上 下
52 / 134

52 マリアちゃんとウェルナーさん

しおりを挟む
「(なあ光海)」
「(なんでしょうか、ウェルナーさん)」

 バイト先にて。
 三者面談終わったな、と思いつつ、呼ばれたので、そっちへ行けば。

「(マリア、まだ、フリー?)」

 おおう。

「(マリアちゃんから、そういう話は聞いてませんね。……交換した連絡先は、どうしたんですか?)」

 後半を、小声で言う。

「(ん、まだ、持ってる。繋がってる)」
「(なら、連絡してみたらどうでしょうか?)」
「(……まー、だよなー。悪い、コーヒーくれ)」
「(かしこまりました)」

 メモ、厨房、コーヒーを持って、ウェルナーさんの所へ。
 おまたせしました、と置けば。ありがとう、あとはいい、とのことで、引っ込んだ。

 ウェルナーさんは今年で23歳である。私がここで働き始めて、マリアちゃんと桜ちゃんを呼んで。その時に、丁度ウェルナーさんが、ヴァルターさんと一緒に来ていた。
 私は、ウェルナーさんにマリアちゃんのことを聞かれて、友人です、と答えて。
 あとは、ウェルナーさんがマリアちゃんに話しかけて。ヴァルターさんがウェルナーさんを宥めつつ、それに加わり、桜ちゃんも話に加わって。
 ウェルナーさんがマリアちゃんの連絡先をゲットした、とこまでは、実際に見ている。

 そのあとは、ウェルナーさんとマリアちゃんからの伝聞だ。ウェルナーさんが連絡してはマリアちゃんが返事をする。その繰り返しを、ぽつぽつと。で、2ヶ月ほどして、ウェルナーさんから、食事に誘ったのだとか。マリアちゃんはそれを断り、気持ちには答えられないと返事をした、そうだ。ウェルナーさんはそれに号泣したらしいけど、私がシフトに入った時、また、少し泣きながらその話を聞かせてくれた。私はそのあと、自分なりにさりげなぁくマリアちゃんに、ウェルナーさんのことを聞いて。

『そのままの気持ちだから。気を遣わせて悪い』

 と、言われたので。
 気にしないことにした。そして、二人は店で顔を合わせても、会話をしないか、距離を保ちつつ会話をする。そんな関係になった。
 と、回想しながら、会計を済ませる。テーブルを片付け、店内を確認して、隅へ。
 マリアちゃんなー。そもそもそういう話、苦手そうなんだよなー。けど、連絡先が繋がってるなら、まだ、望みはありそうに思えるけど。
 考えていたら、呼ばれ、注文を取り、ルーティンをこなし。

 ふと、思う。今日も、ベッティーナさんとアレッシオさんが来ている。ウェルナーさんは、マリアちゃんのお姉さんであるベッティーナさんのことを知っている訳で。
 ……想い人の姉が恋人と愛を語らっているのを、どんな心境で聞きながら、コーヒーを飲んでいるのか。
 いや、接客接客。切り替えよ。私はバイトに集中した。

  ◇

 渡された通知表を見て、私は、ほっと息を吐く。
 うん、特待生の枠内に、収まってる。しかも少しだけど、前より良い待遇だ。
 まだ教室内はざわついているし、時間も少しあるので、涼へと顔を向ける。

「…………」

 なんだか難しい顔をしているな。ちょっと聞こうかな。

「では、そろそろ終業式なので、皆さん、一度、第一体育館へ」

 担任の先生がそう言ったので、涼に聞くのはあとで、と、第一体育館へ向かった。

「終わったねー。一学期」

 桜ちゃんが言う。

「終わったな。学校関連では特に何もなくて良かった」

 マリアちゃんが言う。……それは、ベッティーナさんたちのことを言ってます?

