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54 パリにて
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14時間のフライトを終え、時差7時間のパリに到着。時刻は昼前。
「安いのってマジ、金切り詰めてんだな」
少し疲れた顔の涼が、スーツケースを転がして歩きながら言う。安いの、とは、LCCのことだろう。
「私も去年、同じことを思いました。これもまた経験ですかね。それで、今日はまず、ルイーズさんたちのお家にお邪魔しますから、休憩しましょう」
私もコロコロと、スーツケースを転がし、言う。
さて。そろそろこの辺に、ルイーズさんたちが──あ、居た!
「(ルイーズさん! お久しぶりです、光海です!)」
手を振って声をかければ、ルイーズさんたちはすぐ、私たちに気付いて、こっちに来てくれた。
「(1年ぶり。光海。それと、そちらが、涼……橋本涼さん?)」
「(あ、はじめまして、お世話になります。橋本涼です)」
涼はルイーズさんへ頭を下げる。
「(はじめまして、私はルイーズ・バルリエ。そしてこの子はノア。よろしくね)」
明るい茶髪を流し、緑の瞳で微笑んで、ルイーズさんは言う。
で、その息子さんのノア。記憶より大きくなったけど、そりゃ、5歳だもんなあと、黒の髪と緑の瞳を見つめ、かがんで目線を合わせ、
「(久しぶり、ノア。私のこと、覚えてる?)」
「(覚えてる。光海のこと、忘れてない)」
ルイーズさんの後ろに隠れていたノアは、タタタと私の前まで来てくれた。
「(久しぶり、の、ハグ)」
手を広げてくれたので、ハグをする。
「(覚えてくれててありがとう、ノア)」
「(忘れてないって言った)」
チュ、と頬にキスをされる。おう、またか。
「(……はじめまして、ノア。俺は橋本涼っていう名前だ)」
涼が隣にしゃがみこんできた。
「(……はじめまして。ノアだよ)」
ノア。涼のほうを向くのはちゃんとしてて良いと思うけど、離してくれないかな?
「(ノア。二人をお家に案内しようね)」
そう言って、ルイーズさんが、ノアを私から離してくれた。よし、立ち上がれる。
「(でね、車はこっち)」
◇
ルイーズという女性の車に乗り、彼女ら家族の家──アパルトマンの部屋──に着く。間取りを教えてもらい、この部屋で、と、案内された部屋に入り、涼はベッドに腰を下ろした。
ノア、という子供……少年が、気になる。光海への態度と、自分への態度。間取りの案内の際も、ルイーズが時々離していたが、ノアは光海にくっついていた。そして自分には塩対応、……かつ、観察でもされているようで。
「……まさかこうだとは思わねぇだろ」
この一週間、無事にやっていけるのか。
そう思っていたところに、ノックの音。
「涼、入っていいですか?」
「……ああ」
ドアが開き、光海が入ってくる。
「ルイーズさんがですね、お昼を用意してくれていたので。食べられそうなら、と。どうです?」
ベッドに座っていた涼の隣にぽすんと座り、聞いてくる。
「ああ、食える。……なあ、光海」
顔を向け、名前を呼ぶ。
「なんですか?」
光海もこちらへ顔を向けて、いつものように聞いてくる。
「……俺、ノアと、仲良くやってけるかな」
「去年の私にも、あんな感じでしたよ。だから、大丈夫だと思います」
安心させてくれる笑顔に、胸が灼ける。
まあ、兎も角。この一週間、頑張ると決めたのだ。
「そうか。分かった。じゃ、行くか」
◇
「(それで、弟から、行きたい所は教えてもらったんだけど。今日はどうする?)」
4人でお昼のタルティーヌを食べながら、ルイーズさんが、プリントアウトしたらしい紙を見せてくれた。
「(そうですね……まずはスイーツ関連のお店に行きたいんです。ね、涼)」
隣へ声をかければ、「(そうですね。出来れば1ヶ所は行きたいです)」と紙に視線を向けつつ言う。
