17 / 124
17 孫
しおりを挟む
朝、起きたら、マリアちゃんから、グループへの招待が来ていた。あのラインのグループはすぐに作られたらしい。早速とそこに入って。よろしくお願いします、の、スタンプを送った。
朝ご飯を食べ、母と父と、勇斗と彼方と愛流と祖父母とマシュマロと一緒に、ドッグランへ。大樹は友達とカラオケだそうだ。
愛流と祖父母と一緒に、マシュマロたちが駆け回ったり窘められたりするのを眺め、写真を撮りまくり、動画を撮りまくり、11時半。
「あ、時間だから、行くね」
と、バスと電車で帰り、ご飯を食べ、歯磨きをして支度を整え、図書館へ。
出入り口近くのベンチに座っていた橋本に声を掛ける。
「橋本さん、おまたせしました」
「ああ」
橋本は見ていたスマホを仕舞い、立ち上がる。
で、そこからはもう、いつもの流れ。
「はい。そろそろ時間ですね」
「おうよ……」
突っ伏す橋本に、少し気になり始めていたことを聞く。
「橋本さん、どうしていつも、終わったらテーブルに突っ伏すんです?」
「疲れる」
「……最初の頃なら、まだ分かりますが。あなたはだいぶ、基礎が固まりつつあります。応用も効くようになってきました。少しは余裕が出るのでは、と、思うんですが……勉強のスピード、落としましょうか?」
「やあ……たぶん、次からは、マシになる、と思う。それと、今日疲れたのは、勉強だけが原因じゃねぇし」
ムクリと顔を上げ、橋本がこっちを見た。
「話、あるって、言ったろ」
「ああ、はい」
「カメリアについてだ」
「カメリアに?」
「そう」
橋本が、真剣な顔になった。
「成川、お前、カメリアのパティシエ、知ってるか」
「十九川孝蔵さんですよね。お会いしたことは流石にありませんが、ホームページでの写真なら見たことあります」
「その人、俺の祖父。じいちゃん。母方の」
祖父。じいちゃん。母方の。……橋本の?
「はい?!」
橋本がビクリとした。けどこっちは、それどころじゃない。
「な、な、な……なんで今まで言ってくれなかったんですか……?」
「そ、れは、こう……色々、あった、から」
今! マシュマロに! なるな!
「えぇえ……どういう感情になればいいか分かりません……えぇ……」
なんかあったとしても! もっと早く言ってくれ!
「……嫌ンなったか」
「は? 何を」
「あの店」
「は、なぜ」
マシュマロを増幅させながら、橋本は目を逸らし、言った。
「……俺の、家だから。今まで散々馬鹿やってた奴が、孫だから」
「別にそこは別に? どっちかって言ったら、関係者に堂々と、カメリアについて語っていたことに羞恥を覚えます。……て、あ!」
橋本がまたビクッとしたけど!
「新作のマドレーヌ……あれは……まさか……?」
「……じいちゃんに、持たされた。ちゃんと礼をしろって」
十九川さん、ありがとうございます。
「えぇ……もう、ありがとうございます……え、じゃあ、なんですか? 私が自分で選ぶと言う前のお礼の品は……」
「……あれは、俺の、独断」
なぜ顔をしかめる。
「左様で……ああ、だから、新作についても詳しかった訳ですか」
「そう。……あと、一つ、いいか」
「まだ何か……?」
橋本は顔を逸したまま、しかめたまま、マシュマロのまま。
「バナナの、カップケーキ。あのレシピの原型は、俺が考えた」
「は、……は……は、あ?」
あの? 私が好きな? バナナカップケーキの? 考案者が? 目の前に居る、だと?
「……あの、一言、良いですか」
椅子の向きを変える。橋本に体を向けるように。
「あんだよ」
「ありがとうございます。あのお菓子を、この世に生み出してくださって」
深々と頭を下げた。
ああ、今なら、ガシャクロについて語る桜ちゃんの気持ちがとても分かる。マリアちゃんにファンだと言った人の、気持ちがよく分かる。
「いえ、もう、ありがとうございます。すみません、ありがとうございますとしか言えません。ありがとうございます、本当に」
頭を上げつつ、言う。そして、橋本の顔を、なんとか見れば。
「……橋本さん?」
今にも泣きそうな顔で、こっちを見ていた。
「え、すみません。勢いがアレでしたか? 不快な気分にさせてしまったでしょうか?」
「……違う。逆だ。……ハハッ」
橋本は手の甲で、溜まった涙を拭った。
「おまえ、成川、おまえ、マジ……マジで良い奴だな」
「いや、思ったことを言ったまでなんですが……」
「ああ、そうだよな。だよな。……はー……」
橋本は、天井を振り仰いだ。
「……で、話は以上だ」
向き直り、片付けを始める橋本を眺め、数秒。
「あ、はい。分かりました」
ハッとして、自分の片付けを始める。
「で、成川」
「なんですか?」
「今日、行くか? カメリア」
なぜ聞く?
