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第一章【王殺し】

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ーーロンギング城内。

「遅い!お前達は時間も守れないのか!」

ヨミが怒鳴ると、

「ごっ、ごめんなさいヨミさん!ちょっと色々‥‥」

ルヴィリの横に並びながらマータが言うと、

「話は聞いている。ドラゴンを使役しただと?何を勝手な真似をしている!我々は空を敵に回すわけではないぞ!?」

そう言われ、ルヴィリとマータはパンプキンを見た。恐らく、あの時近くに気配を感じた彼がヨミに伝えたのだろうと。

「キャハハ!アンタ達二人、弱いからってドラゴン捕まえたの?」

マジャが馬鹿にするように二人を笑えば、

「マジャにリダ!お前達も時間を守れない上、随分と好き勝手しているようだな?与えられた命は、有能な男達の捕縛だろう!」
「はは!ババアはずっと怒ってやがるな!お前らの大事な陛下とやらが俺の力を借りたいと頭を下げたんだろ?そっちが頼んで来たんだ、俺は今まで通りに生きてるだけだぜ?」

リダがそう言うので、もういいとヨミは深く息を吐く。

「それで、呼び出してなんなのよ」

ルヴィリが聞けば、

「ウィシェ王子の話だ」

と、パンプキンが口を開いた。

「彼は恐らく、戴冠式の日を狙ってここに来る。ソートゥ女王の奪還をしにね」
「それがなんだよ」
「戴冠式の日は時間厳守でここに来いって言ってるんだよ。たぶん、王子は力をつけて来るだろうからね」
「ふーん?」

マジャは首を捻り、

「でも、王子サマはひどぉぉぉぉぉい拷問を受けたんでしょ?手足が使い物にならないくらいって耳にしたけどぉ?」
「ハハッ、仲良い家族と思いきや、両親や兄にそんな仕打ちするなんてな?」

リダが言えば、

「話はそれだけ?もうないなら、私は行くわよ」

バサッ‥‥と、赤い翼を広げ、ルヴィリは言う。ヨミは一同を睨み付け、

「くれぐれも、これ以上勝手をするな。戴冠式の日まで問題を起こすでないぞ!」

と、釘を指した。
フンッ‥‥と鼻を鳴らし、ルヴィリは一室から出て行く。

「あーっ!待ってよ、ルヴィリ!」

置いていかれたマータは慌てながら腰に提げたポシェットの中を探り、

「ヨミさんには頼まれてたこれ!ロンギング兵の情報一覧。そっ、それで‥‥はっ、はい、リダさんにはこっち‥‥です」

ヨミには数十枚の紙、リダには一枚の紙を渡した。

「すまんな、マータ。調べてほしいことがあればまたお前の情報網を頼る」
「もちろん!ボクは天才だからね!いつでも頼ってよ!」

ヨミに労いの言葉を貰い、マータは嬉しそうに笑う。

「ふーん?簡単にわかるもんなんだな?」

リダが手渡された紙に目を通しながら言えば、

「はっ、はい。そっちは‥‥けっこう有名な人みたいで‥‥簡単に。じっ、じゃあ!ボクはこれで!」

もうこの場に居たくはないとマータは後退り、慌ててルヴィリを追った。
そんな彼を欠伸をしながらマジャは見送り、

「珍しいわね。アンタが頭だけの坊やに頼むなんて。そんなに気に入ったわけ?」
「滅多にいないじゃねーか。俺の斧を受け止める奴は居ても、弾く奴ーーましてや人間はいねえよ。しかし‥‥うーん?」

紙に書かれた文字とぼやけた写真を見て、リダは首を捻る。気になってマジャも覗きこんだ。

『名前:アリア。年齢:十八。種族:人間。概要:三年程前からギルドの依頼で荒稼ぎしたり、賞金稼ぎしたり、余った戦利品を各地を転々として売っている金の亡者。高額な依頼を求め、依頼金で仕事を選ぶが、荒事内容は苦手で依頼を受けない。折れた剣は飾りと言って背負う、自称弱者』

