一筋の光あらんことを

ar

文字の大きさ
上 下
46 / 105
四章【何処かで】

4-13 愛されている

しおりを挟む
「でも、本当に良いのですか?」

ルイナが確認するように言い、

「勿論!」

リオは大きく頷き、

「オレはルイナ様の為ならばどこへでも行きます!」

次にイリスが言って、そして三人はちらりとナガを見る。

「いっ‥‥行くしかねぇだろ!こんなわけのわからない奴ら‥‥いや、ルイナ以外の二人に任せられるわけねぇだろ!」
「わけのわからないだと!?オレはこの国の騎士だぞ!」

イリスはナガの言葉に、むすっとしてしまった。

リオはそんな光景を呆れるように見つめつつ、言い表せない疑問を抱いていた。


◆◆◆◆◆

(魔物の目的は、古のドラゴンの復活。それは確実だろうな)

シェイアードは薄暗い魔物の城に居た。

「シェイアード・フライシル」

シェイアードの思考は魔物によって止められる。

「お前は、我等の目的は恐らく察しているだろう。必要なのは血だ。フライシル家とファインライズ家のな」
「俺を殺すか?」
「そのつもりであったが‥‥だが、今はもう一人が生きていた」

シェイアードは魔物を睨み付け、

「‥‥ドイルのことか」
「そう。お前の弟だ。必要なのは後、二人の血。ならば女王とお前の弟の血だけで十分なのだ」
「‥‥俺を生かしてどうする?」
「お前にその二人を始末してもらおうと思ってな。力が必要なのだろう?それに、お前は有能だ。人間だが、是非、我が軍勢に必要な力だ」

魔物の言葉に、シェイアードは黙りこんだ。


◆◆◆◆◆

「嫌な方向からだな」

気配を追いながらナガが言い、

「魔物達の城からですね」

ルイナが続けた。

「魔物の城なんてあるんだ‥‥」

リオは不思議そうに言う。そして走りながら、

(駄目だ。やはりまた、不死鳥達に声が届かないな。あの一度だけか‥‥)

リオはため息を吐く。

「どす黒い空気になってきたな」

イリスが小さく言い、

「奴らの城に近づいてきたってことだ」

ナガが答えた。

(どす黒いかはわからないけど、頭が痛くなるな‥‥)

リオはそう思い、先程から一言も喋らないルイナに視線を移す。
すると、彼女は顔を青くしていた。ナガとイリスもそれに気づき、

「ちっ!この空気のせいだな。ルイナ、ひとまず休憩をとろうぜ」

ナガが言う。
リオ達は魔物の気配を追い、一時間ほど走っていたかもしれない。
四人共、さすがに息が上がっている。それに、もう夜に差し掛かる。

「いえ、そんな‥‥大丈夫です、時間を取らせるわけには‥‥」

ルイナは迷惑がかかると思い、作り笑いをしていた。

「ルイナ様!!今は休みましょうオレはあなたを護る為に一緒に来たんですから!」

イリスはそう言って、

「二人の言う通りですよ」

と、リオも頷く。


◆◆◆◆◆

夜空に点々と星が浮かび、冷たい風が吹いた。

「ねっ、ナガ。君はシェイアードさんと仲良くなかったの?」

焚き火に手をかざしながらリオが聞くと、彼は嫌な顔をリオに向ける。

「シェイアードさん、あんまり詳しく君のことを聞かせてくれなくてさ」
「‥‥まあ、昔はな、あいつともちゃんと兄弟してたんだ。仲が良いって評判だった」

ナガは少し微笑みながら言って、

「親父がな、いつしか俺とあいつを比べ始めたんだ。息子としてじゃなく、優秀か、そうじゃないかで見るようになった。俺はそれが嫌だった。まあ、冷静に思えば、あいつも俺と同じ、こんな辛い思いをしてたのかもしれないな。なんたって、貴族の息子なんだから」

寂しそうに話す彼の横顔を、リオは静かに見つめた。

「それに、俺はもうフライシルの名は捨てた。名前に縛られず、自分らしく生きる。ドイル・フライシルは死んだんだ」

彼は、誇らしそうに言う。

「かっこいいね!あっ、ナガ。ハナさんは知ってる?」
「ああ、勿論‥‥嫌な記憶しかないけど」
「ん?」
「あの人、綺麗で仕事できるけど、何より人をからかうのが好きだからよぉ‥‥」


