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53 お父さんとお母さんみたい
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「で、前にも言ったが。最低見たいのは、この4ヶ所」
「ほう……」
涼の部屋にて。勉強その他を終えた私たちは、ホームステイへの計画の確認をしていた。
「この4ヶ所、だけでもいいですけど。ルイーズさんはお優しいかたですし、私たちの事情を理解した上で、ホームステイを受け入れてくれています。なので、もっと行けると思いますよ」
「……そうか?」
「そうです。他にも行きたい場所、あるんですよね?」
「……。……この──」
涼は、スマホで計8ヶ所、見せてくれた。その全てが、スイーツ関連だ。
「前にも聞きましたけど。定番の観光スポットとかは、良いんですか?」
「シーズンだろ。混む場所は危ないだろ」
「……行けるなら、行きたい、と?」
涼が黙った。
「私は一度しか行ってませんが。ルーヴル美術館も、ベルサイユ宮殿も、エトワール凱旋門も、満員電車ほどではありませんでしたよ? スリには要注意ですが。エッフェル塔は遠くから見たので、混んでいたかは分かりません」
「……満員電車って、外の人からすると拷問並みらしいぞ……?」
「なら、……ラファエルさんからルイーズさんへ、伝えてもらいますか? 行きたい場所。伝えても、怒られないと思います」
「……頼む」
「なら、もう一度、行きたい場所を教えて下さい」
言って、話を詰め、ラファエルさんへ連絡。
「あとは、返事待ちですね」
「……なあ、光海」
「なんですか?」
スマホから顔を上げたら、涼がこっちを見ていた。
「遊びに行く話、してたろ。お前はどうなんだ? 帰ってから遊び……デートすんのも良いけどさ」
「そうですね……ゆったり過ごしたいので、我が儘を言うなら、美術館とか博物館とか、映画館とか、ですかね。今、遊園地とかに行くと、なんか、疲れそうです」
「そんなら、映画観に行くか?」
「涼は、観たい映画、あります?」
「今、何を上映してるか知らん」
なので、一緒に調べて。
「良いの、ありました?」
「なんか、イマイチ」
「そうですか。私は、懐かしいなってのは、ありました」
「なんそれ」
「これです」
私が示したのは、アニメ映画。丁度、復刻上映されてるらしい。
「なら、それ。俺も名前は知ってる」
「良いんですか?」
「ああ」
「なら、チケット、取っちゃいますよ?」
「あとで払う」
ここまで言われるなら、と。二人で席を決めて、チケットを取って。
「楽しみです。ありがとうございます、涼」
笑顔で言えば。
「……まだ、時間、あるか」
眼差しが、変わった。
「はい。あ、うん、あるよ」
「……じゃあ、こうする」
「お、う」
抱きしめられた。そのまま顎を肩に乗せられて、
「……外の、デートも良いんだろうけど。こっちも良い」
「そ、ですか」
「(光海は俺の宝物だ)」
「ふぇっ」
突然のフランス語。
「(調べた。色々あるんだな、こういう言葉)」
「(……ありますよ。このまま話しますか?)」
「(そうだな。少し姿勢、変えるか)」
「(どうかえるんです?)」
「(こう変える)」
私に凭れる姿勢だった涼は、逆に私を凭れさせた。
「(このほうが、楽だろ)」
「(そりゃあ、まあ)」
「(お前、ホントに可愛い)」
頭を撫でられながら、言われる。
「(涼も、可愛いです)」
「(格好良くはない?)」
「(格好良くもあります)」
「(なら、良かった)」
◇
「久しぶりに観れて、良かったです!」
「そうか。俺も結構楽しめた」
「なら良かったです」
映画館を出て、その帰り道。涼と一緒に、私の家に向かう。
朝一番の時間にしたから、そのまま、勉強してから……また、愛流のモデルとなる。お昼を一緒に食べられるのは、幸い。
「……なあ、光海」
「なんですか?」
「お前が色々してくれてさ。家族との仲も……修復かは分かんねぇけど、良い方向に行っててさ。クラスにも馴染ませて貰えて。……なんだけど」
涼は、一度口を閉じて、
「やっぱまだ、怖い。もとに戻るんじゃねぇかって。また、馬鹿をするんじゃないかって。……そんな俺でも、付き合ってくれるか?」
「当たり前です」
涼の顔を見て言う。
「怖いって言ってくれて、嬉しい。不安を教えてくれて嬉しい。もう、しないとは思いますけど。また馬鹿やったら、全力で止めますから。だから、もっと、色々教えてくれると嬉しいです」
「……ああ、言う。色々言う」
涼の顔が、泣き笑いになった。
「どんとこいです。全力で受け止めます」
「…………ああ、頼む」
