悲偽

弾風京作

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思郷

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「初対面なのに、こんなペラペラと。
こんな女だと思われちゃうかな。迷惑ですよね。」
「迷惑だなんて。楽しいですよ。
でも、大事な事を我々に話しちゃって大丈夫?」
「きっと誰かに聞いてもらいたかったんです。
お二人の雰囲気につい口が軽くなっちゃった。」

りえの話に飽きることなく
美味い酒を傾けながら時間は過ぎた。
「やだもう・・」
小一時間経ってもアニキが捕まらないりえは
泣きそうな顔で詫びを入れた。
「せっかくお店を休んでいただいたのに・・」
修ちゃんは、
『それは自分で決めた事だから気にしないで』
そうなだめた。
と、そこにりえの携帯に通知音が鳴った。
「えー。」
内容を読むと同時に電話を掛け出した。
相手は圭太さんのようだ。
「何回も連絡したのに、返事はLINEなの?
ん?うん、まーそう言ったけど、
ちょっと凄い展開になっちゃって、
東北沢まで来てよ。お願い。
友達との約束?うん、そこを何とか・・
アニキに是非紹介したい人が居るのよ。」
どうやら来てはくれそうにない返事のようだ。
電話を終えると、再びすまなそうに
「兄は都合が悪いみたいで・・
紹介出来ると思ったんですが
私の勝手で申し訳ありません。」

会えると思ったのはこちらの勝手だ。
りえの責任ではなかった。
「仕方ありませんよ。お兄さんにも都合がある。
無理強いしちゃいけませんよ。」
「そう言っていただけて助かります。
それじゃ、もし嫌じゃなかったら
今後また連絡を取るって事で
連絡先の交換は出来ないかしら。」
「私は構いませんよ。
耕太も近くに居るんだし、
コイツの力にもなってやってください。」
修ちゃんはオレの気持ちを確かめることなく
勝手に軽く返事してしまっていた。
「そうと決まったら・・」
LINEの交換を済ませた。


適当なところで切り上げたオレ達は
途中でりえと別れてアパートに向かった。

「ちゃんと片付けて置けば良かったな。」
まさかこんな嬉しい展開になるとは思わず、
部屋の汚さを嘆くオレだった。
「毎日忙しいんだから仕方ないよ。」
そう言ってくれた修ちゃんだったが、
「なんだ案外片付いているじゃないか。
女の子にでもさせてるんじゃないのかぁ?」
悪戯っぽく聞いて来た。
「だから、居ないって」
タクミの荷物は片付けておいて良かった。
実はそう胸をなで下ろしていた。
ハンガーを渡しながらソファを勧めた。

オレのホントの気持ちを伝えたい、そう思うが
それが出来ない運命に切なさを感じる。

「今バスタブにお湯溜めるから。」
「あ、おぉ、俺ならシャワーだけでいいぞ。」
「うん、でも何かと汗をかいたでしょ?
あぁ、修ちゃん下着の替え無いよね。
ちょっとそこのコンビニで買ってくるよ。
サイズは2L?3Lくらいかな。」
「いや、わざわざ行かなくてもいいぞ。
二日ぐらい平気だから。」
「もう!そんなんじゃ心配で
やはり嫁さんもらえって言っちゃうよ。
ついでにツマミも買うから気にしないで。」

浴室に入った修ちゃんを置いて
買い物に出かけた。
「あら奇遇。」
コンビニのカゴを抱えたりえだった。
オレのカゴの中を見て
「お兄さんの?あら、まだ飲み足りなかったのね。」
下着と缶ビール類を確認して笑った。
「りえさんも何か買い物?」
「えぇ、例の彼氏が来てて、何か食わせろって。」
「あ、もしかして待たせてたのかな。」
「ううん、今日お見合いするの知ってて、
その様子が心配だったみたいで。修一さんは?」
「うん、今風呂に入ってる。」
「そう、今日は楽しかった。
二人に出会えたし充実した時間だった。
また逢えるのを楽しみにしてるって、
よろしく伝えてね。
耕太さんには近々会えるわよね。
兄と会う段取りを作るから、連絡するわ。」
「ありがとう。」
レジを終え
「あ、帰りは大丈夫?」
夜道の一人を心配した。
「全然平気よ。まだ時間的に早いし、結構近いのよ。」
「そう。じゃあ、オレこっちだから。」
指さした方向に
「あら、同じ方向なのね。
じゃあ、ご一緒させてもらおう。」

「あ、ここだったのね。
私のトコはほらあそこ。」
目と鼻の先とはこういうことだろう。
オレはすごく近いことに驚いた。
「もしかしたらすれ違っているかもね。」
そう言ったが
「そんな事ないわよ。
兄に似た顔をスルーはずないじゃない。」
確かにそうか。
お互い手を挙げて別れた。

部屋に戻ると、修ちゃんはまだ風呂に居るようだった。
「下着、ここに置いておくから。」
風呂のドア越しに伝えた。
「おぉ、サンキュー。すぐ出るから。」
そう返事があった。
買って来たツマミを皿やボウルに移し替えて、
グラスを準備した。
修ちゃんが今オレのトコに居る。
それだけで緊張していたが、
傍に居てもらえる幸せの方が勝っていた。

そうしてると、突然玄関のチャイムが鳴った。
『誰だ?』
「ハーイ」
玄関ドアを少し開けると
「女と歩いてたから血迷ったかと思ったけど、
ホラ、やっぱり男連れ込んでやがる。
今回はパンプを連れてるからな。
言い逃れなんてさせないぞ。」
勝ち誇ったような顔つきのタクミが
ドアをグイっと開けて入って来た。
ドアの外でパンプがすまなそうな顔で
ちょこんと頭を下げた。
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