託され行くもの達

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六日目-4

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ロファースとクレスルドはエウルドス王国の入り口に立っていた。
ここから出てまだ数日だが、懐かしさを感じてしまう。だが‥‥

「静かだ‥‥それに、街に人が出歩いていない」

ロファースはそう呟き、ゆっくりと足を進めて行く。時刻はまだ昼だというのに、静かすぎる。
まずは教会の方向へと歩き、ようやく外観が見えて来たので思わず駆け出した。
教会の扉を開け、

「神父様、皆ーー!」

そう叫ぶが、教会内もしん‥‥と、静まり返っており、人の気配がない。
次に、教会の外にある庭へと駆けた。いつもは子供達の声で賑わっていた。
ロファースと同じ戦災孤児で、神父が引き取り育てていた、ロファースの家族たち。ロファースよりもまだ、幼い子供達。だが‥‥やはり、誰もいない。
慌てて教会の二階にある部屋を見に行こうとしたが‥‥

「誰も居ませんよ、ロファース君」

クレスルドがロファースの前に立ち、そう言う。

「えっ‥‥?いっ、居なかったんですか!?」

クレスルドが見てきたのだろうかとロファースが聞けば、

「居ないんです」

クレスルドはただ、そう答える。そして、

「僕達は城へ向かわねばなりません」
「‥‥城に、真実が?」

ロファースの問いにクレスルドは静かに頷く。

「ロファース君、ここからは命に危険が及ぶことばかりだと思います。恐らく、城の中にはセルダー君と同じ‥‥様々な異形が居るでしょう。剣をしっかりと握って‥‥戦いは避けられない」

クレスルドはロファースの両肩を掴み、

「絶対に迷ってはいけません。剣を振る手を、意思を‥‥」

肩を掴む手に少し力が込められる。
それを聞き、ロファースは嫌な予感がした。できれば、違っていてほしいと願う。心から願った。

(セルダーと同じ、様々な異形‥‥まさか‥‥)

ロファースは嫌な思考を振り払い、クレスルドを見る。表情は見えないが、彼が真剣に言っているのは確かだ。


◆◆◆◆◆

「今からどうしようか」

崩壊したファイス国を後にしながらレムズは言う。

「そうじゃの‥‥里にはまだエウルドスの兵がおるやも知れん。ファイス国、そしてエルフの里を滅ぼしたのじゃ‥‥この大陸にはもう何も無い。紅が言ったように、確かにエウルドスも来ない安全な場所であろう。しばらく時期を見計らってから里へ戻るとするかの」
「そうだな‥‥ん?」

すると、レムズは不思議そうに首を傾げた。

鉄の音だろうか、徐々に近付いて来る。レムズとチェアルは長い耳を持っている為、音にはとても敏感だ。

「足音‥‥鎧か」
「まさか、エウルドスの!?どうする!?」

レムズが慌てて言えば、

「いや‥‥あれは‥‥」

落ち着いた声でチェアルは前方を指差した。恐る恐るレムズがその方向を見れば、

「やっぱ鎧じゃねぇか!にっ、逃げないと!」

鎧を身に纏った騎士が二人居たのだ。

「違うのじゃ、レムズ。あれはエウルドスの鎧ではない。エモイトじゃ」
「エモ‥‥イト?って、おい!クソ村長!何近づいて‥‥!」

チェアルが騎士達の方に歩いていくので、レムズは慌ててその後を追う。

気配に気付いてか、騎士の一人がこちらに振り返った。

「おお、すまんの。驚かせてしまったかの」

チェアルはそう言いながら笑う。
振り返ったのは、長い茶の髪をした、三十代前半ほどの青年だった。

「なっ、なんだお前は!?」

隣には、短い金髪に茶の目をした、二十代前半ほどの青年騎士がいて、彼は不審な目でチェアルを睨む。

「見たところ、お主らはエモイトの兵じゃな?」

チェアルが二人に聞けば、

「なっ‥‥お前いったい!?」

金髪の青年ーーディンオが疑問の言葉を言おうとするも、茶の長い髪をした青年ーーリンドがそれを制止する。そして、

「その容姿、エルフか?」

リンドに聞かれ、チェアルは目を細めて頷いた。

「エルフは里から全く姿を見せないと聞いたが‥‥」
「里は、わしとこの子以外のエルフは‥‥エウルドスの者達に先刻、奪われてしまったのじゃよ」

その言葉に騎士二人は目を見開かせる。

「またエウルドスが!?やはり、エウルドスをこのまま野放しにするわけには‥‥」

ディンオは慌ててリンドを見た。

「お主らはここで何をしておったのじゃ?」

チェアルが問うと、

「エウルドスに滅ぼされたファイス国‥‥殺された者達の埋葬をしに、私達は昨日この大陸を訪れた」

リンドが答える。

「エモイト国も今ごたついてるんだが‥‥ここは新大陸だからさ。エウルドスに滅ぼされたファイス国には死体がそのままにされているかもって思って、船を出してもらってここまで見に来たら、案の定でよ」

