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六章【道標】
6-4 さがしびと
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のどかな街道を歩きながら、クリュミケールとアドルは目的地を目指していた。そんな道中、
「クリュミケールさんはたくさんの場所を旅して来たんだっけ?」
と、アドルに聞かれ、
「まあ、そうだな‥‥」
クリュミケールは少し俯きながら困ったように笑い、それ以上は何も言わず、
「村が見えてきたぞ、アドル。日も暮れてきたし、今日はあそこで宿を取ろう」
と、顔を上げ、前方を指差した。
目的地のファイス王国ではないが、小さな村ーーアズナル村だ。
「小さい頃、来たっきりだなぁ」
アズナル村に入るなり、懐かしそうにそう言ったアドルは、キョロキョロ忙しく首を動かしている。しかし、
「‥‥クリュミケールさん?」
ふと、隣に立つクリュミケールの顔を見れば、クリュミケールはどこか一点をじっと見ていて、その視線の先には、赤が基調のコートを羽織り、銀の長い髪をひとつにくくった、金の瞳が美しい青年がいた。
その青年は小さくため息を吐き、村を見回している。まるで、何かを探しているように見えた。
「‥‥早く宿に行こう、アドル」
クリュミケールが低い声でそう言ってきて、
「えっ?うっ、うん」
アドルは不思議そうに頷いた。
クリュミケールは早足で歩き、村の中央広場へと向かうが、
「ーー!?」
銀髪の青年が村に入って来たクリュミケールとアドルの姿を見て、驚くような表情を向けてくる。そして、
「リオ‥‥さん!?」
青年はその場から動かず、クリュミケールにそう投げ掛けた。
「‥‥」
クリュミケールは無言で青年を見つめ、
「ん?リオって‥‥オレのこと?」
目を細めながらそう聞けば、
「あ‥‥いや、すまない。君は、男だったか‥‥な?捜している女の子に似ていて‥‥」
「ふーん?」
悲しそうな青年の声とは対照的に、クリュミケールはどうでもよさげに相槌を打つ。
「ああ‥‥いきなり悪かったね。僕はラズ。フォード‥‥レイラフォード国から来たんだ」
銀髪の青年ーーラズはそう名乗り、
「わあっ!遠くから来たんですね!おれはアドルって言います。すぐ近くのニキータ村から来ました」
と、アドルも自己紹介をした。
「オレはクリュミケール。アドルと同じでニキータ村から来た」
「‥‥クリュミケール‥‥大昔の小さな国の王様の名前と一緒だね」
ラズにそう言われ、
「‥‥そうなのか?」
当の本人であるクリュミケールは目を丸くする。
「ああ。平民の努力劇みたいな。物語にも一行かそこらしか語られていない王様だから、有名ではないけどね」
「へえ」
クリュミケールは頷いた。
「それで!?ラズさんが捜してるリオさんって?ラズさんの友達?」
興味津々にアドルが聞いてきて、ラズは彼に微笑み掛ける。ゆっくりと口を開き、
「彼女に出会ったのは僕が八歳の時だった。今から十二年程前なんだ。リオさんは大切な仲間で‥‥恩人なんだ」
ラズは懐かしそうにそう語り、
「でも、五年前から行方不明なんだ。色々あってね‥‥どうしても心配で捜してるんだけど、見つからない」
「五年も‥‥」
アドルは悲しそうな顔をしてラズを見る。
「‥‥じゃあ、オレ達は宿を取るからそろそろ行くよ。アドル、今日はこの村で一泊する。明日の朝出発しよう」
クリュミケールはそれだけ言って、一人で宿屋の方へ行ってしまった。
「えっ!?クリュミケールさん!?」
アドルは愛想なく行ってしまったクリュミケールに慌てつつ、
「ほら、君も行きなよ。実は僕もそこの宿を取ってるんだけど、けっこう人が多かったから、急がないと部屋が取れないかもしれないよ」
ラズに促され、アドルは彼に一礼し、急いでクリュミケールの後を追った。
◆◆◆◆◆
空に月が浮かんだ頃、アドルはもうベッドの中ですやすや眠っていた。
クリュミケールは部屋の窓から夜空を見上げ、小さく息を吐く。
ーーそうして、明朝になった。
アドルを起こし、荷物をまとめ、宿から出た時だった。
同じく宿から出るラズに出くわす。
「あ。早いね。君達も今から発つのかい?」
ラズに聞かれ、
「うん!早くファイス国に着きたいから!」
アドルが言えば、
「ファイス国に向かってるのか。実は僕もそっち方面に用があるんだけど、途中まで一緒に行ってもいいかな?」
ラズに聞かれ、アドルはちらっとクリュミケールを見た。
「別に構わないぜ。最近は昼間にも魔物が現れるようになったからな‥‥お前も戦えるんだろ?」
と、クリュミケールはラズが背負う剣を見る。
「ああ。強くはないけど、役には立つと思うよ」
「よし。じゃあ行くか」
クリュミケールはそう言って、すたすたと村から出た。そんなクリュミケールの後ろ姿を、アドルは不安そうに見つめる。
(クリュミケールさん、昨日から変。どうしたんだろ‥‥)
アドルが知っているクリュミケールは、いつだってニコニコしていて明るい人だった。なのに、昨日からクリュミケールはどこか冷めたような表情をしている。
