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断章-ソードラント国編
少年マイン-1
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【武術の国ソードラント】。
それは剣を持って生きる人々が住まう国。
人々は学院で武術を学び、それを極めていく。
大半の人々は魔術を学んでいない為、魔術を使えはしないが、魔術も極めたい者は【魔術の国サントレイル】へ赴くのだった。
ーーとある昼下がり。
街の市場は今日も朝から賑わいを見せている。
「こら待て!!待たんか!!」
肉屋の店主が店を飛び出し、鬼のような形相をして走り出した。
「あらまあ朝っぱらから‥‥」
「またマインね」
「全くあの子はいつも迷惑な‥‥」
「国の恥さらしだわね」
買い物に出向く人々が次々に何かを悟り、そう噂する。
「くそっ、相変わらず、すばしっこい小僧め!」
肉屋の店主は息を切らし、走るのをやめて、そう悪態を吐いた。
「また逃げられたのかい?」
側で光景を見ていた者が店主に聞けば、
「ああ、また品物を持っていかれた。本当なら国に突き出して牢屋にでも入れてやりたいが‥‥」
「でも、今までも子供だからって見逃して来たけれど、もうそろそろ本当に迷惑を越してる。うちの店も毎日のように盗まれてるし‥‥犯罪は犯罪だ」
八百屋の店主が出て来て、深刻な顔をして言った。
「また次に来たら、そろそろ考えるか‥‥」
肉屋の店主はため息を吐きながら言い、それから憂鬱そうに店に戻る。
◆◆◆◆◆
「けけっ。肉屋のおっさんは根気がないぜ」
歳は十四歳程だろうか。
少年は路地裏に駆け込みながら笑って言った。
腕には店から盗んだ食料をしっかりと抱えている。
ドスンッーーと、路地裏に積まれた木箱に腰掛けて、少年マインは今しがた盗んだばかりの肉に噛みついた。
「‥‥ん?」
夢中になって食べている所で、ヒソヒソと声が聞こえてきて、マインは路地裏の先に目を向ける。
「いやねぇ、マインよ」
「あんなところで‥‥相変わらず汚ならしい子ね」
「また盗みを働いたのか」
なんて、横目にマインを見て、人々はそう口走りながら立ち去っていく。
(けっ‥‥なんとでも言いやがれ)
マインはもう、人々のそんな反応には慣れていた。
『盗みは悪いこと、犯罪』ーーそんなのは当たり前だ。
けれども子供のマインには‥‥そうすることでしか生きていけなかった。
もう何年も前に、戦闘主義国であるオルラド国がなんの宣戦布告もなしにソードラント国に攻め入ってきたのだ。
その時に街の半分が焼き尽くされ‥‥
マインは両親も家も同時に亡くした。
頼れる身内もなく、人々は自分の生活に必死だった。
生きる術もなく、食べるものもなく。
最初はゴミの中を漁ったりとしていたが、幼いマインが成長していくにつれ、それだけでは当然物足りなくなる時期が訪れた。
だからこそ、生きていくには盗みを働くしかなかった。
誰も助けちゃくれない、生きてく為に、これは当たり前のこと。
マインはずっとそう思い、次第にこれが当たり前の生活になっていった。
もはや、罪悪感なんてものもなかった。
だって、生きていく為なのだから。
ーー盗んだ食事を終え、よいしょと言ってマインは木箱から降りる。
(さて、日が暮れるな。今日はどこで寝るか‥‥)
そう考えている途中で、
ガラガラーーと、付近にあった樽が音を立てて崩れた。
「ん?猫か?」
ひょいっと雪崩を起こした樽の辺りを覗きこめば、
「‥‥!?なっ、なんだぁ?あんた、なんでそんなとこに!?」
マインは驚くしかない。
崩れた樽の奥に、自分と同じ年頃の少女が膝を抱えて座っていたのだ。
少女はボロい布切れたった一枚を纏っている。
「えーっと‥‥?あんたみたいな子、街に居たっけ?あんたも、家がないのか?」
自分と同じようにボロボロの格好をした少女。
もしかしたら自分と同じ境遇なのかと思い尋ねてみるが、
「‥‥」
少女の目は暗く、虚ろで、なんとなくマインをじっと見るのみで、いまいち反応がない。
「んだよ、感じ悪い奴だな。まあ関係ねーや」
そう言って、興味なさげにマインはその場を立ち去った。
家のないマインは今日も一晩休む場所を探さなければならない。
毎日同じ場所で休めればいいがそうはいかない。
自分みたいな子供はいないが、同じように家のない人間は他にも居て、毎日毎日、場所取り争いが起きる。
ーー簡単に言えば、早い者勝ちだ。
(やっぱ橋の下がいいかなー)
なんて思っているところで、街中が何やら騒がしかった。
(なんだ?まさかまだオレを捜してるとか‥‥)
面倒臭そうにマインが思えば、
「城に郵送する途中で異端者が逃げたそうだ!」
「女の子らしいわよ!」
「感情のない異端者のくせに逃げるの!?嫌だわ!どこに居るのかしら!」
どうやらマインには関係ない話題だった。
(異端者の話かよ。ってか、郵送って‥‥まるで物扱いだよな。まあいいや、寝床寝床‥‥)
そう、目的に意識を向けるが‥‥
(‥‥異端者、少女‥‥)
それが妙に引っ掛かる。
さっきの、街中で見たことのない少女。
虚ろな目、いまいちない反応‥‥
(‥‥まさか、あいつ?)