ディンオが言い、

(それで、死体がなかったのか)

レムズは思った。

「うむ‥‥聞いておる。エモイトの現王は、エウルドスの者に亡き者にされたそうじゃの」

チェアルは息を吐き、

「お主らは、いつかはエウルドスに攻め込むつもりなのか?」
「無論だ」

リンドは答える。

「我らエモイトは、いつの日か必ずエウルドスを滅ぼす。亡き王のため‥‥これ以上、何も奪わせないためにも」

それを聞き、しばらくチェアルは沈黙する。そして、

「ならば、今‥‥というのはどうじゃ?」

突然の言葉に、リンドとディンオは不思議そうにチェアルを見た。

「エルフのじいさん、いきなり何を‥‥」

冗談だと思いディンオが苦笑すれば、

「今さっき、エウルドスへと決着をつけに向かった者が二人いるのじゃ。その二人の手助けをしてやってはくれぬか?恐らくエウルドスには数多の敵が巣食っておるじゃろう‥‥」
「その二人とは?」

リンドが聞くと、

「真実を求める少年と、自らの罪を終わらせる男じゃ」

チェアルのわけのわからない物言いを当然理解出来ないが、

「真実‥‥」

その言葉がリンドには引っ掛かる。

「さすがに今からは‥‥大陸にすぐには戻れないから無理だが、そうだな。そろそろ、攻め込む考えをせねばならぬのかもな」

すると、チェアルはニコりと笑い、

「すぐに戻れる。わしが魔術でエウルドスまで送ってやろう」
「‥‥本当にエルフは魔術とやらを使えるのか?」

リンドは不思議そうに聞き、

「だが何故、我々を差し向けようとする?」

そう尋ねると、

「わしはエモイト国を昔から信じておる。それだけじゃよ」

答えながら、チェアルが騎士二人に向けて右手を翳そうとすれば、

「おっ‥‥俺も行く!」

それまであまり口を開かなかったレムズが声をあげた。

「レムズよ、紅に言われたであろう?」
「でも、やっぱり俺だって力になりたい!あいつらを死なせたくない!」

そんなレムズをチェアルは落ち着かせようとしたが、

「あいつらは、初めての人間なんだ!里に閉じ籠ってた俺に出来た初めての友達なんだ!だから‥‥!」

言葉を詰まらせ、握り締めた手はカタカタと震える。レムズの中には恐怖があった。だがそれでも‥‥

「話は掴めないが、先に行った二人は君の友なのか?」

すると、リンドが割って入る。

「この子の友達かなんかの二人がエウルドスに向かったってことなんだろ?じゃあ一緒に行けばいいじゃん」

次にディンオが言った。

「エルフのご老人よ、我々は構わないが、如何しよう?」

リンドに尋ねられ、やれやれと言うようにチェアルは息を吐く。
レムズを見れば、彼はキラキラと目を輝かせていた。もう決意しているのだろう。

「‥‥まったく。レムズよ、死んではならんぞ」

彼の頭に軽く手を置いて言ってやる。

「お主らの名を聞いておらんかったの」

チェアルが目の前の二人に聞けば、

「エモイト騎士団部隊長、リンドだ。こっちは騎士団のディンオ」
「うむ。この子はレムズ。そしてわしは、エルフの長、チェアルじゃ」
「長殿でしたか」

リンドは目を一瞬だけ大きく開き、言葉を改める。

「誠に勝手すぎる申し出ではあるが‥‥レムズのこと、そしてエウルドスに向かった二人の手助けを、どうかよろしく御願いする。リンド殿、ディンオ殿」
「確かな約束は出来ません。我らが向かうは戦地。だが、この少年は死なせない。我らが連れて行くと言ったのですから。それだけは、約束しましょう」