家に到着して、学校の勉強と夏休みの課題と──間にバナナカップケーキのおやつを挟む──フランス語とを終えて。
「涼くん! 光海姉ちゃんのはね、お母さんのとおんなじに美味しいよ!」
「うん、美味しいな」
我が家のダイニングにて。私が作ったチャーハンを、私、涼、愛流、彼方、の4人で食べている。他のみんなは、ドッグラン。
「愛流、早食いしてるでしょ」
「一分一秒が惜しい」
「始まりの時間は変わらないよ」
「それ以外は自由でしょ? 今日はいっぱい時間あるんだし。どんなの撮ろうか、沢山考えたんだから。今も考えてる」
食事に集中しろ。
そんなこんなで食べ終わり、片付けをしようとして。
「俺もやる」
と、涼が大物を洗ってくれた。テキパキと。さっすが、職人のタマゴ。
そして、撮影開始だ。彼方は見学をしている。
「うん、はい、そのままで」
色んなポーズ、色んな角度、途中で休憩を挟みながら、何十枚と撮られる。
「愛流、疲れてきたでしょ」
ベッドに座った涼の膝の上に座るポーズを撮り終わった頃、愛流の顔に、確実に疲労が見えた。
「……そうかも」
「水分摂って、少し、自分の部屋で休みな」
「そうする……」
愛流は、素直に部屋から出ていった。
「彼方も、自由にしてて良いよ」
「ここにいる」
まっすぐに言われる。
「そう?」
「うん!」
「なら、そうしててね。で、涼、下りてもいいですか?」
「もう少し」
涼は言って、お腹側に腕を回して、頭を肩に乗せてきた。
「……疲れました?」
彼方が見てるんだけどな、と思いながら、声をかける。
「まあ、うん」
「そうですか。分かりました」
「お母さんとお父さんみたい!」
彼方よ。やめてくれ。
「そうなん?」
涼、突っ込まないで。顔を上げないで。
「うん! お父さんがお母さんにね、疲れたって、言ってね、そういうの、する」
「そっか」
「涼くんと光海姉ちゃんも、お父さんとお母さんみたいになるの?」
「どうだろな」
「付き合ってるんでしょ?」
「そうだよ」
「結婚しないの?」
「出来る年齢じゃないよ」
「出来るようになったらするの?」
「どうなんだろな」
……この会話いつまで続くんだ?
「したくないの? 好きなんでしょ?」
「好きだよ。出来るかどうかは光海次第」
「光海姉ちゃんは?」
なんと答えろと。
「おーい。復活したぜー……あ! そのまま! それ、撮らせて!」
復活してくれた愛流のおかげで、話はそこで終わった。
あ、それと。ルイーズさんはどこに行くかについての相談で、全てOKをくれました。
「ほう……」
涼の部屋にて。勉強その他を終えた私たちは、ホームステイへの計画の確認をしていた。
「この4ヶ所、だけでもいいですけど。ルイーズさんはお優しいかたですし、私たちの事情を理解した上で、ホームステイを受け入れてくれています。なので、もっと行けると思いますよ」
「……そうか?」
「そうです。他にも行きたい場所、あるんですよね?」
「……。……この──」
涼は、スマホで計8ヶ所、見せてくれた。その全てが、スイーツ関連だ。
「前にも聞きましたけど。定番の観光スポットとかは、良いんですか?」
「シーズンだろ。混む場所は危ないだろ」
「……行けるなら、行きたい、と?」
涼が黙った。
「私は一度しか行ってませんが。ルーヴル美術館も、ベルサイユ宮殿も、エトワール凱旋門も、満員電車ほどではありませんでしたよ? スリには要注意ですが。エッフェル塔は遠くから見たので、混んでいたかは分かりません」
「……満員電車って、外の人からすると拷問並みらしいぞ……?」
「なら、……ラファエルさんからルイーズさんへ、伝えてもらいますか? 行きたい場所。伝えても、怒られないと思います」
「……頼む」
「なら、もう一度、行きたい場所を教えて下さい」
言って、話を詰め、ラファエルさんへ連絡。
「あとは、返事待ちですね」
「……なあ、光海」
「なんですか?」
スマホから顔を上げたら、涼がこっちを見ていた。
「遊びに行く話、してたろ。お前はどうなんだ? 帰ってから遊び……デートすんのも良いけどさ」
「そうですね……ゆったり過ごしたいので、我が儘を言うなら、美術館とか博物館とか、映画館とか、ですかね。今、遊園地とかに行くと、なんか、疲れそうです」
「そんなら、映画観に行くか?」
「涼は、観たい映画、あります?」
「今、何を上映してるか知らん」
なので、一緒に調べて。
「良いの、ありました?」
「なんか、イマイチ」
「そうですか。私は、懐かしいなってのは、ありました」
「なんそれ」
「これです」
私が示したのは、アニメ映画。丁度、復刻上映されてるらしい。
「なら、それ。俺も名前は知ってる」
「良いんですか?」
「ああ」
「なら、チケット、取っちゃいますよ?」
「あとで払う」