「……臨時休業、とかですか?」
前にもあった。一年ほど前に。
『諸事情により、3日、お休みをいただきます』
と、ホームページとドアの張り紙に、そう、文字があった。
そしてその3日と、あとから5日の計8日間、カメリアはお休みした。
「ちげぇよ。この話を聞いて、それでもあの店に行きたいかって意味だ」
「え? 行きたいですけど?」
「そうか。……まあ、お前なら、そうか」
橋本は立ち上がり、リュックを背負う。
「待ってください。もう少しで……」
「別に、急がせねぇよ」
「どうも……終わりました。では」
トートバッグを持ち、立ち上がる。
「えー……行きますか、は、変ですかね?」
「なんで?」
「いえ、橋本さんのご家族のお店ですし……」
言ったら、橋本は軽く笑って、
「別に? そんなん気にしねぇわ」
「はあ……では、行きますか」
「ああ」
そして、いつものように? なのか? 図書館を出て、カメリアへと向かう。
「なあ、成川」
「なんですか?」
「カメリア、俺が継いだら、どう思う?」
どう……どう……?
「前途有望なのでは? バナナカップケーキ、発売されたのは私が中学2年の頃だと記憶しています。合ってますか?」
「合ってるけど」
「なら、同い年の橋本さんは、14か、その前か。もうその時既に、レシピを採用されるほどの力量を持っていたと、思うんです。なので、前途有望だと言いました」
「……あっそ……」
? この反応は、なんだ?
「継ぎたくないとかですか?」
顔を向ければ、橋本は前を向いて、遠くを見ているようで。
「いや、継ぎたい。そもそも、小さい頃からの夢だった。その話も、この前……した」
なんか、歯切れが悪いな。
「……反対されているんですか?」
「いや? 認めてくれた。思う存分やってみろって。……教えるからって」
やっぱり、なんか、ちょこちょこ暗いな。
「私から見ると、ですが。何か、不安定さのようなものを、橋本さんの言動から、窺えてしまうんですが。何か、不安なことでも?」
「や……不安、じゃ、ない。……話せたら、いつか、話す」
「……そうですか。では、私からも、一つ」
「なに」
「応援しています。パティシエになること、カメリアを継ぐこと。頑張ってくださいね」
言ったら、橋本は一瞬、顔をしかめて、けどすぐに、もとに戻って。
「……ああ、ありがとう」
久しぶりに、橋本から、ありがとうを聞いた気がした。
朝ご飯を食べ、母と父と、勇斗と彼方と愛流と祖父母とマシュマロと一緒に、ドッグランへ。大樹は友達とカラオケだそうだ。
愛流と祖父母と一緒に、マシュマロたちが駆け回ったり窘められたりするのを眺め、写真を撮りまくり、動画を撮りまくり、11時半。
「あ、時間だから、行くね」
と、バスと電車で帰り、ご飯を食べ、歯磨きをして支度を整え、図書館へ。
出入り口近くのベンチに座っていた橋本に声を掛ける。
「橋本さん、おまたせしました」
「ああ」
橋本は見ていたスマホを仕舞い、立ち上がる。
で、そこからはもう、いつもの流れ。
「はい。そろそろ時間ですね」
「おうよ……」
突っ伏す橋本に、少し気になり始めていたことを聞く。
「橋本さん、どうしていつも、終わったらテーブルに突っ伏すんです?」
「疲れる」
「……最初の頃なら、まだ分かりますが。あなたはだいぶ、基礎が固まりつつあります。応用も効くようになってきました。少しは余裕が出るのでは、と、思うんですが……勉強のスピード、落としましょうか?」
「やあ……たぶん、次からは、マシになる、と思う。それと、今日疲れたのは、勉強だけが原因じゃねぇし」
ムクリと顔を上げ、橋本がこっちを見た。
「話、あるって、言ったろ」
「ああ、はい」
「カメリアについてだ」
「カメリアに?」
「そう」
橋本が、真剣な顔になった。
「成川、お前、カメリアのパティシエ、知ってるか」
「十九川孝蔵さんですよね。お会いしたことは流石にありませんが、ホームページでの写真なら見たことあります」
「その人、俺の祖父。じいちゃん。母方の」
祖父。じいちゃん。母方の。……橋本の?
