託され行くもの達

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七日目-1

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目を覚ませば暗闇だった。いや、これは本当に目を覚ましているのだろうか?

「確か‥‥俺は‥‥」

先刻のことを思い出し、ロファースの顔が青ざめる。暗闇の中、手探りで自分の体を手で触るが、

「傷が‥‥ない?」

自分は確かに刺されたはず。だが、体にはなんの異変もなくて‥‥
すると、一瞬だけ視界が眩く光る。
慌てて辺りを見回すと、暗闇の空間が今度は真っ白になっていて‥‥
前方に、光が一点に集まっている場所が見えた。
一筋の光に包まれるように、見知らぬ少女の姿があったのだ。


◆◆◆◆◆

「なんなんだよ、これは‥‥!」

レムズが叫ぶ。
エウルドス城内の玉座の間に居たはずが、その空間は一人の人物が現れたと共に歪み、景色などない、暗闇の空間となったのだ。

「君がロファース君の言っていた、神父様とやらですね」

現れた人物に向けて、クレスルドが言う。
先ほど玉座の間に現れたのは、神父服を身に纏った男であった。それを見てクレスルドは確信する。

「貴方が紅の魔術師様ですね。お初にお目にかかります。私がロファースの育ての親でもある、神父です。我が子と仲良くして下さりありがとうございました」

ニコリと、クレスルドとレムズに微笑んで神父は言った。

「育ての親、我が子‥‥ですか。はは。実験材料の間違いではないですか?」

クレスルドが言って、レムズはそれに困惑する。

「それはそれは‥‥面白い言い方をされますね。それもそうですか、貴方がかつてやられていたことをこちらは改良しただけですからね」

神父の言葉にクレスルドは黙りこんだ後で、

「過去はどうでもいい。今は貴様らエウルドスと言う化け物共をどうにかすることが先決だ。そうだろう、エウルドス王」

クレスルドが神父をそう呼ぶものだから、

「エウルドス王だって!?」

レムズが神父を見て叫ぶ。それから慌てて自分の能力で彼の未来を見ようとしたが、

(ーーっ!?なんだ!?意識が集中できない‥‥なんなんだこの空間は!?)

視えないわけではなく、力を使うことが出来ず、レムズは再び辺りを見回した。

「エウルドス王。ロファース君を騙し続けて楽しかったか?国の人々全てを化け物に造り変えて楽しかったか?」

クレスルドが声音を低くして言えば、

「ロファースには正体を先ほど明かしたんですけれど、またまんまと騙されましてね。私は神父だと信じ込んで‥‥それで油断をさせて、壊させてもらいました、失敗作なので」

喉を鳴らしながら神父ーーエウルドス王は笑う。

「ロファース君は狂わなかった、化け物にならなかった。誘惑に打ち勝った。紛れもなく、失敗作なんかじゃない。貴様こそが誘惑に負けた愚かな化け物だ」

クレスルドの言葉に、

「創始者ともあろう貴方が何故そんなことを言うのです?素晴らしいことではありませんか!私は貴方の創られたそれに惹かれたと言うのに‥‥まるで貴方は人間みたいなことを言う‥‥貴方は紅の魔術師様でしょう!?他者のことなど塵のようにしか思わない存在でしょうーー!?」

嘆くように、発狂するように、大袈裟にエウルドス王は叫んだ。

「‥‥ロファース君は貴様のことを心配していた。共に育った子供達を家族だと心配していた。そんな彼を裏切った貴様を僕は赦しはしない、決して」
「‥‥紅の魔術師様。時代を経て、まるで人間のようになられてしまったのですね、やっとお会い出来たというのに‥‥残念です‥‥ーーと、その前に、隣のお友達が状況を呑み込めていないようですね」

エウルドス王がレムズを指して言うので、クレスルドは隣に立つ少年に目を遣る。
レムズはただただ、疑問の表情を浮かべ、

「なっ‥‥なあ、一体、なんの話を‥‥」
「レムズ君‥‥君だけは何も知らなくていい。僕がすぐに終わらせ‥‥」
「私は子供の頃、神に古びた文献を与えられました」

クレスルドの言葉の途中でエウルドス王が何かを話し出した。

「それは人を強き存在ーー魔物に造り変えるという、子供の私にはとても興味深い文献でした。そして神がその秘薬を与えてくれたのです!私は早速それを両親である王と女王の食事に仕込みました」
「なっ‥‥何を‥‥」

