5 / 124
5 バイト先と新作マドレーヌ
しおりを挟む
今日は土曜。私は今、午後からのバイトに勤しんでいる。
私のバイト先は、家から3駅ほど離れた場所にある、個人経営の、フランスの家庭料理のレストランだ。
店名は『le goût de la maison』。フランス語で『我が家の味』という意味である。
そのお店の店主で経営者の御夫婦は、共にフランス人。お二人は日本に留学していた時に、交流会で出会い、意気投合、のち、結婚。故郷のフランスも好きだけど、日本も大好きな御夫婦は、日本に根を下ろすことを決め、故郷であるフランスのことを知ってもらおうと、レストランを開いたらしい。
で、私がそこで働くと決めた理由。結構時給が良いのもあるけど、なによりフランス──外国の人と関われること、だ。経営者も、お客さんも半分はフランスや、他の外国の人。
私は、世界のことが知りたい。異文化交流をして、見識を広めたい。大学も、出来れば海外の所へ行きたいと思っている。
そのためにと、学びつつ、お金を貯めるため、選んだのがここだ。
「(光海、水のおかわりを頼むよ)」
常連さんであるクリスさんに、声をかけられる。
「(はい。今持ってきます)」
私は、だいぶ慣れてきたフランス語で、それに答えた。
御夫婦が店を始めたのは、4年前。そして、御夫婦の親戚やご友人がたが常連となってくれて、店を支えてくれたそうだ。そのうち、少し経営が安定して、バイトを募集しようか。の、話を聞いて、私は飛びついた。なぜ飛びついたか? 飛びつけたのか? その御夫婦の友人の一人が、父の弟だったから。
父の弟──明宏さんは、開店当初の店を支えた一人であり、私たち家族にこの店を紹介してくれた人であり、色々と私の相談に乗ってくれた人でもある。私はある意味コネで、ここのバイトになったのだ。なれたのだ。ならば、全力で挑む。
「(光海、高校は慣れた?)」
アナさんに聞かれる。
「(通い始めて一年以上ですよ? 友達も居ますし、楽しいです)」
未だに常連さんはよく来てくれるし、私も半分くらい常連だったので、よく来る人とはもう、こういう感じで接客してる。と、いうか、必死に店のことやフランスや他の国について学びながら働いているのを、御夫婦もお客さんたちも知ってくれているので、温かく接してくれる。
カラン、とドアベルが鳴る。顔を向ける。いつも、誰が来たかを確認してから、話すようにしている。
「いらっしゃいませ」
「あ、光海」
「光海さん。どうも」
明宏さんと、そのパートナーの楓さんだ。
「いつもの席、空いてますけど、どうします?」
この二人のいつもの席は、店主の一人、アデルさんが描いた故郷の絵が飾られている席だ。
「いい?」
「ああ、うん」
明宏さんの問いかけに、楓さんが頷く。
「では、どうぞ。お水、お持ちしますね」
で、水を持ってきて、「どうぞ」と二人の前に置く。
「(光海、会計頼むよ)」
「(はい。今行きます)」
私は二人に、「どうぞごゆっくり」と言ってから、レジへ向かう。
厨房には店主の一人、ラファエルさんが。接客は私と、休み休みでアデルさんが。
アデルさんのお腹には赤ちゃんがいる。妊娠3ヶ月で、そろそろ4ヶ月になるそうだ。そして二人は、妊娠が分かってから、私に言ってくれた。このまま働いてくれないか、と。アデルさんもラファエルさんも、店を閉めたくない。私の負担は増えるだろうけど、どうか、働いてくれないか。私は働かせて下さいと、頭を下げた。二人はありがとうと言ってくれた。嬉しかった。泣いてしまった。なんとか涙を引っ込め、「(私こそ、ありがとうございます)」と、言った。
◇
今は午後の6時半。バイトを終え、電車に揺られながら、ふと、思った。
……確か、カメリア、8時までやってたよね? あのマドレーヌ、食べれないかな。
思い立ち、その足で、カメリアへ向かう。
「いらっしゃいませ」
「こんばんわ」
私はショーケースを眺めつつ、焼き菓子のコーナーへ足を向ける。
あった。マドレーヌ。プレーンにチョコに抹茶にダージリン。ここまではいつものだ。それと、新作・オレンジマドレーヌ、のポップが付いたカゴに、マドレーヌ。
やっぱり新作だったのか。そしてやっぱりオレンジだったのか。
私はそれを1つ取り、会計へ。
「いつもありがとうございます」
馴染みの店員さんに言われる。
「いえ、こちらこそ。いつも美味しく頂いてます」
「これ、今月の新作なんです。良かったら感想下さいね」
「はい。ありがとうございます」