それはまるで、出会った頃に戻ってしまったかのように。
「クリュミケールさんはたくさんの場所を旅して来たんだっけ?」
と、アドルに聞かれ、
「まあ、そうだな‥‥」
クリュミケールは少し俯きながら困ったように笑い、それ以上は何も言わず、
「村が見えてきたぞ、アドル。日も暮れてきたし、今日はあそこで宿を取ろう」
と、顔を上げ、前方を指差した。
目的地のファイス王国ではないが、小さな村ーーアズナル村だ。
「小さい頃、来たっきりだなぁ」
アズナル村に入るなり、懐かしそうにそう言ったアドルは、キョロキョロ忙しく首を動かしている。しかし、
「‥‥クリュミケールさん?」
ふと、隣に立つクリュミケールの顔を見れば、クリュミケールはどこか一点をじっと見ていて、その視線の先には、赤が基調のコートを羽織り、銀の長い髪をひとつにくくった、金の瞳が美しい青年がいた。
その青年は小さくため息を吐き、村を見回している。まるで、何かを探しているように見えた。
「‥‥早く宿に行こう、アドル」
クリュミケールが低い声でそう言ってきて、
「えっ?うっ、うん」
アドルは不思議そうに頷いた。
クリュミケールは早足で歩き、村の中央広場へと向かうが、
「ーー!?」
銀髪の青年が村に入って来たクリュミケールとアドルの姿を見て、驚くような表情を向けてくる。そして、
「リオ‥‥さん!?」
青年はその場から動かず、クリュミケールにそう投げ掛けた。
「‥‥」
クリュミケールは無言で青年を見つめ、
「ん?リオって‥‥オレのこと?」
目を細めながらそう聞けば、
「あ‥‥いや、すまない。君は、男だったか‥‥な?捜している女の子に似ていて‥‥」
「ふーん?」
悲しそうな青年の声とは対照的に、クリュミケールはどうでもよさげに相槌を打つ。
「ああ‥‥いきなり悪かったね。僕はラズ。フォード‥‥レイラフォード国から来たんだ」
銀髪の青年ーーラズはそう名乗り、
「わあっ!遠くから来たんですね!おれはアドルって言います。すぐ近くのニキータ村から来ました」
と、アドルも自己紹介をした。
「オレはクリュミケール。アドルと同じでニキータ村から来た」
「‥‥クリュミケール‥‥大昔の小さな国の王様の名前と一緒だね」
ラズにそう言われ、
「‥‥そうなのか?」
当の本人であるクリュミケールは目を丸くする。
「ああ。平民の努力劇みたいな。物語にも一行かそこらしか語られていない王様だから、有名ではないけどね」
「へえ」
クリュミケールは頷いた。
「それで!?ラズさんが捜してるリオさんって?ラズさんの友達?」
興味津々にアドルが聞いてきて、ラズは彼に微笑み掛ける。ゆっくりと口を開き、
「彼女に出会ったのは僕が八歳の時だった。今から十二年程前なんだ。リオさんは大切な仲間で‥‥恩人なんだ」
ラズは懐かしそうにそう語り、
「でも、五年前から行方不明なんだ。色々あってね‥‥どうしても心配で捜してるんだけど、見つからない」
「五年も‥‥」
アドルは悲しそうな顔をしてラズを見る。
「‥‥じゃあ、オレ達は宿を取るからそろそろ行くよ。アドル、今日はこの村で一泊する。明日の朝出発しよう」
クリュミケールはそれだけ言って、一人で宿屋の方へ行ってしまった。
「えっ!?クリュミケールさん!?」
アドルは愛想なく行ってしまったクリュミケールに慌てつつ、
「ほら、君も行きなよ。実は僕もそこの宿を取ってるんだけど、けっこう人が多かったから、急がないと部屋が取れないかもしれないよ」
ラズに促され、アドルは彼に一礼し、急いでクリュミケールの後を追った。
◆◆◆◆◆
空に月が浮かんだ頃、アドルはもうベッドの中ですやすや眠っていた。
クリュミケールは部屋の窓から夜空を見上げ、小さく息を吐く。
ーーそうして、明朝になった。
アドルを起こし、荷物をまとめ、宿から出た時だった。
同じく宿から出るラズに出くわす。
「あ。早いね。君達も今から発つのかい?」
ラズに聞かれ、
「うん!早くファイス国に着きたいから!」
アドルが言えば、
「ファイス国に向かってるのか。実は僕もそっち方面に用があるんだけど、途中まで一緒に行ってもいいかな?」
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「別に構わないぜ。最近は昼間にも魔物が現れるようになったからな‥‥お前も戦えるんだろ?」
と、クリュミケールはラズが背負う剣を見る。
「ああ。強くはないけど、役には立つと思うよ」
「よし。じゃあ行くか」
クリュミケールはそう言って、すたすたと村から出た。そんなクリュミケールの後ろ姿を、アドルは不安そうに見つめる。
(クリュミケールさん、昨日から変。どうしたんだろ‥‥)
アドルが知っているクリュミケールは、いつだってニコニコしていて明るい人だった。なのに、昨日からクリュミケールはどこか冷めたような表情をしている。
それはまるで、出会った頃に戻ってしまったかのように。
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