一筋の光あらんことを

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五章【生きる証】

5-4 真実の近く

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「本当にカシル達はこんな砂漠を越えているのかしら‥‥」

汗を拭いながらフィレアが言い、

「ハトネ‥‥大丈夫かな‥‥」

暑さに滅入りながらもリオは言った。

「この暑さは尋常じゃないね‥‥よくこんな大陸で暮らせるなぁ‥‥」

ラズが大きくため息を吐く。
暑さと砂の海に足を取られながら、三人はひたすら広大な砂漠を歩いた。

「‥‥あっ、あれは!?」

急にフィレアが声を大きくし、前方を指差す。
遠目に何か建物のようなものが見えて、三人はその方向に足を向けた。

「なっ、何これ‥‥きれい」

ぽかんと口を開けながらリオが言えば、

「オアシス‥‥みたいなものかしら?」

フィレアがそう言う。
遺跡の回りには草木が生え、虹色に輝くような池があった。

「はは‥‥こんなに綺麗でも、ここがカルトルート達の言ってた神の遺跡なら、中は魔物の巣窟だよ」

肩を竦めながらラズは言い、

「でも、行くんだよね、リオさんは」

すると、ラズが先導するように遺跡の入り口に足を進めるので、リオは戸惑うように彼を見る。
リオもフィレアも、彼に続いた。


遺跡の中は、明かりさえ灯っていない暗闇で、三人は周囲を警戒しながら進んでいく。

「三年前を思い出すわね‥‥」

フィレアが言って、

「そうだね、やっぱりあの遺跡を思い出してしまうね」

リオは苦笑混じりに答えた。

三年前にレイラを失ったあの場所をリオは思い起こす。そして、レイラとの僅かな思い出を‥‥
もう、彼女と出会ってから七年も経った。

その寂しそうなリオの横顔を、フィレアは静かに見つめる。
こんな暗闇だから、不安が押し寄せてしまうのだろうか。リオがレイラを思うように、フィレアはシュイアを想った。
その不安を消し去るかのように、

「明かり見えてきたよ!」

そうラズが叫んだので、リオとフィレアは顔を上げる。
前方に、青い光が差し込むのが見えた。
しかし、三人は身構える。

フィレアは瞬時に、背に下げた槍を抜いた。

「コウモリの魔物の群れか‥‥!」

ラズとリオも魔物の姿を確認し、剣を抜く。

ブンッーーと、リオ達は飛び交うコウモリの群れに剣を振るが、的が小さい上に、小刻みに動き回られるものだから、二人の剣は空振り状態だった。
フィレアの長い槍でさえも空振りである。

「魔術を‥‥」

この三年間、戦いに身を投げることがなかった為、久し振りにリオは頭の中に呪文を描こうとしたが‥‥

「‥‥えっ、あれ?」

何も浮かばないし、不死鳥の炎が巡る感覚がしなかった。
確か、不死鳥の声が聞こえなくなったとサジャエルに話した時、

『あなたの中に同化したのでしょう。時間は掛かるでしょうが、いずれまた、話せる日が来ますよ』

彼女はそれしか言わなかったが‥‥

(魔術が‥‥使えない!?)

呆然と、自身の手の平を見つめる。

「リオさん危ないーーっ!!」

切羽詰まるようなラズの叫び声がして、リオが振り返ると、リオの背後でコウモリが牙を剥き出しにしていた。瞬時に行動できず、その場に固まってしまう。

「リオちゃーー」

ザシューー!と、フィレアの声は掻き消された。
一振りの閃光が、呆気なくコウモリを斬り落としたのだ。

「なっ‥‥」

リオは驚きと、助かった安心感によってか、その場に腰を抜かしてしまう。
そして一人、容易く魔物を斬り倒していく男を見た。

暗闇の中でもはっきりわかる、黒に映える金の髪。
前にも、どこかでこんなことがあったような気がすると、リオは感じた。

「かっ、カシルーー!やっぱりあなた‥‥」
「戦いの経験の浅いお前らでは、こいつらの素早さにはついていけないだろうさ」

フィレアの言葉を最後まで聞かず、男ーーカシルはそう言って、そのまま魔物を斬る剣を休めず、次々と斬り落としていく。
ーーしばらくして、ようやく剣声が止んだ。
リオもラズもフィレアも、愕然とするしかない。

