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37 倒せたから
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「ん、ん、まあ、セイは見えるしね。……小さい頃からさ。もう、こう、自我? がしっかりする前からさ、幽霊は見えてた」
子猫たちがするする下りて、私の膝に乗ってくれる。
「だからさ、それが普通だと思ってた。それと、あー五歳くらい、だったかな。それまでは、悪霊的なのには遭ったことなくて、周りからは、まあ、不思議がられてただけだった」
スマホを置いて、子猫たちを撫でながら、続ける。
「けど、その悪霊に遭ってからはさ、悪霊に遭う回数がどんどん増えて。その頃はもう、幽霊ってのがどういうものか分かってたから、周りに頼ろうとしたり、逃げ回ったりさ」
色々したなあ、あの頃は。
「親もね、私を病院に連れて行ってくれたり、私の言葉を信じて霊媒師を名乗る人を呼んだりしてくれたけど。病院で何回検査しても異常はなし。霊媒師も……五人くらいかな? 誰も幽霊をさ、見れない触れない聞こえない。で、八歳の時にね」
『お前を喰えば力が戻る』
「って、マジに食われそうになって。肩噛まれてさ」
「肩」
「そ。食べられたくはなかったから、必死にもがいて、そいつに一発食らわせた。そしたらソイツ、半分爆ぜてね。口を一回離したけど、また飛びかかってきて。消えろ! って叫びながら殴ったら、弾けて消えた。逃げたんじゃなくて消えたんだって分かった。それがなんでだかは、分かんないけど。で、自分で倒せるんならいいじゃん、解決じゃんって、周りに頼るの止めた。迷惑かけたくなかったし」
なんだけど。
「そしたらさ、私が、態度? 周りに頼るのやめたからかな。結局今までのはイタズラっていうか。構ってほしかったんだなみたいな解釈されて。っていう、話」
「……話して下さって、ありがとうございます」
硬い声のセイへ、顔を向ける。
真剣な、泣きそうな表情をしていた。
「……すみません。ただの我が儘なんですが。抱きしめても、良いですか?」
「こんな体勢でよければ」
子猫たちから手を離し、セイに向けて腕を広げる。セイは、ぎゅうと抱きしめてくれた。その背中に腕を回し、抱きしめ返す。
「ありがとね」
「いえ、僕はまだまだ力不足です。……ナツキさん、ナツキさんからは悪霊の残滓は感じませんが、肩の、お怪我は?」
「ああ、もう二十年も前のだからね。綺麗さっぱり消えてるよ。ぶっ飛ばすのになれるまでも何回か怪我したけど」
腕の力が強まった。
「大丈夫。ありがとう。全部消えてるから」
もう一回抱きしめて、背中をポンポン叩く。
「……ナツキさん」
「ん?」
ゆるゆると、体を離していくセイに合わせて、腕を外す。
「ネックレス、作り直しても、良いですか。それと今、その石が壊れない程度に、効果の付与と強化をしても、良いですか」
うつむき加減に言われる。
「それはとても有り難いけども」
「……も、なんでしょう」
「私も君に、そんな大層なものは無理だけど、なんか贈りたいんだって」
「はい。ありがとうございます。それも、ちゃんと考えます」
セイが顔を上げる。さっきより真剣な顔に見えた。
「それで、付与と強化、良いですか」
「あ、うん。外すから「いえ、そのままで大丈夫です」……分かった」
「では、失礼します」
セイが石を、左手でつまむ。そのまま包みこんで、右手の人差し指を当てる。すると、前に、アカネさんの時に見たような陣が、手のひらサイズで現れて。一気に小さくなって、左手の中に消えた。たぶん、石に、刻まれた。
「……ありがとうございます。一旦、全ての性能の強化と、悪霊除けを施しました」
セイは手を離し、そう説明してくれる。
「悪霊の消滅機能も付与したかったんですが、石の材質と許容量の関係で……すみません」
「いいよ。ありがとう。話も聞いてくれてありがとうね」
『『『にゃあ』』』
「あ、はい。写真……すみません。今の今で、大丈夫ですか?」
へにょりと、申し訳無さそうに言う。なんかその顔、久しぶりに見た気がするな。
「うん。大丈夫。じゃあ、どう撮ろうか?」
「どう……この前と、同じだと、変ですかね……?」