レムズはいきなりの話に目を見開かせる。

「するとどうでしょう!父は獣に変わったではありませんか!母は適合しなかったようで、そのまま意識を失いました。厄介なのは、獣になっても意識は残ると言うこと‥‥子供の私は獣に成った父をどうしたらいいかわからず‥‥」
「言いたいことはわかった。だから言うな。貴様の話を聞きたいなどと誰が言った」

クレスルドは勝手にべらべらと喋る彼の話を止めたーー隣に居るレムズがガタガタと震えているのだ。

だが、やはりエウルドス王は話すのをやめはしない。

「ふふ‥‥私は、獣になった父を、正当防衛と称して打ちました。それから、意識を失った母が目覚めました。母は、父が獣になった理由を知るはずありません。私以外、誰も知りません。母は何年も何年も恐怖に怯えて部屋に隠っていました。その間に私は薬の効果を城の兵達にも試していました」

それからしばらく間を空け、

「数年経ったある日、母の状態が変わったのです。あの日の薬は、確かに母に効いていた!母は獣には成らず、違う者にーー腕が触手に変わっていたのです!それで私は知りました。薬の効き方は三種あるのだと」

エウルドス王は興奮していて、レムズはその話を苦虫を噛み締めたような表情で聞き、クレスルドはため息を吐き、

「一つは獣になることーー例としてはセルダー君。二つは何年経っても効き目は現れないことーー例としてはロファース君。三つ目は、薬の効きが良ければ、数年後に違った兆しを見せること‥‥確か、イルダンだったか?彼が例になる。そう言うことだろう?」

クレスルドの言葉にエウルドス王は嬉しそうに手拍子をした。

「流石です紅の魔術師様!そう‥‥そして私は城の者全てを一掃しました。新たな、私の理想をわかってくれる者たちだけを集める為に!」
「理想って‥‥なんだよ」

レムズが聞けば、

「それは勿論、この国を、いや、全世界を人間ではなく、人間を越えた存在が生きる世界とする為に!そう、神だけの世界です!」
「神‥‥ね」

クレスルドは小さく笑い、

「お前は理想を同じくする者を寄せ集め‥‥でも、途中でそれが面倒になったんだろう。この国の男は兵にならなければならないなんて戯れ言を国の規約のように撒き散らし、城で兵に育てる一方で薬を飲ませていた‥‥どうせ、そんなところだろう?」
「ええ。私は与えられた秘薬を文献を頼りに独自に改良してみたのです。元の薬は直ぐ様効き目が出やすいものでしたが、それを調整したものを兵となる子らには飲ませました。約、十八の歳で狂うようにする薬にね」

エウルドス王の言葉にクレスルドは息を吐いて、

「ロファース君や教会の子供達‥‥それも、お前が造り出したんだろう?」
「え?」

クレスルドの言葉にレムズは目を丸くする。

「その通りです」

と、神父は笑う。

「気になったんですよ。死体に薬を飲ませたらどうなるのか‥‥とね」
「死体にだと!?」

レムズが声を荒げた。

「先ほど、私は城の者を一掃したと言いましたよね。その一人に試しに薬を飲ませてみました。するとどうでしょう、その者は生き返ったではありませんか、獣の姿となって!しかも面白いことにその者は自分の意思で人の姿に戻ることも出来る例外の存在となったのです!その兵の名はガランダ。今も私の為に戦ってくれています。まあ、ただ自分の意思で人の姿に戻ることが出来るだけで、獣はたくさん製造できますからね。結局は使い捨て‥‥ですけれどね」

冷たく笑って言うその表情に、レムズは全身に鳥肌が立つ感覚を覚える。

「それから、他の死体はどうだろう、どんな効果だろう、私はそれが気になって気になって、形振り構わずに戦争を起こした。そして死体を回収し、改良に改良を重ねた薬を飲ませた。そう、ロファースと教会の子らもそうなのですよ!私が形振り構わずに起こした戦争の犠牲者!それに私は命を与えたのです!」
「なっ‥‥!!」