マジャは目を細め、

「エッ。アイツ、金の亡者なの?金のことばっか書いてるじゃない」
「だが、それならちょうどいーじゃねーか。俺達、賞金首だぜ?金目当てにあっちから戦いに来てくれるかもしれねーじゃん」
「バカねぇ。荒事は苦手って書いてるじゃない。それに、アタシ達と関わるのは嫌ーって言ってた気がするわよ?それに、アタシは関係ない!第一、若い男だけど、コイツ、アタシの好みじゃないし」
「しっかし嘘クソだな。自称弱者なんてよぉ。金が必要なら、俺の賞金がもっと上がればいいってことだろ?そしたら俺のこと気に入って追ってくるんじゃねーか?」
「まーったく話を聞いてないわね、脳筋」

わいわいと盛り上がる二人を横目に、ヨミは部屋からようやく出た。いつの間にか、パンプキンもこの部屋から居なくなっていたようだ。
寄せ集めの組織に、ヨミは頭が痛くなる。

広い廊下を歩き、ホールに出る。ヨミは自分に渡された数十枚の紙をペラペラと捲る。しばらくして、紙を捲る手を止めた。

(あの時の兵士はこいつか。レンジロウ。ただの見回り兵。さすがに、あのフードの少年の情報はないな‥‥)

数日前、天使の村ーー教会で対峙した、フードの少年。そして渡された紙に情報が記されたレンジロウ。
ヨミが欲しかったのは、フードの少年の情報だった。

(金の目をした別人だった。だが‥‥剣の筋はーーロンギング王家のものだった。ウィシェ様が生まれる前に私は城を去った‥‥だから、ウィシェ様と関わったことはない。あれは、ウィシェ様なのか?そうだとしたら‥‥私はウィシェ様をお守りせねばならない。シックスギアなどというわけのわからぬ部隊ーーそして‥‥)

玉座の間の扉を、静かに見つめる。


◆◆◆◆◆

「ルヴィリー!ルヴィリー!ルヴィ‥‥あっ!!」

息を切らしながらマータは走り、城門の前に立つルヴィリを見つけ、

「ルヴィリ!待っててくれたの!?」
「あんたがいないと捕まえたドラゴンの躾が出来ないでしょう」
「あっ、あははー‥‥」
「はぁ‥‥でも、本当に面倒な連中ね」

と、ルヴィリは眉間に皺を寄せた。

「パンプキンはソートゥに夢中。ヨミは国に忠実。リダとマジャはやりたい放題。まあ、私達も勝手してるけど」
「あはは。とりあえず、ソートゥ様の戴冠式が無事終わるまでの部隊でしょ?あと一ヶ月ちょっと、せっかくこの地位に入り込めたんだ。ボクはいろいろ利用させて貰うよ!ルヴィリもでしょ?」

ニッコリ笑うマータに、ルヴィリは肩を竦め、

「そうよ。私は必ずソートゥを殺すわ。戴冠式の日にね‥‥!その為に、これまで耐えて来たんだから」

そう言って、口の端を歪めて笑う。

「王女‥‥いや女王殺し、かぁ。あはは。王子様はかわいそーだよね!無実の両親殺しなんて」
「そうね、彼には同情するわ。でも、私には関係ないこと」
「だね。ボクらはパンプキンさんに気を付けなきゃね」
「さあ、行くわよ」

赤い翼が舞い、ルヴィリはマータを抱え上げた。

「うわぁぁぁぁぁん!今日はお姫様抱っこ!?恥ずかしいよぉ!!!」
「なら、自分で空を飛べるようになりなさいな」
「人間には羽がないもんんんんんんん」

空へと飛んで行く二人を、見張り塔からパンプキンは見上げる。ポツポツと雨が降り出し、空を舞う竜の影が身を潜めていく。

ーーいつの日か雪解けが訪れ、世界に溶けた魂よ

光が差し込み、その魂が新たなる道へ至る日よ


遠い昔、一人の女性が自分達の為に歌ってくれた鎮魂歌を口ずさみ、パンプキンは城内に戻った。

【顔のない主君】の元へと。


もう、何もなくなってしまった世界で。
もう、誰も覚えていてくれない世界で。

自分達を過去の幻影に縛らせて、何をさせようというのか。

ここから先は、英雄の時代が終わりを告げた世界。


第一章・完
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