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27 恋愛バカて
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『はじめましてリリアちゃん。この手紙を読んでくれて嬉しいわ。これは、私たち王族とアルトゥールとの、呪いに関わることについて書いたものなの。あなたも耳にしたことがあるのでしょうけれど、わたくしたち王族は、呪われているアルトゥールとの関係を絶たなかった。どうしてそれができたかって言うと、あの呪いには、抜け道があったからなのよ。それは、こういうもの。呪いを受ける前からアルトゥールが愛している者は、その呪いの対象にはならない。つまり、死なない。これはすぐに判明したことなの。呪いを依頼した人物は、アルトゥールは自分を愛していると思い込んでいたそうだから、そういうものにしたみたいね。まあ、その人物についての話は省くわね。そして、あの子がその時最も頼りにしていて、心を開いてくれていたのは、あの子の父親と王族のわたくしたちだけだった。だから、必然的に、わたくしたちとの交流以外が減っていって、あの子は、女性には殆ど近寄らず、男性の友人たちやそこからの人脈だけを築いていった。ま、男性だって同性に恋心を持ってしまうこともあるけれど、あの子にとってはそういう行動のほうが気楽だったってことなの。で、ここからが本題なんだけれど』
一枚目はそこで終わっていた。……こ、ここからが本題……? ……二枚目を見るのが怖い。けど読まなければ不敬にあたる……。よ、読まざるを得ない……。
『平たく言うとね、そういう状況だったから、あの子、他人の女性との何かしらの経験とか、触れ合いが皆無なのよ。で、不幸なことに唯一頼れそうな周りの男たちは、恋愛バカばっかりだったの。ここまで書いたからそのまま続けちゃうけど、その恋愛バカっていうのが、エアハルトを筆頭に、ベネディクトやらアルフォンスやらコンラートやら、クラウスにディーター、とかだったのよ。それとあの子の父親でわたくしの弟のツェーザルも、恋愛バカだったの。そんな恋愛バカたちばっかり見てたから、恐らくというか確実に、あの子は変な方向のアプローチをしてくると思うわ。すでに経験していたらごめんなさいね。まだあなたと直接会っていない今、これを書いているから、あの子があなたへどういう態度を取っているか、これから取るか未知数だけれど、何かあったらわたくしたちを頼って頂戴ね。クラウディア・ハイレンヒル』
「……」
わたくしたちって、王族の方々でしょうか……。……ものっすごく頼りにくいんですけど……?!
「……てか、エアハルトて……国王陛下じゃないですか……」
いやさっきまで王妃のクラウディア様と行動を共にしていたけども……。
「リリア?」
「!」
思わず俯いてしまっていた顔を上げたら、目の前には夫の顔。い、いつの間に、ここに。
「陛下がどうしたんだ? やはり疲れているんじゃないか?」
心配そうな顔をしながら、右手で私の頬に触れてくる。私の目線に合わせるために屈んで、その深い青がまっすぐ私を見つめてくる──
「い、いえ疲れは大丈夫です。けれどこれ以上はお邪魔になってしまうでしょうから、私は帰りますね」
「……そうか」
「はい」
手紙を素早くたたんで封筒へ入れ、愛想笑いをしながら言う。これを読まれてはならない。
「では、侍女たちに声をかけ、馬車を呼んでまいりましょう」
ベルンハルトはそう言いながら立ち上がり、素早く侍女と情報共有をして、二人の侍女が馬車を呼びに行った。
「ほら、アルトゥール様。お気持ちは分かりますが、仕事を進めますよ」
夫はベルンハルトへ顔を向けて、「ああ」と言ってからまた私へ顔を戻し、
「今日は帰れそうにないから……少し、気力を分けてくれないか?」
少し期待するような、だというのに怖がっているような顔を向けられてしまったから、……どうにも、嫌とは言えなくて。
「……いいですよ」
返事をしたら、今度はとても嬉しそうな顔をして。
「……え?」
その顔が私に近づいてきて、
「え」
柔らかなものが頬に触れた。
え、え? 今、ほっぺにキスされた?!
その上抱きしめてくるんだけど?!
「……リリア。愛してる」
ほぁい?!
「アルトゥール様。馬車の用意ができたと」
ベルンハルト! せめて今のになにか言って?! 今の一連の行動を日常風景みたいに受け止めないで?!
「で、車椅子も用意できたのですが」
夫は私を離してくれたけど、
「いや、私が運ぶ」
「ですよね」
ですよね?! 私また抱き抱えられて運ばれるの?!
「いえ、あの、アルトゥール様。まだお仕事があるのにそこまでしていただくわけには──」
「……嫌だろうか」
跪かれて言われるぅ……! なんか分かんないけど断れないぃぃ……!
「で、では、お言葉に甘えさせていただきます」
言い終えた瞬間に抱き上げられた。動きが! 無駄に! 素早い!