「え? さあ、分からん。でも、着てる服違うし、私は問題ないけど」
三匹が鳴いた。
「えっと、オッケーってことかな?」
子猫たちとセイを見比べ、聞く。
「あ、はい。……はい? ナツキさん、彼らの意思が分かったんですか?」
おっどろいてるぅ。
「いや、そういう訳じゃないけど。こう何回もやりとりをしてるとね。なんとなくこうかな? くらいの予想はつく」
「は、はあ……」
セイが驚いてるような、安心してるような、なんかよく分からない反応をしている間に、子猫たちは床へ下りた。
「じゃ、やりますか」
「あ、はい」
*
ナツキが寝室へ行き、暫くして。セイも、部屋の照明を消し、ナツキが用意してくれた布団に、恐る恐る入る。客用のものと分かっていても、これはナツキの所有物なのだという意識が、抜けない。
それに、本当なら今すぐにでも、新しい石を作りたい、が。
『ネックレス、ゆっくりで良いからね。前に言ってくれたみたいに、私もどういう見た目が良いか考えたいし』
そう、言われてしまい、守護霊たちからも、今は悪霊も、悪魔の気配も無いだろう。と釘を刺されてしまった。
「……」
寝れる気は、しない。今も頭の中で、新しい石についてと、撮った写真と、半分無意識に聞き耳を立ててしまったナツキの風呂の音と、声と。
風呂上がりのナツキの、姿が。ぐるぐる回る。
イヤホンも、半分は仕事のためだけれど、もう半分は、煩悩か動揺かよく分からないそれを鎮めるために、あえて、付けていた。守護霊たちも自分が変な行動をしないよう、見張ってくれていた。見張ってくれて助かったと、セイは思う。
こういうことに不得手だからこそ、自分は何をしでかすか分からない。守護霊たちにはもう、頭が上がらないどころか、足を向けて寝られない。
「……暖かいな……」
先程まで暖房を点けていたからだろうか。それとも、最近の布団乾燥機は、それほど高性能なのか。
「ふかふかだし」
掛け布団を、肩まで引き上げ、枕に頭を乗せる。
ホテルのベッドだって、良いホテルなら、当たり前に心地良く感じられる筈なのに。
何が違うんだろうか。ナツキが用意してくれたからだろうか。そこまで考えて、セイは軽く笑った。
だとしたら本当に、自分はナツキがいなければ生きていけない。
子猫たちがするする下りて、私の膝に乗ってくれる。
「だからさ、それが普通だと思ってた。それと、あー五歳くらい、だったかな。それまでは、悪霊的なのには遭ったことなくて、周りからは、まあ、不思議がられてただけだった」
スマホを置いて、子猫たちを撫でながら、続ける。
「けど、その悪霊に遭ってからはさ、悪霊に遭う回数がどんどん増えて。その頃はもう、幽霊ってのがどういうものか分かってたから、周りに頼ろうとしたり、逃げ回ったりさ」
色々したなあ、あの頃は。
「親もね、私を病院に連れて行ってくれたり、私の言葉を信じて霊媒師を名乗る人を呼んだりしてくれたけど。病院で何回検査しても異常はなし。霊媒師も……五人くらいかな? 誰も幽霊をさ、見れない触れない聞こえない。で、八歳の時にね」
『お前を喰えば力が戻る』
「って、マジに食われそうになって。肩噛まれてさ」
「肩」
「そ。食べられたくはなかったから、必死にもがいて、そいつに一発食らわせた。そしたらソイツ、半分爆ぜてね。口を一回離したけど、また飛びかかってきて。消えろ! って叫びながら殴ったら、弾けて消えた。逃げたんじゃなくて消えたんだって分かった。それがなんでだかは、分かんないけど。で、自分で倒せるんならいいじゃん、解決じゃんって、周りに頼るの止めた。迷惑かけたくなかったし」
なんだけど。
「そしたらさ、私が、態度? 周りに頼るのやめたからかな。結局今までのはイタズラっていうか。構ってほしかったんだなみたいな解釈されて。っていう、話」
「……話して下さって、ありがとうございます」
硬い声のセイへ、顔を向ける。
真剣な、泣きそうな表情をしていた。
「……すみません。ただの我が儘なんですが。抱きしめても、良いですか?」
「こんな体勢でよければ」
子猫たちから手を離し、セイに向けて腕を広げる。セイは、ぎゅうと抱きしめてくれた。その背中に腕を回し、抱きしめ返す。
「ありがとね」