そのリンドの言葉にチェアルは柔らかく微笑み、

「どうか、過去の輪廻を‥‥」

右手を三人に翳し、白い光が放たれ、光は三人を包んだ。

「必ず帰るからなーー!」

光の中でレムズが叫んだのが聞こえる。そして三人はその場から姿を消した。
誰もいなくなってしまった場所で、

(すまぬな、紅よ。わしも戦うべきなのだろう。だが、わしは歳をとりすぎた。こんなちっぽけなことしか、出来ぬほどにな‥‥)

チェアルは空を仰ぐ。
エウルドスへ向かった彼らを想いながら。


◆◆◆◆◆

ロファースは見慣れた階段を一段一段踏みしめる。そして、大きな扉の前に辿り着いた。
エウルドス城への入り口だ。
ロファースはゆっくりと扉に腕を伸ばす。
前までは騎士として城の中で過ごして、何も思わずにこの大きな扉を開閉していたのに、今では開けてはならない、まるでパンドラの箱のような‥‥そんな感覚に陥る。

重たい扉を開き、二人は城の中へ足を踏み入れた。

城の中は静まっていて、天井にあるシャンデリアの灯りも消えている。それをよりいっそう不気味に感じた。

だが、ロファースはすぐに身構える。
薄暗い廊下の先に、赤い点々とした無数の光が見えたのだ。
それをじっと見る。
目が慣れてきてようやくわかった。それは‥‥見覚えのある姿。
狼の姿にとてもよく似ている獣‥‥
足は六本あり、尻尾も二本、そして赤い点ーーそれは、獣の真っ赤な目だった。

セルダーと同じ、そしてエルフの里を脱出する時に目にした獣だ。

ザッと見て、数は三十体ほどであろうか。
そしてロファースは剣を構えながら考えた。この獣はなんなのだろうと。
セルダーのように人間だったりするのだろうかと。

「来ます」

ロファースの考えをクレスルドの一言が遮る。獣たちがこちらに飛び掛かってきた。

ロファースは剣でなぎ払い、クレスルドが魔術を放っていけば、獣たちは床に転がっていく。

「ロファース君、息の根を止めながら戦って下さい」

注意するかのようにクレスルドに言われた。ロファースは獣たちをなぎ払うーーだが、トドメをさしていなかったのだ。

剣を振るいながらロファースはまだ考えていた。もし、もしもセルダーと同じように、人間が獣の姿になっていたら‥‥
それが思考を埋め尽くす。

『城の中にはセルダー君と同じ‥‥様々な異形が居るでしょう。
絶対に迷ってはいけません。剣を振る手を、意思を‥‥』

城に入る前のクレスルドの言葉の意味なんて知らない。真実かもわからない。でも、物語りすぎていた。

ザシュッーーザンッーー!!

(誰なんだ‥‥誰なんだ!?)

剣を振り、身を守り、獣を斬り、ロファースは思う。この獣たちはなんなんだ、誰なんだと。
迷ってはいけないと言葉にするのは簡単なのに、結局、迷ってしまう。

ドサドサドサッーー‥‥

三十体以上もの獣たちが床に身を倒したのを見て、クレスルドはすかさず両手を天井に高く翳した。すると、辺りには熱気が吹き、炎が広がった。
倒れた獣たちが燃えて、灰になっていく。
それをなんとも言えない気持ちでロファースは見つめていた。

クレスルドは翳した手を下ろしながら、

「ほら、やっぱり僕は最低でしょう?」

炎は静まっていき、灰だけを残した。獣たちの姿はもう一匹も無い。その光景を見ながら、ロファースは首を横に振る。

「いいえ‥‥俺は覚悟を‥‥」
「ははははーー‥‥!滑稽すぎるなぁ!?」

いきなりそんな嘲笑う声がして、ロファースは言葉を止め、慌てて声の先を探した。
声は城内の広いホールにある中央階段からだった。

「イルダンーー!」

そこには先刻、エルフの里でまみえた彼がいるではないか。

「ロファース、どうだ?同族を殺した感覚は!」

口元に弧を描いてイルダンがそう聞けば「同族?」と、ロファースは目を見張る。

「まあ待て、イルダンよ」

すると、イルダンの背後に人影が見えた。
ガシャ、ガシャ‥‥と、重たい鎧の音が広いホールに響く。
五十代前後であろう、イルダンよりも明らかに格上そうな騎士服に身を包んだ男ーーエウルドスの部隊長ガランダが現れた。

「彼は?」

隣にいるクレスルドに聞かれて、

「エウルドスの部隊長‥‥ガランダです」

ロファースは答える。

「なるほど」

と、クレスルドは頷いた。

「ロファースよ、逃げ出したお前が自らこの地に戻って来たことは褒めてやろう。さあ、こちらに来い。王がお前に会いたがっている」

ガランダに言われ、ロファースは息を呑む。

『王がお前に会いたがっている』

先刻、イルダンにも言われた。

(王‥‥その人に会えば、真実が‥‥)

