上 下
21 / 71

21 夕食

しおりを挟む
「ちょっと声かけていいー?」
「え?! あ、はい! だ、いじょうぶです!」

 後ろのキッチンからのナツキの声に、セイは声がひっくり返りそうになりながら応えた。

「……いや、本当に大丈夫?」

 案の定、ナツキに訝しがられてしまう。

「いえ、あの、お三方と話をしていたもので……」
「お三方?」
「あ、ミケさんたちです」

 振り返りながら言えば、ナツキは調理台に手をついているのだろう、身を乗り出すような体勢で首を傾げていた。

「ああ、読み取れるかって話? 読み取れたんだ?」
「……結構、はっきりと……」
「そっかぁ。ちなみに、私が言ってた疑問は解消された?」
「あ、えっと……ざっくりまとめて言いますと、僕があなたといると、あなたへの危険が減るということを見抜いていたからだそうです……」
「へえ」

 ナツキは理解したような、まだしっくり来てないような声で応じたが、

「……」

 膝上の三匹はセイを、呆れも込めた目で睨んだ。お前はヘタレかと。
 無理です、とセイは一応念を送っておいた。

「あ、でさ、声かけた理由なんだけど。いい?」
「あ、はい」
「料理が完成しましてね。盛り付けて並べて食べたいんだけど、セイ、ここのテーブルと、そのローテーブル、どっちで食べたい? 私、夜は大体ローテーブルで食べてるんだよね。あ、強制じゃないから、こっちって思ったほうを言ってくれて良いよ」
「そうですね……」

 と、子猫たちがこっちで食べろと言ってくる。セイは断る理由などないので、

「では、ローテーブルで、良いですか?」
「おっけ」

 そしてまた動き出したナツキを見て、自分も手伝うためにと立ち上がろうとした、が。

「あの……」

 子猫たちがそのままでいるどころか、腹から胸へと登ってきた。

「動けないんですけど……?」

 問題ない、このまま行け、と命令を出されたので、セイは三匹が落ちないように手で支えながら、ナツキの元へ向かう。

「ん? ……ん? それは、どういう状況?」

 ナツキに真っ当な疑問を投げられた。

「いえ、なぜか、このままでナツキさんの方へ行けと、言われ……思念を送られまして……ぅわっ?」

 三匹はまた動き出す。セイの両肩へ、頭の上へと登って、座り心地を確かめ、最終的に、そこから動かなくなった。

「え? このまま? 手伝えと……?」

 戸惑っているセイの声と言葉に、ナツキは笑って、

「じゃ、そのまま手伝ってもらおうかな。その子たちの毛は抜けたら一瞬で消えちゃうけど、一応手を洗ってからね」
「は、はい……」

 *

 料理を全部並べ終えてから、私はちょっと、やっぱり少しは呑みたいな、という気分になってしまった。

「あのさ、セイ」
「はい」
「ちょっと呑んでいい? あ、セイもなんか呑む?」

 キッチンの向こうの冷蔵庫を指しながら言えば、子猫たちから解放されたセイは一瞬戸惑ったような顔になったけど。

「……ここは、ナツキさんの家なので、その、どうぞ……」

 よく分からないけど、良いと言ってくれたので。

「そう? なら発泡酒呑むかな。で、セイは何呑む? 私は明日も仕事あるからさ、軽くしか呑めないんだよね。てか、お酒あんま強くないし」
「え、そうなんですか」
「うん。今のセイみたいに、会う人みんなに、お酒に強いっぽい印象を与えるみたいだけど。で、何呑む? 発泡酒とかワインとか日本酒とかしかない……あ、前に誰かがくれたウイスキーもあるな。……誰に貰ったんだっけか……」

 記憶を辿っていると、

「では、僕も発泡酒で」
「いいの? ザル越えて枠のセイには物足りない気がするけど」
「いえ、調子乗って羽目を外したりしたくないので……」

 言いながら、居住まいを正すセイ。
 この前のこと気にしてんのかな。

「じゃ、持ってくんね。あ、そのまま呑む? グラスに注ぐ?」
「あ、ではグラス……あ、えと、手伝います」

 二人でキッチンに戻って、私は食器棚からグラスを二つ取りながら、セイに冷蔵庫のどこに発泡酒があるか教えた。
 で、お盆にグラスを乗せて、冷蔵庫から片手に一つずつ発泡酒を持って冷蔵庫を閉めようとしてたセイへ、

「あ、もう二本追加で」
「え? はい」

 お盆を差し出しながら言えば、セイは素直に、持っていたお盆に発泡酒を四本置いた。

「持ちますよ」
「じゃ、お言葉に甘えて」

 お盆をセイに渡して、一緒にリビングへ戻る。
 子猫たちはみんな、ソファの上で丸くなって寝てた。

「では」

 お盆からお酒とグラスをローテーブルに置いて、キッチンに戻るのは面倒だったので、そのお盆は横の棚に立てかけて。

「じゃ、いただきます!」
「はい、いただきます」

 向かい合わせになって座っていた私たちは手を合わせて、箸に手を伸ばした。

「でさ、セイ。今日、料理についてどう思った?」

 料理を一口ずつ食べてからプシュッ、と缶のタブを開け、聞いてみる。
 すると、セイは難しい顔になった。

「正直……ナツキさんのやっていることを見ていても……自分にそれが出来るとはとても……」
「そういう方向じゃなくてね、やってみようかな、とか、面白そうだな、とか、今やってるコレどうなってるのかな、とか、思えたかなーって」

 手酌でグラスに発泡酒を注ぎながら言ったら、セイはぽかんとした顔になる。

「何事もキッカケは些細な興味だったりするのさ。嫌だと思いながら料理を覚えようとするより、楽しみながらやって欲しい。そんで、やっぱ料理なんてムリ! ってなっても、それはそれでしょうがない」

 言いながら注ぎ終え、グラスの半分ほどまで飲むと、

「んでも、まあ、食べられないのはやっぱ少し心配かな。体質的に少食の人もいるけど、セイはそういうんじゃないんでしょ?」

 で、グラスを置いて、セイを見たら。

「……」

 難しい顔をしていた。難しいっていうか、悩ましい?

「……ナツキさん。ちょっと、空気が壊れるかも知れないんですけど、言っていいですか」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...