一筋の光あらんことを

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四章【何処かで】

4-5 似ている

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リオがシェイアードの家で過ごして二日が経った。
ーー大会は、明日だ。

「そういえばお前、明日の準備はもう出来ているのか?」

シェイアードがリオに聞くと、

「準備って?」
「必要な武具類は揃えているのかと聞いている」
「まあ、この剣があるから大丈夫かな」

そう言って、リオはシュイアに貰った剣に軽く触れる。

「ふむ。あまり見掛けない珍しい剣だと思っていたが‥‥」

シェイアードはリオの腰に下げてある剣をじっと見つめた。

「えーっと。大会は力を競いあうもので、一番強い人が女王直属の騎士や、女王の結婚相手になれるんだったっけ?」

リオは確認するように言い、

「力を競うって、やっぱり戦うの?」
「ああ」
「そっか。人同士で戦うんだよね‥‥」

レイラと剣を交えた時を思い出し、リオは俯く。シェイアードは少しだけ躊躇うようにしつつも口を開き、

「‥‥ルールの一つにこんなものがある。『相手を殺しても構わない』とな」
「えっ」

その言葉に、リオは耳を疑わせる。

「言ったろう。女王は狂ってるんだ」

ーールイナ・ファインライズ。

シェイアードが言っていた、ルイナは自らの両親を殺したと。

(ほっ、本当に彼女が?殺していいなんて‥‥そんなバカな。サジャエル‥‥不死鳥‥‥やっぱ、ダメかぁ)

以前までは届いた声に相談してみようとするも、やはり、二人からの返事はない。

「あっ、そうだ!シェイアードさん、フォード国って知ってる?」
「フォード‥‥?いや、聞いたことがないな」

それを聞き、リオは数秒考え込んだ。そして、考えたくない一つの答えに至った。

(まさか‥‥ここは別の世界?サジャエルと不死鳥に声が届かない。皆、フォード国を知らないーー‥‥うーん、そんなわけないよね。別の世界なんてあるはずない。もしくは、これは全て夢!?)

色々考えて、リオは不安になる。

「どうかしたのか?」

リオの様子に気づいたシェイアードが尋ねれば、

「いや‥‥なんでも、なんでもないよ。やっぱり少し、街に出ようかな。何か良いものが見つかるかもしれないし‥‥」

リオはそう言って小さく笑い、シェイアードの屋敷を出て街に行くことにした。しばらくしてリオが外に出た後、

(そういえば、あいつ金ないんじゃ‥‥)

そのことを思い出し、シェイアードはため息を吐く。


◆◆◆◆◆

明日は大会だからだろうか、街中は賑わいを見せていた。
しかし今日は生憎の天気で、空は曇っている。
一雨降りそうだなとリオは感じた。

(騒がしい。フォード国でレイラに初めて出会った時にあったパレードみたいな騒々しさだなぁ)

そう思ってリオは眉を潜める。このような騒々しい雰囲気は、あまり好きではなかった。

親しい友と歩く者、両親に囲まれて幸せそうに歩く子供、腕を組み、寄り添うように歩く恋人たち。
なんて、平和な空間なのだろうか。

(私も‥‥何もなかったら、シュイアさんの傍に、レイラの傍に‥‥いれたのかな)

泣かないと決めたばかりなのに、じわりと涙が滲みそうになって、リオは慌ててそれを堪えた。
しかし、頬にぽつりと、冷たい雫が流れて‥‥
それは、ザァァアアーー‥‥と、激しく降り注いだ。

「あっ、雨だ」

頬に伝い、降り注いだそれにリオは慌てて両手で頭を押さえる。
道行く人々も、急いで雨宿りしたり、走って家に帰ろうとして。しかし、その姿でさえ、皆、楽しそうだ。それは、隣に誰かがいるからだろうか。

(私はぜんぜん楽しくないよ!びしょ濡れになっちゃう!!)

