一筋の光あらんことを

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四章【何処かで】

4-19 救われた世界の物語

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赤く染まり行く浜辺で、

「目覚めましたか、リオ」
「‥‥サジャエル」

急に現れたサジャエルに、リオは特に驚きを見せなかった。

「今、あなたはどのような気分ですか?リオ」
「どのようなって‥‥悲しいに決まっている。大切な友達が‥‥死んだんだぞ!私は‥‥彼女を守ることが、出来なかった‥‥」

リオはレイラを思い出し、 唇を噛み締める。

「それだけですか?」
「は?」

サジャエルが首を傾げながら聞いてきて、リオは彼女を見据えた。

「ふふ‥‥なんでもありませんよ」

物語の中の出来事をリオが忘れていることを確認し、サジャエルは微笑む。それから、

「シェイアード・フライシル」

ふと、サジャエルが発したその言葉に、リオは自らの肩を軽く揺らした。

「若き日に、よく読んでいた本の主人公の名前です」
「‥‥はぁ?」

いきなり何を言い出すんだと、リオは目を細める。
だが、内心リオは不思議な気分になっていた。なぜかは、わからないが。

「少し、話しましょうか。シェイアードは昔、家族を魔物に殺されたのです。父と母を。そして、弟も行方知れず‥‥」

サジャエルは物語を語りだした。

「それから何年か経ち、シェイアードは無口な青年に育ったそうです。

他者と関わらず、一人で。

彼の住む国には女王がいました。
名を、ルイナ・ファインライズ。まだ若い女王です。

その女王も同じく、主人公の家族を殺した魔物に父母を殺されているのです。

フライシル家とファインライズ家の者の血は、魔物の神ーー封印されしドラゴンを復活させることができるのです。

だから魔物は、フライシル家とファインライズ家の者を殺した。

けれどもまだ血は足りなかったようです。

シェイアードは運良く生き延び、ルイナは隠れていたので見つからなかったようです。

運良く生き延びたシェイアードでしたが、右目は負傷し、包帯を巻いています。

昔から、ルイナはシェイアードに恋をしていました。
けれどもシェイアードと違ってルイナは怪我もせず、一人生き残ったことにより、実の父母を殺したと噂されるようになったのです。

シェイアードもそんなルイナを疑問に思っていました。

愛する者に疑われ、ルイナは自らを殺し、女王命令で残虐な大会を開幕することにしました。

自分が悪になりきってしまえば、いっそ楽だと」

語り出したサジャエルは止まらない。
最初はどうでもよさげに聞いていたリオだったが、いつの間にか物語に興味を抱き、真剣に聞いてしまっていた。

「その大会にシェイアードも参加しました。

シェイアードは力を求めていたのです。自分の家族を殺した魔物を、いつか自らの手で殺せるような力をつける為に。

そしてその大会には、なんと死んだと思われていたシェイアードの弟ーードイルが出場していたのです
。名を、ナガと変えて。

そして大会の最中、フライシル家とファインライズ家の仇の魔物までもが現れたのです。

シェイアードは何故か魔物に見込まれ、仲間になれと誘われたのです。

力を求めたのか、何を考えたのか知りませんが、シェイアードは魔物と共に行ってしまいました。

そしてルイナは決意します。魔物の城に行き、シェイアードを助けると。

ナガも共に行くことになりました。

もう一人、大会参加者であり、騎士であり、ルイナに恋する少年ーーイリスも、ルイナを護る為だと言って同行することになりました。

魔物の城に乗り込む三人。

そこでは魔物の大群とシェイアードが待ち受けていました。

弟であるナガは、自ら兄と戦う決意をします。

戦いの末ーーナガが勝ちました。

けれどもシェイアードはなぜか手加減をしていたのです。

ドラゴン復活の為に必要な血は、あと二人分。
シェイアードは、ナガとルイナの片方だけでも護る為に自ら犠牲になったのです。

そして、仇の魔物が現れました。

圧倒的な魔物の力。
ルイナ、ナガ、イリスは成す術がありませんでした。

そしてルイナが決意したのです。

自らの命を賭けた、究極の魔術を使うと。

ナガもイリスも当然止めました。けれどもルイナの決意は固く‥‥魔術を放ってしまいました。

あれ程、歯が立たなかった魔物が、その魔術により一撃で消え去ったのです。

ルイナの、命と引き替えに‥‥

それから世界は何事もなく、平和だったそうです。

これで、終幕です」

そこまで聞き終えたリオは、どこか違和感を感じ、

「じゃあ、シェイアードとルイナは‥‥死んだの?」

困ったような顔をして聞いた。

「ええ。そうです。殺伐的な本なのですが、私は好きなのですよ、この物語が。忘れてしまいましたが、遠い昔に誰かに貰った本なのですよ。だから、本が手元になくとも、文章の一つ一つがこうして頭の中にあるのです」

サジャエルはそう言い、しかしリオは難しい顔をして、

「何か、引っ掛かるな‥‥」

そんなことを言っている。
その理由を今は、サジャエルだけが知っていた。

ーーなぜなら、リオはこの物語を書き換えたのだから。

シェイアードの心を優しく溶かし、彼の死を見看った。
他人との関わりを捨てた彼に恋をし、シェイアードもまた、リオに恋をした。

そして、死ぬ運命だったルイナを生かした。

少なからずとも、リオはこの物語を救ったのだから。
リオ自身は、それを知り得ないままだったけれど‥‥

サジャエルはリオを見つめ、

「これからどうするのですか?」
「‥‥ハトネ達の所に帰ろうかな。必ず戻ると約束したし‥‥」

そう言って、リオは大きく息を吸った。
風が吹き、金の髪がなびく。

「あれ?そういえば、髪が少し伸びてる?」

確か不死鳥の力を借りる時、炎に燃え、バッサリ短くなったはずなのにと思い出す。

「それに、そういえば不死鳥の気配を感じない‥‥?」
「あなたの中に同化したのでしょう。時間は掛かるでしょうが、いずれまた、話せる日が来ますよ」
「‥‥そう、なの?そんなの、聞いてないけど‥‥」

リオは手の平を見つめた。

「それではリオ、私は戻ります。あなたの旅を、これからも見守っていますよ」

そう言い、サジャエルは姿を消す。
リオはしばらく無言で立ち尽くしていた。

(なんだろうか。何か大切なことを忘れてしまったような、やるべきことがあったような‥‥)

リオは胸に手をあて、

(シェイアード。懐かしいような‥‥感じがする名前だ)

優しかった時間の記憶を失くし、代わりにこの先に続く悲しく苦しい現実を選んだ。

それはリオの運命。
リオのこれからの人生。


「あれ?」

ズボンのポケットから何かが落ち、リオは不思議そうにそれを拾い上げる。

「綺麗‥‥これ、誰の?」

それは、見覚えのないエメラルド色のリボンだった。
自分の目の色に、似ている。

誰かが、目の色に似ていると、綺麗だと‥‥
そんなことを言ってくれたような気がする。

なんだか、胸が締め付けられるような切ない気持ちになったが、このリボンを見つめていると、少しだけそれが和らいだ気がした。

(シェイアード・フライシル‥‥か)

夕空を見上げ、リボンを大事そうにポケットに入れ直し、リオは踵を返した。


~第四章~何処かで~〈完〉 
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