そしてまた、抱き上げられた状態で城内を進み、馬車に乗せられ、
「……今日は色々とすまなかった」
夫は今度は、申し訳無さそうな顔になり、謝ってきた。
「え、……と、どうしてそう仰るのですか? アルトゥール様にはなんの非もないと思うのですけれど」
ていうか被害者だよね。この一連の。
「君を混乱させた。悲しませてしまった。その上傷を負わせた。……夫として不甲斐ない」
そう言って、目を伏せた。
……また、この人は。
「アルトゥール様」
私は、踏み台の上で顔を俯かせている夫に腕を伸ばし、抱きしめた。
「り、リリア……?」
「あなたは立派な方です。不甲斐ないことなどありません。……お仕事、頑張ってくださいね」
私は腕を解くと、
「さ、お仕事にお戻りください。ここまでありがとうございました」
固まっている夫へ手を振り、同乗している侍女に扉を閉めてもらって、馬車を出発させた。
ちら、と窓から後ろを見れば、夫はまだあのまま、固まっているらしかった。……踏み台、回収できなかったんだな。
一枚目はそこで終わっていた。……こ、ここからが本題……? ……二枚目を見るのが怖い。けど読まなければ不敬にあたる……。よ、読まざるを得ない……。
『平たく言うとね、そういう状況だったから、あの子、他人の女性との何かしらの経験とか、触れ合いが皆無なのよ。で、不幸なことに唯一頼れそうな周りの男たちは、恋愛バカばっかりだったの。ここまで書いたからそのまま続けちゃうけど、その恋愛バカっていうのが、エアハルトを筆頭に、ベネディクトやらアルフォンスやらコンラートやら、クラウスにディーター、とかだったのよ。それとあの子の父親でわたくしの弟のツェーザルも、恋愛バカだったの。そんな恋愛バカたちばっかり見てたから、恐らくというか確実に、あの子は変な方向のアプローチをしてくると思うわ。すでに経験していたらごめんなさいね。まだあなたと直接会っていない今、これを書いているから、あの子があなたへどういう態度を取っているか、これから取るか未知数だけれど、何かあったらわたくしたちを頼って頂戴ね。クラウディア・ハイレンヒル』
「……」
わたくしたちって、王族の方々でしょうか……。……ものっすごく頼りにくいんですけど……?!
「……てか、エアハルトて……国王陛下じゃないですか……」
いやさっきまで王妃のクラウディア様と行動を共にしていたけども……。
「リリア?」
「!」
思わず俯いてしまっていた顔を上げたら、目の前には夫の顔。い、いつの間に、ここに。
「陛下がどうしたんだ? やはり疲れているんじゃないか?」
心配そうな顔をしながら、右手で私の頬に触れてくる。私の目線に合わせるために屈んで、その深い青がまっすぐ私を見つめてくる──
「い、いえ疲れは大丈夫です。けれどこれ以上はお邪魔になってしまうでしょうから、私は帰りますね」
「……そうか」
「はい」
手紙を素早くたたんで封筒へ入れ、愛想笑いをしながら言う。これを読まれてはならない。
「では、侍女たちに声をかけ、馬車を呼んでまいりましょう」
ベルンハルトはそう言いながら立ち上がり、素早く侍女と情報共有をして、二人の侍女が馬車を呼びに行った。
「ほら、アルトゥール様。お気持ちは分かりますが、仕事を進めますよ」
夫はベルンハルトへ顔を向けて、「ああ」と言ってからまた私へ顔を戻し、
「今日は帰れそうにないから……少し、気力を分けてくれないか?」
少し期待するような、だというのに怖がっているような顔を向けられてしまったから、……どうにも、嫌とは言えなくて。
「……いいですよ」
返事をしたら、今度はとても嬉しそうな顔をして。
「……え?」
その顔が私に近づいてきて、
「え」
柔らかなものが頬に触れた。
え、え? 今、ほっぺにキスされた?!
その上抱きしめてくるんだけど?!
「……リリア。愛してる」
ほぁい?!
「アルトゥール様。馬車の用意ができたと」
ベルンハルト! せめて今のになにか言って?! 今の一連の行動を日常風景みたいに受け止めないで?!
「で、車椅子も用意できたのですが」
夫は私を離してくれたけど、
「いや、私が運ぶ」
「ですよね」
ですよね?! 私また抱き抱えられて運ばれるの?!
「いえ、あの、アルトゥール様。まだお仕事があるのにそこまでしていただくわけには──」
「……嫌だろうか」
跪かれて言われるぅ……! なんか分かんないけど断れないぃぃ……!
「で、では、お言葉に甘えさせていただきます」
言い終えた瞬間に抱き上げられた。動きが! 無駄に! 素早い!
そしてまた、抱き上げられた状態で城内を進み、馬車に乗せられ、
「……今日は色々とすまなかった」
夫は今度は、申し訳無さそうな顔になり、謝ってきた。
「え、……と、どうしてそう仰るのですか? アルトゥール様にはなんの非もないと思うのですけれど」
ていうか被害者だよね。この一連の。
「君を混乱させた。悲しませてしまった。その上傷を負わせた。……夫として不甲斐ない」
そう言って、目を伏せた。
……また、この人は。
「アルトゥール様」
私は、踏み台の上で顔を俯かせている夫に腕を伸ばし、抱きしめた。
「り、リリア……?」
「あなたは立派な方です。不甲斐ないことなどありません。……お仕事、頑張ってくださいね」
私は腕を解くと、
「さ、お仕事にお戻りください。ここまでありがとうございました」
固まっている夫へ手を振り、同乗している侍女に扉を閉めてもらって、馬車を出発させた。
ちら、と窓から後ろを見れば、夫はまだあのまま、固まっているらしかった。……踏み台、回収できなかったんだな。
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