「はい?!」
橋本がビクリとした。けどこっちは、それどころじゃない。
「な、な、な……なんで今まで言ってくれなかったんですか……?」
「そ、れは、こう……色々、あった、から」
今! マシュマロに! なるな!
「えぇえ……どういう感情になればいいか分かりません……えぇ……」
なんかあったとしても! もっと早く言ってくれ!
「……嫌ンなったか」
「は? 何を」
「あの店」
「は、なぜ」
マシュマロを増幅させながら、橋本は目を逸らし、言った。
「……俺の、家だから。今まで散々馬鹿やってた奴が、孫だから」
「別にそこは別に? どっちかって言ったら、関係者に堂々と、カメリアについて語っていたことに羞恥を覚えます。……て、あ!」
橋本がまたビクッとしたけど!
「新作のマドレーヌ……あれは……まさか……?」
「……じいちゃんに、持たされた。ちゃんと礼をしろって」
十九川さん、ありがとうございます。
「えぇ……もう、ありがとうございます……え、じゃあ、なんですか? 私が自分で選ぶと言う前のお礼の品は……」
「……あれは、俺の、独断」
なぜ顔をしかめる。
「左様で……ああ、だから、新作についても詳しかった訳ですか」
「そう。……あと、一つ、いいか」
「まだ何か……?」
橋本は顔を逸したまま、しかめたまま、マシュマロのまま。
「バナナの、カップケーキ。あのレシピの原型は、俺が考えた」
「は、……は……は、あ?」
あの? 私が好きな? バナナカップケーキの? 考案者が? 目の前に居る、だと?
「……あの、一言、良いですか」
椅子の向きを変える。橋本に体を向けるように。
「あんだよ」
「ありがとうございます。あのお菓子を、この世に生み出してくださって」
深々と頭を下げた。
ああ、今なら、ガシャクロについて語る桜ちゃんの気持ちがとても分かる。マリアちゃんにファンだと言った人の、気持ちがよく分かる。
「いえ、もう、ありがとうございます。すみません、ありがとうございますとしか言えません。ありがとうございます、本当に」
頭を上げつつ、言う。そして、橋本の顔を、なんとか見れば。
「……橋本さん?」
今にも泣きそうな顔で、こっちを見ていた。
「え、すみません。勢いがアレでしたか? 不快な気分にさせてしまったでしょうか?」
「……違う。逆だ。……ハハッ」
橋本は手の甲で、溜まった涙を拭った。
「おまえ、成川、おまえ、マジ……マジで良い奴だな」
「いや、思ったことを言ったまでなんですが……」
「ああ、そうだよな。だよな。……はー……」
橋本は、天井を振り仰いだ。
「……で、話は以上だ」
向き直り、片付けを始める橋本を眺め、数秒。
「あ、はい。分かりました」
ハッとして、自分の片付けを始める。
「で、成川」
「なんですか?」
「今日、行くか? カメリア」
なぜ聞く?
「……臨時休業、とかですか?」
前にもあった。一年ほど前に。
『諸事情により、3日、お休みをいただきます』
と、ホームページとドアの張り紙に、そう、文字があった。
そしてその3日と、あとから5日の計8日間、カメリアはお休みした。
「ちげぇよ。この話を聞いて、それでもあの店に行きたいかって意味だ」
「え? 行きたいですけど?」
「そうか。……まあ、お前なら、そうか」
橋本は立ち上がり、リュックを背負う。
「待ってください。もう少しで……」
「別に、急がせねぇよ」
「どうも……終わりました。では」
トートバッグを持ち、立ち上がる。
「えー……行きますか、は、変ですかね?」
「なんで?」
「いえ、橋本さんのご家族のお店ですし……」
言ったら、橋本は軽く笑って、
「別に? そんなん気にしねぇわ」
「はあ……では、行きますか」
「ああ」
そして、いつものように? なのか? 図書館を出て、カメリアへと向かう。
「なあ、成川」
「なんですか?」
「カメリア、俺が継いだら、どう思う?」
どう……どう……?
「前途有望なのでは? バナナカップケーキ、発売されたのは私が中学2年の頃だと記憶しています。合ってますか?」
「合ってるけど」
「なら、同い年の橋本さんは、14か、その前か。もうその時既に、レシピを採用されるほどの力量を持っていたと、思うんです。なので、前途有望だと言いました」
「……あっそ……」
? この反応は、なんだ?