で、マドレーヌを持って帰ってきて、家の屋上で食べ、うん、美味しい。あの味だ。と、思って、ふと。
「……今月の新作?」
橋本は、始業式の日に、これを持ってきた。始業式は4月3日だ。
「まあ、1日から店に並んでたら、おかしなことはないか」
けど、だとしたら。あのマドレーヌを買って橋本に持たせた人は、相当なカメリア通だ。
私のバイト先は、家から3駅ほど離れた場所にある、個人経営の、フランスの家庭料理のレストランだ。
店名は『le goût de la maison』。フランス語で『我が家の味』という意味である。
そのお店の店主で経営者の御夫婦は、共にフランス人。お二人は日本に留学していた時に、交流会で出会い、意気投合、のち、結婚。故郷のフランスも好きだけど、日本も大好きな御夫婦は、日本に根を下ろすことを決め、故郷であるフランスのことを知ってもらおうと、レストランを開いたらしい。
で、私がそこで働くと決めた理由。結構時給が良いのもあるけど、なによりフランス──外国の人と関われること、だ。経営者も、お客さんも半分はフランスや、他の外国の人。
私は、世界のことが知りたい。異文化交流をして、見識を広めたい。大学も、出来れば海外の所へ行きたいと思っている。
そのためにと、学びつつ、お金を貯めるため、選んだのがここだ。
「(光海、水のおかわりを頼むよ)」
常連さんであるクリスさんに、声をかけられる。
「(はい。今持ってきます)」
私は、だいぶ慣れてきたフランス語で、それに答えた。
御夫婦が店を始めたのは、4年前。そして、御夫婦の親戚やご友人がたが常連となってくれて、店を支えてくれたそうだ。そのうち、少し経営が安定して、バイトを募集しようか。の、話を聞いて、私は飛びついた。なぜ飛びついたか? 飛びつけたのか? その御夫婦の友人の一人が、父の弟だったから。
父の弟──明宏さんは、開店当初の店を支えた一人であり、私たち家族にこの店を紹介してくれた人であり、色々と私の相談に乗ってくれた人でもある。私はある意味コネで、ここのバイトになったのだ。なれたのだ。ならば、全力で挑む。
「(光海、高校は慣れた?)」
アナさんに聞かれる。
「(通い始めて一年以上ですよ? 友達も居ますし、楽しいです)」
未だに常連さんはよく来てくれるし、私も半分くらい常連だったので、よく来る人とはもう、こういう感じで接客してる。と、いうか、必死に店のことやフランスや他の国について学びながら働いているのを、御夫婦もお客さんたちも知ってくれているので、温かく接してくれる。
カラン、とドアベルが鳴る。顔を向ける。いつも、誰が来たかを確認してから、話すようにしている。
「いらっしゃいませ」
「あ、光海」
「光海さん。どうも」
明宏さんと、そのパートナーの楓さんだ。
「いつもの席、空いてますけど、どうします?」
この二人のいつもの席は、店主の一人、アデルさんが描いた故郷の絵が飾られている席だ。
「いい?」
「ああ、うん」
明宏さんの問いかけに、楓さんが頷く。
「では、どうぞ。お水、お持ちしますね」
で、水を持ってきて、「どうぞ」と二人の前に置く。
「(光海、会計頼むよ)」
「(はい。今行きます)」
私は二人に、「どうぞごゆっくり」と言ってから、レジへ向かう。
厨房には店主の一人、ラファエルさんが。接客は私と、休み休みでアデルさんが。
アデルさんのお腹には赤ちゃんがいる。妊娠3ヶ月で、そろそろ4ヶ月になるそうだ。そして二人は、妊娠が分かってから、私に言ってくれた。このまま働いてくれないか、と。アデルさんもラファエルさんも、店を閉めたくない。私の負担は増えるだろうけど、どうか、働いてくれないか。私は働かせて下さいと、頭を下げた。二人はありがとうと言ってくれた。嬉しかった。泣いてしまった。なんとか涙を引っ込め、「(私こそ、ありがとうございます)」と、言った。
◇
今は午後の6時半。バイトを終え、電車に揺られながら、ふと、思った。
……確か、カメリア、8時までやってたよね? あのマドレーヌ、食べれないかな。
思い立ち、その足で、カメリアへ向かう。
「いらっしゃいませ」
「こんばんわ」
私はショーケースを眺めつつ、焼き菓子のコーナーへ足を向ける。
あった。マドレーヌ。プレーンにチョコに抹茶にダージリン。ここまではいつものだ。それと、新作・オレンジマドレーヌ、のポップが付いたカゴに、マドレーヌ。
やっぱり新作だったのか。そしてやっぱりオレンジだったのか。
私はそれを1つ取り、会計へ。
