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第四章

迫り来る影

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その夜、祖父の様子がおかしかった。
何かを探るような表情で、心ここにあらずだった。

「おじいちゃん、どうかしたの?」

いつものにこやかな祖父ではなかった。
祖父の目は鋭く、周囲を警戒していた。

「サラ、私の追手か、君を探しに来たのかわからんが、強い魔力の塊がこちらへと動いている。この感じは、帝国の宮廷魔法師団の精鋭部隊だ。」

祖父の声には深い憂慮があった。
彼の目は警戒心で鋭く光っていた。

「サラ、荷物をまとめなさい。私はアレクシスのもとに行ってくる。」

険しい表情の祖父に圧倒され、声も出なかった。
私は慌てて荷物をまとめた。
心臓が早鐘のように鳴り、手が震えるのを感じた。
数日分の衣服しか持っていなかったので、すぐに準備は整った。
私は居ても立ってもいられず、祖父を追ってアレクシスのもとへ急いだ。

会議室にはいつもの幹部とリックさん、祖父がいて、話し合いが始まっていた。
入室が許可された私は、リックさんの隣に座った。

「恐らくだが、サラの気配を辿って来ていると思う。魔力を解放した日、私もすぐに気づいたくらいだ。力のある魔術師であれば、この方角に何かあると察して動くだろう。」

祖父の言葉に、皆が重い沈黙に包まれる。
部屋の空気が一瞬で張り詰めた。
リックさんは眉をひそめ、厳しい表情で腕を組んでいた。

「あいつらは職務を全うするためなら、非道なことも何でもする。連れ去られる子供たちの叫びが、今でも耳に残っている。サラがそんな目に遭う前に、この地を去るべきだ。」

その言葉に、私の背筋が寒くなるのを感じた。
アレクシスの声も重く響き、彼の顔には深い決意が刻まれていた。

「みんなはどうなるの?」

私は震える声で尋ねた。
胸が締め付けられるような不安が私を襲った。
リックさんは私の手を握り、安心させようと微笑んだ。

「サラ、俺たちには強い魔力はない。脅威とはみなされないさ。あいつらは魔力至上主義ともいえるくらい潔い。事情は聞かれるかもしれないが、知らぬ存ぜぬで通すよ。心配せずに、エリオス殿と行くんだ。」

アレクシスの言葉に少しだけ安堵を感じたが、それでも心の中では不安が渦巻いていた。

「ここを去る前に、私とサラの痕跡を消す。安心してくれ。」

祖父には祖父の考えがあって、なるべくこの地に迷惑をかけない方法を考えてくれているようだ。

ここでリックさんが声を上げた。

「サラには俺の婚約者として、オルデン家に来てもらう予定だった。闇雲に動くよりは、予定通りに来てもらう方が安全だと思うんだが、どうだろうか。」

リックさんの婚約者……?
婚約者のふりをするということよね?
その言葉に、皆が考え込んだ。
「オルデン家」とはリックさんの家名なのだろうか。
彼の提案に心が揺れ動いた。
婚約者のふりをするなんて、本当に大丈夫……?

「サラ、そうしよう。リック、私も行ってよいか?」

祖父の言葉に、心が少しだけ軽くなった。

「もちろんです、エリオスさん。」

祖父とリックさんがそれで良いのなら、私はそれに従うしかない。今は時間がない。

「サラ、お前にはこの地から移動してもらう。この村に迷惑がかからないよう、ある程度離れた地点に移動したときに、封印の魔法をかける。本当は私のように、自分で気配を消せるようになってほしかったが、今は時間がない。帝国の者をそこに誘導する。サラの魔力がここで消えたとなれば、魔法師団も混乱するだろう。」

祖父は一瞬私を見つめ、その目には決意と覚悟が映っていた。

「サラ、この封印は一時的なものだ。お前を守るために必要なことだと理解してくれ。お前が安全な場所に行けるまで、私が全力でサポートする。皆もそれでよいな?」

「はい。」

皆の声が揃ったとき、私はこの場所を去る決意を固めた。
私はこれから、この地を去ることになる。
約2ヶ月間だろうか。
ここでも本当に良くしてもらった。

私はエルウィン先生にも別れを告げた。
先生は祖父とともに、私の容態を診てくれていたこともあり、祖父とも打ち解けていた。

「リック、サラのことを頼む。」

エルウィン先生はリックさんに向かって真剣な表情で頼んだ。
私の心臓はドキドキと高鳴り、別れの瞬間が近づいているのを実感した。

「はい、任せてください。」

リックさんは力強く頷き、その目には決意が宿っていた。
私の手をぎゅっと握りしめるその力強さに、少しだけ安心感を覚えた。

「エリオス殿、お会いできて光栄でした。どうかお体に気をつけて、長生きしてください。」

エルウィン先生の言葉に、祖父は微笑みを浮かべた。
その微笑みには、長い年月を経た人の優しさと温かさが滲んでいた。

「エルウィン殿、サラが本当に世話になった。感謝する。」

祖父の声には、深い感謝と敬意が込められていた。
私の目からは自然と涙が溢れ出してきた。

「エルウィン先生には、本当にお世話になりました。ここは私の居場所でした。先生もどうかお体に気をつけて、いつまでも元気でいてください。」

私の声は震えていたが、感謝の気持ちを伝えるために、しっかりとした言葉を選んだ。
エルウィン先生は優しく微笑み、私の頭を軽く撫でた。

「サラ……。」

その一言には、すべての感情が込められていた。
私はもう我慢できず、エルウィン先生に抱きついた。
彼の温もりは、まるで父親のように感じられた。

エルウィン先生の背中を感じながら、この場所での思い出が鮮明に蘇った。


別れはいつも突然にやってくる。


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