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62 「僕は、あなたのものです」

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「ミクト、運転上手くなったねぇ」

 助手席から言う。

「どうも。ほぼペーパードライバー」

 運転席から言われる。
 今日はミクトと二人で、スーパーまで買い物である。
 母からメモを貰っていて、それに添って、おせちとお雑煮と年越し蕎麦の材料を買うのだ。
 その母は、ケイコ伯母さんのお見舞いに行っていて、父も付き添うと言われて、まあ、本音を言うと、母一人より断然安心なので、こうなった。

「いやだってさ、一人で車を維持するの、金がかかんのよ。しょうがないじゃん」
「車崎さん……は、車、要らなそうだな。旅行とか、どこでも行き放題じゃね?」
「あー、旅行ねー、行きたいねー……ちょっと相談しよ」

 どこ行こうかな。セイと二人でも良いし、子猫たちも連れてみんなで行っても良いし。

「そろそろ着く」
「はい」

 駐車場は、予想していたけど混んでいて、スーパーも混んでいた。流石、年末。
 カートを押して、メモのものや他に欲しいもの、食べたいものなどなどを、ミクトと一緒にカゴに入れていく。
 会計をして、ものを袋に詰め、カートに乗せて、それを車まで。車に荷物を乗せ終わって、カートを戻し、家族ラインに報告して、家路につく。

「ただいまーっと」

 家に荷物を運び、二人で手分けして仕舞っていく。

「ミクトはさ、今日はこれからどうすんの?」
「……課題、片付ける」
「おー、頑張れ」
「ナツキは?」
「家のことやって、時間余ったら、動画観るかな」

 アジュールのね。
 母と父が帰ってきたのは、夕方近くだった。伯母さんは、快方には向かっているけど、まだ、本調子ではないそうだ。なので断りを入れて家のことをして、帰ってきたそうな。
 そして、お夕飯を食べ終えて、お重におせちを詰めていく。お重は全部で三段だ。一段毎に写真を撮り、三段全て揃えて、もう一枚。そのお重を、冷蔵庫に仕舞う。
 寝る支度を終え、部屋のベッドに座って。

『おせち、詰めたよ。家に来たら一緒に食べようね。あと、お雑煮も。それとお蕎麦も、年越しじゃなくなっちゃうけど、セイの分もあるから、食べれそうなら一緒に食べよ』

 というメッセージと、お疲れ様、LOVE、のスタンプを送り、

『そろそろ寝るねー。おやすみ』

 おやすみスタンプを送って、眠った。
 翌日。大晦日。
 起きたら、おせちも雑煮も蕎麦も食べる、とセイからラインが来ていたので、よっしゃ了解! と、送った。
 で、今日は、いつもの家事以外はほぼ自由時間だ。ウチでは年越し蕎麦は、夕飯代わりに食べるし、除夜の鐘を聴きに行ったりもしない。
 ので、午後、お墓参りに来た。ミクトも着いてきた。というか、お昼を食べている時に、

『お彼岸行けなかったからさ、お墓参りしてくるよ』

 と、予定を伝えたら、

『なら俺が車出す』

 と、電車で行こうとしていた私に言い、お寺まで送ってくれた。
 その上、帰りも送ると言ってきて、今、一緒にお墓を綺麗にしている。

「……なあ」
「ん?」
「ここにも、いんの?」

 ミクトは、幽霊のことを指してるんだろう。

「居るよ。ぽつぽつとね」

 墓掃除に専念しながら、答える。

「墓場なのに?」
「そうだねぇ……いっぱい居るイメージ、あるよね。けど、いつ来ても、ぽつぽつだね。怖い人も居ないし」
「そうなんだ……」

 手を止めていたミクトは、墓掃除を再開させた。
 綺麗になったお墓に、お仏花とお線香、お菓子とお茶をセット。
 柄杓で水をかけ、お数珠を持って、念じる。
 遅くなりましたが、今年もありがとうございました、と。
 お菓子とお茶を回収して、車へ。
 運転中にまた、ミクトが、

「……車崎さん、二日は丸一日、居るんだよな?」
「その予定だよ。どっか連れていきたいの?」
「……墓参り、一緒にしたらどうなん?」
「うぇい?」

 どういうこと?