「いつもありがとうございます」
馴染みの店員さんに言われる。
「いえ、こちらこそ。いつも美味しく頂いてます」
「これ、今月の新作なんです。良かったら感想下さいね」
「はい。ありがとうございます」
で、マドレーヌを持って帰ってきて、家の屋上で食べ、うん、美味しい。あの味だ。と、思って、ふと。
「……今月の新作?」
橋本は、始業式の日に、これを持ってきた。始業式は4月3日だ。
「まあ、1日から店に並んでたら、おかしなことはないか」
けど、だとしたら。あのマドレーヌを買って橋本に持たせた人は、相当なカメリア通だ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
初恋
ももん
恋愛
全ての変化を嫌う女の子高橋玲香(たかはしれいか)と、いつもみんなに囲まれる人気者の水野春樹(みずのはるき)の物語です。
水野春樹により様々な変化をもたらされていく高橋玲香の様子や、水野春樹の抱える問題を細かく掘り下げて、キャラクターがどんな思考、どんな性格をしているかを細かく表現しています。
少し長いですが、「変化」を楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
まだ完結していないので、楽しみに待っていただけると幸いです。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
お隣さんは陰陽師
タニマリ
恋愛
小さな時から幽霊が見える私。周りには変な子だと思われ、いつしか見えることを隠すようになっていった。
高校生となったある日、母の生まれ故郷に引っ越すこととなり海辺の街へとやってきた。
今日から住む母の実家の隣には、立派な庭のある大きなお屋敷が建っていて……
様々な幽霊たちと繰り広げられる、恋愛色強めの現代版陰陽師のお話です。
悪役令嬢は断罪回避のためにお兄様と契約結婚をすることにしました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
☆おしらせ☆
8/25の週から更新頻度を変更し、週に2回程度の更新ペースになります。どうぞよろしくお願いいたします。
☆あらすじ☆
わたし、マリア・アラトルソワは、乙女ゲーム「ブルーメ」の中の悪役令嬢である。
十七歳の春。
前世の記憶を思い出し、その事実に気が付いたわたしは焦った。
乙女ゲームの悪役令嬢マリアは、すべての攻略対象のルートにおいて、ヒロインの恋路を邪魔する役割として登場する。
わたしの活躍(?)によって、ヒロインと攻略対象は愛を深め合うのだ。
そんな陰の立役者(?)であるわたしは、どの攻略対象ルートでも悲しいほどあっけなく断罪されて、国外追放されたり修道院送りにされたりする。一番ひどいのはこの国の第一王子ルートで、刺客を使ってヒロインを殺そうとしたわたしを、第一王子が正当防衛とばかりに斬り殺すというものだ。
ピンチだわ。人生どころか前世の人生も含めた中での最大のピンチ‼
このままではまずいと、わたしはあまり賢くない頭をフル回転させて考えた。
まだゲームははじまっていない。ゲームのはじまりは来年の春だ。つまり一年あるが…はっきり言おう、去年の一年間で、もうすでにいろいろやらかしていた。このままでは悪役令嬢まっしぐらだ。
うぐぐぐぐ……。
この状況を打破するためには、どうすればいいのか。
一生懸命考えたわたしは、そこでピコンと名案ならぬ迷案を思いついた。
悪役令嬢は、当て馬である。
ヒロインの恋のライバルだ。
では、物理的にヒロインのライバルになり得ない立場になっておけば、わたしは晴れて当て馬的な役割からは解放され、悪役令嬢にはならないのではあるまいか!
そしておバカなわたしは、ここで一つ、大きな間違いを犯す。
「おほほほほほほ~」と高笑いをしながらわたしが向かった先は、お兄様の部屋。
お兄様は、実はわたしの従兄で、本当の兄ではない。
そこに目を付けたわたしは、何も考えずにこう宣った。
「お兄様、わたしと(契約)結婚してくださいませ‼」
このときわたしは、失念していたのだ。
そう、お兄様が、この上なく厄介で意地悪で、それでいて粘着質な男だったと言うことを‼
そして、わたしを嫌っていたはずの攻略対象たちの様子も、なにやら変わってきてーー
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる