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10 親戚との面倒事

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 私には二つ、秘密がある。
 秘密というか、人に言いづらいことというか。
 一つは、幽霊が見えること。そして、もう一つが──

   *

 とある高級ホテルの、カフェスペースにて。

「どうも、はじめまして。神永ナツキと言います」

 カフェの雰囲気に合う瀟洒な椅子に座っている私は、出来るだけ愛想よく、対面の男性ににっこりと笑顔を作る。
 今日の私は、今が秋口ということもあって、伯母に半強制的に買わされたクリーム色のワンピースとスモーキーピンクのカーディガン、こちらも半強制的に買わされたカーディガンと似た色のフラットパンプスとベージュのちっちゃいショルダーバッグという出で立ちだ。
 ばっちりメイクもしてこいと言われていたので、顔もいつものナチュラルメイクじゃなく、フル装備メイクだ。そこに、イヤリングもして、ネックレスもして。髪だけは短いのでどうしようもないと、ヘアワックスを付けて整えているだけだけど。

「……はじめまして。小芝ヨウイチと言います」

 で、目の前の三十くらいに見える男性は、少し面食らったような顔をしながら、挨拶を返してくれた。

「じゃあ、あとはお二人でね。私がいたらお邪魔虫になっちゃいますから」

 ホホホ、と口に手を当て笑いながら、伯母はさっさと帰ってしまう。
 そして、私と小芝さんの二人だけが、カフェの店内に残された。

「……」

 なんとも居心地の悪そうな顔をして、目を彷徨わせる小芝さん。
 ……これはまた、どんな風に私のことを聞かされて、伯母さんに引っ張られてきたんだろう。

「小芝さん」

 私は笑みを顔に貼り付けたまま、努めて明るい声を出す。

「……はい」

「何か頼みます?」
「あ、あぁ、そうですね」

 小芝さんが頷いたので、軽食を頼み、当たり障りのない話をする。
 ……小芝さんの言葉は、歯切れが悪い。
 そしてそのまま、ぎこちなく食事は終わり、「では、そろそろお開きにしましょうか」と、帰路についた。
 ああ、今回も、伯母さんの思惑通りにはいかず、この顔合わせはここで終了だろう。

 私の秘密、というか人に話しづらいこと、その二。伯母がやたらとお見合いを勧めて来ること。というか、強引にセッティングしてくる。そしてその全てで、私は気の合う人と出会えていない。
 ていうか、そもそも私は、今現在特に恋人を欲していない。その上伯母さんは私のことを、そのお見合い相手に、どうも事実とはかなり異なった印象を植え付けてから、お見合いに臨んでいるらしい。そのせいで私は、大体いつも、面食らった相手の顔を拝むことになる。端的に言って、気が削がれる。無いやる気がゴリゴリと、もっと削られる。
 私の父の姉にあたるケイコ伯母さんは、基本、世話好きで良い人ではあるんだけど……。ちょっと、その世話好きが行き過ぎて、強引になってしまうところもある。
 伯母さんは、五年ほど前から私に「良い人いないの?」と言ってきて、三年ほど前からは「私が探してきてあげようか?」と言うようになって。
 当人の意志に関わらず、何度もああいう場を作ってくれてしまうのだ。

「あー……肩凝った」

 家のソファで、だらりと横になる。
 小芝さんと別れたその後、私は速攻家に帰り、メイクを落とし、シャワーを浴び、長袖シャツとジーパンといういつもの格好に着替えて、そこでやっと、肩の力を抜いた。
 ああいう格好、気が張って体が固くなって、心身ともに疲れるんだよね。

『んニィ~』
「なんだい、シロ。私今ちょっと疲れてるんだよ」

 ソファの裏側から登ってきたらしいシロが、ソファの背もたれの上から私を見下ろす。

『ニャッ』

 と、私のお腹の上に降りてきた。

「おおう?」
『ミャオン』

 そのまま私のお腹の上で、香箱座りになるシロ。こりゃ、動けないな。動く気もないけど。
 ちなみにクロとミケは、さっきから二匹でゴロゴロと、床で取っ組み合い、もといじゃれ合いをしている。

「あー……。……今日の夕飯、どうしよっかな……」

 明日は仕事だ。しっかり食べてしっかり寝ないと、業務に支障をきたしてしまう。
 でも今日は、ちょっと料理の気力がないな。どうしよっかな。
 ……冷凍うどんあったな。あれを釜玉にして食べるか。

「……うし、決まったら気力が湧いてきたぞ。……ん?」

 と、ローテーブルに置いておいたスマホが点滅していることに気付く。なにかメッセージでも受け取っていたらしい。

「……シロー……動きたいんですがー……」

 シロはいつの間にかスヤスヤと、お腹の上で寝てしまっている。

「んー……では、失礼して」

 お辞儀でもするように頭をコテンと下げて寝ているシロと私のお腹の間に、そっと手を入れる。その状態で、シロを起こさないようにしながら起き上がり、シロをソファへ。
 自由になった私はローテーブルからスマホを取り、開く。

「……ああ」

 来ていたメッセージは、セイからのものだった。
 何日か前のラインのやり取りで、礼は食事にしてもらうと決まった。出来れば気楽なトコが良い、と要望を出したら、分かりましたと返事をくれて、そしてその通り、ドレスコードも何もない、ちょっとお高めだけど気楽に行けるフレンチのランチに決まったのだ。
 その店の予約が無事取れたというのと、その時間が、画面に表示されている。

「はいはい。オッケーですよ」

 私は了承の言葉とスタンプを送った。そして立ち上がり、釜玉うどんを作るためにキッチンへと向かい──
 ふと。

「……そういや、なんでキミ達は、セイに懐いたんだろうね……?」

 寝ているシロと、まだじゃれ合いをしているクロミケへと視線を移し、疑問を口にした。


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