「毎回、ずっと一人で、ぽつぽつ居る幽霊のこと、考えたりしてたんだろ。見える人と一緒に、行ってきたら?」

 ほぉう……?

「まあ、一応、伝えてみる」

 そう答えたら、

「しっかり伝えろよ……」

 なんか、呆れられた。
 帰ったら、セイにそれを伝え、年越し蕎麦の準備。我が家は、お蕎麦の上に海老天とかき揚げを乗せて、食べる。
 出来上がった年越し蕎麦をパシャリ。で、コタツに並べて、いただきます。
 父は、ビールも飲みつつ、年末特番を見ている。母もそれに倣う。ミクトは蕎麦をすぐに食べ終えて、部屋に行った。私も食べ終え、片付けて、部屋に。
 セイは今頃、ショーをしてるんだよなぁ。
 そう思いながら、年越し蕎麦の画像と、

『これが我が家の年越し蕎麦です。どう?』

 と言うメッセージを、送った。
 食休みのあと、寝る支度をして、子猫たちの写真やアジュールの動画を見ていたら、通知。セイからだった。

『電話しても、良いですか』

 時間を確認すれば、仕事終わりのタイミング。
 なので、通話をタップ。

「もしもし?」
『遅くにすみません。今、大丈夫ですか?』
「うん。大丈夫。だらだらしてたから。そっちはどうだった?」
『好評だったと、思います。また一部、配信する予定です』
「おーすごいね。配信されたら観てもいい?」
『はい。……あの、お墓参り、僕が行っても良いんでしょうか?』
「ご先祖さまは、驚きつつ喜んでくれると思う。だから、セイが良ければ一緒に行って欲しいな」

 ……あれ、無言。

『……っ……行きます……ご先祖さまにも、ご挨拶します……!』

 声が、泣きそうになっている。

「ありがとう。嬉しい。すっごい嬉しいよ」
『ありがとうございます……ナツキさん……』

 泣き声が収まりそうに無い……! ええい! 最後の手段だ!

「セイ、会いたいな」
『僕も、会いたいです……』
「来れる?」
『いぎます……! 今すぐ……!』

 通話が切れた。私はパジャマの上にコートを着て、急いで玄関に行く。

「! ……お疲れ様」

 玄関を開ければもう、数歩の所に、セイが。

「ナツキさん……!」

 駆け寄れば、抱きついてきた。しっかりと、抱きしめる。

「お疲れ様。頑張ったね、セイ。本当にお疲れ様」
「頑張りました……今年の全力です……! 明日は、来年最初の全力です……!」

 肩に頭をつけ、ぐりぐりと。

「全力、頑張ってねって、言いたいけど、体、壊さないでね?」
「壊さないです! ご挨拶もして、ナツキさんと、旅行にも行きます!」
「うん。行こうね。どこに行きたい?」
「行きたい、場所……分かんないです……ナツキさんは、どこに……?」
「さあ……まずは、ゆったり過ごしたいかなって、思ってたよ。遊びに行くもの良いけど、旅館とかで、ゆったり」
「ゆったり……最高ですね……旅館か……良いな……」

 声、だいぶ、落ち着いたな。

「ご飯、足りてる? 食べれてる?」
「……食べて、ます……御三方にも、言われているので……」

 声が落ち込んだ。これは、怪しいな。

「今からでも、何か食べる? 年越し蕎麦とか」
「そ、それは、流石に……急ですし、お邪魔に……」

 セイが慌てて私から離れた。その顔は、瞳には、期待と不安が渦巻いてて。

「また、気付かれないように私の部屋、行こう? ミクトにだけは、何かのために、伝えておくね。で、一緒に年、越そう。……駄目かな」
「な、ナツキさんが、良いなら……」

