一筋の光あらんことを

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三章【繋がり】

3-5 綺麗事でもいい

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「オ前ノ記憶、見サセテモラッタ」

あの、透き通るような男の声を近くに感じた。

ーーあの時、ああしていれば良かっただとか、こうしていれば良かっただとか‥‥
そんな後悔が一気に溢れ出て、リオは今までの自分自身の綺麗事ばかりの言葉に、反吐が出る思いだった。

でも、今更、遅すぎる。

「言葉だけじゃ、何も解決できない。だけど、壊すための力は欲しくない」

リオは俯いた。

「ダガ、我ノ力ヲ望ンダノダロウ?ナラば‥‥」
「?」

リオは急に声が近付いたことと、今の言葉により、声の主が誰なのか‥‥なんとなく、分かった。

「ならば、我はお前に大切なものを救うための力を与えよう」
「‥‥!!」

目の前に、虹色の火の粉が舞う。
その火の粉をを産み出す大きな鳥ーー紅蓮のように見えて、虹色に輝く者。

「あっ‥‥あなたが、不死‥‥鳥?」

リオは驚きのあまり絶句していたが、小さくその名を呟いた。

「ああ、そうだ。我が不死鳥だ」
「ーーっ!!本当に、本当にっ‥‥力を貸してくれるんですか!?」
「ああ。だが、無償でこの神の力を与えることはできぬ」
「何を?何をすればいいのですか?」
「この山の頂上まで来ることーーそして、無知で無力な己自身を変えることだ」

不死鳥の言葉にリオは首を傾げる。

「自分を、変える?」
「頂上など、あっという間だ。山頂が空まで突き刺さってはいるが、一週間程で辿り着く」
「‥‥?」

リオは更に首を傾げた。

「一週間、ですか?でも‥‥二、三年かかるって聞きましたが‥‥」
「小さき者よ。この山に足を踏み入れた時、何か違和感を感じなかったか?」
「そういえば‥‥」

リオは空気に違和感を感じたのを思い出す。

「この山は時の流れがおかしくなっている。ここで過ごしたたった一週間が、外の世界では三年や四年になるのだ」
「えっ‥‥!?」

それを聞いたリオは目を見開かせた。

「山から出れば、お前の体内時間は動き出し、外の世界の年数に合った歳になるから安心しろ」

不死鳥はそう言うが、

「ここで一週間過ごして‥‥それで外の世界は三、四年経っている?ここで私は歳をとらないけど、外の世界に戻れば、私はちゃんと成長してる。それは、分かりました‥‥でも、やっぱり、私が戻った時にはもう、世界が壊れていそうだ」

やはり、リオは不安に感じる。

「世界はそんなに簡単に殺せはしない。例え、世界を壊す鍵を持っていたとしても、まだ足りぬ」
「不死鳥ーー!あなたは何か知っているんですね!?」

世界を壊す鍵ーーレイラの体から出てきたものだ。
そしてそれを今、カシルが手にしている。

「さあ、ここまでだ小さき者よ。時間が惜しいのだろう?」

どこか、不死鳥の声を柔らかく感じた。

(‥‥どうして今までの旅人さん達は外の世界に戻ってこれなかったんだろう?一週間で山頂に辿り着くだけで力を貸してくれると言うのに?水や食糧がないから?)

リオは不死鳥が出した試練を簡単に感じていた。

「来るが良い、山頂まで。そこまで辿り着ければーー我は力を貸そう。無事、辿り着ければな」

不死鳥の姿が消えていく。
目に焼き付いた虹色が離れないーー。

最後の、『無事、辿り着ければな』ーーその言葉に、凄く重みを感じた。

(でも、一週間ほどこの山を登り続けるのか)

リオは遠い山頂辺りを見つめ、ため息を吐いた。


◆◆◆◆◆

「もう諦めましょう‥‥」
「え!?」

突然のフィレアの言葉にハトネは驚きの声を上げる。

「リオちゃんとシュイア様がいなくなって、もう二年よ?これだけたくさんの街や村を見て回ったって言うのに、見つからない。また、忘れた頃にふらりと私達の前に現れてくれるんじゃないかしら?」

フィレアはハトネを宥めるように言うが‥‥

ーー二年。
ハトネにとっては、リオを捜し続けた十二年の方が長かった。
それに、十二年かけて、やっと会えたのだ。だったら、

「私はまだ、もう少し捜すよ」

ハトネは笑って言う。

「‥‥僕も、付き合いますよ」

二人の後ろでずっと黙りこんでいた銀髪の少年ーーラズが言った。
彼も二人に着いて来たのだった。

「僕もリオさんの事が好きだから」

ラズはにっこり笑って言う。
この二年ーーラズはずっとこんな感じだ。
いつからかは知らないが、リオの事が好きだったようで、恥ずかしからず、大胆にこんなことを言うようになった。