「いえ、僕はまだまだ力不足です。……ナツキさん、ナツキさんからは悪霊の残滓は感じませんが、肩の、お怪我は?」
「ああ、もう二十年も前のだからね。綺麗さっぱり消えてるよ。ぶっ飛ばすのになれるまでも何回か怪我したけど」
腕の力が強まった。
「大丈夫。ありがとう。全部消えてるから」
もう一回抱きしめて、背中をポンポン叩く。
「……ナツキさん」
「ん?」
ゆるゆると、体を離していくセイに合わせて、腕を外す。
「ネックレス、作り直しても、良いですか。それと今、その石が壊れない程度に、効果の付与と強化をしても、良いですか」
うつむき加減に言われる。
「それはとても有り難いけども」
「……も、なんでしょう」
「私も君に、そんな大層なものは無理だけど、なんか贈りたいんだって」
「はい。ありがとうございます。それも、ちゃんと考えます」
セイが顔を上げる。さっきより真剣な顔に見えた。
「それで、付与と強化、良いですか」
「あ、うん。外すから「いえ、そのままで大丈夫です」……分かった」
「では、失礼します」
セイが石を、左手でつまむ。そのまま包みこんで、右手の人差し指を当てる。すると、前に、アカネさんの時に見たような陣が、手のひらサイズで現れて。一気に小さくなって、左手の中に消えた。たぶん、石に、刻まれた。
「……ありがとうございます。一旦、全ての性能の強化と、悪霊除けを施しました」
セイは手を離し、そう説明してくれる。
「悪霊の消滅機能も付与したかったんですが、石の材質と許容量の関係で……すみません」
「いいよ。ありがとう。話も聞いてくれてありがとうね」
『『『にゃあ』』』
「あ、はい。写真……すみません。今の今で、大丈夫ですか?」
へにょりと、申し訳無さそうに言う。なんかその顔、久しぶりに見た気がするな。
「うん。大丈夫。じゃあ、どう撮ろうか?」
「どう……この前と、同じだと、変ですかね……?」
「え? さあ、分からん。でも、着てる服違うし、私は問題ないけど」
三匹が鳴いた。
「えっと、オッケーってことかな?」
子猫たちとセイを見比べ、聞く。
「あ、はい。……はい? ナツキさん、彼らの意思が分かったんですか?」
おっどろいてるぅ。
「いや、そういう訳じゃないけど。こう何回もやりとりをしてるとね。なんとなくこうかな? くらいの予想はつく」
「は、はあ……」
セイが驚いてるような、安心してるような、なんかよく分からない反応をしている間に、子猫たちは床へ下りた。
「じゃ、やりますか」
「あ、はい」
*
ナツキが寝室へ行き、暫くして。セイも、部屋の照明を消し、ナツキが用意してくれた布団に、恐る恐る入る。客用のものと分かっていても、これはナツキの所有物なのだという意識が、抜けない。
それに、本当なら今すぐにでも、新しい石を作りたい、が。
『ネックレス、ゆっくりで良いからね。前に言ってくれたみたいに、私もどういう見た目が良いか考えたいし』
そう、言われてしまい、守護霊たちからも、今は悪霊も、悪魔の気配も無いだろう。と釘を刺されてしまった。
「……」
寝れる気は、しない。今も頭の中で、新しい石についてと、撮った写真と、半分無意識に聞き耳を立ててしまったナツキの風呂の音と、声と。
風呂上がりのナツキの、姿が。ぐるぐる回る。
イヤホンも、半分は仕事のためだけれど、もう半分は、煩悩か動揺かよく分からないそれを鎮めるために、あえて、付けていた。守護霊たちも自分が変な行動をしないよう、見張ってくれていた。見張ってくれて助かったと、セイは思う。
こういうことに不得手だからこそ、自分は何をしでかすか分からない。守護霊たちにはもう、頭が上がらないどころか、足を向けて寝られない。
「……暖かいな……」
先程まで暖房を点けていたからだろうか。それとも、最近の布団乾燥機は、それほど高性能なのか。
「ふかふかだし」
掛け布団を、肩まで引き上げ、枕に頭を乗せる。
ホテルのベッドだって、良いホテルなら、当たり前に心地良く感じられる筈なのに。
何が違うんだろうか。ナツキが用意してくれたからだろうか。そこまで考えて、セイは軽く笑った。
だとしたら本当に、自分はナツキがいなければ生きていけない。
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