 目をうろうろさせながらも、そう言ってくれたので。

「じゃあ、行こう。準備はいい?」
「え、あ、……はい。大丈夫、です」

 セイを私の部屋に連れていき、ミクトにラインで連絡。「待っててね」と、セイを残し、台所へ。
 下拵えしてて良かった。ツユを作り、海老天とかき揚げを作り、蕎麦を茹で、お椀に盛り付け、お箸も持って、部屋に向かう。

「おうよ」
「おうよ……?」

 ミクトが私の部屋の、ドアに凭れてスマホを見ていた顔を上げた。

「どした? 用事?」
「念のための、盾。車崎さんにも言ってある」
「おおお……頼もしい弟よ」

 家に味方がいるという、この安心感よ。

「……蕎麦、伸びんだろ。俺、もう行くから」
「うん、ありがとう。良いお年を」
「良いお年をー」

 スタスタと行ってしまうミクトに、ありがとう、と、心の中で、もう一度。

「おまたせ」

 ドアを開ければ、セイは、体育座りをしていて、頭を伏せていた。

「ミクトさんが、頼もし過ぎます……」

 力の入ってない、情けなさそうな声で言われる。

「助けてくれた人の力になりたいんだよ、たぶん。で、年越し蕎麦だよ、食べない?」

 ドアを閉め、セイに近寄る。

「食べます」

 セイが顔を上げた。そして、湯気の立つお椀に目を向け、

「一人分、ですか?」
「え、うん。……あ、私の分、取り分ければ良かった?」
「いえ、一緒に食べましょう。お箸は持ってますし」

 セイが空間に手を突っ込んだ。この光景、久しぶり。

「どこに座れば良いですか?」

 空間から、自分のお箸を取り出して、セイが聞いてくる。嬉しそうに。

「なら、ベッドで。隣、いいかな」
「もちろんです」
「では」

 ベッドに座ったセイの隣に腰を下ろし、セイに年越し蕎麦を渡す。

「まずは、どうぞ」
「はい。いただきます」

 蕎麦を啜り、

「……美味しいです……」

 かき揚げを囓り、

「美味しいです」

 海老天を一口。

「美味しいです……!」

 私は、「良かった良かった」と、口にする。

「はい。ナツキさんも」

 笑顔で渡され、お椀を受け取る。

「では、改めて。いただきます」

 それぞれ、一口ずつ食べて。

「はいどうぞ」
「いただきます」

 そのまま、一口ずつ食べ、交換して、を、繰り返して。

「ごちそうさま」
「はい。ごちそうさまでした」

 お椀と箸を床に置き、ひと心地。

「……ナツキさん、そろそろ、零時になります」

 箸を仕舞ったセイが、言う。

「このまま一緒に年を越しても、良いですか?」
「良いよ。……抱きしめて、いいかな」

 腕を広げれば、セイから抱きしめてくれる。

「ありがとう」

 私も抱きしめて、心からの言葉を言う。

「……ナツキさん」
「うん」
「愛してます」
「愛してる。私も。セイのこと、愛してる」
「……キスして、良いですか?」
「良いよ」

 唇が触れる。熱が絡まる。深くなる。どこまでも、心地良くなっていく。
 やっぱ、駄目だ。もう、セイのこれじゃないと、満足出来ない気がする。
 首に腕を回していたら、唇が、ふ、と、離れた。

「年、明けましたね」
「……明けたんだ……明けまして、おめでとう、セイ」

 キスしてたら年越したよ。

「明けましておめでとうございます、ナツキさん」

 セイは微笑んで、また、キス。

「ん……」

 ベッドに沈められて、あ、やべ、と思った。

「いいですか?」
「……セイの明日の仕事と、電気と、……周りに聞こえるのが、心配かな」
「防音、かけました。寝てたら、また、起こして下さい」

 言葉が終わると、部屋が暗くなる。

「ナツキさん」

 セイの手が、私の頬を撫でる。

「僕は、あなたのものです」


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