異世界帰りのゲーマー

やってきた憂鬱

筋肉頑張る

　異世界side


　「雷撃、雷撃、雷撃、雷撃」

　黒焦げになった魔物がそこら中に転がっている

　「おいおい、これじゃ素材も採れないか」

　ムキムキの上半身裸に黒の革鎧を身に着け、持つ手には人が持てるのかというほどの大きさのバトルアックス

　剃り上げた頭を叩くのは、異世界に来たばかりの一郎を育てあげた男、戦士長のマッソンだ

　「私の目的は、このダンジョンに最奥にあるといわれている魔導書よ。こんなのに構っていられないわ」

　「とは言っても姫様。伝承にあるだけであるとは限らないんですよ」

　「ふん、無ければ次を探すだけよ」

　姫様と呼ばれた女性は、以前、一郎のパーティの一人である金髪の女性だった

　「私に必要なのは次元を越える魔法を示した魔導書。それとアレを組み合わせれば・・・」

　ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ

　「別に個人の事なんで止めやしませんがね。だからといって戦士長の俺や他の精鋭達が出張るのはどうかと」

　「何か言った？」

　通路の先を見て、独り言を言っていた姫が首だけを、ギュルんと回し話してくる姿は、さすがの戦士長だとしても腹の底が冷えた

　「いえ、なんでもありませんよ。後続が来たら、直ぐにでも進みましょうか」

　「なに言ってるの。今すぐ行くに決まってるじゃない。ぐずぐずしてたら他の奴に出し抜かれちゃうじゃない・・・」

　それだけは許さないそれだけは許さないそれだけは許さない許さない許さない許さない許さない許さない

　走って行く姫を追いかけながら、マッソンは筋肉の神に祈った

　どうか筋肉のご加護がありますようにと

　


　ガコッ

　「きゃっ」

　先行する姫がどうやら罠を踏んだようだ
　通路の壁が両方から迫っていた

　「ふんっ」

　解除するにも駆け抜けるにも、迫ってくる壁のスピードは速く、間に合わないだろうと、マッソンは両腕を広げて、迫ってくる壁を抑える

　「ナイスよ、マッソン」

　姫はマッソンの方など見ずに、そのまま、走っていってしまった
　


　まだ、マッソンに筋肉の神は微笑まないようだ