしれないし、避けたほうが良いと思っての、これらなんだけど」

 スマホの画面に表示してあるのは、メンズものの洋服やアクセサリー。青系統のものを選んでいる。

「ふむ。似合うと思ってるのは、どれ?」

 アイスカフェオレを飲んでから、桜ちゃんが聞いてくる。

「えーと……これとか、」

 青の小さい石が嵌ったドッグタグを拡大させ、

「これとか」

 紺色のオーバーサイズジャケットを見せ、

「あと、これとか、かな」

 青系迷彩のショルダーポーチを見せた。

「青ばかりだな。……橋本は、青が好きなのか?」

 マリアちゃんが呟くように言う。

「好きというか、暫定的に青なの。今。涼の部屋がさ、青系で、青が好きなのって聞いたら、適当に揃えてたらこうなったって。で、なら、青ってことにしとくねって言った」
「予算は? 決めてるの?」
「うん。どれも予算内。ただ、ドッグタグね、ドッグタグだからさ、名前を入れられるんだよね。これを選ぶとしたら、名前を入れずにおくか、名前をいれるかって問題も浮上します」
「名前入れちゃ駄目なん?」
「重くない? 涼の名前とはいえ。初プレゼントに名前が刻印されてるのって」

 言ったら、二人ともが、呆れた顔を私に向けた。

「気持ちは分かるが。橋本にこれだけしておいて、という思いも湧くな」
「そうだねぇ。ずっと甲斐甲斐しくしてたもんねぇ。橋本ちゃん、貰ったあとに影で泣いて喜びそう」
「そ、そこまでかな……?」

 言いつつ、少しありそう、とも思う。

「……なら、ドッグタグにしようかな。ちゃんと名前入れて」
「おお、解決したね」
「したな。一応の確認だが、刻印して、は、当日までに届くのか?」

 マリアちゃんの言葉に、

「あ、うん。3、4日で届くって」
「なら、安心だな」

 マリアちゃんはそう言って、紅茶を飲んだ。

「……そういやさ、文化祭、二人のクラスはどんな進み具合?」

 聞いてみれば、

「私のほうは、もう、始められる撮影は始めているな。15分の短編の筈が1時間ほどに伸びそうだから、出来るだけ進めておく、という話になった」
「それ、ストーリーの変更とかあったの?」

 桜ちゃんが聞いてくる。

「大筋は変わらない。ただ、心理描写とか日常会話とか……まあ、内容が密になった、みたいなもんだ」
「へえ……教室で、上映? ずっと流しておくんだっけ?」

 私の言葉に、「ああ」とマリアちゃんは答えた。

「なら、時間が伸びても安心だね。桜ちゃんのクラスのほうは?」
「ストーリーは完成したし、演者用の原稿も貰ったし、今は、セリフとかを覚えつつ、衣装合わせをしてます♪ みつみんのほうは? どんなん?」
「こっちも順調かな。この前も仮縫いした衣装の合わせをしてきたし、スイーツの値段も先生から許可が下りたし。裏方の人たちも頑張ってくれてるし。てな、感じです」

 言ってミルクティーを飲む。

「みんな順調で良かったねー。あ、そういやさ、橋本ちゃん、後夜祭のこと、把握してる?」
「え? どうだろ」
「体育祭のことも忘れてたんでしょ?」
「文化祭のことも忘れてたっぽいね」
「大丈夫なのか橋本は」

 ……。

「あとで聞いてみる」
「今聞いたら?」
「そうしたほうが良いと思う」

 桜ちゃんとマリアちゃんに言われ、私は涼に『文化祭最終日の夜の、後夜祭って把握してます?』と送った。返事はすぐに来た。

『なんそれ』
「……把握してないっぽいね」
「詳細説明したれ」
「う、うん」

 私はその場で、後夜祭について、涼に説明した。
 3日間ある文化祭の最終日、その夜の7時から、後夜祭が始まる。参加できるのは生徒や卒業生、学校関係者のみ。
 第一体育館に集まり、個人や団体が出し物をして──飛び入り参加OKなのだ──それが終了したら、15分後に花火が上がる、というもの。

『知らんかった。参加するのか?』
『参加というか、観に行く予定です。涼はどうしますか?』
『なら、行く』
『分かりました。一緒に観ましょうね』

 そこまで送り、顔を上げた。

「伝わった」
「良かった良かった」
「そうだな」
「で、みつみん、花火の逸話も話したんだよね?」
「え? だって、もう、付き合ってるし……」
「つ・た・え・ろ♪」
「りょ、了解です……」

 私は、『観る』と返信が来ていたそこに、追加情報を伝える。
 それは、最後の花火を見た二人は、両想いになれる、という逸話。

『それも見る。光海と』
『分かりました』

 と、送り。

「伝えました……他に何かありますか……?」
「今んとこ無いと思う」
「私も、思いつかないな」
「で、では、ありがとうございました……」

  ◇

 文化祭の準備が、着々と進んでいく。
 去年もこんな感じだったのだろうか、と、涼は、クラスラインを眺めつつ、思う。

 教室の窓に貼る、ステンドグラス風シール。年代物に見える、シックなテーブルと椅子。それらに合わせた、テーブルクロスや食器類。食器類については、スイーツにこれで合うかと、意見を求められた。
 スイーツの配分も決まり、値段も決まり、ポスターやチラシ、クラスTシャツまでもが決まっていく。
 教室ではスイーツを作れないからと、複数ある家庭科室の一室も押さえてもらって。
 そして、店員の衣装が出来ていく。執事とメイドは計12名。時間交代制で、接客をしていくことになっている。

 今は、製菓担当になれた喜びよりも、これらに参加出来ている喜びが大きいかもしれない。
 涼は、改めて光海に、そしてクラスメイトたちに、感謝した。


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