すると、彼は腰を抜かしたままのリオの前まで来て、

「無事か」

と、リオに手を差し伸べ、聞いた。

「‥‥へ?あ、ああ‥‥」

リオは彼のその行動に戸惑いながらも、その手を取り立ち上がる。

「カシル、久し振りね」

と、フィレアが言って、

「シュイアに惚れてる女か。何だ?シュイアの為にでも、俺をここで斬るか?」
「そんなこといきなりしないわよ!以前の私ならしたでしょうけどね‥‥あの遺跡でのあなたの行動がずっと不可解だった。私に放った魔術ーーあれはわざと外したんじゃないかってね」

フィレアは疑うようにカシルを横目に見た。

「そ、それより、ハトネさんは一緒じゃないの?」

ラズが聞くと、

「リオ君‥‥」

遺跡の先からハトネがゆっくりと歩いて来て、リオは久し振りに見た彼女の姿に安堵の笑みをもらす。

「リオ君‥‥生きてたんだね、やっぱり、生きてたんだね‥‥」

ハトネは涙を溢し、

「ああ」

と、リオは頷いた。

「約束したもんね、必ず‥‥会いに行くって」

ハトネが涙を拭いながら言えば、

「ああ‥‥うん?そんな約束した?」

リオは首を傾げる。

「え?あれ?自分で言っておきながら、したような、してないような‥‥?」

ハトネは本気で悩んでいた。互いに、本の世界で失われた記憶が僅かに残っているのだろう。
ラズもフィレアも、久し振りに会ったハトネに駆け寄ったが、

「小僧、行くぞ」

と、カシルが言って、

「え?私は二人を捜していただけなんだけど‥‥行くって?」

状況が飲み込めず、カシルに聞いた。

「この先にシュイアがいる」
「えっ?」

それに対し、リオではなく、先にフィレアが反応を示す。

「シュイアはここによく来ている。一人の女に会いにな」
「え‥‥?」

リオはわけがわからず、ただ、カシルの言葉を待った。

「ーーシュイアは世界を壊すつもりだ」

カシルの一言に、リオとフィレアは大きく目を見開かせる。

「待ってよ、世界を壊すのは、あなたやロナス‥‥」

戸惑うようにリオが言うと、

「逆、なんだって。世界を壊すつもりなのは‥‥シュイアさんなんだって」

おずおずと、ハトネもそんなことを言った。

「お前は俺の言葉を信じないだろうからな。だから、自分で確かめろ」

リオは冷や汗を流し、カシルの真剣な目を見つめ返す。

「なっ‥‥何を馬鹿なことを言うの!?そんな言葉、誰が信じると思う!?シュイア様がそんなことするわけないわ!シュイア様を侮辱しないで!」

フィレアは怒りを抑えることが出来ずに怒鳴った。だが、

「‥‥この先に、シュイアさんがいるんだね?」

リオは道の先を見つめ、

「よくわからないけど‥‥カシルが嘘を言ってるようには見えない。かといって、シュイアさんが世界を壊すとか意味わからないけど‥‥」

言いながら、リオは光の差す方向に足を進める。

ー━神秘的とは、このような光景を言うのだろうか。
宙に泡のようなものがプカプカと無数に浮いている。
まるで、見たことはないが、魂や命みたいだなと、リオは感じた。

頭上に、なんらかの気配を感じ、リオは上を見上げる。そこには、硝子か何かで出来た、大きな水晶があった。
しかし、それを見たリオは言葉を失う。

「なっ、なんなの、あれは!?」

代わりにハトネが叫んだ。隣でフィレアも驚き、

「リオ、さん?」

ラズは思わずそう呟いた。

「この女の名は‥‥」

カシルが言おうとしたが、

「リオラだ」

代わりに、別の誰かが答えた。

「え‥‥シュイア、さん‥‥?」

まるで、空間を切るように。
数年振りに再会したシュイアと、そしてサジャエルが、彼女の転移魔術を使い現れた。

「ようやくここまで来ましたね。信じていましたよ、あなたならきっと、あなたの真実に辿り着いてくれると‥‥ねえ、リオ」

サジャエルは聖母のように美しく微笑む。

ーー水晶の中には、真っ白なワンピースに身を包み、金の長い髪を漂わせた、リオによく似た女性が眠っていた。
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