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第三章【破滅へと至る者】

3―6 ウェザとマジャ

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「さてと‥‥厄介よね。ルヴィリは入り口に居てくれるから助かるけど、ほんっとにリダが見つからない」

ボソボソとウェザはレンジロウに話し、互いに警戒しておきましょうと頷き合う。しかし、そう言ったそばから、

「あーっ!おじ様!ほらあそこ!スイーツバイキング!!あれって、高級菓子じゃない!?タダで食べれちゃうの!?」

甘いものに目がないウェザは、目をキラキラ輝かせて、スイーツが並ぶテーブルに駆け出してしまった。

(ウェザ殿ーー!!我々は監視をせねばならないのですぞーーーー!)

レンジロウは心の中で叫ぶ。止める間もなく、ウェザは皿を手にし、焼き菓子をトングで掴み始めていた。自分だけはせめてルヴィリの監視をしようと、ホールの入り口付近に待機する彼女に視線を向けた。

彼女の赤い血は、手にした槍で他者を突き刺した返り血で色付いたと言われている。殺した数は相当なのであろう。
レンジロウも、エクスとシーカーがマシュマロから聞いた話を共有していた。
ハルミナの街で産まれたルヴィリ。
幼い頃に両親を事故で亡くし、彼女は街から姿を消した。何があったのか、なぜ彼女は人を殺めるようになったのか。

入り口付近に立つルヴィリを入城して来る人々は恐れ、そそくさと彼女の前を通り過ぎて行く。彼女は壁に凭れて腕を組み、肌身離さず槍を握っていた。こうして見ていると、普通に美しい女性だとレンジロウは思う。

「ちょっと、おじ様ぁ?」
「はっ!?」

背後からウェザの声がして、レンジロウは大きく肩を揺らした。振り返ると、皿いっぱいにスイーツを乗せた彼女が立っていて、

「随分デレデレとルヴィリを見つめてますのねー?」
「違うであります!エクス殿の為に監視しているだけで‥‥」
「ふーん?」

疑いの眼差しを向けられてレンジロウはたじろいたが、まあいいわとウェザはスイーツを頬張る。

「監視対象変更になるかもしれないわ」
「え?」
「マジャよ。マジャが近付いて来た」

それを聞き、レンジロウは視線を動かした。地下へと続く扉の前に居たマジャが、スイーツバイキングの方へと近付いて来たのだ。

「あたくしはハルミナの街でおじ様を治癒した時にリダとマジャを見たけど、恐らく奴らの視界には入ってないわ。でも、おじ様は二人と二度も対峙してるんだから、変装したってバレる可能性がある。あたくしはマジャを見るから、おじ様は引き続きルヴィリを見てて」

ウェザにそう言われ、レンジロウは頷く。すると、スイーツバイキングに大きなケーキが運ばれてきて、ウェザは思わずヨダレを垂らした。

「うっ、ウェザ殿、ヨダレが出ているでありますよ‥‥」

そんなことは気にせず、ウェザはケーキに夢中になっていたが、

「キャハハ!最っ高じゃない!どれもこれもオイシソウなデザート!そのホールのケーキはこのマジャ様が平らげるんだから!」

スイーツバイキングに辿り着いたマジャがそんなことを言うので、

「こらぁっ!?独り占めはいけませんのよ!?」

同じくケーキを狙うウェザは思わずマジャの前に飛び出した。

「はぁ?何よアンタ‥‥ダッサイ眼鏡天使ね」
「うるさいわねっ!あなたなんか頭にヘンテコな星つけてるじゃない!」
「アアン?」
「ふんっだ!」

二人は睨み合いながら火花を散らし、ケーキの争奪戦をおっ始めた。レンジロウはハラハラと光景を見つつ、ルヴィリの監視も続ける。幸い、ルヴィリはその場から全く動かずにじっとしていた。

すると、アリアと共に居るはずのノルマルがこちらに駆け寄って来たので、

「ノルマル殿?どうされました?」

そう聞くも、ノルマルは切羽詰まった表情をし、

「もうっ、すでに計画はぐちゃぐちゃよ‥‥リダが現れて、アリアがあたしを助けてくれて、今、アリア一人でリダの相手をしてる」
「なっ、なんですと‥‥!うーむ‥‥しかし、アリア殿なら大丈夫な気がする不思議であります」