レムズの目から涙が溢れた。
暗闇の空間、地面に横たわるロファースを見て、目の前の男の狂った話を聞いて‥‥レムズは苦しくて苦しくて仕方がない。

「私は多くの墓標を暴き、いつどこの‥‥誰のものかもわからない屍を薬に混ぜ合わせました。改良を重ねた薬は誰かの魂を移植することも出来たのです。ですから、甦った死者の中に在る魂は本人の者ではなく別の魂‥‥誰のものかは全くわかりませんがね。ですから、ロファースは全くの新しい生命だというわけです」

戦争で命を落としたロファースの元の肉体。それに、改良した薬を投与し、死者は生き返った。だが‥‥生き返った魂は全くの別物だという。
そんな奇妙な話に、レムズは吐き気さえ感じた。

「ロファースや教会の子らは薬を飲ませてもその場では何も起きませんでした。十八になったロファースに期待したのですが、彼は狂わなかった。狂う為の最初の儀式‥‥そう、憎しみと血と狂気が入り交じった戦争。どうやらこの薬は人間の狂気の部分を引き立てる効果もあって、ほとんどの者は戦争に送り出すと戦いを楽しむ傾向にあるんです。今回、セルダーは狂って戦争を楽しんでいたのですが、ロファースに感化されていたのでしょうね、心までは狂いきれず、彼との友情で正常な気を僅かに保っていた。そしてロファースは狂いもしない、ましてや戦いを嫌っている」

やれやれとエウルドス王はため息を吐いて、

「一体、ロファースの中にはなんの魂が入り込んだのか‥‥彼は失敗作ですが、薬は身体に染み渡っています。ですから、エウルドスから目の届かない場所に行かれては危険だと思いましたが、敢えて捨ててみました。でも、やはり後々厄介なことになると思い、セルダーやイルダン、騎士達に彼を殺す命を下したんです。それなのに‥‥」

エウルドス王はクレスルドを睨みつけ、

「ロファースは狂わなかった。恐らく貴方が傍に居たから。狂いそうになるロファースを貴方が制止したのでしょう?だから、私はロファースを生かしてエウルドスに呼び戻すことにしました。手っ取り早く、失敗作をこの手で壊すためにね」

クレスルドはしばらく黙って聞いていたが、

「大体わかるが、一応聞いてやろう。教会の子供達はどうした」
「ふふふ。先ほど、貴方とロファースを出迎えた獣達ですか?神がね、教えてくれたのですよ。貴方とロファースがエウルドスに来ると。ですから私は国中の者と、子供達に改良していない方の薬を飲ませ、ただの魔物に仕立て上げさせていただきました」
「子供‥‥まで‥‥っ」

レムズは信じられないと言う面持ちでエウルドス王を見る。
隣で、クレスルドは俯いた。俯いた後で、小さく笑った。それにエウルドス王は首を傾げ、

「何が可笑しいんです?」
「いえいえ。君が長話をしてくれるものですから、準備が簡単に整いましてね」

おどけた口調でクレスルドが言えば、エウルドス王は「まさか」と言って足元を見る。

「なんだ、そんなことを言うから魔方陣でも描かれたのかと思いましたよ」

何も無いのを確認して、エウルドス王は笑った。

「僕はね、もう完全なんです。力の制御を解きましたから。名乗りたくはありませんが再び名乗りましょう。僕は【紅の魔術師】。この世界で最大の魔術を持つ者。地獄への門だって開いてみせましょう」

右手を前方に掲げてクレスルドは笑う。

ーーその場を包んだのは、恐怖だった。
エウルドス王も、レムズも‥‥クレスルドに恐怖を感じている。とてつもない、見えないはずの力を空間に感じるのだ。

「この空間、魔術や特殊な能力を封じる為の空間でしょうけれど、人を棄てた僕には効きません」
「くっ‥‥!?」

先程まで狂ったように話をしていたエウルドス王がまるで嘘のようだ。
狂わせる薬を所持しているだけで、彼自身は特別な力を所持しているわけではなさそうだ。

「君は自分がかわいいんですね。他の人間は平気で化け物にしてしまうのに、君は我が身がかわいいまま。自分で飲んでみたらどうですか?僕なら試しに飲みますよ?面白いと思うんですけどね。でも、おかげで楽に始末できます。君はなんの力も持たない、ただの人間だから」