雨宿りしても降りやまなさそうな為、シェイアードの家に走って戻ろうとした瞬間、

「おい、リオ」
「!?」

焦っていた時に突如、背後から声を掛けられて、リオはビクッと肩を揺らした。
振り向くと、

「シェイアードさん!」

と、傘をさした彼が立っていて。

「シェイアードさん、どうし‥‥」

リオが言い終わる前に、ずいっと、シェイアードが無言で傘を差し出してきた。

「ずぶ濡れだぞ、お前」
「えっ」

差し出された傘を見つめ、それを受け取りながらリオは驚くように大きく目を開けて、

「わざわざ傘を持ってきたの‥‥?」
「いや。お前、確かこの国の通貨を持っていないんだろう?それを思い出してな。そしたらついでに雨が降ってきた」
「あっ」

言われてリオは思い出し、

「本当だ。私、買い物できないじゃないか。まあ‥‥別に買うものなんかないけど」
「なんだそれは。じゃあ、俺は無駄足だったわけだ」

シェイアードは呆れるように言って、傘をさすリオを見た。そんな彼を横目に、

(でも、明日の大会、剣一本で大丈夫かな。そういえば私って、魔術‥‥まだ使えるのかな?不死鳥の声、聞こえないから‥‥後で試してみよう)

そう思い、リオはちらりとシェイアードを見つめ、

「でも、シェイアードさんって優しいよね。見掛けと違って。家にもいさせてくれるし」
「優しい?」

そう言われたシェイアードは不思議そうにする。

「俺は、いつも冷めてるだとか、何を考えてるかわからないなどと噂されているらしいが」
「そうなんだ。冷めてるように見えて、実は優しい人ーー私、他にも知ってて。シェイアードさん、ちょっとその人に似てるんだ」
「俺に?」
「うん。この前に言った、私を拾ってくれた人」

シュイアを思い浮かべ、リオは微笑んだ。

「でも、似てるんだけど、ちょっと違う、かな?」
「そりゃ‥‥別人だからだろ」
「そうだね」
「お前、やっぱりその人のことが好きなんじゃないのか?異性として」

と、シェイアードが苦笑しながら言ってきたので、

「えっ!?なっ、ち、違うよ!?なんでそうなるの!?」
「いや、あまりに嬉しそうに話すからな」
「そっ、そりゃあ‥‥恩人だし!?」

リオは話題を変えようと視線を泳がせ、

「あっ‥‥そっ、そうだ!シェイアードさんが優しいって話に戻そう!えっと‥‥シェイアードさんはなんで、こんな赤の他人の私に良くしてくれるの?普通、ここまでしないよね、たぶん‥‥」

リオが聞けば、

「‥‥そういえば、なんでだろうな?」

なんて、彼は首を傾げる。

「えーっ!?理由ぐらいあるんじゃないかな!?」
「さあな」
「えー?まさか、私が可愛かったから!とか!あはは、なーんて、そんなわけ‥‥」
「かもな」
「‥‥。えっ」

リオが固まっていると、

「お二人共、明日は大会なのですよ?こんな雨の中で何をいちゃつきあっているのですか」

傘をさし、腕に買い物袋を下げたハナが、目を細めながらこちらを見ていて‥‥

「私は買い物の続きをして参りますから。お二人は早く帰って下さいね、明日の大会に響きますよ」

彼女はそう言って、二人の前から立ち去って行った。
リオは目を丸くしたまま立ち尽くしていて‥‥

「えっ、あれ!?あれ!?シェイアードさん、さっきの」
「冗談だ」
「へ!?」
「お前も冗談で言ったんだろう?冗談に冗談を返すのは別におかしくはないだろう」
「あ‥‥あはは、そっ、そうだね」

そわそわしながら苦笑いするリオを見つめ、

「俺は少し用事がある。お前は先に帰っていろ、風邪でもひいたら明日、出れなくなるぞ」
「あっ、うん、わかったよ」

リオは頷いた。シェイアードは街中に消えていき‥‥
一人、リオは灰色の空を見上げる。
それから、シェイアードが持ってきてくれた傘をくるくると回し、少しだけ嬉しそうに雨の中を歩いた。
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