だが、その後にはなぜか死が約束されている。

「ええ。王には会います。でも俺は‥‥俺の意思で王に会います」

ギリッ‥‥と、手にした剣に力を込め、

「あなた達を倒したその先でーー!」

そう叫んだ。
それが可笑しいのか、ガランダは笑い出す。

「倒す‥‥か!ははは、騎士にも成りきれなかった貴様が?ははははは、本当に小賢しく滑稽な生き物だ!」

嘲笑った後でイルダンに向き直り、

「イルダンよ、お前は城下町へ行け。鼠が紛れ込んだようだ、始末しろ」
「はっ」

イルダンは一礼をし、宙を軽く飛んで見せる。
ロファースとクレスルドの上空を易々と越えて見せて、トンッと扉の前に着地した。それは最早、人間の動きではない。
彼は扉を開けて城下町へと向かった。

「何者が紛れ込んだかは知らぬが、貴様ら二人ごとき、我が敵では無い。せいぜい楽しませてみせるが良い」

チャキッ‥‥と腰に下げた剣をガランダは引き抜いて構える。


◆◆◆◆◆

「静かな国だな‥‥こんな国なのか?」

リンド、ディンオ、レムズは、チェアルの転移魔術によりエウルドスに到着していた。不気味な程に静まっている城下町を歩きながらレムズが疑問気に聞けば、

「ふむ。隣国ではあるが、敵対国故にこうして訪れるのは私も初めてに近い‥‥」

リンドが答えると、

「俺が昔来た時は、もっと賑わってましたよ」

ディンオが言う。

「そうだったな‥‥お前は何度もエウルドスに忍び込んでいたな」
「忍び込んで?」

リンドの言葉にレムズが首を傾げると、

「友達がさ、いたんだよ。この国に、な」

どこか悲しげに微笑みながら、ディンオは前を向いたまま歩く。

「友‥‥」

レムズが尋ねようとしたが、リンドがレムズの前に立ち、ディンオも剣を構えたので何事だとレムズはキョロキョロ周りを見渡す。

「なるほど。鼠とはエモイトのことか」

すると、前方から低い男の声がして‥‥

「イルダンーー!!」

真っ先にディンオが相手を確認して叫んだ。それにイルダンは首を傾げると、

「貴様は先日の‥‥」

思い出すように言う。

「テメェ‥‥まだすっとぼける気か!?」

ギリッ‥‥と、ディンオは歯を軋ませ、

「先に‥‥その子を連れて先に行って下さい!こいつは俺がなんとかします!」

ディンオはイルダンの前に立ち、振り返ることなくリンドに言う。

「え!?」

わけがわからずレムズが声をあげると、

「‥‥わかった」

リンドは頷いてレムズの腕を引き、城へと走り出した。
イルダンはそれを追おうとはしない。

「‥‥不思議だな。本当なら、誰一人城へ向かわせてはいけないのだが‥‥ああ、不思議だ」

そう呟き、

「貴様の名は何だったか」

聞かれて、ディンオはまた歯を鳴らした。

「自分で思い出してみせろや‥‥この裏切り者がぁああああーー!!」

高々と剣を掲げてイルダンの方へと走る。


◆◆◆◆◆

「では、ロファース、言ったように王に会ってもらおうか」

ガランダが剣を構えたまま言うので、

「だから俺は自分で‥‥」
「ーーいけない!」

何かに気付くかのように隣にいるクレスルドが叫び、慌ててロファースに手を伸ばした。

「遅いわ!」

それに対し、ガランダは笑う。
ぶわっ‥‥と、ロファースの周囲に強い風が吹き荒れ出した。
風が止み、冷静に辺りを見ることが出来るようになった時には遅かった。
そこにもう、ロファースの姿は無かったのだ。
形を成さない滅茶苦茶な力ではあるが、明らかに転移魔術だ。