ここまで言われるなら、と。二人で席を決めて、チケットを取って。
「楽しみです。ありがとうございます、涼」
笑顔で言えば。
「……まだ、時間、あるか」
眼差しが、変わった。
「はい。あ、うん、あるよ」
「……じゃあ、こうする」
「お、う」
抱きしめられた。そのまま顎を肩に乗せられて、
「……外の、デートも良いんだろうけど。こっちも良い」
「そ、ですか」
「(光海は俺の宝物だ)」
「ふぇっ」
突然のフランス語。
「(調べた。色々あるんだな、こういう言葉)」
「(……ありますよ。このまま話しますか?)」
「(そうだな。少し姿勢、変えるか)」
「(どうかえるんです?)」
「(こう変える)」
私に凭れる姿勢だった涼は、逆に私を凭れさせた。
「(このほうが、楽だろ)」
「(そりゃあ、まあ)」
「(お前、ホントに可愛い)」
頭を撫でられながら、言われる。
「(涼も、可愛いです)」
「(格好良くはない?)」
「(格好良くもあります)」
「(なら、良かった)」
◇
「久しぶりに観れて、良かったです!」
「そうか。俺も結構楽しめた」
「なら良かったです」
映画館を出て、その帰り道。涼と一緒に、私の家に向かう。
朝一番の時間にしたから、そのまま、勉強してから……また、愛流のモデルとなる。お昼を一緒に食べられるのは、幸い。
「……なあ、光海」
「なんですか?」
「お前が色々してくれてさ。家族との仲も……修復かは分かんねぇけど、良い方向に行っててさ。クラスにも馴染ませて貰えて。……なんだけど」
涼は、一度口を閉じて、
「やっぱまだ、怖い。もとに戻るんじゃねぇかって。また、馬鹿をするんじゃないかって。……そんな俺でも、付き合ってくれるか?」
「当たり前です」
涼の顔を見て言う。
「怖いって言ってくれて、嬉しい。不安を教えてくれて嬉しい。もう、しないとは思いますけど。また馬鹿やったら、全力で止めますから。だから、もっと、色々教えてくれると嬉しいです」
「……ああ、言う。色々言う」
涼の顔が、泣き笑いになった。
「どんとこいです。全力で受け止めます」
「…………ああ、頼む」
家に到着して、学校の勉強と夏休みの課題と──間にバナナカップケーキのおやつを挟む──フランス語とを終えて。
「涼くん! 光海姉ちゃんのはね、お母さんのとおんなじに美味しいよ!」
「うん、美味しいな」
我が家のダイニングにて。私が作ったチャーハンを、私、涼、愛流、彼方、の4人で食べている。他のみんなは、ドッグラン。
「愛流、早食いしてるでしょ」
「一分一秒が惜しい」
「始まりの時間は変わらないよ」
「それ以外は自由でしょ? 今日はいっぱい時間あるんだし。どんなの撮ろうか、沢山考えたんだから。今も考えてる」
食事に集中しろ。
そんなこんなで食べ終わり、片付けをしようとして。
「俺もやる」
と、涼が大物を洗ってくれた。テキパキと。さっすが、職人のタマゴ。
そして、撮影開始だ。彼方は見学をしている。
「うん、はい、そのままで」
色んなポーズ、色んな角度、途中で休憩を挟みながら、何十枚と撮られる。
「愛流、疲れてきたでしょ」
ベッドに座った涼の膝の上に座るポーズを撮り終わった頃、愛流の顔に、確実に疲労が見えた。
「……そうかも」
「水分摂って、少し、自分の部屋で休みな」
「そうする……」
愛流は、素直に部屋から出ていった。
「彼方も、自由にしてて良いよ」
「ここにいる」
まっすぐに言われる。
「そう?」
「うん!」
「なら、そうしててね。で、涼、下りてもいいですか?」
「もう少し」
涼は言って、お腹側に腕を回して、頭を肩に乗せてきた。
「……疲れました?」
彼方が見てるんだけどな、と思いながら、声をかける。
「まあ、うん」
「そうですか。分かりました」
「お母さんとお父さんみたい!」
彼方よ。やめてくれ。
「そうなん?」
涼、突っ込まないで。顔を上げないで。
「うん! お父さんがお母さんにね、疲れたって、言ってね、そういうの、する」
「そっか」
「涼くんと光海姉ちゃんも、お父さんとお母さんみたいになるの?」
「どうだろな」
「付き合ってるんでしょ?」
「そうだよ」
「結婚しないの?」
「出来る年齢じゃないよ」
「出来るようになったらするの?」
「どうなんだろな」
……この会話いつまで続くんだ?
「したくないの? 好きなんでしょ?」
「好きだよ。出来るかどうかは光海次第」
「光海姉ちゃんは?」
なんと答えろと。
「おーい。復活したぜー……あ! そのまま! それ、撮らせて!」
復活してくれた愛流のおかげで、話はそこで終わった。
あ、それと。ルイーズさんはどこに行くかについての相談で、全てOKをくれました。
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