◆◆◆◆◆

夜空を見つめなが、ルイナは物思いに耽っていた。

「ルイナ様!」
「あら、イリス」

声を掛けたはいいが、イリスはああでもない、こうでもないと、何か言葉を探していて‥‥

「元気出して下さい!」

なんて言われて、ルイナは目を丸くする。

「ルイナ様、なんだか元気がないように見えて‥‥」

言われて、ルイナは視線を落とした。

家族を殺した魔物をようやく見つけた。
大切な人が、魔物と共に行ってしまったかもしれない。

そんなことを考えながら、

「やはり、落ち込んでいるように見えます?」

と、ルイナは苦笑する。

「はい‥‥でも、ルイナ様はいつも悲しそうにしているように見えました」
「えっ」

核心を突かれ、ルイナは驚いた。
狂気の女王として生き、心の中では泣いていた自分‥‥

「ルイナ様。オレはルイナ様の笑顔が大好きなんです!だから、それを守りたくて騎士になりました!オレはあなたが大好きだから!‥‥そう、だいす‥‥あれ?あれ‥‥?」

そこまで言って、イリスは硬直した。
ルイナも目を見開かせている。

「おぉおおおぉおお!?オレは今っ!何を言ったぁぁああ!?」

自分が無意識の内に告白みたいなことを言ってしまったことにイリスは驚き、恥ずかしさで体が一気に熱くなった。

「今のっ、ナシで!聞かなかったことにして下さい!おやすみなさいーーーー!!」

イリスは慌ててそう叫び、リオ達のいる焚き火の方へと走って行く。
その姿を呆然と見送り、ルイナは小さく微笑んだ。


◆◆◆◆◆

ーー‥‥明朝。

「さあ、あと少し走るぜ!いけるか?ルイナ」

ナガがルイナに尋ねれば、

「はい!ありがとうドイル。私はもう大丈夫です」
「ルイナ、俺はもうフライシルの名は捨てたんだ。今の俺は、ナガだ」

ナガは昨日、その話をしたリオをちらりと見て笑い、リオはそれに静かに頷いた。

「‥‥わかりました。ナガ、行きましょう!」
「ああ。何があっても、俺がお前をまも‥‥」
「ルイナ様はオレが護ってみせます!安心して下さい!」

ナガの言葉をイリスが悪意なく横取りして、

「てっ‥‥てめぇ‥‥」

ナガが剣を抜くので、

「え?え?なんで!?」

イリスは自分が邪魔したことに気付いていないので、剣を向けられ焦っている。
それを見て、ルイナはクスッと笑った。

「あはは。あなたは皆から愛されているんですね。それを‥‥忘れないで下さいね」

リオが微笑みながらルイナに言うと、ルイナは照れ臭そうに頷いた。


ーー愛されると言うのは難しいこと。
愛することも難しい。
けれども、愛が救いに代わるのなら‥‥

(私は‥‥レイラの愛を邪魔した?私は、彼女を‥‥苦しめてしまった‥‥?)

罪悪感と言う戒めの鎖は、ずっとリオの心を締め付けていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket
ファンタジー
小国メンデエル王国の第2王女リンスターは、病弱な第1王女の代わりに大国ルーマデュカ王国の王太子に嫁いできた。 政略結婚でしかも歴史だけはあるものの吹けば飛ぶような小国の王女などには見向きもせず、愛人と堂々と王宮で暮らしている王太子と王太子妃のようにふるまう愛人。 まあ、別にあなたには用はないんですよわたくし。 私は私で楽しく過ごすんで、あなたもお好きにどうぞ♡ 【作者注:この物語には、主人公にベタベタベタベタ触りまくる男どもが登場します。お気になる方は閲覧をお控えくださるようお願いいたします】 恋愛要素の強いファンタジーです。 初投稿です。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

【完結済】完全無欠の公爵令嬢、全てを捨てて自由に生きます!~……のはずだったのに、なぜだか第二王子が追いかけてくるんですけどっ!!〜

鳴宮野々花
恋愛
「愛しているよ、エルシー…。たとえ正式な夫婦になれなくても、僕の心は君だけのものだ」「ああ、アンドリュー様…」  王宮で行われていた晩餐会の真っ最中、公爵令嬢のメレディアは衝撃的な光景を目にする。婚約者であるアンドリュー王太子と男爵令嬢エルシーがひしと抱き合い、愛を語り合っていたのだ。心がポキリと折れる音がした。長年の過酷な淑女教育に王太子妃教育…。全てが馬鹿げているように思えた。  嘆く心に蓋をして、それでもアンドリューに嫁ぐ覚悟を決めていたメレディア。だがあらぬ嫌疑をかけられ、ある日公衆の面前でアンドリューから婚約解消を言い渡される。  深く傷付き落ち込むメレディア。でもついに、 「もういいわ!せっかくだからこれからは自由に生きてやる!」 と吹っ切り、これまでずっと我慢してきた様々なことを楽しもうとするメレディア。ところがそんなメレディアに、アンドリューの弟である第二王子のトラヴィスが急接近してきて……?! ※作者独自の架空の世界の物語です。相変わらずいろいろな設定が緩いですので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※この作品はカクヨムさんにも投稿しています。

処理中です...