クレスルドは口元に笑みをたたえる。

「待って‥‥くだ‥‥い」

途切れ途切れに声が聞こえて、

「ろっ、ロファース!」

レムズがそう叫んだので、クレスルドもエウルドス王も驚いて振り返った。ロファースがゆっくりと起き上がり、

「‥‥ロファース、ロファース!!大丈夫なのか!?」

レムズは泣きじゃくってロファースに抱きつく。

「ロファース君、なぜ‥‥」

クレスルドは疑問げに言った。
ロファースは胸元から血を流し、心音だって聞こえなくなっていたのに‥‥
胸元から血が滲んではいるが、出血は止まっていた。

「話は全部聞こえていました。俺は‥‥最初から死んでいたんですね。神父様‥‥いや、エウルドス王」

ロファースはそう呼んで剣を構える。

「ふ‥‥ははは、剣を構えて‥‥今更、狂ったと言うのか!?」

エウルドス王の言葉にロファースは首を横に振り、

「あなたはたくさんの命を奪いすぎた。実の両親を、部下達を、無意味な戦争で無関係な人々を、教会の子らを、セルダーを。そして、エルフ達を。俺はそれを赦しはしない。ここに居る誰も、狂ってはいない。狂っているのは、あなただけだーー!」

ロファースは迷いなく駆け出す。エウルドス王の恐怖に歪んだ顔が間近に見えた。
本当に、エウルドス王はただの人間なのだ。弱い弱い、人間。

「これからもあなたは狂った行動を続けるはずだ‥‥だから、俺が終わらせる‥‥一時でも、あなたの息子だった俺がーー!」

今までのように剣を持つ手に、意思に、迷いはなかった。
狂ったわけではない。憎いわけでもない‥‥

ズブッーー!!

貫く音と、肉を貫く感触が剣から手に伝う。

「終わりだよ‥‥父さん‥‥」

ロファースは静かにそう言った。
育ての親であり、そして、自分を造り出した彼は‥‥ある意味で、ロファースにとって本当に父であった。

「‥‥ぐっ、あっぁあぁ‥‥おのっ、れ‥‥失敗、さ、く‥‥がっ‥‥」

ドシャ‥‥と、エウルドス王の体がその場に崩れ落ちる。
ーー失敗作。その言葉が、耳に残った。

(俺だけが、あなたを家族と感じていたんだな‥‥)

ロファースは静かに目を閉じる。そして、クレスルドとレムズに振り返り、

「紅の魔術師‥‥俺はもう、あなたの手を汚させたくはなかった。ましてや、レムズさんの手も。俺はもう一度死ぬから‥‥だから、俺が終わらせようと思ったんです」
「もう一度死ぬ?」

クレスルドが疑問げに聞くと、

「神父様‥‥いや、エウルドス王に胸を貫かれた時、俺は死にました。死んで、こことは別の空間に居たんです」


◆◆◆◆◆

ーーロファースは光に包まれて眠る少女の傍に近付いた。
金の髪が印象的な‥‥まだ小さな小さな、五つぐらいの歳であろうか。不思議に思って少女に触れようとした時に、

「迷い込んで来たのかい?」

背後から声がして、慌てて振り返る。

そこには、薄紫色のマントがなびき、緑色の上着を身に纏い、髪をひとつに結んだ青年‥‥
水色の髪で、結んだ部分は金色であった。左頬に古傷がある。
水色の大きな瞳が印象的だった。

「この子はオレの娘でね。母親がとある事情で狂ってしまい、この子はこの空間の渦に捨てられてしまったんだ。もう一人、息子が居るんだけれど、その子も空間の渦に捨てられたのに、その子を見つけることが出来なかった。オレが家族の傍に居れれば良かったんだけど‥‥オレは人間だから、とっくの昔に死んでしまってね」
「え?じゃあ、幽霊!?」