「終わったねー。まあ私、このあとバイトだけども」
「え、ならさ。また行っていい?」

 桜ちゃんの問いかけに「うん、どうぞ」と答えて。

「お二人さんは? これから空いてる?」
「5時までなら」

 と、マリアちゃん。

「空いてる」

 と、涼が言う。

「ならみんなで行こ♪」

 店に着いて、三人に入ってもらって、私は裏から。
 挨拶をして、支度をして、ホールへ。

「……」

 おおう、ウェルナーさん。ヴァルターさんも居るけども。

「(光海、いいかい?)」

 既に来ていたらしいクリスさんに呼ばれ、ルリジューズ──シュークリームを重ねたお菓子──とアイスコーヒーを頼まれ、ルーティンをこなす。
 涼たちは、夏休みの過ごし方について話しているらしい。注文は、アデルさんが取った。

「みつみん、今いい?」
「うん」

 そのテーブルへ行けば。

「フランスには8月に行くんでしょ? みつみんはそれまで、どうするの?」
「んー……ホームステイの計画を涼と確認する予定をしてて、荷物のチェックしたり、勉強したり……あ、二人はお土産、何が良い?」
「可愛い工芸品」

 と桜ちゃん。

「何か、布系のものが良いな。ハンカチとか」

 とマリアちゃん。

「了解」
「でさ、私が言いたかったのはね? お二人はどっか、遊びに行かないのかなーって」

 遊び、か。

「涼、どうします?」
「……なんか、考える」
「分かりました。……あとは、何かある?」

 三人の顔を見回し、聞く。無いということなので、引っ込んだ。
 そのあとは、普通にバイト。お昼の賄いを食べて、身だしなみチェックして、またホールへ。
 マリアちゃんと桜ちゃんの会計をして、涼は残るということで、飲み物を頼まれ、メモして、食器を持って厨房へ。ルーティンで、涼の所へ。
 飲み物を置いて、引っ込みかけたところで、ウェルナーさんに呼ばれた。

「(なんでしょうか?)」
「(いやさ、この前のこと。連絡してみた)」

 そこで口を閉じられたので、

「(……それで、どうしました?)」

 と、小声で聞く。

「(返してくれた。また、連絡して、良いって。今日会う……来るとは思ってなかったから、内心びびったけど。勇気出して良かった。ありがとう、光海)」
「(いえ、こちらこそ)」

 で、そのまま会計するとのことで、会計へ。

「(ありがとう光海。弟の相談に乗ってくれて)」

 ヴァルターさんに言われ、いえ、こちらこそ、と答えた。
 そして、テーブルを片付け終え、店内を見回すついでに、涼を見る。テーブルに広げた本をそのままに、スマホで何かしていた。まあ、困ってはなさそうだ。
 そして、仕事を終える時間が迫ってきているので、私は涼の所へ。

「そろそろ上がりますけど、どうします?」
「ああ、一緒に帰るわ。会計頼む」

 スマホから顔を上げた涼は、そのままササッと片付けて、会計へ。それを終え、私はテーブルを片付け、丁度時間で。
 奥へ引っ込み、身じたくを整え、挨拶をして。
 出てからスマホを見よう、と裏から出たら、涼が居た。

「あ、来たか。一応、送ったんだけど」
「すみません。まだ見てません」
「そか。まあ、帰ろう」

 で、手を繋いで、帰る途中、

「涼、通知表を見ている時、なんだか難しい顔をしている感じでしたけど、どうしました?」
「ん、や、……これは現実かな、と」
「……良い意味で、ですか?」
「うん。そう。……父さんたち、どんな顔するかなと」
「喜んでくれると思いますよ。……あと、差し出がましいかも知れませんが、日向子さんも」
「……ああ、そうだよな。……ありがとう、光海」
「こちらこそ、涼」

  ◇

「(お前は彼女一筋だな)」

 家に帰ってきて、ヴァルターは言った。

「(兄さんだって義姉さん一筋だろ)」

 ウェルナーは、なんでもないことのように言う。

「(そうだな。かおるは天に行ってしまったけど、彼女はまだ、ここに居るしな。……イタリア語、ちゃんと話せるようになったんだから、話してみればいいのに)」
「(うっせ。簡単に出来てたら苦労しねぇわ)」

 ウェルナーは苛ついた声で言い、自室へ入ってしまった。

「(……兄弟だからかな。お前と私は似ているよ)」

 閉まっているドアに向かって、ヴァルターは苦笑した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

処理中です...