「むむっ」

当然、ハトネはそんなラズをライバル視する。

「まあまあ。‥‥あっ、そうだわ!まだ行ってない場所があったわね」

フィレアが思い出すように言うので、ハトネとラズは同時にフィレアを見た。

「不死鳥の住む山。まあ、そんなところにはいないでしょうけど、最後にそこだけ付き合うわ」

フィレアはそう言い、青空を見上げる。


◆◆◆◆◆

「っ‥‥」

リオはその場に立ち尽くしていた。
山を登り始めて約三日が経過している。
今はまだ、山の中間地点辺りだ。

この山は魔物など出ず、ここまではただ、山を登るだけで済んだのだが‥‥

「なんなんだ?これは」

目の前に、ぞろぞろと何かが居た。
人間?いや‥‥

青白い顔をして、白眼をむいた人間達がゆっくりとリオに近付いて来る。

「リオ‥‥聞こえますか?」
「えっ!サジャエルさん?」

頭の中に彼女の声が響いた。

「その者達は死人ーーゾンビです。不死鳥に認めてもらえず、不死鳥の炎に焼かれた無念の魂達。魔物と同じような存在に成り果てた人間です」

それを聞いたリオは冷や汗を流す。

「リオ、倒さなければあなたが殺られます」

サジャエルの冷静な言葉に寒気が走った。
死人とはいえ、元は、人間。

(もし、自分も不死鳥に認められなかったら、こうなるんだ。私だったら‥‥私がそんな姿になったら‥‥私はーー)

リオは歯を食い縛り、剣の柄に触れ、

「くそっ‥‥うぁああああぁぁあぁーー!」

叫びと共に、激しく空を切る音が流れる。

目の前の『人間』で在った者を斬る度に、赤ではなく、紫色した血が辺りに飛び散る。

(私は、私なら‥‥私がこんな姿になったならっ‥‥ぐっ!?)

『人間』で在った者の一体が、口から緑色のガスをリオに向けて吐き出した。
とっさにリオは自らの鼻と口を塞ぐ。

(なっ、何!?)

リオが疑問に思っていると、

「リオ、決して吸ってはなりませんよ。毒ガスです」

またも、冷静すぎる声でサジャエルが言って、

(毒‥‥!?)

ビクッとリオは肩を揺らした。
しかし、すぐに思考を切り替え、相手の口からそのガスが消えた所でリオはすかさず相手の胸に剣を突き刺す。

ズブリーーと、柔らかで生々しい肉の感触を手に感じた‥‥

(私がこんな姿になったなら‥‥私は、殺してほしい)

そう思ったリオだが、その感触に触れて気付いた。

リオの周りに転がるゾンビ達。
いつの間にか、剣を振るう事にも慣れてきたなと自分でも思う。

だが、今思ったのはそんなことじゃない。

彼らはすでに死んでいた。それでゾンビという魔物になった。だけど‥‥

(私は‥‥人を、こ、殺した?)

リオの体がガタガタと震える。

初めて、人を斬った感触。

「なんで‥‥どうして、私はこんなことしてるんだ」
「リオ‥‥」

頭にまたサジャエルの声が響くが、リオはそれを無視する。

「そうだよ‥‥!きっと全部、綺麗事だった!最初から、そうだったんだ。何も私がレイラを助ける必要はない。世界のことは、他の誰かに任せたっていいじゃないか!」

リオはそう言って、笑った。笑ったがーー‥‥

「は‥‥はは。他の誰かって、誰だよ。誰がなんとかしてくれるって言うんだ?誰も世界が殺されるなんて知らない。今も平和に生きている。誰がやるんだよ‥‥」

サジャエルが何か言っている気がするが、耳に入らない。
リオは山の壁際から噴き出す火の粉を見つめていた。
そしてしばらくして、伸びをしながら空気を吸う。
この山に来て、初めて空を見上げた。

空の色が、灰色だ。
雲が動いていないように見える。
外の世界よりも時の流れが遅いことを感じさせる空だった。

「綺麗事なんかじゃない。ううん、綺麗事だと思われてもいい。私は本当に救いたいんだ。ーー友達を。だったら‥‥」

リオは胸もとの青い石にそっと手を触れて、

「私は行くよ、サジャエル。私自身の意思で!」

そう言って、再び足を動かした。
サジャエルはリオの声を聞き、

(やっと‘あなたらしく’なりましたね。ええ、実に、あなたらしい。でも、まだ、違う)

サジャエルはそう思い、リオの行動を遠くから静かに見つめる。

(私はもう迷わない。カシルを‥‥レイラを‥‥止めてみせるーー!!)

リオは強くそう思い、先へ、先へと進む。

(たとえ、戦うことになっても‥‥今度は誰も死なない終りにしてみせるーー!!)
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