「継ぎたくないとかですか?」
顔を向ければ、橋本は前を向いて、遠くを見ているようで。
「いや、継ぎたい。そもそも、小さい頃からの夢だった。その話も、この前……した」
なんか、歯切れが悪いな。
「……反対されているんですか?」
「いや? 認めてくれた。思う存分やってみろって。……教えるからって」
やっぱり、なんか、ちょこちょこ暗いな。
「私から見ると、ですが。何か、不安定さのようなものを、橋本さんの言動から、窺えてしまうんですが。何か、不安なことでも?」
「や……不安、じゃ、ない。……話せたら、いつか、話す」
「……そうですか。では、私からも、一つ」
「なに」
「応援しています。パティシエになること、カメリアを継ぐこと。頑張ってくださいね」
言ったら、橋本は一瞬、顔をしかめて、けどすぐに、もとに戻って。
「……ああ、ありがとう」
久しぶりに、橋本から、ありがとうを聞いた気がした。
3
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
初恋
ももん
恋愛
全ての変化を嫌う女の子高橋玲香(たかはしれいか)と、いつもみんなに囲まれる人気者の水野春樹(みずのはるき)の物語です。
水野春樹により様々な変化をもたらされていく高橋玲香の様子や、水野春樹の抱える問題を細かく掘り下げて、キャラクターがどんな思考、どんな性格をしているかを細かく表現しています。
少し長いですが、「変化」を楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
まだ完結していないので、楽しみに待っていただけると幸いです。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
お隣さんは陰陽師
タニマリ
恋愛
小さな時から幽霊が見える私。周りには変な子だと思われ、いつしか見えることを隠すようになっていった。
高校生となったある日、母の生まれ故郷に引っ越すこととなり海辺の街へとやってきた。
今日から住む母の実家の隣には、立派な庭のある大きなお屋敷が建っていて……
様々な幽霊たちと繰り広げられる、恋愛色強めの現代版陰陽師のお話です。
悪役令嬢は断罪回避のためにお兄様と契約結婚をすることにしました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
☆おしらせ☆
8/25の週から更新頻度を変更し、週に2回程度の更新ペースになります。どうぞよろしくお願いいたします。
☆あらすじ☆
わたし、マリア・アラトルソワは、乙女ゲーム「ブルーメ」の中の悪役令嬢である。
十七歳の春。
前世の記憶を思い出し、その事実に気が付いたわたしは焦った。
乙女ゲームの悪役令嬢マリアは、すべての攻略対象のルートにおいて、ヒロインの恋路を邪魔する役割として登場する。
わたしの活躍(?)によって、ヒロインと攻略対象は愛を深め合うのだ。
そんな陰の立役者(?)であるわたしは、どの攻略対象ルートでも悲しいほどあっけなく断罪されて、国外追放されたり修道院送りにされたりする。一番ひどいのはこの国の第一王子ルートで、刺客を使ってヒロインを殺そうとしたわたしを、第一王子が正当防衛とばかりに斬り殺すというものだ。
ピンチだわ。人生どころか前世の人生も含めた中での最大のピンチ‼
このままではまずいと、わたしはあまり賢くない頭をフル回転させて考えた。
まだゲームははじまっていない。ゲームのはじまりは来年の春だ。つまり一年あるが…はっきり言おう、去年の一年間で、もうすでにいろいろやらかしていた。このままでは悪役令嬢まっしぐらだ。
うぐぐぐぐ……。
この状況を打破するためには、どうすればいいのか。
一生懸命考えたわたしは、そこでピコンと名案ならぬ迷案を思いついた。
悪役令嬢は、当て馬である。
ヒロインの恋のライバルだ。
では、物理的にヒロインのライバルになり得ない立場になっておけば、わたしは晴れて当て馬的な役割からは解放され、悪役令嬢にはならないのではあるまいか!
そしておバカなわたしは、ここで一つ、大きな間違いを犯す。
「おほほほほほほ~」と高笑いをしながらわたしが向かった先は、お兄様の部屋。
お兄様は、実はわたしの従兄で、本当の兄ではない。
そこに目を付けたわたしは、何も考えずにこう宣った。
「お兄様、わたしと(契約)結婚してくださいませ‼」
このときわたしは、失念していたのだ。
そう、お兄様が、この上なく厄介で意地悪で、それでいて粘着質な男だったと言うことを‼
そして、わたしを嫌っていたはずの攻略対象たちの様子も、なにやら変わってきてーー
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる