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30、誰でもいいので何とかして

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 さて、サルージャの母親でもある王妃に連れ戻された凪…と巻き添えをくらったサルージャ達は非常に居心地の悪い思いをしていた。

「突然いなくなってしまうから驚いてしまいましたわ」
「一体何がどうしたんや?」

 三人掛けのソファーの真ん中に座る凪の両サイドはマルクの母親とイージスの母親にがっちりと固められている。
 背中にじっとりと嫌な汗をかくのを感じながら、凪は縮こまり固まっていた。

(どうしよう。どうしたらいいかわかんなくて逃げ出したのに…)

 母親たちの異様な圧に耐えきれなかったから、とは素直に答えられない。
 いくら知り合いの母親だからと言っても、今日初めてあった大人の女性で、しかも身分は貴族なのだ。

(てか、だいたい何でサルージャさん達のお母様方は私の性別を知ってるの?うーん?知ってるってことでいいのかな?もし、男と思ってさっきみたいなことを言ってたとしたら…)

 実に可哀想な事だと思う。
 自分が預かりしらぬところで、勝手に結婚相手を決められる。しかも、男を。

(おぅふ。この世界では男女の結婚よりも男同士の結婚の方が主流だと言っても…あまりにも…ね?)

 いったい誰に問いかけているというのか。

 まぁ、誰かがこの問いに答えるとするならば、きっとお前なら見た目がいいから男だとしても相手は喜ぶと思うぞ、だろうか?
 一部の人からしたら、むしろ男でお願いしますとでも言うのかもしれない。

 ともかく、凪はどうしたらいいのか分からないという考えから、サルージャ達は可哀想だという思考に頭の中が変わっていた。

「母上、ナギは今日はどうやら疲れているようですのでここまででお開きにしていただけませんか?」
「えぇ?嫌よ」

 表情に若干の気まずさを加えながら、自身の母親にお茶会を終わらせるように求める息子に、まるで子どものように頬を膨らませ拒否の意思表示をする母親。
 見た目が三十代四十代ならばそれはどうなんだと腹を立ててやりたくなるものだが、容姿もよくこの世界は実年齢を聞かない限り相手が何歳なのか分からないので彼らのやり取りは親子のそれではなく、姉弟のようだった。

「では、母上はナギのことはどうでも良いのですか?」
「そういうわけじゃないわ。だけど…」
「別に今日しか会えないわけではないでしょう?それに、突然連れてきたんですよね?」
「うぐっ」

 そのお通り。
 王妃のしたことは何も知らない他人から見たら誘拐と言っても差し支えないようなことなのだ。

 息子に核心をつかれた母親はだまる。

「…でも、他のみんなも会えるのを楽しみにしてたのよ?」

 恨めしげな表情でサルージャを見つめながら、彼女は周囲の人間を味方につけることにしたようだ。

「えぇ、ロルフちゃんが気になっている子は私も気になってしまいますの」

 頬に手を当て、小首を傾げるルーチェ。

「イージスもこの子が気になるのでしょう?」

 それに応じるかのように、言葉を発するナターシャ。

「子どもが気にしている相手を、なんで母親が気にせぇへんと思ってるん?」

 キラリと瞳を輝かせ、身を乗り出しながら答えるミラージュ。

「相手がどんな子なのかこの目で見て見ないと!それに王妃様が褒めちぎるような子ですのよ?きっといい子に違いないと思ったのですわ!」

 頬を紅潮させ興奮した様子のアリス。

 それぞれの母親が、己の思い思いの言葉を発した。そして、彼女達の間には見えない火花が散っていた。
 何となく先程のような雰囲気に近い気がした凪は、ぶるっと身体を震わせた。
 また迫られるかもしれないと、怯えていると…

「でも、だからって自分達の都合を押し付けるべきじゃないんじゃない?」

 今度こそ救世主が現れたのだった。
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