「(近いとこなら3か所くらい行けると思う。ここと、ここと、ここ、だね)」
ルイーズさんが、それらを指で示してくれる。
「(涼、どうする?)」
「(……お言葉に甘えさせていただけるなら、お願いしたいです)」
ということで、4人で移動。ホームステイ期間中は、ほぼ、4人で過ごすことになっている。ルイーズさんは在宅ワークで、パソコンを持っていれば大体用事は済むらしいけど、有給なども使ってくれているという。いやはや、頭が上がらない。
「(はい、ここね)」
1ヶ所目はショコラのお店。全員で入り、ルイーズさんはノアの食べたいものを。私たちはそれぞれに選んで、店内で食べる。
「(沢山選んだね。少し聞いていたけど、涼はパティシエになりたいって?)」
4人でショコラを味わいつつ、ルイーズさんが話題を振ってくれる。
「(はい。今回も、そのために我が儘を通してもらいました。ありがとうございます)」
ショコラを一つ一つスマホで撮り、味を確かめるように食べていた涼が、ルイーズさんに向き直り、答える。
「(リョウ、こっちで暮らすの?)」
ノアの問いかけに、
「(いや、日本に、家族が経営してる店がある。そのあとを継ぐつもりだ)」
と、涼は苦笑するように返した。
そのあと、お持ち帰りのショコラを買い、次へ。同様に2ヶ所、目的のお店で食べ、買って。
帰宅時の車の中で。
「(光海。光海はこっちで暮らすんだよね?)」
と、ノアが言ってきたので、
「(大学はそうするつもり。それで、そこで学んで、そのまま暮らせそうなら、暮らそうかなって)」
今考えている将来について、正直に言った。
帰宅して、夕食を食べて。順番にシャワーを浴び、着替え、髪を乾かす。
ドライヤーなどの電化製品は、ほぼ全て、ルイーズさんたちの家のものを借りている。日本のだと色々と合わない可能性が高いから。
乾かし終えて、去年と同じ部屋へ。ベッドに座り、私も色々と撮っていたスマホの画像を眺めつつ、日記を書いていたら、
「(光海)」
ノアが、ドア越しに声をかけてきた。
「(ノア。どうしたの?)」
ドアを開ければ、ノアは詩集を持っていて。
「(一緒に読もう、光海)」
かっわい。
「(うん、ルイーズさんに呼ばれるまでね)」
言ってから、二人で詩集を読んだ。
「安いのってマジ、金切り詰めてんだな」
少し疲れた顔の涼が、スーツケースを転がして歩きながら言う。安いの、とは、LCCのことだろう。
「私も去年、同じことを思いました。これもまた経験ですかね。それで、今日はまず、ルイーズさんたちのお家にお邪魔しますから、休憩しましょう」
私もコロコロと、スーツケースを転がし、言う。
さて。そろそろこの辺に、ルイーズさんたちが──あ、居た!
「(ルイーズさん! お久しぶりです、光海です!)」
手を振って声をかければ、ルイーズさんたちはすぐ、私たちに気付いて、こっちに来てくれた。
「(1年ぶり。光海。それと、そちらが、涼……橋本涼さん?)」
「(あ、はじめまして、お世話になります。橋本涼です)」
涼はルイーズさんへ頭を下げる。
「(はじめまして、私はルイーズ・バルリエ。そしてこの子はノア。よろしくね)」
明るい茶髪を流し、緑の瞳で微笑んで、ルイーズさんは言う。
で、その息子さんのノア。記憶より大きくなったけど、そりゃ、5歳だもんなあと、黒の髪と緑の瞳を見つめ、かがんで目線を合わせ、
「(久しぶり、ノア。私のこと、覚えてる?)」
「(覚えてる。光海のこと、忘れてない)」
ルイーズさんの後ろに隠れていたノアは、タタタと私の前まで来てくれた。
「(久しぶり、の、ハグ)」
手を広げてくれたので、ハグをする。
「(覚えてくれててありがとう、ノア)」
「(忘れてないって言った)」
チュ、と頬にキスをされる。おう、またか。
「(……はじめまして、ノア。俺は橋本涼っていう名前だ)」
涼が隣にしゃがみこんできた。
「(……はじめまして。ノアだよ)」
ノア。涼のほうを向くのはちゃんとしてて良いと思うけど、離してくれないかな?