それは剣を持って生きる人々が住まう国。
人々は学院で武術を学び、それを極めていく。
大半の人々は魔術を学んでいない為、魔術を使えはしないが、魔術も極めたい者は【魔術の国サントレイル】へ赴くのだった。
ーーとある昼下がり。
街の市場は今日も朝から賑わいを見せている。
「こら待て!!待たんか!!」
肉屋の店主が店を飛び出し、鬼のような形相をして走り出した。
「あらまあ朝っぱらから‥‥」
「またマインね」
「全くあの子はいつも迷惑な‥‥」
「国の恥さらしだわね」
買い物に出向く人々が次々に何かを悟り、そう噂する。
「くそっ、相変わらず、すばしっこい小僧め!」
肉屋の店主は息を切らし、走るのをやめて、そう悪態を吐いた。
「また逃げられたのかい?」
側で光景を見ていた者が店主に聞けば、
「ああ、また品物を持っていかれた。本当なら国に突き出して牢屋にでも入れてやりたいが‥‥」
「でも、今までも子供だからって見逃して来たけれど、もうそろそろ本当に迷惑を越してる。うちの店も毎日のように盗まれてるし‥‥犯罪は犯罪だ」
八百屋の店主が出て来て、深刻な顔をして言った。
「また次に来たら、そろそろ考えるか‥‥」
肉屋の店主はため息を吐きながら言い、それから憂鬱そうに店に戻る。
◆◆◆◆◆
「けけっ。肉屋のおっさんは根気がないぜ」
歳は十四歳程だろうか。
少年は路地裏に駆け込みながら笑って言った。
腕には店から盗んだ食料をしっかりと抱えている。
ドスンッーーと、路地裏に積まれた木箱に腰掛けて、少年マインは今しがた盗んだばかりの肉に噛みついた。
「‥‥ん?」
夢中になって食べている所で、ヒソヒソと声が聞こえてきて、マインは路地裏の先に目を向ける。
「いやねぇ、マインよ」
「あんなところで‥‥相変わらず汚ならしい子ね」
「また盗みを働いたのか」
なんて、横目にマインを見て、人々はそう口走りながら立ち去っていく。
(けっ‥‥なんとでも言いやがれ)
マインはもう、人々のそんな反応には慣れていた。
『盗みは悪いこと、犯罪』ーーそんなのは当たり前だ。
けれども子供のマインには‥‥そうすることでしか生きていけなかった。
もう何年も前に、戦闘主義国であるオルラド国がなんの宣戦布告もなしにソードラント国に攻め入ってきたのだ。
その時に街の半分が焼き尽くされ‥‥
マインは両親も家も同時に亡くした。
頼れる身内もなく、人々は自分の生活に必死だった。
生きる術もなく、食べるものもなく。
最初はゴミの中を漁ったりとしていたが、幼いマインが成長していくにつれ、それだけでは当然物足りなくなる時期が訪れた。
だからこそ、生きていくには盗みを働くしかなかった。
誰も助けちゃくれない、生きてく為に、これは当たり前のこと。
マインはずっとそう思い、次第にこれが当たり前の生活になっていった。
もはや、罪悪感なんてものもなかった。
だって、生きていく為なのだから。
ーー盗んだ食事を終え、よいしょと言ってマインは木箱から降りる。
(さて、日が暮れるな。今日はどこで寝るか‥‥)
そう考えている途中で、
ガラガラーーと、付近にあった樽が音を立てて崩れた。
「ん?猫か?」
ひょいっと雪崩を起こした樽の辺りを覗きこめば、
「‥‥!?なっ、なんだぁ?あんた、なんでそんなとこに!?」
マインは驚くしかない。
崩れた樽の奥に、自分と同じ年頃の少女が膝を抱えて座っていたのだ。
少女はボロい布切れたった一枚を纏っている。
「えーっと‥‥?あんたみたいな子、街に居たっけ?あんたも、家がないのか?」
自分と同じようにボロボロの格好をした少女。
もしかしたら自分と同じ境遇なのかと思い尋ねてみるが、
「‥‥」
少女の目は暗く、虚ろで、なんとなくマインをじっと見るのみで、いまいち反応がない。
「んだよ、感じ悪い奴だな。まあ関係ねーや」
そう言って、興味なさげにマインはその場を立ち去った。
家のないマインは今日も一晩休む場所を探さなければならない。
毎日同じ場所で休めればいいがそうはいかない。
自分みたいな子供はいないが、同じように家のない人間は他にも居て、毎日毎日、場所取り争いが起きる。
ーー簡単に言えば、早い者勝ちだ。
(やっぱ橋の下がいいかなー)
なんて思っているところで、街中が何やら騒がしかった。
(なんだ?まさかまだオレを捜してるとか‥‥)
面倒臭そうにマインが思えば、
「城に郵送する途中で異端者が逃げたそうだ!」
「女の子らしいわよ!」
「感情のない異端者のくせに逃げるの!?嫌だわ!どこに居るのかしら!」
どうやらマインには関係ない話題だった。
(異端者の話かよ。ってか、郵送って‥‥まるで物扱いだよな。まあいいや、寝床寝床‥‥)
そう、目的に意識を向けるが‥‥
(‥‥異端者、少女‥‥)
それが妙に引っ掛かる。
さっきの、街中で見たことのない少女。
虚ろな目、いまいちない反応‥‥
(‥‥まさか、あいつ?)
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