ロファースが驚いて聞けば、青年は笑って頷く。

「‥‥君は、そうか。かつてのアシェリアの悲劇が繰り返されているんだね」
「アシェリア‥‥」

ロファースはそれに聞き覚えがあって、

「そうだ‥‥!あの人が言っていた。アシェリア帝国の狂った魔術師だと」
「それは、紅の魔術師?そうか‥‥彼の知り合いなんだね。そして、君の魂は‥‥」

青年は何かに気づいて柔らかく微笑む。

「彼は元気にしているかい?」
「元気かどうかはわかりませんが‥‥俺は彼に助けられっぱなしで‥‥でも時々過去の話でしょうか、それをする時は、寂しそうな感じです」

それを聞いた青年はクスクスと笑い、

「そっか。さて‥‥君は死んでしまっているけれど、やり残したことがありそうな顔をしている。オレと同じだ」
「それは‥‥」

ロファースは俯く。

「オレは神様じゃないから生き返らせることは出来ないけれど‥‥うん。ここで出会ったのも何かの縁だ。いつかきっと、この子が君を救ってくれるよ」

青年は眠る少女を見つめて言うので、

「は?」

思わずロファースは間の抜けた声を出した。

「それまで君は死んだまま眠ることになるけれど、この子がいつか、この空間の渦からいつかの時代に流れ着いて大きくなったらきっと。この子は神様だからね」

なんて、自分の娘をそんな風に言う青年に、ロファースはただ目を丸くすることしかできなかった。

「紅の魔術師は今の世界で独りぼっちだ。だから、彼が君を助けているのなら、きっと彼は君を必要としている。その為にも、君を死なすのは勿体無いかなと思って。これからも彼には頑張ってもらわなきゃダメだから。オレや、皆の代わりに」
「はあ‥‥」

ロファースは困ったように相槌を打つ。

「だから、さあ、行っておいで。いつか必ず君は目覚めるから。彼に伝えておくれ。フォード国を見守ってくれて、ありがとう、と」
「あっ、あなたは‥‥」

そう尋ねようとした時にはもう、ロファースの意識は体に戻っていた。


◆◆◆◆◆

ロファースの話を聞き終えた後で、クレスルドは何かを理解したかのように俯く。

「待てよ!話はよくわかんないけど、ロファースは死ぬってことなのか!?」

レムズが聞けば、

「今はこうして動けるけど、さっきの話が本当なら、俺は死ぬ‥‥か眠ることになるのかな。ただの夢かもしれないけれど‥‥」

ロファースはそう言った後で、

(でも、俺は元から死んでいたんだな‥‥その真実を、セルダーは俺に知られないようにしていたのか。俺が、傷つかない為に‥‥)

親友の思いを感じ取り、ロファースは目を閉じる。

ーー三人は重たい沈黙の中に居た。その中で口を開いたのは、

「とりあえずどうなるにしろ、まずはこの空間から出ましょうか‥‥」

クレスルドが言う。

「この空間は一体なんなんだ?俺の能力が遮断されたんだけど‥‥」

レムズが言えば、

「神によって構築された空間、ですかね」
「あなたやエウルドス王がさっきから言っている神って一体?」

以前にも『世界の神様』‥‥クレスルドがそう言っていたことをロファースは思い出す。

「僕ならこの空間を壊せます」

質問に答えずにクレスルドは両手を前に出した。
彼が何か呪文を唱えるが、ロファースとレムズには聞き取れないほどの早さだ。
暗闇の空間がぐらりと歪む。歪んで、次第にそれは先ほどの玉座の間に戻っていた。

「エウルドス王は‥‥」

ロファースは彼の亡骸が見当たらないことに気づく。

「あの空間に残してきました。ロファース君‥‥あなたの気持ちはわかります。ですが、僕には彼を赦せない理由がある。僕のかつての罪を再び引きずり出し、更には魂を冒涜したことを」

そこまで言ってクレスルドは言葉を止めた。
ーー知っていた、最初から知っていた。
ロファースの正体を。
エウルドス王が狂った計画で気まぐれにロファースを選び、とある魂の命を吹き込まなければ‥‥自分はロファースに出会わなかった。
ましてや、エウルドスのこの惨事にすら気付かなかった可能性がある。自分はずっと、フォード国にいたから。

だが、何も話さなかったことは、結果としてロファースに苦しい思いをさせてしまった。
エウルドス王でも神のせいでもない。
かつて自分が作り上げてしまった、狂った行いのせいで。

「‥‥嫌な感じがする」

しばらく黙っていたレムズがぼそりと言い、

「早くこの城から‥‥いや、この国から出よう!」
「レムズさん?」

慌てるレムズにロファースは首を傾げ、

「待って下さいレムズ君。君と共に来た騎士の様子を確認しなければ」

それを聞いてレムズは思い出す。

「そうだ‥‥エモイトの!!」
「エモイト?そういえば、どうしてレムズさんはここに‥‥」

状況を知らないロファースは尋ねた。

「とりあえず、行きながら話しましょうか」

クレスルドが言って、三人は城から出ることにする。
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