不安になるはずが、逆に大丈夫じゃないかなんて気持ちにレンジロウはなる。

「こちらも、ルヴィリを監視しつつ、マジャが来ましてな‥‥今、ウェザ殿とケーキを巡って罵り合いをしている最中であります‥‥」
「‥‥」

しょうもない口論をしている二人をノルマルは呆れるように見つめ、

「あたしはどうしようかしら‥‥マジャのことはウェザで事足りそうね。さすがにシックスギアはここで武器を振り回さないでしょうし‥‥マータの監視をした方がいいわね」

ノルマルはそう言い、ちらっと壁に掛けられた大時計を見る。

「エクス殿が行ってからまだ10分程ですな。そろそろヨミと会えた頃でしょうか‥‥」
「そうね。ここに居る四人のシックスギアがソートゥの居る王の間へと動き出したら‥‥あたし達はそれをなんとか阻止しないとね。このままウェザがずっとマジャと喧嘩してくれてたら助かるけど‥‥アリア、大丈夫かしら」

アリアは自分を助けてくれたとノルマルは言っていた。彼女は俯き、しかしすぐに顔を上げ、

「悩んでも仕方ない、やれることをやらなきゃね」

そう言ってレンジロウにヒラヒラと手を振り、ノルマルはマータの近くへと足を進める。

「ああもうっ!邪魔邪魔ジャマァァァァ!アタシはこのケーキが今すぐ食べたいの!」
「あたくしも今すぐ食べたいわよ!!!あなたの物じゃないんですのよ!ケチケチしないで半分こしたらいいでしょ!」
「キーーーーーーッ!!!!」

二人の言い争いが取っ組み合いに変わる頃、ケーキを運んで来たスタッフが大きめのケーキナイフを取り出し、小さく切り分け始めた。丁寧に一つ一つ皿に盛り付けていく。お互いの胸ぐらを掴み合っていた二人は、その光景に目を丸くした。それから互いに手を離し、

「一時休戦よ、ダサ眼鏡天使」
「うるさいですわよ、ヘンテコ星魔族。それに、あたくしには高潔な天使と魔族の血が流れていますのよー」

そう言い合いながらも二人はケーキの乗った皿を取り、フォークを突き刺してクリームとスポンジ、中に入った果物を頬張る。

「おっ、おいしー!上質なクリームの甘味、果物も豊富で甘酸っぱさも混じって最高ですわ!」

ウェザはとろけるような表情をして言い、

「はぁー‥‥人の血肉もいいけど、甘い物も最高ねぇ」

隣でそう言ったマジャを、ウェザは目を細めて見た。

(ラザルおじい様は言っていた。地底に追い遣られ、食料不足に陥った魔族は同族の肉を喰らっていたと。おじい様もその時代に生まれ、同族を殺め、血を吸って栄養にして来たと言っていた‥‥そんな残酷な日々を、世界を変えた英雄がいたと‥‥そして、おいしい食べ物を作ってくれた人間や、ウェルおばあ様にも救われたと)

自分の祖父もそうやって生きていたーーウェザはそれを理解している為、マジャの行いを責め立てることは出来ない。だが、

(時代が違う。おじい様達は不幸な時代を生きた。でも今は、不幸な時代じゃなかった。好きなものを食べて生きれる時代だもの。だから、こいつの行為をあたくしは否定するわーーでも今は、王子様の為にも時間稼ぎね)

そう思い、

「あらぁ!!まだまだケーキが残ってる!あたくし、おかわりしちゃおうかしら!」

ウェザがそう言うと、

「なっ‥‥!残りは全部アタシのモノよ!?」

まんまとマジャは食い付いてきた。ウェザはニヤリと笑い、

(王子様ーーあたくし、お腹いっぱいスイーツを食べながら、マジャの足止めをするわよー!)

ウェザは再びヨダレを垂らし、マジャと不毛な争いを繰り広げた。
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