「(ノア。二人をお家に案内しようね)」
そう言って、ルイーズさんが、ノアを私から離してくれた。よし、立ち上がれる。
「(でね、車はこっち)」
◇
ルイーズという女性の車に乗り、彼女ら家族の家──アパルトマンの部屋──に着く。間取りを教えてもらい、この部屋で、と、案内された部屋に入り、涼はベッドに腰を下ろした。
ノア、という子供……少年が、気になる。光海への態度と、自分への態度。間取りの案内の際も、ルイーズが時々離していたが、ノアは光海にくっついていた。そして自分には塩対応、……かつ、観察でもされているようで。
「……まさかこうだとは思わねぇだろ」
この一週間、無事にやっていけるのか。
そう思っていたところに、ノックの音。
「涼、入っていいですか?」
「……ああ」
ドアが開き、光海が入ってくる。
「ルイーズさんがですね、お昼を用意してくれていたので。食べられそうなら、と。どうです?」
ベッドに座っていた涼の隣にぽすんと座り、聞いてくる。
「ああ、食える。……なあ、光海」
顔を向け、名前を呼ぶ。
「なんですか?」
光海もこちらへ顔を向けて、いつものように聞いてくる。
「……俺、ノアと、仲良くやってけるかな」
「去年の私にも、あんな感じでしたよ。だから、大丈夫だと思います」
安心させてくれる笑顔に、胸が灼ける。
まあ、兎も角。この一週間、頑張ると決めたのだ。
「そうか。分かった。じゃ、行くか」
◇
「(それで、弟から、行きたい所は教えてもらったんだけど。今日はどうする?)」
4人でお昼のタルティーヌを食べながら、ルイーズさんが、プリントアウトしたらしい紙を見せてくれた。
「(そうですね……まずはスイーツ関連のお店に行きたいんです。ね、涼)」
隣へ声をかければ、「(そうですね。出来れば1ヶ所は行きたいです)」と紙に視線を向けつつ言う。
「(近いとこなら3か所くらい行けると思う。ここと、ここと、ここ、だね)」
ルイーズさんが、それらを指で示してくれる。
「(涼、どうする?)」
「(……お言葉に甘えさせていただけるなら、お願いしたいです)」
ということで、4人で移動。ホームステイ期間中は、ほぼ、4人で過ごすことになっている。ルイーズさんは在宅ワークで、パソコンを持っていれば大体用事は済むらしいけど、有給なども使ってくれているという。いやはや、頭が上がらない。
「(はい、ここね)」
1ヶ所目はショコラのお店。全員で入り、ルイーズさんはノアの食べたいものを。私たちはそれぞれに選んで、店内で食べる。
「(沢山選んだね。少し聞いていたけど、涼はパティシエになりたいって?)」
4人でショコラを味わいつつ、ルイーズさんが話題を振ってくれる。
「(はい。今回も、そのために我が儘を通してもらいました。ありがとうございます)」
ショコラを一つ一つスマホで撮り、味を確かめるように食べていた涼が、ルイーズさんに向き直り、答える。
「(リョウ、こっちで暮らすの?)」
ノアの問いかけに、
「(いや、日本に、家族が経営してる店がある。そのあとを継ぐつもりだ)」
と、涼は苦笑するように返した。
そのあと、お持ち帰りのショコラを買い、次へ。同様に2ヶ所、目的のお店で食べ、買って。
帰宅時の車の中で。
「(光海。光海はこっちで暮らすんだよね?)」
と、ノアが言ってきたので、
「(大学はそうするつもり。それで、そこで学んで、そのまま暮らせそうなら、暮らそうかなって)」
今考えている将来について、正直に言った。
帰宅して、夕食を食べて。順番にシャワーを浴び、着替え、髪を乾かす。
ドライヤーなどの電化製品は、ほぼ全て、ルイーズさんたちの家のものを借りている。日本のだと色々と合わない可能性が高いから。
乾かし終えて、去年と同じ部屋へ。ベッドに座り、私も色々と撮っていたスマホの画像を眺めつつ、日記を書いていたら、
「(光海)」
ノアが、ドア越しに声をかけてきた。
「(ノア。どうしたの?)」
ドアを開ければ、ノアは詩集を持っていて。
「(一緒に読もう、光海)」
かっわい。
「(うん、ルイーズさんに呼ばれるまでね)」
言ってから、二人で詩集を読んだ。
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