上 下
44 / 57
第五章

雨の日の再会

しおりを挟む
遅い朝食を終えると、私はしばらく窓の外を眺めていた。
雨は一向に止む気配がなく、灰色の雲が空を覆い尽くしていた。
レイチェル夫人が片付けを終え、私のそばに来た。

「今日は一日、雨のようですね。」

彼女は静かに言った。

「そうですね。雨の日はなんだか落ち着きます。」

微笑んで答えたが、心には不安が残っていた。

「よろしければ、午後に一緒に編み物でもしませんか?」

レイチェル夫人が優しく提案した。

「ありがとうございます。せっかくのお誘いですが、少し休みたいです。あの日のことを思い出すと、心が疲れて……。」

私は正直に答えた。

「そうですね。ゆっくり休んでください。何かあれば、すぐに声をかけてくださいね。」

レイチェル夫人は微笑み、部屋を出て行った。

疲れていた。
事情聴取では記憶喪失の演技をしていたが、頭の中ではすべてをしっかり覚えていた。
目を閉じると、あの夜のことが再びフラッシュバックのように蘇り、苦しくなった。
盗賊たちの荒々しい声、冷たい風の感触、無力感、肌を刺す痛み……。
すべてが鮮明に思い出された。

「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせながら、心の奥底にある恐怖と不安が少しずつ和らいでいくのを感じたが、完全には消えなかった。

雨が降り続く中、心がどれだけ弱くなっているかを痛感していた。
窓の外の雨はまるで私の涙のようで、心の中の不安と恐怖が一層強く感じられた。
外の世界が灰色に染まる中、心も同じように曇っていた。

その時、ふと人影が見えた。
傘も差さずに立っている姿に、目が引かれた。
誰だろう。
何をしているのだろう?

ベッドから起き上がって、窓に近づいた。
人影は動かず、こちらを見ているようだった。
視線に何かを感じ、急いで部屋を出て、人影の元へ向かった。

廊下を駆け抜け、玄関の扉を開けると、冷たい風が一気に吹き込んできた。
そこには、ずぶ濡れのリックさんが立っていた。

「リックさん!」

そう叫ぶと、彼の顔には驚きと安堵が入り混じった表情が浮かんでいた。
彼の服は泥まみれで、どれだけの困難を乗り越えてきたのかがうかがえた。

「サラ!」

なりふり構っていられなかった。
記憶喪失の演技をしていたが、心はもう限界に達していた。
土砂降りの中、彼の腕に飛び込んで泣いた。

「会いたかった……リックさん。怖かったよ……。」

「サラ、遅くなってごめんな。ずっと探してたんだ。」

リックさんの声には安堵と疲労が滲んでいた。
彼がどれだけの困難を乗り越え、私を見つけるために努力してくれたのか、その苦労が痛いほど伝わってきた。

彼の肩に顔を埋め、涙が止まらなかった。
彼の手が優しく私の背中を撫でた。
心の奥底に溜まっていた恐怖と孤独が一気に溢れ出し、涙と共に流れた。
リックさんの温もりが私のすべての不安を溶かしていくように感じた。

雨は勢いを増し、激しく地面を叩いていた。
雨が地面に跳ね返り、小さな水たまりが無数に広がっていた。
冷たい雨粒が顔に当たるたびに、冷えた空気が肌に染み渡った。
雨の音が周囲を包み込み、私たちを世界から切り離しているように感じた。

リックさんの背中に手を回し、彼の存在を確かめるように強く抱きしめた。

「リックさん、迎えに来てくれてありがとう。」

「サラ、もう心配いらないよ。」

彼の言葉に、心が少しずつ落ち着いていくのを感じた。
雨音が静かに響く中、再会の喜びと安心感が心を満たしていった。

雨はまるで私たちの過去の悲しみを洗い流してくれるかのようだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

処理中です...