「だから遅いと言ったであろう?」

ガランダがクレスルドを見ながら言う。

「たかが人間が転移魔術を使うとは‥‥貴様もそうなのか」

クレスルドはガランダにそう言い、

「貴様も僕の罪だ。僕の手で過ちの歯車を再び動かし出した貴様らを滅する」

そう続けた。その言葉に、

「ならば、お前がそうなのか」

ガランダはクレスルドの言葉の意味を察して少しだけ驚くように目を見開かせる。それから口の端をつり上げ、

「まさか本当に生きて存在していたとは‥‥我らが創始者、紅の魔術師ーー!」
「その呼び方はやめてもらおうか」

クレスルドは冷ややかな声で言い、右手をガランダの居る方へ翳すと、その手からバチバチと雷が生み出された。それはクレスルドの手から離れ、勢いをつけてガランダ目掛けて走る。

「くくっ、そんな遠くからの攻撃、当たらぬわ!」

ガランダは笑ってその雷を避けようとしたが、前方から迫り来る雷とは違う‥‥どこからか微かにバチバチと音がして慌てて頭上を見た。
前方と同時に、上からも雷が降り注ごうとしていたのだ。
ガランダはその場を軽く飛び上がり、後退する。

ドゴーーーンーー!

それは本当に一瞬であった。
先ほどガランダが居た場所に雷が落ち、床に大きな穴があく。これをその身にくらっていれば、ひとたまりもなかったであろう。

「残念。まあ、今のは些細なお遊びなんです。君に付き合っている暇はない。次は一瞬で終わらせますよ」

フードの下からチラリと紅い目が光るのが見えて、ガランダは恐怖を感じた。圧倒的だと感じた。
これが、古の‥‥

「殺す前に聞きたいことがあります。エウルドス王が黒幕ですか?」

クレスルドはゆっくりとガランダに間合いを詰めて近付いていく。諦めているのか企んでいるのかはわからないが、ガランダはその場から動こうとはしない。

「黒幕?可笑しな言い方をする。我らは騎士。王の命を第一にするに決まっておろう」
「でも‥‥君は恐らく捨て駒ですよ?」

セルダーと同じく、ガランダも「紅の魔術師」を知っていた。だが、イルダンは知らない。それが決定的だった。

「捨て駒?何が言いたい」
「わからないならわからないで構わないです。では、さようなら」

間合いを詰めきり、クレスルドは右手を掲げた。

ーーバンッ!!

城内に大きな音が響き渡る。それはクレスルドが出した音ではなかった。かと言って、ガランダでもない。

あの大きな扉が開いた音だ。クレスルドがそちらに目をやれば、人影が二つ‥‥
その一つには見覚えがあり‥‥

「ーーレムズ君!?」

驚いて、思わず叫んだ。

「‥‥くくっ!」

すると、その二つの人影に気を取られているクレスルドをドンッと押し退けて、ガランダは城内に入ってきた二つの人影ーーレムズとリンドの方を見る。

「エモイトのリンドではないか。一体我が国に何用だ」

ガランダが問えば、

「私は貴公らが王を討ちに来た。我が王を汚い手を使い、暗殺した貴公ら‥‥いや、貴様らを!」

ブンッーー!と、風を斬るようにリンドは剣を一振りしてガランダの方向に切っ先を向けた。
その様子を横目で見つつ、クレスルドはシュンッ‥‥と、レムズの隣まで転移して、

「彼は‥‥?それになぜ君がここに‥‥いったい何をしに来たんですか!?」
「待ってるのはやっぱり不安なんだよ!だから、俺も役に立ちたい!」

レムズは真っ直ぐな目でクレスルドを見つめる。だが、クレスルドは周囲に意識を戻し、ガランダとリンドを見た。

「少年よ、その者が君の友の一人か?」

背を向けたまま、リンドがレムズに尋ねるので、レムズは返事をする。それにリンドは頷き、

「ガランダは私に任せて、君達は行くといい」

そう言うのだ。

「でっ、でも‥‥!」

レムズが叫べば、

「確か、君の友は二人と聞いた。一人、足りないではないか」

察するようにリンドが言うので、レムズは目を大きく開けて慌てて周囲を見回す。そしてクレスルドに目をやった。

「‥‥誰かは知りませんが、お言葉に甘えてここはお任せします。さあ、行きましょう、レムズ君」

ぐいっと、クレスルドはレムズの腕を引くので、レムズは困惑した表情のままリンドを見る。

「私はご老人に二人の手助けを頼まれた。私がここでガランダと戦うこと‥‥これも手助けになるであろう。だが、もう一つの、少年を守るということ、それは守れそうにない。だから、よろしく頼む」

背中を向けていたリンドはくるりと振り返り、クレスルドを見た。それにクレスルドは小さく頷き、レムズの腕を引いたまま、ロファースがどこに転移させられたかはわからないが、城の奥へ続くであろう廊下を駆け抜けた。
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